Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな

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神界に眠るもの

灼熱の挑戦

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グライン一行を乗せたヒーメルが降り立った場所は、ギガント山の巨人族の集落だった。ヒーメルの来訪に驚き慌てる巨人族達。
「ア! 以前のニンゲンか?」
巨人族の一人がかつて集落にグラインが訪れた事を思い出した様子。
「こいつらが巨人族か? ただのデクの棒にしか見えねぇな」
キオが興味深そうに巨人族を見つめている傍ら、ガザニアは不快そうな表情を浮かべている。ドレイアド族は人間よりも耐暑性に優れているものの、灼熱のような凄まじい気温に不快感を感じているのだ。
「グライン! 久しぶり!」
ティータが嬉しそうにやって来る。
「やあティータ。久しぶりだね」
グラインが笑顔で応える。
「他のヤツら、誰だ? オマエのトモダチの人間じゃないのか?」
「あ、えっと……」
グラインが説明しようとした時、ティムの魂が姿を現す。
「お、何だコレ?」
「信じられナイかもしれないケド、ワタシはティムよ。ワケあってカラダがなくなっちゃったのヨ」
「カラダが? 何故だ?」
ティータが不思議そうにティムの魂をジッと見ている中、タータが現れる。
「おお、グラインよ! 無事であったか! 随分とたくましくなりおったの」
再び訪れたグラインが新たな勇者として目覚めていた事に喜びを表すタータ。積もる話は家でやろうという事で、グライン達は賢人の洞窟に招かれる。
「そこのオマエ。顔怖いぞ?」
酷暑によって不快感が頂点に達したガザニアの引き攣った表情を見たティータが声を掛ける。
「ほっといてちょうだい。こんな暑いところ、さっさとオサラバしたい気分よ」
苛立った様子でガザニアが言うと、ティータはホウキを両手に精神を集中させ、レジストブーストを唱える。
「あら。少しは暑さが収まったみたいね」
体感的な気温が下がったと感じ取るガザニアに、レジストブーストによって灼熱級の酷暑に耐えられる状態になったとティータが説明する。
「オレはこれしきの気温なんざ大した事ねぇけどな」
ガザニアの横でキオが嫌味混じりに言う。横目で鋭い視線を向けつつも、無言で足を進めるガザニア。賢人の洞窟にて、グラインとティムは経緯を含めてこれからの旅の事情をタータに話す。
「何という事じゃ……あの妙な鳴動が起きた時に不吉な予感がしたが、まさか禁断の古代魔法を操る悪しき者が存在していたのか。しかも仲間を二人も失う事になろうとは……」
クレバルが殺され、リルモが行方不明になった事や、タロス率いるジョーカーズの脅威について聞かされたタータは表情を険しくさせる。ティムは四つある聖竜の塔の鍵の一つを持っていないかタータに尋ねる。
「確かに塔の鍵ならば預けられたが……」
タータ曰く、預けられた鍵は宝玉が埋め込まれたタイプの鍵であり、鍵本体と宝玉が合わさった状態でないと鍵として機能しないものであった。鍵本体はタータが所持し、鍵の一部となる宝玉は本体から抜き取られ、海の底に封印するよう海底人族に頼み込んで渡したという。宝玉は、鍵玉と名付けられていた。
「ナ、何ですッテ! どうしテそんな面倒な事ヲ!」
「いや、もしもの事があればと思っての……」
災厄を呼ぶ者がいずれ聖竜の女王や天上界を狙って鍵を欲する者が現れる事を考え、鍵を分ける形で守るという方法を選んだとタータが言う。
「あぁ? 何だそりゃ。更にめんどくせぇ事が増えちまったのかよ」
キオが不服めいた態度でぼやく。
「まあ落ち着くがいい。一種の修行と思えばいいではないか」
半ば誤魔化してるかのようにタータが返す。
「それで、鍵の本体はこの場所にあるんですよね。それだけでも譲って頂けませんか」
グラインが譲るように交渉する。
「そうしたいのは山々だが、ちょいと骨が折れるところに封印してあっての」
鍵本体はかつてグラインが焔の試練を受けた場所でもある劫火の魔窟の奥に封印しており、グラインが新たな勇者に目覚めたといえど、精神集中による加護の衣を纏っても奥に辿り着くのは困難だというのだ。
「またあの灼熱地獄に行かなきゃならないのか……」
