Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな

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神界に眠るもの

女神の子

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それは遥か遠く遡る古の時代――光の聖都と呼ばれしレディアル王国の前身となる都。地上世界レディアダントに住む種族の祖先によって作られた世界最古の都市であり、様々な古代文明が栄えていた。祖先の誰もが神を崇め、地上に君臨した女神の子達は、地上に降り立った邪悪な意思を持つ闇の女神を討ち滅ぼすという役割を終え、二人の子供を都に残して神界へ去って行った。二人の子はティマーラ、ティロスと名付けられ、神の血を持つ不老長寿の人間として地上の光を護るという使命を与えられていた。だがある日、都に住む予言者はある未来を予知していた。


――闇に魅入られし者、大いなる暗黒の力を手にし、世界の均衡を司る力を魔に染め、全てを闇で覆い尽くさん――


――闇に魅入られし者、それは神の子として生まれし者――


予言は都の民の間で伝わり、闇に魅入られし者はティロスとされ、ティロスは民から迫害を受けるようになる。やがてティロスは追放され、消息を絶った。予言者曰く、ティロスには闇の力が宿っていた。女神の子が残した二人の子供は、光の子と闇の子だったのだ。光と闇は表裏一体であるが、遠い未来には闇の力が新たなる災いの根源を生む。地上の全てを破壊し尽くした闇の女神による惨劇を繰り返させない為にも、闇の力が宿る存在を根絶するという考えに至ったのだ。

ティマーラは闇を司る邪悪な存在による惨劇を繰り返してはならないという光の護り人としての使命を重んじる余り、兄弟であるティロスを救う事が出来なかった。与えられた使命は、創造の女神の意思によるものだった。


それから都は闇が存在しない光の聖都となり、世界の繁栄と共に王制が始まり、レディアル王国が誕生した。王となる者は、ティマーラと深い関係を結んでいた都の聖剣士パジヴァルであった。ティマーラとパジヴァルの間に一人の娘が生まれ、娘はティリアムと名付けられた。光の子と聖剣士の血筋を持つティリアムは魔を浄化する聖光の力を持つ者とされ、聖光の勇者と呼ばれる存在になる。同時に、魔導帝国が世界に猛威を振るうようになり、ティリアムは聖光の勇者として地上を守る使命を受け、女神の子孫であり、地上の光を守る使命を受けた勇者として選ばれし者、勇者と共に戦う事を選んだ心強い仲間を連れて魔導帝国との戦いに挑むようになる。戦う力を持たないティマーラは、娘の無事を祈りながらも聖都である王国を守る事しか出来なかった。

勇者一行と魔導帝国の戦いは熾烈を極め、皇帝ゼファルドが魔界から得た力を解放した事によって、やがて世界全体が徹底して破壊されていく事態へと発展した。壮絶なる死闘の末、勇者達は魔導帝国との戦いに勝利した。だが、戦いが生んだ犠牲は余りにも大きく、崩壊した世界は闇の力が生みし毒で覆い尽くされていた。その時女神は告げる。崩壊した世界を取り戻す為には世界の均衡を保つそれぞれのエレメントが必要であると。そしてエレメントの源は、勇者達の魂の力そのものであると。炎、水、地、風、氷、木のエレメントを司る勇者達は、勇者としての宿命に従うがままに自身の魂をオーブに変え、エレメントオーブとして世界を守る道を選ぶ。光のエレメントを司る勇者であるティリアムは神界に赴き、創造の女神に自身そのものの肉体と魂の封印を願う。ティリアムはゼファルドから不吉な話を聞かされていた。たとえ自身が滅びても、自身に力を与えた魔界の覇者がいずれ地上に赴く時が来るかもしれないと。それは近い未来なのか、それとも遠い未来なのか。ティリアムは来たるべき未来の災いに備えて、自身が再び勇者として世界を守る時が来るまでは封印という形で眠りに就く事を選んだ。創造の女神はティリアムの意思に応え、ティリアムの封印を試みる。各エレメントを司る地上の勇者達も、未来の為に子供を残していた。勇者の子供達は、それぞれの仲間に引き取られて育てられた。


