EM-エクリプス・モース-

橘/たちばな

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第六章「目覚める真の太陽」

戦地を守護する者

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クレマローズ王家の祖先であり、冥神に挑んだ者の一人でもある地上の神の一角、太陽の戦神アポロイア。冥神が封印された後、アポロイアは子孫となるカーネイリス一族を遺し、自身もまた聖地となる場所にて眠りに就いた。戦神の神器と呼ばれるアポロイアの遺した武具は神の遺産の一つでもあり、アポロイアの魂が武具と化したものと伝えられている。レウィシア達の前に立ち塞がるヘリオという名の女は神の遺産を守りし者の子孫であり、サン族と呼ばれる聖地を守護する民族の戦士であった。
「やはりあなたは聖地を守る者なのね」
一筋の熱い風が吹きつけると、ヘリオは仰いでいる扇に向けて軽く息を吐く。
「ヘリオ。あなたは私をどう見ているのか解らないけど、私には邪悪なる巨大な敵に浚われた父と多くの人々を救う使命があるのです。でも、今の私では立ち向かうべき巨大な敵に歯が立ちません。だからこそ今、太陽の神器が……」
「それが無駄な話だと言っている。お前の目は甘さに満ちている。アポロイアの魂はお前の甘い心とは相容れぬからな」
「甘い心……ですって?」
ヘリオの口から出た甘い心という言葉に、レウィシアは思わず自身の戦いを振り返る。同時に、生死の境を彷徨っている際に精神体となって暗闇の世界に迷い込んだ時に聴いた炎の魔魂ソルの主である英雄ブレンネンの声が脳裏に浮かび上がる。己の戦いに罪の意識を抱く必要は無い。優しさだけでは救えぬものも存在する。お前が挑んでいる戦いは、守るべきものの為の戦いだ。そんな言葉が、頭の中で繰り返して聞こえて来る。
「……そうね。あなたの言う事は否定出来ないわ。けど……例え私に神器を得る資格がないとしても、引き下がるわけにはいかないの。だから……あなたを倒してでも神器を手にしてみせるわ」
レウィシアは剣を構える。
「私を倒すだと? いいだろう。言っておくが、私は敵とみなした者には命を奪う事すら厭わない。お前はもう私の敵だ。よって、死んでもらう」
ヘリオは扇を手に、全身を炎のオーラで纏う。その気迫は離れていても凄まじい熱気が伝わる程だった。レウィシアの傍らにいたソルがレウィシアの中に入り込むと、対抗するようにレウィシアの全身から魔力のオーラが燃え上がる。
「そうと決まれば話は早いな。だが炎は水に勝てやしない。僕の水の魔力があれば……」
テティノが前に出ようとした瞬間、レウィシアが遮る。
「手を出さないで。これは私の戦いよ」
「何を言うんだ! あいつは君を敵とみなして殺すつもりなんだぞ!」
「手を出さないでって言ってるでしょ!」
怒鳴りつけるようにレウィシアが声を張り上げる。
「だ、だからといって君一人では……」
なかなか引き下がろうとしないテティノにラファウスが止めに入る。
「テティノ、邪魔をしてはなりません。この戦いはレウィシアが挑んでこそ意味があるのです」
「ラファウスまで何故そう思うんだ?」
「あのヘリオという方は太陽の神器を守護する者。この戦いはレウィシアが神器を得る為の試練の一つと言えるでしょう。ヘリオに力を証明させる為にも、私達が手を出してはなりません。つまらない意地を張らないで、言う通りになさい」
「クッ……解ったよ。全く、君達の逞しさには感心を通り越して呆れるばかりだよ」
ラファウスの説得に折れたテティノは渋々と引き下がる。