魔窟を覆い尽くす灼熱地獄の恐ろしさをよく知っているグラインは思わず躊躇してしまうものの、行かなくてはならないという使命感と共に深呼吸をする。
「……わたくしは断らせてもらうわよ」
灼熱地獄には耐えられそうにないと考えているが故に断固拒否するガザニア。
「おお、そうじゃ。そこのお前さん。炎を扱える鬼人族かの?」
ふとキオに目を付けるタータ。
「そうだが、それが何だってんだよ?」
「鬼人族ならば高熱に耐えられると聞いた事があるが、それは本当なのか?」
タータ曰く、鬼人族の皮膚は耐熱性が備わっており、特に炎を司る者ならば燃え盛る炎の温度にも耐えられるというのだ。
「あぁ? 確かにオレは炎に耐えられるといっちゃあ耐えられる方だが、アンタが言う場所はどれくらい熱いんだよ」
「んー……行ってみれば解るとしか言えんな」
「へっ、だったら確かめてやらぁ」
キオが立ち上がると、タータは劫火の魔窟へ案内する。
「……これって、キオ一人デ鍵を取りニ行かせルつもりかしラ」
ティムのぼやきにグラインはうーんと首を傾げる。
「バカの鍛錬には丁度いいんじゃないかしらね」
しれっと毒づくガザニア。暫く経つと、タータとキオが戻って来る。
「どうだった?」
「……なかなか骨があるとこだぜ。鍛えるにはいいところかもな」
魔窟の灼熱地獄は、キオにとってはギリギリで耐えられるレベルであった。
「よし、ならばこういうのはどうじゃ」
タータがある提案をする。ティムが読んでいた通り、キオが単身で修業を兼ねて劫火の魔窟にある鍵本体を取りに行き、グライン、ガザニア、ティムが鍵玉を取りに行くという考えだ。
「ええっ! キオ一人で本当に大丈夫なの?」
いくらキオが炎に耐えられるとしても決して並大抵なものではない。思わずキオの事が気掛かりなグラインだが、キオは全く恐れてはいないどころか、そいつはいい案かもなと返答していた。
「気に食わねえが、今のオレのままでは奴らに太刀打ちできねぇ。オレにとって鍛錬になりそうなところがないか、探していたとこなんだよ。それが此処ってわけさ」
劫火の魔窟は自分にとって鍛えがいのある場所だと考えたキオは、鍵の事は任せとけとグライン達に言う。
「どの道わたくしは絶対に行かないと決めてたし、好きにするがいいわよ。早いところこんな暑苦しいとこ、去りたい気分なのよ」
「へっ、そいつぁ好都合だな。オレだってお前がいないと鍛錬が捗りそうだからな」
キオの一言に無言で鋭い目を向けるガザニア。
「ふむ……ティータよ。一度グラインの手伝いをしてみるか?」
「え? アタシが?」
密かにティータがグラインに好意を抱いていると感じ取ったタータは、グラインとの同行を提案する。ティータにとってグラインは好みのタイプであり、同行出来る事に嬉しい思いで一杯だった。最強の火炎魔法ソル・フレアの使い手でもあるティータの実力を知ってるグラインは、確かに心強い味方だなと考える。
「グラインと一緒にいれるの、うれしい! アタシ、ついていく!」
「ははは……よろしく。ティータ」
ティータを連れて海底人族の元へ向かおうとするグライン。
「おっと。お前達にはこれを渡しておこう」
タータは赤い石を差し出す。古の魔導師が遺した帰還の石と呼ばれるもので、天に掲げると一瞬でギガント山に戻る事が出来る代物だ。
「フーン、便利なモノで助かるわネ」
「それだけではないぞ。上手くいくかどうかわからんが、一瞬で海底人族の元へ送ってみせよう」
「ええっ!」
タータは相手を特定の地へ送り込む転送魔法で、グライン達を海底人族の住む場所まで飛ばすというのだ。その魔法は、レヴェンが様々な人々をレイニーラに送った際に使用していた魔法『トランスファルト』である。
「この者達を我が同志の住まう場所へ運びたまえ――」
トランスファルトによってグライン達の姿が消えていく。
「おい、グライン達が消えちまったぞ!」
「そう大声を出すでない。ワシの魔法で海底人族のいる場所へ送り込んだんじゃよ」
ホントかよ、とキオは半ば信じられない様子だった。
「そんなわけで。キオよ、準備は出来ておるか?」
タータの問いに当然よと返答するキオ。劫火の魔窟へ向かう準備は万全という事で、タータに見送られつつもキオは再び魔窟へ向かって行く。
「あのキオという男、果たして無事でいられるかの……無駄に命を落とさぬ事を願うばかりじゃな」
鍛錬を兼ねて鍵探しに向かうキオの事が少々気掛かりなタータ。如何に灼熱地獄に耐えられるとしても、一人で鍵探しに挑む事は無謀な挑戦でもあるのだ。


