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目覚めし七の光
動き始めた闇
しおりを挟むグライン達が天の祭壇に向かった後、敵の襲撃を受けて傷付いた鳥人族の騎士は風王と看護師のハーピィの手当てを受け、辛うじて一命を取り留めた。戦線離脱という事で残されたクレバルは食べかけのリンゴを口にする。
「また新しい敵が来るなんて、ちっとも気分が休まらねぇな。かといって……こんな状態だったら話にならねぇや」
グライン達が無事に戻るのを願う事しか出来ないクレバル。同時にリルモが自分の為にリンゴを食べさせようとしてくれた事を思い出し、リルモの事が頭から離れようとしない。
「……リルモは俺よりもずっと強いし、きっと大丈夫だと思うけど……パワーアップしたグラインもいるからな」
何故か嫌な予感が収まらないクレバルは何とも言えない不安な気持ちになり、窓の外を眺める。日が沈む頃だけあって、外は夕焼けの真っ只中だった。
「でも……あいつら、本当に大丈夫なのか?」
不安感からそわそわしつつも、クレバルは立ち上がる。
「どうかしたのか?」
風王が声を掛けると、クレバルは振り返らずに「ちと外の空気を吸ってくる」と返答して家から出た。
俺が行ったところで何の役にも立てやしねぇのは十分に解ってる。解ってるんだけど……何で不安な気持ちが収まらねぇんだ?
グラインだってあの試練のおかげで物凄い強くなったし、無事で帰って来る事を祈るしかねぇと思ってても……どうしても落ち着かねぇんだ。
大体怪我して戦えなくなった俺に何が出来るっていうんだ? この不安な気持ちは何なんだ……?
不安感から解放されないクレバルは思わずグライン達の後を追おうとするものの、すぐに足を止めてしまい、一先ず落ち着こうと深呼吸する。そして風王の家に引き返そうとすると、不意に寒気を感じて立ち止まってしまう。辺りを見回すクレバルだが、怪しい人物はいない。だが、寒気は収まらない。突然の寒気は、邪気から来るものであった。
天の祭壇前にて繰り広げられるウィンダルとクロトの戦い。高速移動を活かした空中からの攻撃に対し、クロトは手元に邪剣ネクロデストを出しては剣から闇のオーラによる激しい衝撃波を繰り出す。
「ぐうっ……!」
衝撃波によってバランスを崩したウィンダル。その隙にクロトが斬りかかる。直撃は免れたものの、左肩に深い傷を刻まれていた。
「ま、負けられぬ……! 負けるわけには!」
傷付いても勝負を捨てないウィンダルは反撃を試みる。だが傷の痛みで動きが鈍くなり、戦局は劣勢であった。
「ハハハ、よく頑張るね。言っておくけど、お前の敵はボク達二人だけじゃないよ」
バキラが宝玉を取り出すと、玉から二つの黒い瘴気が発生する。
「グルルルル……」
瘴気から現れたのは、黒ずんだ肌に醜悪な顔をした頑強な肉体を持つ二人の悪鬼――邪悪に染まった鬼人族だった。更なる敵の出現に驚くウィンダル。
「お前達の餌が決まったよ。あの鳥だったらいい御馳走になるんじゃない?」
二人の鬼人族は行方不明になっていた兄弟、ドグルとマグルである。かつて魔導帝国の兵力を生み出したように、魔改造によるジョーカーズの兵を造る素材を求めていたダルゴラの依頼を受けたバキラとクロトが二人を浚い、ダルゴラの実験体として魔改造を施されていたのだ。
「クッ……おのれ!」
一気に形勢不利となったウィンダルだが、それでも諦めずに応戦する。だがドグルの火炎ブレス、マグルの冷気ブレスが襲い掛かり、クロトの鋭い一撃がウィンダルの右翼を斬り飛ばした。
「ぐああ!」
倒れるウィンダルに、とどめを刺そうとするクロト。その時、突風による風圧がクロトに直撃する。グライン一行がやって来たのだ。
