Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな

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神界に眠るもの

聖光を継ぎし者

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ナイフを手に何処かへ向かおうとしているイワトの前に、一人の男が現れる。道化師のような風貌を持つ男――トリクだった。
「君、何処の子だい? 一人で何処行くつもりだ?」
トリクが声を掛けると、イワトは無愛想にそっぽを向く。
「ほっといて。おれ、急いでるから」
そう言ってさっさと去って行くイワトだが、大きく転倒してしまう。
「ってぇ……」
転倒したイワトの元に男が颯爽とやって来る。
「大丈夫かい?」
足の痛みに襲われ、苦しむイワト。転倒で片足を捻挫していた。
「むむ、これはいかん。おじさんが手当てしてやるよ」
トリクは捻挫したイワトの足を凝視しつつも、おまじないを掛ける。すると、イワトの足の捻挫は一瞬で回復した。回復魔法を施したのだ。
「すごい……足が治った。ありがとう、おじさん」
「何、人として当然の事をしたまでだよ。君、ペン族だよね?」
「そうだけど」
「おじさんは今、フロストール王国へ向かうところなんだ。よかったら王国まで案内してほしいと思ったが……どうもワケがありそうだね」
イワトは何なんだろうこのおじさんはと思いつつも、魔物に襲われて大怪我をした母親を治す為の薬を探しているという事情を打ち明ける。
「ふむ……そんな事があったのか。けど、子供一人で王国の外に出るのは危険だ。君のお母さんの怪我を治す薬が何処にあるのかは知らないが、王国の人に任せた方がいいと思うよ」
「わかってるよそんな事。でも、そういうわけにもいかないんだ。大人に話しても絶対に止められるから」
周りの大人に事情を打ち明けられない理由――つまり、白氷の霊水が目当てであった。それはある日、物心つく前のロペロを連れて城の図書室へ遊びに行った時、面白い本がないか調べていた時に白氷山と白氷の霊水で作られた秘薬の存在を知り、母親の怪我を治す方法は白氷の霊水だと思い込んで白氷山に向かおうとしていたのだ。
「おじさん、足を治してくれてありがとう。おれ、どうしても行かなきゃいけないんだ。フロストール王国なら、すぐ近くだから……」
立ち上がるイワト。
「いかん、待ちなさい」
トリクの制止を聞かず、大急ぎで去って行くイワト。多くの魔物が生息する雪原を渡り、単身で白氷山に辿り着く。猛吹雪の中、イワトは諦めずに進んでいくものの、山に生息する魔物が次々と牙を剥ける。傷付きながらも山道を進むイワトだが、子供の体力では到底持たない過酷な道のりだった。山小屋に辿り着いた時、イワトは既に満身創痍だった。小屋の中で焚き火を燃やし、持参していた一枚の紙切れに何かを書き始めるイワト――


「あ……」
グラインは我に返る。思わず辺りを見回すグラインの視界に映るものは、イワトの墓と仲間達の姿、そして白氷の霊水。
「おい、何やってんだよ? どうかしたのか?」
キオが声を掛ける。
「い、今のは一体……」
グラインは今あった出来事を話す。ナイフを手に、白氷山へ向かって行ったイワトの姿。それはまさにイワトの記憶が実像化したかのような、夢か幻かと思わざるを得ない光景だったと。
「フーン、それは多分……記憶の一部ヲ見たのかもネ」
「記憶の……一部?」
ティムは語る。女神の子が起源となりし勇者の中には他者の記憶や過去の光景を見る能力を持つ者がいると。それは女神の血筋となる光の子と呼ばれし者特有の能力であり、ティムのメモリードの系譜に当たるものだと。
「何だって……それじゃあ僕にも人の記憶を読む力が備わるようになったという事か?」
「ウーン。アナタの場合はワタシとは少し違うわネ」
グラインに備わるようになった記憶を見る能力は直接他者から読み取るものではなく、地上に佇む死者の念に触れる事で過去の記憶を実像化させるものであった。死者の念は目に見えないものであり、読み取れる記憶はほんのひと欠片に過ぎない。苦しみながら死を迎えた者、何かしらの強い想いを残した者程地上に念が残りやすいと云われていた。