グライン達が飛ばされた先は、無人島だった。辺りを見回すと見覚えのある巻貝の像と祠がある。海底都市に通じるワープスポットが設けられた場所だ。
「うひゃあ! こんなところに来るの、初めてだゾ」
ティータは未知の場所に降り立った事で大はしゃぎである。
「あそこヨ。やはリ覚えておいテよかったワ」
祠の中に海底都市への入り口があるとティムから教えられたグライン達は、早速ワープスポットに突入する。ワープによって辿り着いた先は、海底都市に通じる海底トンネルだ。
「うわあ! 何だこれ? スッゲーぞ!」
珊瑚礁で覆われ、水が流れている海底トンネルの光景を見回してはしゃぐばかりのティータ。
「全く、お子様は騒がしくて落ち着かないわね」
ガザニアのぼやきに苦笑いするグライン。海底トンネルを進み、海底都市にやって来た一行。
「どひゃあ! もっとスッゲーとこにきたゾ!」
海底都市の幻想的な風景を見てテンションが最高値になるティータはすっかり観光気分だ。一行は鍵玉の在処を掴もうと、海王ポセイドルの元へ向かう。
「やや! 君達は……」
声を掛けてきたのは、ディスカだった。
「ディスカさん!」
ディスカは兵長としての公務に勤しんでいるところであった。
「暫く見ないうちに一段と逞しくなったな、グライン。あの時は本当にお世話になったよ」
「いえいえ」
「誰だこの色男?」
興味津々でディスカを見つめているティータに、海底人族の兵士長さんだよとグラインが説明する。
「そういえば君の仲間はあと三人いたはずだが……」
ディスカはリルモ、クレバル、ティムの姿がない事に疑問を抱く。
「チョト言い難い事だケド……ワタシが説明するワ」
ティムの魂が姿を現す。
「うわ! な、何だ?」
「ワタシよ! ティムヨ! 色々あって身体を失ったのヨ」
「か、身体を失ったって……?」
ティムが全ての事情と、海底都市を訪れた理由について話す。
「何と……我々が知らぬうちにそんな恐ろしい事が起きていたというのか。それで、その鍵玉というものを探し求めて来たという事か?」
「そういう事ネ。海王ならご存知かしラ?」
「うむ、まずはポセイドル様に話を聞くとよかろう。だが……」
ディスカには一つ気掛かりな事があった。それは、リルモを慕っているサバノの事である。クレバルを失い、リルモが生死不明という話を聞かされた今、サバノと会う事にならばどう伝えるべきかと考えているのだ。
「もしや、サバノの事ですか?」
グラインの問いに頷くディスカ。父親が行方不明になった上、母親代わりのような存在だったメリューナが亡くなってから心に深い傷を負っている。そんな時にリルモまでもが行方不明になったと聞いたらあの子はどんな顔をするのか、と。そんなサバノは自宅で留守番しており、保護を引き受けてからも兵長の公務で傍にいてあげられない事が多い状態だった。
「全く無責任な話ね。多忙の身なら軽々と保護を引き受けるんじゃないわよ」
辛辣な言葉をぶつけるガザニア。ディスカは言葉もないと言わんばかりに渋い表情を浮かべる。
「リルモの事は……サバノには伝えない方がいいかな」
グラインの考えにその方が良さそうネとティムが返す。
「サバノって誰だ?」
ティータがサバノについて聞くと、色々あって此処に住んでいる人間の子供だよとグラインが答える。
「一先ず、今ハ鍵玉を手にすル事を優先さセなきゃ」
ティムの一言で、一行はディスカと共に宮殿へ向かった。謁見の間には大臣とポセイドル、ディスカの部下となる数人の兵士がいる。
「グラインではないか。再び訪れるとは、ただ挨拶に来ただけ……というわけではなさそうだな」
ディスカがティムと共に事情を説明すると、ポセイドルはふーむと首を傾げる。
「鍵玉、とな。私自身そのようなものを預かった覚えはないが……大臣よ。何か心当たりはないか?」
「あるといっちゃあありますが……」
大臣は何やら言い難そうな様子である。
「ちょト、何か都合悪いコトでもあるノ?」
ティムが問う。タータから鍵玉を預けられたのは大臣であり、海底都市から西に離れた場所にある遺跡の奥に封印したとの事だ。海底遺跡は太古の時代に存在していた小さな島国が地殻変動によって沈んだもので、鍵玉は遺跡の何処に封印したのか忘れてしまった上、今も無事で残っているかどうか解らないと話す。
「ンキー! よりにもよッテ、そんなトコに封印しておくなんテ何考えてるのヨ!」
「ま、まさかそれ程大事な物とは思わなかったのだ。タータの奴が、邪悪な者の手につかない場所に封印しておけと言ったからな」
やはり前途多難だなとしみじみ思うグライン。
「ま、まあとりあえず。その海底遺跡という場所に鍵玉があるって事だよね。そこへ行ってみよう」
鍵玉を手に入れる為に海底遺跡へ向かおうとするものの、海の中を移動する手段が見つからない。
「海の中か。それならば心配無用だ。ディスカよ」
ポセイドルがディスカにある人物を呼ぶように命令する。ディスカは即座に謁見の間を出て少し経つと、サハギンの男と共に戻って来る。以前潜水艇のマンボーマ号を手配したブーリだった。
「ヘイ! いつかの旅人の皆さん! 久しぶりでんな」
相変わらず軽い調子のブーリ。
「あなたは確か、ガイドの人でしたっけ?」
「そうですねん。道案内役のブーリですねん。あんさんら、海底遺跡へ向かうんでっしゃろ?」
ブーリはディスカの要請を受けて海底の移動用となる乗り物を手配していたとの事で、一行は乗り物のある場所へ案内される。だがその途中――
「あ、グライン兄ちゃん!」
声を掛けてきたのはサバノだった。
「や、やあサバノ」
「グライン兄ちゃん、また来てくれたんだね! あれ、リルモ姉ちゃんは? クレバルの兄ちゃんもいないの?」
「え、えっと……」
どう説明しようかと思っていた矢先、ガザニアが前に立つ。
「二人はお留守番よ。わたくし達はちょっと此処に用事があって来ただけなの」
ガザニアが淡々とした口調で説明すると、サバノはきょとんとした表情をする。
「わたくし達は色々忙しいんだから、これで失礼するわ。いい子にしてるのよ」
「う、うん。ぼくのお父さんの事、忘れないでよね」
「忘れちゃいないわよ。でも、寂しいからといって甘ったれるんじゃないわよ。いいわね」
厳しい言葉をぶつけるガザニアを前に思わず黙り込むサバノ。大丈夫かなとグラインはつい心配になってしまう。
「あのー、そろそろいいでっか?」
ブーリが恐る恐る声を掛ける。
「ご案内なさい」
高圧的な物言いで急かすガザニア。サバノは寂しそうな目で去り行くグライン達を見つめていた。
「サバノにはそのうち本当の事を話した方がいいのかな」
グラインがつい方向に振り返ると、ポツンと一人きりで立っているサバノの姿を見てやるせない気持ちになってしまう。
「今は余計な心配してる場合じゃないでしょ。あの子の為にも、目的を優先なさい」
冷徹に振る舞うガザニア。
「あいつ、ニンゲンなのになんでこんなところに住んでるんだ?」
ティータはサバノの事が気になっている様子。
「あのコ、ちょト色々あってココに住むコトになっちゃったのヨ」
ティムがサバノの事情を知ってる限り話すと、ティータはうーんと相槌を打つ。
「何だか寂しそうにしてた。あいつ、あのままだと可哀想だぞ」
密かにサバノが寂しい思いをしている事をティータは感じ取っていたのだ。
「だからといって今のわたくし達にしてやれる事は何もないわよ。文句ならあのディスカという男に言いなさい」
「オマエ、言う事キツイな」
ガザニアの高圧的な態度かつキツい言葉ぶりに、ティータは少々苦手意識を抱いていた。一行はクラゲを模した風変わりな潜水艇のような乗り物の前にやって来る。ブーリ曰く、ゲラーク号と名付けられた水中調査用の潜水艇だった。
「さあさあ乗った乗った! このゲラーク号は水中調査の為に造られたスゴスゴな船ですねん」
一行がゲラーク号に乗り込んでいく。ブーリが起動ボタンを押すとゲラーク号が動き始め、ゆったりと都市から出て海の中を移動し始める。
「うわあ! 海の中! 海の中! アタシ、海の中初めて見る! スゴイ! スゴイ!」
子供らしく大はしゃぎのティータは、すっかり海底の景色に夢中だった。静かに、そして速く海底を泳ぐゲラーク号は、遺跡のある方向へ向かっていく。十数分程経過すると、小さな古城のような遺跡が見え始めた。