「お前達は……!」
バキラとクロトの姿を見たグラインはレイニーラでの出来事が頭を過り、自分達を救ったフィドールの姿が浮かび上がる。
「お、お前ら……まさか、ドグルとマグルか?」
キオはドグルとマグルの姿を見て愕然とする。
「あの二人は?」
誰なんだとグラインが聞くと、行方不明になっていた同族だとキオが話す。
「よく来たね、いつかの害虫ども。必ず来ると思ってたよ」
バキラが冷血な笑みを浮かべる。
「お前達……何が目的で此処に来た?」
グラインは勇者の力を解放し、ヘパイストロッドを構える。
「ボク達がこの場所に来てる時点でさ、聞かずとも大体見当付くんじゃないかなぁ? ご苦労な事だよ」
バキラの返答にやはりエレメントオーブが目当てか、と確信するグライン。
「ドグル! マグル! オレだ! オレが解んねぇのか? ずっとお前らを探してたんだよ!」
キオが呼び掛けるものの、ドグルとマグルは獣のような唸り声を上げながらも鋭い目を向けるばかりだ。
「無駄だよ。こいつらはもうボクの人形。ダルゴラに魔改造してもらった兵力なんだよ」
ドグルとマグルは既にバキラの傀儡と化していたという事実に、グライン達は激しい怒りを覚える。
「てめぇ……よくもオレの仲間を!」
怒りが抑えられず、バキラに飛び掛かるキオだが、瞬時にクロトが立ちはだかり、邪剣を振り下ろす。
「ごああ!」
邪剣で切り裂かれたキオの身体に大きな傷が刻まれる。
「ハハハハ、少しは考えてから動きなよ。単細胞だから考える事も出来ないのかなぁ?」
傷付いたキオを見て嘲笑うバキラ。
「許さないわ。お前達がフィドール兵団長を!」
バキラの冷血さにリルモは怒りを覚え、クロトによって倒されたフィドールの事を思いつつも槍を構える。
「フィドール? ああ、あの臭くて礼儀のないオバサンの事か。クックックッ、いずれ仇を取ろうと思ってたのかな?」
侮辱的な物言いをするバキラ。
「黙れ! フィドール様は命を捨てる覚悟で僕達を救ったんだ。もうお前達の思い通りにはさせない。僕達と戦え!」
輝く炎の刃が宿るヘパイストロッドを振りかざすグラインに、クロトが険しい表情を浮かべる。
「……こいつは俺が消す。最も不愉快な存在だ」
邪剣を手にしたクロトがグラインにターゲットを移す。
「ハハ、じゃあ残りの奴らは鬼どもにやってもらおうか」
バキラは楽しげに笑いながらも、ドグルとマグルに指示するかのように指を鳴らす。ドグルとマグルは凶悪な顔を浮かべながらも、リルモ達に対して敵意を露にする。
「消えろ、ニンゲン」
クロトがグラインに攻撃を仕掛ける。次々と繰り出す邪剣による斬撃を炎の刃で受け止めるグライン。クロトの剣の腕は剣豪レベルの実力だが、勇者の力を覚醒させたグラインは恐れずに攻撃を食い止めていく。だがクロトの攻撃はまるで隙が無く、留まる事を知らない程だ。このまま剣による攻撃が続くようならば次第に劣勢になるのは明白だった。
「くっ……負けられない!」
グラインは仲間達が巻き添えを食らわないように遠く離れる形で距離を取り、クロトの攻撃を受け止めつつも反撃のチャンスを伺っていた。
「ちっ……くしょお!」
負傷したキオが立ち上がった瞬間、ドグルとマグルが雄叫びを上げながらも襲い掛かる。ガザニアが飛び上がり、マッドローパーの種を撒く。マッドローパーの蔦がドグルとマグルを捉えると、リルモが魔力を放出する。
「アクエリアボルト!」
電撃を帯びた水の塊がドグルとマグルを襲う。だがドグルは火炎ブレスで蔦を燃やし、マグルが冷気ブレスを吐き出す。
「うくっ……!」
マグルの冷気ブレスがリルモ達の体温を奪っていく。
「くそ、やめろお前ら! 本当に奴らの言いなりになっちまったのかよ……!」