「記憶の一部を見たなんてにわか信じられない話だが、兄貴の事で何か解ったのか?」
ロペロが尋ねると、グラインは見えた記憶の内容を全て打ち明ける。
「やっぱり兄貴はトリクさんと出会ってたのか。けど、トリクさんから白氷の霊水の事を教えてもらったってわけじゃないんだよな?」
「うん……」
疑念が晴れて一安心するロペロだが、白氷山へ向かった奇妙な格好の人間がトリクだとしたら、もしかすると力尽きて息絶えたイワトを発見して手厚く葬ってくれたのだろうかと考える。そしてトリクはあれからどうなったのだろう。
「退きなさい」
ガザニアが墓の前に種を添えると、花が咲き始める。菊の花だった。イワトの墓の周りが菊の花に囲まれ、黙祷を捧げるガザニア。
「は、花が……?」
「わたくしに出来る供養よ。せめてもの弔いだから」
淡々と呟くガザニアを見て、一見取っ付きにくい印象だけど、彼女なりの不器用な優しさなんだなと思うロペロ。ガザニアの行いに心を打たれたグラインはキオ、ペチュニア、ロペロ、ティムと共に黙祷を捧げた。瓶で白氷の霊水を汲み取ったグライン一行は下山を始める。猛吹雪と重なって森林が険しいせいでヒーメルを呼び出せず、山の麓まで降り立つしかないのだ。止まない吹雪に苦労しながらも足を進め、行く手を阻む魔物を蹴散らしつつも何とか麓に辿り着く一行。
「ふー、やっと出られたぜ」
ロペロとペチュニアを送る為、フロストール王国に向かう一行。城下町に辿り着いた矢先、ペチュニアは人だかりを発見する。
「一体何があったの?」
何事かと思いつつ行ってみると、あっと声を上げるグライン。なんと、ルビー一味がペン族の子供を人質に取ってストライキを決行しているのだ。
「アタシ達、毎日毎日ろくに休まされず一日中働かされてるのよ! 復興活動だの何だの言う前に、労働者の気持ちも考えなさいよ!」
「その通りだぜ、オネエ様」
「んだんだですぜ、オネエ様」
バンとディットによって人質にされている子供は涙目になっていた。見張りの兵士は子供を開放するよう説得を試みるものの、ルビーは要求を呑まないとこの子供が大変な目に遭うわよと脅迫を始める。
「あ、あいつらぁ!」
ペチュニアは怒り心頭で飛び出す。
「やれやれ、相手するのも阿呆臭いわね」
心底呆れた様子のガザニア。
「あいつ、ろくに休まされず一日中働かされてるって言ってたけど……」
ルビー一味の労働事情が少し気になるグライン。
「あいつらは何なんだ?」
キオがルビー一味について問う。
「王国の芸人一座だった連中だよ。やる気がなかったからクビにしたんだけど」
ロペロが説明するものの、突っ込む気になれない心境のキオであった。
「あんた達、何やってんのよ!」
人だかりを掻き分けてルビー一味の元へやって来たペチュニアが怒鳴り付ける。
「来たわね、人でなしペンギン!」
「来たな、オニペンギン!」
「同じくだ、デビルペンギン!」
「ペチュニアよ! 私の名前はペ・チュ・ニ・ア! あんた達、ストライキだなんて何のつもりよ!」
「ふん、待遇の悪さへの抗議表明よ! いつもいつもバカみたいに働かせて、アタシ達がどれくらいしんどい思いをしていたか……人でなしペンギンのアンタに気持ちが解るっての? えぇ?」
「そうだ、オニペンギン!」
「んだんだ、デビルペンギン!」
ストライキを決行した理由について聞かされたペチュニアはふと思う。よく考えると一日十時間前後に渡る労働で休憩時間は少なめ。芸人一座のメンバーには不適切とみなし、寒い環境で生きる為にも精一杯身体を動かして働いてもらうといった理由で王国の復興活動の手伝いを任命した。だが、毎日毎日酷使する勢いで働かせすぎていたなと。
「……そうね。確かにあんた達をビシビシ働かせすぎたわ。待遇なら考えておくから、まずその子を放してくれないかしら?」
「アンタ、クチだけならいくらでも言えるわよね? 考えておくなんて言葉、アタシは信用ならないのよ!」
「何言ってるのよ! 私は人の意見を聞き入れないような人でなしじゃないわよ!」
「いいえ、実際人でなしペンギンだから信用ならないわ! バンとディットも言ってやりなさいよ!」
「信用ならんわ、このオニペンギン!」
「信用出来ないデビルペンギン!」