ティリアム……未来の為に自分を封印するなんて……


ティマーラは勇者の宿命を重んじる娘の決意に涙を流す。勇者達が自身と共に力を封印してからは世界が復興していき、かつての繁栄を取り戻すようになった。だが、ティマーラには一つ気掛かりな事があった。勇者と呼ばれし者は九人いる。ティリアムを含む七人は自身の封印を選び、残りの二人は姿を消しているのだ。一人は四元素の魔力を司る存在として生まれ、天性の才能から全ての魔法を極めた事で天極の勇者と呼ばれるようになり、レイニーラを建国するという偉業を果たした大魔導師レニヴェンド。もう一人は闇のエレメントを司る陰影の勇者イスキル。一体この二人はどうなってしまったのか? 消息不明となった二人の行方は誰も知らないままだった。


時は流れ――レディアル王国の聖女レヴェンが勇者の子孫と共に旅に出てから、王国に暗雲が垂れ込めるようになる。それは巨大な闇の脅威が訪れるという予言が示すかのような、邪悪なる暗雲だった。
「こ、これは……!」
暗雲はやがて巨大な闇の渦に変化していき、聖都内が闇に包まれ始める。そして次々と聖都内に降り立つ魔物の群れ。王国の聖者達が光の魔法で立ち向かおうとするものの、魔物の軍勢には全く歯が立たず、餌食となってしまう。次々と破壊されていく聖都。魔物を従えているのは、禍々しいオーラを身に包んだ男。そう、ティロスだった者だ。現状に居たたまれなくなったティマーラが駆け付けた時、ティロスを前に立ち尽くしてしまう。
「ティロス……? あなた、ティロスなの?」
ティロスから漂う邪気と威圧感にたじろぎ、冷や汗を流すティマーラ。
「これはこれは。久しいな、兄弟。生憎だがその名はもう捨てた。タロス・ティルシェイドという名を持つ常闇の魔術師として生まれ変わったのだ」
「……タロス・ティルシェイド……」
タロスと名を改めたティロスの言葉にティマーラは愕然とするばかり。そして過去の出来事が頭を過る。
「まさか……復讐する目的で魔物を従えてまで……?」
闇の力が宿っているといった理由でティロスが民から迫害を受け、聖都から追放されてしまう事はティマーラにとって望んでいない事だった。同時に使命を重んじるばかりにティロスを救えなかった事を悔やみ続けていたのだ。
「勘違いしないで頂きたい。私は復讐といった理由で聖都を攻撃したわけではない。聖都には、私にとって必要なものがあるのだ」
次の瞬間、ティマーラの両手と両足が黒いリングで拘束される。
「うっ……これは?」
「ティマーラよ。君の血筋から聖光の勇者たる者が生まれたと聞いた。私とは相容れぬ大いなる光の力を秘めた君は害虫でしかない。我が計画の妨げとなる害虫を生まぬ為にも、今此処で消えて貰う」
ティマーラの両手と両足を拘束するリングから黒い炎が発生する。
「うっ……あああぁぁぁぁあああっ! ああああああああああああぁぁぁぁぁああっ……」
両手と両足を黒い炎に焼かれ、そして全身を焼かれていき、絶叫するティマーラ。更にタロスが手を翳すと、闇の閃光が放たれる。
「がはっ……! ごっ……」
閃光に貫かれたティマーラは血を吐いて膝を折り、倒れてしまう。傷穴から広がる鮮血。タロスが放った闇の閃光は、ティマーラの心臓を貫いていた。
「無力だな、兄弟よ。実に無力だ」
倒れたティマーラを見下ろしながらも呟くタロス。命の灯火が消える寸前のティマーラには動く事は疎か、声を発する事も、何かを見る事も出来なくなっていた。そして意識が暗闇に吸い込まれていく――。