「どうした? 来ないならこちらから行くぞ」
ヘリオが構えを取ると、レウィシアは剣を手に突撃する。
「はあああああっ!」
数々の剣技を繰り出すレウィシアだが、ヘリオはしなやかな動きと素早い身のこなしで攻撃の全てを回避していく。その動きは踊りのような身のこなしで、まるで全ての攻撃を草木のような華麗なるステップで受け流しているようだった。レウィシアは素早くヘリオの背後に回り込むが、ヘリオは振り向かずに両足を使った後ろ蹴りでレウィシアの顎を蹴り飛ばした。
「ぐっ……」
攻撃を受けたレウィシアが顎を大きく仰け反らせている中、空中回転で飛び上がり、距離を開けた位置で振り向く。態勢を立て直したレウィシアが正面から斬りかかった瞬間、ヘリオは一瞬でレウィシアの懐に飛び込み、腹部に掌の一撃を叩き込む。
「ごぅおあっ……!」
レウィシアの口から夥しい量の胃液が吐き出される。ヘリオの一撃によって大きく吹っ飛ばされたレウィシアは、数回バウンドしながらも転がるように倒れる。
「が、あっ……げほぉっ! がっ……」
腹部を抑えながらも咳き込みつつ、立ち上がろうとするレウィシア。
「貴様程度の者が太陽に選ばれし存在だとは片腹痛い」
冷徹に言い放つヘリオが歩み寄る。レウィシアは口の周りを手で拭いながらも剣を構える。ヘリオはしなやかな動きで身を回転させ、扇を大きく振り上げる。次の瞬間、渦巻く炎が巻き起こり、レウィシアに襲い掛かる。
「あああぁぁっ!」
炎の渦に飲み込まれたレウィシアの叫び声が響き渡る。
「お姉ちゃん!」
「くそ、これでも黙って見ていろというのか!」
戦況を見ていたテティノはジッとしていられない心境であった。
「やあああっ!」
レウィシアは反撃に転じるが、攻撃は軽々と回避されていくだけであった。ヘリオの手がレウィシアの首を捕え、顔が近付く。
「無駄だというのが解らぬのか」
首を放した瞬間、ヘリオの拳がレウィシアの顔面に叩き込まれ、再び炎の渦が放たれる。更なる炎の攻撃を受けたレウィシアは身体に炎を残しながらも倒れていく。
「うっ……あぁ……」
仰向けに倒れているレウィシアは立ち上がろうとするが、身体が思うように動けない。
「どうした、まだやるのか? それとも、それで限界か?」
ヘリオが見下ろしながら言う。
「これ以上貴様とやり合っても時間の無駄だ。消えろ」
大きく扇を振り上げるヘリオ。巻き起こる炎の渦がレウィシアに向かう中、突然何かによって遮られる。テティノの水の防御魔法カタラクトウォールによる水の壁であった。
「貴様、何のつもりだ」
「レウィシアに手を出すな。僕が相手になる」
居た堪れなくなったテティノが飛び出そうとする。
「テティノ、おやめなさい!」
ラファウスが阻止しようと声を張り上げる。
「止めるなラファウス! これは意地でも何でもない。仲間を無駄死にさせたくないんだ」
反論するテティノ。
「友情か。全く哀れな。所謂仲間の力なくしては何も出来ぬ甘さというわけか」
ヘリオが呆れたように言い放つ。
「テティノ……下がってなさいって言ってるでしょ……」
口から血を流したレウィシアが剣を手に立ち上がる。
「もう拘りは捨てるんだレウィシア。こんなところで死んでしまっては元も子もないだろ」
レウィシアがゆっくりとテティノに歩み寄る。
「……違うわ」
テティノの首に鋭い手刀を入れるレウィシア。その一撃に気を失うテティノ。
「これは拘りじゃなく、私の力を証明させる戦いよ。だから大人しくしてなさい」
気を失ったテティノを、ルーチェとラファウスの元へ連れて行くレウィシア。
「あなた達も余計な手出しはしないで」