「さっきから人でなしペンギン、オニペンギン、デビルペンギンって……意見の一つ二つくらいはちゃんと聞き入れるわよ!」
ペチュニアが声を荒げる中、ガザニアがルビー一味の背後に割り込んで背後から軽く息を吹く。
「ア、アラ……何だか眠くなってきたわ……」
「同じくですぜ」
「んだんだ」
三人揃ってバタリと倒れ、眠りこけてしまう。眠りの花粉を息と共に吹き掛けたのだ。
「アホくせぇ……」
「ただのコントにしか見えないわネ」
キオとティムは呆れて言葉も出ない。グラインとロペロもやれやれと言わんばかりの顔をしていた。
「このバカどもは牢屋に入れておきなさい」
ガザニアの一言で、兵士達は眠っているルビー一味を城に運んで行く。人質に取られていた子供は兵士によって親御の元に帰されていった。
「全く、あいつらは面倒ごとばっかり起こすんだから」
プンプンしながらぼやくペチュニア。
「おい、そろそろアザラシどものところへ戻るぜ。用は済んだんだろ?」
キオの一言。グラインはペチュニアに魔法のサングラスを手渡す。
「僕達はそろそろ行くから、シルベウド王子によろしく伝えておいて」
「うん! グラインさん達も気を付けて! スリリングな旅でいい経験になったわ」
「俺の頼み事を聞いてくれてありがとう。兄貴はもう帰って来ないけど……あんた達のおかげで兄貴の事が知れてよかった」
ロペロはグライン達に感謝しつつも、イワトが残した手紙をしっかりと握り締めていた。
「兄の分まで精一杯生きなさい。一度きりの命を捨てるんじゃないわよ」
ガザニアの言葉を受け、強く頷くロペロ。ヒーメルを呼び出し、フロストール王国を後にするグライン一行。ペチュニアとロペロは飛び立っていくヒーメルをずっと見送っていた。


再びラアカス大陸へ降り立ち、氷の砦にいるゴマッフ族長に白氷の霊水を差し出す一行。砦には医師もいた。
「おお……まさか本当に白氷の霊水を取って来るとは。しかし、一見普通の水にしか見えんが……」
ゴマッフは白氷の霊水が汲まれた瓶を医師に差し出す。医師はジッと水を凝視すると、一口飲み始める。
「え、ちょっと! 何やってるんですか!」
慌てて止めようとするグライン。
「ああ、ちょっと喉を潤すついでに白氷の霊水かどうか確かめたくてね。本物で間違いないようだ」
軽い調子で言う医師に鋭い視線を向けるグライン達。
「あのネ……ふざけてるノ? ワタシ達がどれだけ苦労して手に入れたモノか、解ってるノ?」
ティムが怒りを込めて言う。
「おお、すまん。決して疑ってたとか悪気があったとかそういうのじゃないんだ。ちゃんと秘薬は作れるから安心してくれたまえ」
医師は霊水が入った瓶を手にさっさと奥の部屋へ向かって行く。
「あのよぉ、結果次第でどうなるかわかってんだろうな」
キオがゴマッフに近付き、掴み掛かるように言う。
「だ、大丈夫だって! 今のは雰囲気を和やかにするつもりだったんだ」
「ケッ、なめた事してっとブッ飛ばすぞ」
「まあまあ、落ち着いて」
粗暴なキオを宥めるグライン。医師が丸い瓶を手にやって来る。瓶の中には、輝く青い液体が入っていた。
「完成したぞ。これで彼女の怪我が一瞬で治る!」
ウキウキした調子で医師が言う。白氷の霊水によって作られた青い液体は、あらゆる怪我を一瞬で完治させる秘薬エリクシルであった。医師はグライン達と共に、リフがいる家へ向かう。家にはタテゴがいた。
「ドクター、何だそれは?」
「彼女の怪我を治す秘薬だ。これを彼女に飲ませてくれ」
「何だって!」
タテゴは医師からエリクシルを受け取ると、地下に降りていく。グライン達も地下へ降りると、エリクシルを飲むリフの姿があった。エリクシルを飲み干したリフの身体が淡い光に包まれ、負傷は一瞬で完全に回復した。
「身体が……完全に治った……」
完治したリフはベッドから立ち上がる。
「よかった……本当に治ったんだな」
タテゴは医師と共に安堵の表情を浮かべる。
「あなた達が私の為に……ありがとう」
グライン達の存在に気付いたリフが礼を言う。
「無事で良かった。えっと、僕はグライン。もし良かったら聞かせて貰えますか? 何があったのかを」