――ティマーラ。

――まだ死ぬ時ではありません、ティマーラ。



暗闇の中、ティマーラは声を聞く。創造の女神の声だった。




ティマーラよ。貴女には果たすべき使命があります。これから生まれようとしている、災いに立ち向かう者を導く使命が。

そう、貴女はまだ消える時ではありません。今こそ新たな器となる肉体を授けましょう。


そして行くのです。世界の全てを知り、災いに立ち向かう者……新たなる勇者を探すのです――。



崩壊した聖都の中でティマーラが目を覚ました時、身体の違和感に気付く。それは白い体毛で覆われた自分の姿。破壊された鏡の破片から見えたものは、人間ではない自分の顔。白い獣の肉体を与えられたティマーラは、女神にこう告げられる。タロスによってティマーラの肉体は失われたが故に、ティムという名の神に仕えし聖獣の肉体を与えたと。使命を果たすまではティマーラとしてではなく、ティムという名の使者として生きる事を。


ティマーラはこれまでの自分を封印し、白い聖獣ティムとして生きる事を選んだ。自分の正体が神格と深い関わりのある特殊な存在である事を他人に知られないよう、片言口調で話す旅の獣人として振る舞い、災いに立ち向かう新たな勇者と出会う時が来るまでは世界の全てを探求した。十数年掛けての旅の末、レイニーラを建国してから姿を消した大魔導師と陰影の勇者の行方は解らないままだったものの、新たな勇者となる者――グラインと心強い仲間達に出会う事が出来た。光の力は健在で、他者の記憶を読む能力メモリードもティマーラだった頃から備わっていた能力。自身に備わる数々の光の力でグライン達を助けていき、歴戦の勇者達の力を呼び寄せて邪悪な力に覆われ始めた世界に光の祝福を与えた。


だが……タロスが手中に収めた禁断の古代魔法による破壊の流星が、ティムとしての自分を消し去った。流星が降り注いだ時、ティムは全ての光の力を放出し、グライン達を守る衣に変えた。その魔法は古くから聖都に伝わる禁断の秘術と呼ばれし魔法『レディアント・クロージン』。あらゆる攻撃から完全に身を守る光の衣を作り出す光魔法であり、光の衣の材料となるものは魔法力だけでなく、自らの肉体も等価交換として必要となっていた。グライン達を守る為に、ティム――ティマーラは自身の肉体を犠牲にする事を選び、魂だけの存在となってしまったのだ。