レウィシアの真剣な表情に無言で頷くラファウス。ルーチェは思わず何か言おうとするが、レウィシアの目を見て黙り込んでしまう。再びヘリオに視線を向けるレウィシア。
「ヘリオ。確かに私は今まで仲間に助けられてきたわ。死の淵に立たされていた時も、仲間がいたからこそ助かった。けど……今、私にしか助けられないものもある。あなたの言う甘さは、私にとっての弱さでもある。守りたいものや、救うべきものの為にも……まだ倒れるわけにはいかないのよ!」
レウィシアの全身が激しい炎のオーラに包まれる。両手で剣を構え、全てを集中させる。その気迫を肌で感じたヘリオはオーラを燃やしつつも、激しいステップを披露した。その動きに応じて蛇のような炎が舞う。
「面白い。それがお前の本当の力だというなら、私もそれに応えよう」
ヘリオが扇を激しく振り翳すと、激しい熱風と共に無数の炎の蛇が荒れ狂うように襲い掛かる。レウィシアは剣に神経を集中させ、襲う炎の蛇を剣で切り裂いていく。全てを捌き切れずダメージを受けるものの、レウィシアは勢いよく地を蹴り、突撃を試みる。次々と繰り出す攻撃を避けるヘリオだが、頬に一筋に傷が刻まれていた。一度攻撃の手を止め、距離を取るレウィシア。ヘリオは空中回転で後方に下がり、構えを取る。レウィシアは呼吸を整え、精神を集中させると気合が込められた掛け声と共に再び飛び掛かる。ヘリオは激しく踊るような動きと共に扇を仰ぎ続ける。大きく巻き起こる炎の渦と蛇。それに向かって突撃するレウィシア。剣を両手に炎の渦を遮り、炎の蛇に喰らわれながらも突撃を止めない。
「……これは?」
レウィシアの突撃に一瞬驚くヘリオ。その隙を逃さなかったレウィシアはヘリオの懐に向けて剣を振り下ろす。
「げほぉあっ……!」
迸る鮮血と共に血を吐くヘリオ。レウィシアの一撃は、ヘリオの肉体を深く切り裂いていたのだ。
「がはっ! ぐぁっ……は……まさか、こんな不覚を……」
深い傷を負ったヘリオは血を撒き散らしながらも、ガクリと膝を付く。レウィシアはヘリオを見下ろしながらも剣を突き付ける。その目に甘さは感じられない。
「……フッ、こんな不覚を取った私にも自身では気付かぬ甘さがあったというのか。それとも……」
ヘリオは口から血を零しながらも、何かを悟ったような表情になる。
「勝負は付いたわ。その傷では戦えないという事は、あなたも解っているでしょう?」
剣を突き付けながらも冷静に言うレウィシア。
「貴様……トドメを刺さぬというのか?」
「刺さないわよ。あなたを倒す理由があっても、命を奪う理由はない。命を奪わない事は、決して甘さじゃない。無益に人の命を奪う事は、私の中の太陽が許さないからよ。それでも不服だというの?」
ヘリオに鋭い目を向けながらも、レウィシアは剣を握る手に力を入れる。そんなレウィシアを見て、ヘリオは笑みを浮かべる。
「太陽が許さない、か……。良かろう。それがお前の力だというのならば、見届けてやる。お前がアポロイアの魂を神器として受け入れるかをな」
ヘリオは傷付いた身体を起こしながらも、フラフラと歩きつつ集落の方へ向かって行く。
「これは、レウィシアの勝ちという事ですか?」
ラファウスはルーチェを連れてレウィシアの元へやって来ると、ヘリオは足を止める。
「太陽の聖地はこの先にある。神器が必要ならば来るがいい」
そう言い残し、再び足を動かすヘリオ。時は、既に日が暮れる頃であった。
「……どうやら、何とか認めて貰えたようね」
ルーチェの魔法で体力が回復したレウィシアは気絶しているテティノを背負いながらも、ヘリオの後を追って集落へやって来る。集落は質素な民家が幾つか並び、中心地には剣と盾を持った大柄で逞しい闘士の像が祀られている。戦神アポロイアの像であった。