リフは尋ねるグラインの瞳を見ているうちに、彼なら信用出来ると思い、全てを話す。神の加護と呼ばれた癒しの光を司る聖女かつ妹であるサラと共にアズウェル王国で暮らしていた剣士であり、バキラ達に攫われたサラを救う為に旅立った事。サラを救う為に導きの占い師マドランの占いに従い、南西の地に住むビースト族とエルフ族に出会い、聖光の勇者の武器である聖剣ルミナリオの存在を知らされた事。旅の中で知り合った謎の剣士ゾルア、勇者の仲間であったエルフ族のネルと共に魔導帝国の領土に立ち、そこで聖剣ルミナリオを手に入れた事。ゾンビとなって現れた魔導帝国の皇帝ゼファルドの襲撃を受け、絶体絶命の中、自身の犠牲を覚悟したネルの力で帝国領を脱出し、ラアカス大陸に流れ着いた事。そんな旅の経緯を打ち明けると、グラインは思わず言葉を失っていた。
「相当苦労していたのネ。でも、アナタが生きていてくれてよかったワ」
ティムがリフの近くまで飛んでいく。
「何これ? 声が聞こえる……」
リフは輝く光の玉にしか見えないティムの魂を不思議そうに見つめる。
「ワタシはティム。彼らをサポートする者ヨ。アナタは……彼らと共に戦う選ばれし者」
「え?」
「聖剣ルミナリオを手にしたアナタは、紛れもなく勇者の力を継ぐ者。つまり……聖光の勇者ティリアムの血筋を受け継ぎし者ヨ。ワタシにとってハ孫娘……いえ。ひ孫娘ともいうのかしラ」
リフは思わず目を見開かせた。そしてティムは語る。娘であるティリアムは神界で自身を封印する前に、子供を残していた。ティリアムとは恋仲関係であり、大魔導師レニヴェンドの親友である光の聖騎士ソーリアンとの間に子供を授かっていたのだ。魔導帝国が滅びても、新たなる災厄が訪れる。そして災厄の源が、何処かに存在する。災厄は、脅威となるものを摘み取る目的で自分だけでなく我が子の命を奪いに来るかもしれない。光の聖都と呼ばれるこの地は、邪悪なる存在にとって最も脅威となり得る場所。来たるべき災いに備え、自身の封印を決めたティリアムの意向によって、生まれたばかりの子供は異国の地へと送られた。ティリアムが神界にて深い眠りに就いた後、ソーリアンはレニヴェンドの意思を受け、異国に送られた我が子の幸せを願いつつも太陽の神殿に封印されし秘宝の守護者となる。親友が封印した秘宝『天の核玉』を守れる者は、ソーリアンしかいなかったが故。異国の地に送られたティリアムの子にも光の力が備わっており、引き取られた場所は、ごく普通の平和な村であった。ティリアムが使っていた聖剣ルミナリオは神によって作られた剣であり、聖光の力が備わる者のみ扱う事が許される。ティリアムの血には聖光を生む神の血が混ざっており、その血筋は子孫に受け継がれていくのだ。
「……私と妹のサラには光の魔力が備わっている。私とサラは、聖光の勇者の血を分けた存在だというの……?」
物心付く前からロレイ村の修道院に引き取られて育てられたリフとサラは、両親の顔を知らない。両親がどんな人物で、何故修道院に引き取ってもらう事を選んだのかも解らない。ティムは告げる。サラに備わった癒しの力がある光の魔力は、ティリアムの血筋が生んだ聖光によるものに違いない。リフに備わる光の魔力もまた聖光であり、新たな勇者として聖剣ルミナリオを扱う資格がある。そしてグライン達の旅の目的は神界にて封印されているティリアムを蘇らせ、歴戦の勇者と新たなる勇者が力を合わせ、全ての災いの元凶となるジョーカーズを滅ぼす事であると。
「修道院の占い師からこう聞かされた。近い将来、選ばれし者達と共に戦う事になると。それがあなた達の事だったら……私もあなた達と行く事にするわ」
導きの占い師マドランの占いを思い出していたリフはルミナリオを手に立ち上がり、グライン達と行動を共にする意思を示す。
「あなたのような人が仲間だと心強いよ。リフさん、宜しく」
「リフでいいわ。こちらこそ宜しくね」
笑顔で喜んで受け入れるグライン。
「勇者の血を分けたってぇなら、ちったぁ頼りになりそうだな。ま、宜しく頼むぜ。あぁ、オレの名はキオだ」
「ガザニアよ。わたくしの足を引っ張るんじゃないわよ」
キオとガザニアがそれぞれ自己紹介をすると、リフは随分個性豊かというか、クセの強い面子なのねと心の中で思う。
「さあ、聖竜の塔の鍵を貰いに行くわヨ」
当初の目的である聖竜の塔の鍵を受け取ろうと、ゴマッフの元へ向かおうとするグライン達。
「あ、待ってくれ!」
タテゴが声を掛ける。