ティムの過去と正体を全て知ったグライン達は大きな衝撃を受け、共に聞いていた一同は静まり返っていた。
「僕達は疎か、父さんと母さん……過去の勇者達が生まれる以前からずっと生きていたというのか? それに、タロスから兄弟って言われていたのも……」
グラインはティムに関する全ての話とタロスとの因果関係について考えが整理出来ず、信じられないと言わんばかりの表情だ。
「……あの毛むくじゃらがそこまで偉い奴だったっていうのかよ」
キオはティムの魂を不思議そうに見つめている。
「ティマーラ様……古の時代からずっと聖都を支えていたのですね」
レヴェンは自身が生まれる以前に起きていた知られざる出来事にただ驚くばかりだった。
「私はティムとしてあなた達を此処まで導く事が出来た。勇者の極光を呼び出したのもヘルメノンを浄化するだけじゃなく、世界の全てをあらゆる邪悪な力から守る為……」
勇者の極光にはヘルメノンといった邪悪な力を浄化させるだけではなく、邪悪な力の影響から守る加護も生み出すという。即ち、極光の加護によって今後再びヘルメノンが覆われようとそれに影響される事はなくなるとティムは語る。
「ティマーラって言ったわね。あのタロスという男がのさばるようになったのは、聖都の連中が悪いと思っていいのかしら?」
ガザニアの一言にキオが確かにそうだよなと同意する。グラインもタロスが闇の力を宿していた事で聖都から追放されたという話で、思わずダリムの悲劇が頭に過っていた。
「……ごめんなさい。確かに……彼があのようになってしまったのは、私にも責任がある。地上の光を護る使命を重んじる余り、止められなかった事を深く……後悔してるわ……」
言葉を続けるティムの声は悔恨と悲しみに満ちていた。
「使命を重んじるから止められなかっただと? ふざけんじゃねえ! あいつらのせいでオレの故郷が……多くの仲間が犠牲になっちまったんだ! テメェがしっかりしなかったからあんな野郎が生まれたんじゃねえのか!」
キオが怒りのままにティムを責める。
「やめて! ティマーラ様を責めないで!」
レヴェンが感情的に叫ぶ。
「……いいの、レヴェン。責められても仕方ないわ。だからこそ……責任を果たしたいの」
ティムがそう言った直後、一人の兵士が慌てた様子で駆け付ける。
「大変だ! 城の者よ、今すぐ王室へ! 国王陛下が……!」
王が大変な状態に陥っていると聞かされたグライン達は、兵士と共に王室へ向かう。レヴェン曰く、ヘルメノンが完全に浄化されても具合を悪くしていた王の容態は回復しないどころか、悪化している状況だった。王室に入ると、バキラの傀儡の呪術から解放されていたニールと数人の護衛兵士が看護していた。
「父上! 父上!」
「……う……もう私はこれまでの……よう……だ……」
弱々しい声を出す王。最早危篤状態であった。王の症状はヘルメノンの影響ではなく、何らかの持病によるものなのかとティムは考える。
「……ニールよ……どうか……レイニーラ……を……」
「父上っ……!」
ニールの呼び掛けも虚しく、レイニーラ王は息を引き取った。
「父上えええええええええっ!」
慟哭の叫び声が響き渡る。突然の王の死は、レイニーラの国民に衝撃を与えた。