「ホッホッホッ、よく来たのう」
笑い声と共に現れたのは、小柄の老婆であった。
「あなたは?」
「わしはタヨ。サン族の長じゃ。そなたが来るのを待っておったぞ、太陽に選ばれし者よ」
穏やかな表情でレウィシアを迎えるタヨ。一行はタヨの案内で長の家に向かう。家には、負傷から回復していたヘリオがいた。ヘリオは、タヨの娘であった。
「我が娘ヘリオを打ち負かしたそなたは紛れもなくアポロイアの魂を受け継ぐ者。我々の言い伝え通りにそなたが訪れたという事じゃ」
サン族の間では戦神の魂を神器として受け継ぎ、巨大なる闇に挑むという言い伝えが存在していた。そして言い伝えの通りにレウィシアがやって来る際に、ヘリオはそれが真かを確かめる目的でレウィシアの前に立ちはだかったのだ。
「やはりそういうつもりだったのですね。でも、最初から全て知っていたのですか?」
「フン、最初は期待ハズレだと思っていたがな。だが、戦いを通じて理解出来た。彼女の中に未知なる太陽が存在するという事が」
ヘリオはレウィシアの顔を見ながら言うと、レウィシアはふふっと笑みを浮かべる。
「そして、アポロイアの魂が封印された太陽の聖地はこのサンの集落の向こうにある」
太陽の聖地は、集落の向こうに聳え立つ巨大な火山の中であった。火山からは煙が昇っている。
「火山……か。やはりハードな道のりになるみたいね」
レウィシアは緊張の表情を浮かべる。
「疲れたじゃろう。今日はゆっくりと休んでおくとよい。これからの道のりは途轍もないからのう」
その言葉に甘え、一行は集落で一晩を過ごす事にした。

夜――ふと目が覚めたレウィシアは外に出る。夜の気温は、少し涼しげであった。夜風に当たろうと外を見回っていると、テティノの姿を発見する。
「テティノ!」
レウィシアがテティノの元へ駆け寄る。
「ああ、レウィシアか。君も眠れないのかい?」
「うん、ちょっとね」
「奇遇だな。こんなところで一晩過ごすのは初めてだし、どうも慣れないよ」
不服そうにぼやくテティノ。夜風がレウィシアの長い髪を僅かに靡かせていく。
「あのヘリオとかいう女、色々いけ好かない奴だけど君の事を認めてくれたのかな?」
「多分ね。取っ付き難いけど、強さはかなりのものだから……」
「あんな奴が一緒に来るなんて僕は絶対に御免だな。第一、ああいう女とは相容れない」
すっかりヘリオを嫌っている様子のテティノに苦笑いするレウィシア。
「ところで……太陽の神器とやらが手に入ったら、あのケセルと戦えるようになるのだろうか」
テティノが星の瞬く空を見上げながら呟く。
「解らないわ。けど、何かの方法があるとしたらそれに賭けるしかない。今私達に出来る事があれば、それを全てやらなきゃ」
「……そうか」
吹き付ける夜風がレウィシアの長い髪を微かに靡かせる。
「まあ。あなた達も起きていたのですか」
背後から聞こえる声の主は、ラファウスであった。
「ラファウス! 君もどうして?」
「ふと風の声が聞こえたから外に出てみただけですよ」
「ふーん……で、その風の声とやらで何が解ったんだ?」
テティノの声に返答せず、ラファウスは目を閉じてそっと手を広げる。レウィシアとテティノは何だろうと思いつつもその様子を見守る。
「……風からは、慟哭を感じます。まるで何かを予知しているような慟哭の声が……」
ラファウスの呟きに、テティノは一体何の事だと問い詰める。
「詳しい事は私にも解りません。一つ言える事は、何としてでも太陽の神器を手にしなくてはならないという事でしょう。その為にも、私達も死力を尽くさねばなりません」
力強く言うラファウス。その目からは強い意思が感じられる。