その頃、劫火の魔窟に挑戦したキオは灼熱地獄の中、多くのフレマンダとの戦いに挑んでいた。
「うおおおおおおおおお!」
火炎の息の応酬に負けじと反撃していくキオは、次々とフレマンダを殴り倒していく。
「ハァッ、ハァッ……思ったよりもキツイぜ」
身を焦がしながらも足を動かすキオ。溶岩からは炎が荒れ狂うように巻き起こり、時折火山の如く炎の玉が噴き出していく。最早並みの人間が立ち入り出来るような場所ではない次元だった。道のりを進んでいくと、溶岩から巨大な炎の塊が飛び出す。炎の塊は竜の頭のような形に変化していく。
「……へっ、もっと熱そうな奴のお出ましってわけか」
竜の頭を模した炎の塊は、ブレイズヘッドと呼ばれる魔物だ。激しく燃え盛る炎の玉を次々と吐き出すブレイズヘッド。
「ぐおあっ!」
炎の玉による攻撃を受けたキオは火だるまになり、倒れる。
「がああああああああああ!」
全身が炎に焼かれ、苦悶の叫び声を轟かせるキオ。次第に意識が薄らいでいく。
「ち、ちくしょう……」
気が遠くなっていくと、不意に過去の出来事が浮かび上がる。