「……リフっていったな。大した事出来なかったけど……無事で救われてよかったよ。あんた達がこれから何処に行くのか解らんが、またいつでも来るといい」
完全に立ち直ったリフの姿を見て、タテゴは心から安堵している様子だ。
「こちらこそありがとう。あなた達が看護してくれたおかげで、私はこの人達と出会う事が出来たから……」
深々と礼を言うリフ。タテゴに見送られつつも、再度氷の砦を訪れる一行。
「うむ、例のモノだな。最早お前さん方が持っておくべきものであろう。受け取るがいい」
ゴマッフから聖竜の塔の鍵を受け取るグライン。二つ目の鍵はウリエルの印と呼ばれ、ミカエルの印と同様に天使の絵が彫られた円盤状の鍵だった。目的を果たした一行はリフと共に次なる目的地へ向かおうとヒーメルを呼び寄せる。
「な、何?」
現れたヒーメルに思わず身構えるリフ。
「大丈夫ヨ、安心しテ」
ティムがヒーメルについて話すと、リフは驚きの表情を浮かべる。空を飛ぶ巨大な生き物に乗るという事自体信じられないと心の中で呟きたくなる程であった。恐る恐るヒーメルに乗るリフ。全員が乗ると、翼を広げて高く飛び上がるヒーメル。
「す、凄い……落ちたらひとたまりもないわね」
リフは地上を見下ろすと、一瞬青ざめてしまう。
「おい姉ちゃん、まさか高所恐怖症とか言うつもりかよ」
キオが一言突っ込むと、まだ慣れてないだけよとリフが返す。三つ目の鍵の在処となる場所は、南西の大陸サウェイトのエルレイ城に位置する場所。つまり、エルフ族の王国だった場所だ。
「エルレイ城……エルフ族……」
リフは物憂げな表情を浮かべる。ネルの反乱がきっかけでエルフ族と完全に敵対してしまった事が気掛かりなのだ。
「どうしたの?」
思わず声を掛けるグライン。
「……何でもないわ。けど……エルフのところには直接行かない方がいい」
リフは強張った表情で答える。元々人間を忌み嫌い、滅ぼそうと考えていたエルフ族。魔導帝国によって人間への憎悪を深め、今では全てのエルフ族とは到底相容れない現状。もし今エルフ族と対面する事にならば、確実に敵として潰しに掛かるだろう。そうならば望まない形で戦わざるを得なくなる。
「何だってんだ? 言っても解らねぇ奴らなんざ、構わずブッ飛ばしちまえばいいだろ」
何があろうと、面倒事ならばとにかく力で解決しようと考えるばかりのキオ。
「確かニ、エルフ族は昔から人間を嫌ってる気難しい種族だワ。しかも魔導帝国のせいで多くのエルフが犠牲になった事もあるかラ……素直ニ話を聞いてくれそうにないでしょうネ」
エルフ族から聖竜の塔の鍵について聞こうとしても、到底聞いてくれそうにないのは見えている。どうすべきか考えているうちに、ヒーメルは間もなくサウェイト大陸に辿り着こうとしていた。


その頃――闇に覆われた大地で、クロトが一人の騎士と戦っていた。黒光りする鎧を身に纏い、顔は兜で覆われ、長い金髪を靡かせつつも禍々しい形の槍を手に戦う騎士。その様子を楽しむかのように眺めているバキラ。
「ガアアアッ!」
闇のオーラに包まれた邪剣ネクロデストを手に、騎士と激しく交えるクロト。騎士の槍から黒い雷が巻き起こる。闇の力を帯びた雷だった。騎士の実力はクロトと互角以上に渡り合える程だ。
「そこまでにしておけ」
声と共に現れたのは、ダグだった。
「何、もう終わり? 面白いとこだったのに」
バキラが不満そうに言う。
「これで十分であろう。その者は大事な兵力だ。それを忘れるな」
「解った解った。あのオバサンはあまり気に入ってないようだけどね」
バキラが指を鳴らすと、クロトは剣を収める。同時に騎士も動きを止め、槍を収める。
「それにしてもさぁ、ダグってそんなにこいつの事が気に入ったの? こいつに何か特別な思い入れがあるわけ?」
騎士を指しながらバキラが言う。
「……貴様には関係の無い事だ。行くぞ、ヴァルキネスよ」
ダグは空間に次元の穴を作り出し、ヴァルキネスと呼ばれた騎士と共に穴へ飛び込んだ。
「ほーんと、そればっかり。もしかしてあいつの事好きなのかなぁ?」
黒い鎧を着た謎の騎士、ヴァルキネス。ジョーカーズの新たなる兵力として生み出された『堕落の魔槍士』と呼ばれる実力者であった。



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