夜――王の遺体は棺に納められ、棺の蓋が閉ざされる。王の棺は城の中庭にて埋葬された。城の人々と共に黙祷を捧げるグライン達。
「父上……どうしてこんな事に……」
悲しみに暮れるニールの想いに応えるかのように、雨が降り始めた。ガザニアは王の棺が埋葬された場所の周囲にそっと種を撒く。すると、幾つもの花が咲き始めた。
「これは?」
「わたくしなりの追悼の意よ」
自然魔法で弔いの花を咲かせたガザニアの心遣いに思わず胸を打たれるニール。
「誰にとっても、大切な人の犠牲は悲しいものよ。わたくしだって同じだから」
背中を向けつつも呟くように言うガザニア。
「彼女も……君の仲間なのか?」
ニールがグラインに問う。
「はい。近寄り難そうですが、根はいい人なんです」
グラインが説明すると、ニールはガザニアに感謝の意を表す。
「まさか……王様が本当にお亡くなりになられたなんて」
声と共に現れたのは、クレバルの両親クラークとセメンである。
「身体が戻ったと思えば、こんな辛い話を聞く事になるとは……クレバルも何処にいるのか……」
ヘルメノンが浄化されてから無事で元の身体に戻ったクラークとセメンは王の訃報を知らされたと同時に、クレバルの事が心配になっていた。二人は大量の花に囲まれた王の棺の前に立ち、黙祷を捧げる。
「オレはこういう湿っぽいのは苦手だから外で運動してくるぜ。落ち着いたら声掛けてくれや」
重苦しい雰囲気に我慢出来なくなったキオはさっさとその場から去ってしまう。
「あなた。クレバルはきっと無事ですよ。あの子だって立派な魔法戦士ですから」
「だといいんだが……さっきから胸騒ぎが収まらないんだ」
王の棺の前にいるクラークとセメンの会話をこっそりと聞いていたグラインは、この人達がクレバルの両親だと悟ったと同時に、思い切って事情を伝えるべきか悩んでしまう。
「まさかと思うけど、黙っておくつもり?」
そう言ったのはガザニアだ。グラインの心情を察しての一言である。
「な、何を?」
「とぼけるんじゃないわよ。黙っていても、いずれ知る事になるわよ。さっさと用事を済ませなさい」
クレバルの事についてやはり言うしかないのかとグライン。
「私が言える事じゃないけど……決してあなたが悪いわけじゃないわ」
ティムがグラインに語り掛ける。クレバルの無残な姿が頭に過るものの、グラインは忌まわしい記憶を振り払いながらもクラークとセメンの元に近付く。
「うん? 君はどなたですかな?」
「えっと、僕は……」
グラインは自己紹介を兼ねて、クレバルの友人である事をクラークとセメンに話す。
「成る程、息子の友達だったのか。色々迷惑な奴だが、仲良くしていると幸いだよ」
「そ、そうですね……」
ますます言い難い状況に立たされるグライン。
「グライン! お前いつの間に帰って来たんだ?」
突如、二人の男がやって来る。王の訃報を知らされてやって来たクレバルの後輩の下級兵だった。
「元の姿に戻れたと思ったら王様がお亡くなりになったって聞いたから来たんだが……クレバルさんは? リルモさんは?」
下級兵二人もヘルメノンによって魔物化していたところを勇者の極光によって元の姿を取り戻し、王の訃報を聞かされたばかりであった。クレバルとリルモの姿が見えない事に疑問を抱いた二人は、グラインに何があったのか問う。グラインはもうここまで来たら隠すわけにはいかないと思い、意を決してクレバルの死とリルモの失踪について打ち明ける。
「な、何だって……クレバルさんが……死んだだと……?」
下級兵二人が愕然とする。
「何だと……クレバルが……」
「そ、そんな……クレバル……」
クラークとセメンはクレバルの死に大きなショックを受け、その場に立ち尽くす。全てを話したグラインは俯いたまま黙り込んでしまい、拳を震わせてしまう。
「……あの馬鹿者が……何故早く死ななければならなかったんだ……!」
頽れるクラーク。セメンはひたすら涙を流すばかりだった。
「……僕が付いていながら、クレバルを……息子さんを救う事が出来なくて……本当に……申し訳ありませんでした……」
沈痛な面持ちでクラークとセメンに詫びるグライン。新たな勇者として目覚めたばかりでありながらもタロスの圧倒的な力に打ちのめされ、クレバルを失った上、リルモが行方不明になってしまった事実に自分の至らなさを痛感していた。
「君が謝る事ではない。息子の命を奪ったのは、君達を打ちのめした悪魔だ。悪魔によって息子は殺されたんだ」
クラークはグラインを責める事はせず、息子の命を奪った存在に怒りを露にし、同時に悲しみの感情を顔に出していた。
「……クレバルの仇は必ず取ります。クレバルの分まで、僕は戦います」
グラインはクレバルの仇討ちをする為にもタロス率いるジョーカーズと戦う決意を固める。そんなグラインの姿を近くで見守るレヴェン。多くの人々が悲しみに暮れる中、グラインとガザニアは一先ず城の外で運動をしているキオの元へ向かう。夜は更け、空は無数の星々が鏤められていた。
「お前らか。王様の弔いは終わったのか?」
グラインとガザニアに気付いたキオの一言。
「ふん、呑気なものね。この子なんてクレバルのご両親に辛い気持ちで事情を話してたのよ」
「あぁ? まあ、黙ってるわけにはいかねぇしな」
ガザニアとキオのやり取りに、グラインは俯きながらも心の中で戦わなきゃ、と呟く。
「クレバルの為にも、必ずジョーカーズを倒さなきゃならないわ。私にも責任があるから……」
グラインの中にいたティムの魂が飛び出す。
「ティム……えっと、ティマーラ様って呼ぶべき?」
「ああ、ティムでいいわよ。接し方とか気を遣わなくていいわ。色々ややこしいから」
「あ、うん。解ったよ」
ティムへの接し方について気になっていたグラインだったが、今まで通りの接し方で良いとの回答に少し安心する。
「リルモは……どうなったのか、ティムにも解らないの?」
ティムもリルモの安否は解らない様子で、可能性としてはジョーカーズに連れ去られたのではとの事だ。レヴェンにもリルモについて問うものの、グライン達を助ける際にはリルモの姿は既になかったと。
「ジョーカーズ……絶対に許さない。これ以上犠牲を生むわけにはいかない。リルモは必ず助けてみせる」
リルモの無事を願いつつも、グラインは怒りを込めてヘパイストロッドを握り締める。その怒りに応えるかのように、ヘパイストロッドの先端部分から眩く燃える炎の刃が現れる。
「グライン、落ち着きなさい」
レヴェンの一言で怒りを抑え、心を静めるグライン。炎の刃は萎むように消えていく。
「で、これからどうすんだよ? あのタロスって野郎はとんでもねぇ魔法を使いやがるし、下手すりゃ世界そのものを軽くぶっ壊しそうだぜ。何とかなんねぇのかよ」
キオが空を見上げながら言う。
「……聖光の勇者よ。ティリアムを蘇らせる為に、神界へ向かうのよ」
ティムの言葉に驚くグラインとレヴェン。ジョーカーズの親玉であるタロスは禁断の古代魔法を手中に収めているが故、グライン達だけでは到底太刀打ち出来る存在ではない。ジョーカーズを倒す為に、神界にて自身を封印した聖光の勇者ティリアムの力に賭けてみるという提案であった。
「私の娘……ティリアムは今も神界で眠っている。かつて魔導帝国を滅ぼした勇者と新たなる勇者が共にすれば、きっとジョーカーズに立ち向かえる程の大きな力になるはずよ」
神界――つまり神格の世界へ向かう事となったグラインは改めて自分に与えられた使命の重さを感じ取っていた。