オレの名はキオ。よろしくな!

……よろしく。



族長に鍛えられている中、オルガと初めて出会った十数年前の出来事。初めての狩りに出る相方がオルガだと族長に紹介され、最初は無愛想で取っ付きにくい女という第一印象だった。下等の魔物の狩りに挑もうとした時、オルガは魔物を回し蹴りで倒していく。
「おい、ちょっと待てよ! 今のはオレの獲物だぜ?」
「……そんなルール、誰が決めたっていうの? 狩りたけりゃさっさと動きなさい」
「チッ、やな女だぜ」
憎まれ口を叩きながらも、行動を共にしているうちにコンビとして定着するようになり、狩りを終えたある日の夜、キオはオルガと二人きりで休息を取っていた。
「なあ。お前……狩りって楽しいか?」
キオは思わずオルガに狩りの事を問う。
「さあ? 楽しいも何も、生きていく為に必要な事よ」
そっぽを向いたままドライな返答をするオルガ。その横顔は美しく物憂げで、青い髪が風に靡くと良い香りが漂う。キオはオルガの表情を見ているうちに、何処かしら心の奥底でドキドキしているのを感じていた。この時からキオは、オルガの事が気になり始めていたのだ。


最初は無愛想な女だと思ってたけど、一緒に行動しているうちにオレはアイツの事が好きになっていたんだ。


オルガとの出会い、そしてオルガへ抱いていた気持ちが突然頭に浮かんだ時、キオは目を見開かせる。
「ウオオオオオオオオアアァッ!」
気合いで身体の炎を吹っ飛ばし、立ち上がるキオ。
「こんなところで、倒れるわけにはいかねぇ。オレの帰りを待ってくれる奴らがいるんだよ!」
オルガ、コニオ、族長といった数少ない同族の生き残りの事を思いつつ、キオはブレイズヘッドに挑んだ。




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