「何だかよく解らないけど、つまり太陽の神器を必ず手に入れろって事だろう? 風の声の意味が何であろうと、目的が変わらなければ前へ進むまでだよ。そうだろ? レウィシア」
テティノが真剣な表情で言う。
「……そうね。その為に此処まで来たんですものね」
レウィシアはラファウスの言葉の意味が気になりつつも、空を見上げた。
「明日も早いだろ。僕はもう寝るよ」
そう言い残し、テティノは家に向かって行く。レウィシアとラファウスも就寝に入るべく、テティノの後に続いた。


一方――翌日の正午前にて、クレマローズにやって来たヴェルラウド達は城下町の入り口を守る番兵達によって阻まれていた。サレスティルで起きている謎の失踪事件を受けて国中が厳重な警備態勢に入っているのだ。
「サレスティルで失踪事件だと?」
番兵から事件を聞かされたヴェルラウドが愕然とする。
「おい、あんた達。俺はサレスティルに住む騎士だ。その事件はいつ頃から起きているんだ!」
「ああ、一昨日辺りにサレスティルから来たっていう戦士がやって来たんだ。恐らくその頃から……」
第二の故郷となるサレスティルで思わぬ事件が起きている事を耳にしたヴェルラウドの表情が強張る。サレスティルの事が気になりつつも、今はレウィシア達に会う目的を優先させる事にした。
「とにかく、この国の王女レウィシア……そして国王陛下に会わせてくれ。俺はレウィシア王女に用があるんだ」
「それはダメだ」
「何故だ!」
「兵士長から余所者は通すなと命じられている。例えサレスティルの者であろうとな。それに、国王陛下は何者かに浚われた上、姫様は今旅に出ておられる。どの道来たところで無駄な話だよ」
「何だと……」
番兵の一言に呆然となるヴェルラウド。
「何よそれ! せっかく来たのに結局無駄足って事?」
スフレが不満げに言う。
「どうした、何事だ?」
突然聞こえて来る声。トリアスであった。
「むむ! そなたはサレスティルのヴェルラウド殿か?」
ヴェルラウドの姿を見たトリアスが声を掛ける。
「あんたは……確かあの時の?」
ヴェルラウドはかつてサレスティルで影の女王による画策に踊らされ、トリアスを始めとするクレマローズの兵士達と対立した事を思い出していた。
「まさかそなたが訪れるとは……かつてサレスティル女王に化けていた魔物を倒した後に旅立たれていたようだが、無事で何よりだ」
「ああ、あの時はあんたにも色々すまなかった。今はある理由でレウィシア王女に用があって来たんだ。不在らしいが」
ヴェルラウドはリランと共に全ての事情を話す。事情を理解したトリアスはヴェルラウド達を王国に招き入れ、城まで案内する。
「兵士長のオッサンと知り合いで幸いだったわね!」
スフレが興味深そうに城の様子を眺めている。
「トリアス兵士長。レウィシア王女は今何処へ旅立ったんだ?」
「姫様は今、太陽の聖地と呼ばれる場所へ向かわれた。陛下を浚った巨大な敵に立ち向かう為にな」
レウィシアの旅の目的を聞いたヴェルラウドはやはり俺達と共に戦う運命になるという事か、と確信する。謁見の間にはアレアス王妃がいた。
「トリアス、その方々は?」
「姫様と共に陛下を浚った敵と立ち向かう方々です」
ヴェルラウドは胸に手を当てて軽くお辞儀をし、自己紹介をする。続いてリランが旅の事情を全て打ち明けた。アレアスはクレマローズの現状とレウィシアの現在の旅の目的等を話し始める。
「仮にレウィシアが戦神の神器を得たとしても、ガウラを浚った敵の力は未知数です。それに、このクレマローズにも再び邪悪なる手の者が現れるかもしれません。あなた方がレウィシア達の力になるというのなら、レウィシア達が帰って来る間にこのクレマローズの護衛をお願いしたいのです」