その頃――暗黒魔城の常闇の空間では魔法陣が設けられ、タロスが魔法陣の中心部に立っていた。古代魔法の使用によって消費した魔法力を回復しているのだ。
「フム……やはりあの力は無暗に使うものではないな。我が理想郷となる新たな世界を破壊しかねぬ」
タロスの傍らにはネヴィア、バキラ、クロトが立っていた。
「只今、戻りました」
現れたのは、任務を終えて帰還したソフィアであった。
「ご苦労。暫し休むがいい、ミラーシェよ」
タロスがソフィアに労いの言葉を掛ける。ミラーシェという名は、ソフィアの真名であった。タロスの元に、ゾルアとイーヴァの偵察に向かった一匹のファントムアイが飛んで来る。
「たった今、ゾルアとイーヴァが交戦したとされる魔導帝国領全域を調査した結果、両者の姿は発見出来ませんでした」
ファントムアイの目玉部分に映し出されたのは、帝国城跡の前に残されたイーヴァの黒い血だった。
「……手駒を作っておくのは最善な判断かもしれぬな」
タロスは、イーヴァが自分に牙を剥けてくる可能性を考えていた。自分以上の強者の存在を決して許さず、常に己が最強である事を求めているイーヴァの性格上、禁断の古代魔法と闇に染まりし勇者の力を手にしたタロス自身も潰すべき強者とみなされてもおかしくない。その事を想定して、新たな手駒となる者を生み出そうとしていた。



地下の研究所にいるダルゴラの元に、ダグが訪れる。
「お、お前さんか。何の用じゃ」
ダグはイーヴァによって破壊された研究所内の設備を眺めている。
「……手駒を造れ。素材ならたった今、確保した」
「手駒……今回はどのような?」
「外見は変えるな。魔の力を注入すればいい」
無機質ながらも威圧感を放つダグ。ダルゴラはたじろぎながらもダグの命令を引き受ける。ダグは素材となる人物を連れて来ようと、無言で研究所から出た。





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