アレアスはサレスティルで起きている失踪事件によって、近々クレマローズでも再び邪悪なる手が迫っているという予感を抱いていたのだ。
「畏まりました。護衛ならば我々にお任せ下さい」
ヴェルラウドは快く承諾する。
「ま、闇王の部下はいつ何をやらかして来るかわからないからね。あたし達にどーんと任せなさい!」
スフレがやる気満々の様子を見せる。謁見の間を後にしたヴェルラウド達はトリアスによって客室へ案内される。
「何よ、今は大人しく部屋で待ってなさいって事?」
「何かあったら呼ぶつもりだ。それまで待機していてくれ」
そう言って部屋から去るトリアス。
「もう、部屋で待機って退屈なのよね!」
スフレはジッとしていられず、部屋から出ようとする。
「スフレよ、何処へ行く?」
「ちょっと街の中を見て回るのよ! クレマローズがどういうところか知りたいからね」
「兵士長から呼ぶまで待機してろって言われてるだろ」
「そんなの知らないわよ! 何かあったら戻ればいいんだし! じゃあね!」
ヴェルラウドの制止を聞かず、さっさと部屋から出るスフレ。
「やれやれ。ま、鬱陶しいのがいなくなったから却って落ち着くかな」
再び腰を付くヴェルラウド。
「王妃様の言う通り、いつでも敵と戦える準備はしておいた方が良いな。どうも不吉な予感がする」
オディアンは研ぎ石で戦斧と大剣を磨いていた。
「それにしても……太陽の聖地という事は、レウィシア王女も私の同士となる者に……いや、必ず力になってくれるはずだ。真の巨悪を打ち倒すには、我々の力も必要だからな」
リランは窓の外の景色を眺めながら呟いた。

城から出て城下町を散策するスフレは、街の緊迫した様子に何とも言えない気分になっていた。周囲の人々に度々注目され、中には警戒する者までいた。サレスティルの失踪事件からクレマローズの国民以外の者を一切立ち入りさせないよう厳重警戒態勢を取る故、見慣れない人物には気を付けろとトリアスを始めとする兵士達から宣告されているのだ。
「何だか落ち着かないわね。やっぱ戻った方がいいかな」
周りの視線がどうしても気になってしまい、渋々城へ戻ろうとするスフレ。その途中、破壊されている教会を発見する。
「酷い……どうしてこんな事に?」
破壊された教会の様子を探ろうと近付くスフレ。そこには一人の小さな少年がいた。
「ねえボク。これ、何で壊されたのか知ってる?」
スフレに声を掛けられた少年は一瞬きょとんとする。
「あ、もしかして聞いちゃいけない事だった?」
「ううん。この教会、バケモノに壊されたんだよ」
「バケモノ?」
少年の口から出たバケモノという言葉に一瞬驚くスフレ。
「そのバケモノ、どんな奴なのか知ってる?」
更に聞き出そうとすると、少年は知らなさそうに首を横に振る。
「そっか、教えてくれてありがとう。いきなり聞いたりしてごめんね。それじゃ」
スフレはその場から去る。
「あの教会を壊したバケモノというのは……」
少年の言うバケモノの正体について考えているうちに、スフレは不意に寒気を感じる。それは気温によるものではなく、凍り付くような邪悪な気配を肌で感じ取った事による悪寒であった。思わず足を止め、空を見上げると、スフレは驚きの表情を浮かべる。
「な、何あれ……?」
スフレが見たものは、二体の飛竜らしき姿と飛行物体であった。それは改造されたパジンとバランガが乗る飛竜二体、そしてゲウドの空中浮遊マシンだった。

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