キオが必死で呼び掛けるものの、ドグルとマグルは応えようとしない。
「無駄な事はやめなさい」
ガザニアが冷静な声で言う。
「何だと!」
「敵とならば無駄な情けは捨てる事よ」
真剣な表情でガザニアが言うものの、キオはまだ納得がいかない様子。
「ガザニアの言う通り、やるシかないわヨ」
ティムが言った瞬間、マグルが口から冷気と共に、無数の雹を弾丸のように放つ。
「ぐああああ!」
凄まじい速度で飛んでくる雹は、軽々と岩をも砕く程の威力だった。容赦なく雹の弾丸に痛め付けられていくリルモ達。更にドグルが雄叫びを上げながらもリルモに殴り掛かる。だがドグルの拳はリルモの前に立ちはだかったキオの鳩尾に直撃する。
「かっ……うぐあぁっ!」
傷口から響き渡る激痛と共に唾液を吐き散らしながらも、キオはドグルの拳を掴み、回し蹴りを叩き込む。
「キオ、そこから離れて!」
リルモがスパイラルサンダーを放つ。螺旋の雷がドグルを襲うと、リルモは高く飛び上がる。
「天翔雷鳴閃!」
空中からの雷の衝撃波はドグルに大きなダメージを与え、辺りに稲妻が走る。即座に回避したキオはリルモの実力に驚くと同時に、ドグルの事が気になってしまう。リルモが着地すると、マグルが咆哮を轟かせ、ゴリラの如く拳で胸を叩き始める。
「クソッタレが!」
キオはマグルに戦いを挑もうとする。マグルはキオに矛先を向け、凶悪な顔付きで殴り掛かる。リルモは口内の血をペッと吐き捨て、血が流れている口元を拳で拭いつつも倒れたドグルにとどめを刺そうとするが、キオの仲間だという事を考えると思わず躊躇してしまう。
「お前ら……本当にオレの事が解んねえのかよォッ!」
マグルの拳を受け止めたキオは牙を剥け、反撃の拳を振るわせる。攻撃を受けてよろめいたマグルの懐に飛び込んだキオは拳に炎の魔力を一点集中させる。
「おおおおおおおおおおおおおッ!」
マグルに打ち込まれる拳の乱打。火炎爆裂拳と名付けられた乱打はマグルに大ダメージを与えると同時に、炎に包まれる。
「グギャオアアアアアアアァァァッ!」
苦痛の咆哮を上げながらもバタリと倒れるマグル。キオは傷の痛みを堪え、息を切らせながらもドグルマグル兄弟との思い出を振り返る。
ドグルとマグルは双子の兄弟であり、キオとオルガにとっては友人だった。狩りに出掛ける時にはよく一緒に行動したり、時には腕試しとして拳を交えたり、他愛のない話で盛り上がったりと気の知れた関係であった。
「今回の獲物はなかなか骨があったな」
「あぁ。まさかあんなデカブツが出るとは思わなかったぜ」
「へへ、おかげでいい肉が手に入ったな」
ドグルマグル兄弟、キオとオルガの四人によって倒された巨体の魔物。獲物となった魔物は肉となり、鍛錬を兼ねて食糧を確保する為に魔物と戦う日々を送っていた。
ある日の事――。
「ダメだぁ。オレすっごく口下手だし、うまく気持ちを言い表せないや」
マグルは赤面している。ふとした事で知り合い、密かに惚れてしまった鬼人族の女に告白しようとしているのだ。女は里にあるよろず屋の娘であり、彼女に会う目的で積極的に買い出しに行ってる程だ。
「バッカ野郎、チャンスを逃したら遠ざかっていくばかりだぜ」
ドグルがマグルの背中を思いっきり叩く。
「そ、そりゃ解ってるけど……いざ本番とならば緊張するもんだぜ兄貴」
「誰だってそうだろ。けどよ、堂々と行かねえと何にもなんねぇぞ」
そんな兄弟の会話の中、キオがやって来る。
「よぉドグマグ。何話してんだよ?」
ドグルはニヤニヤしながらもキオにマグルの事情を話す。
「ほほう、お前にもそんな時が来たってわけか?」
「うぐぐ……そ、そんなところだ」
マグルはかなり恥ずかしそうな様子。
「コクるつもりだったらよ。結果を恐れず思い切って気持ちをストレートに伝えな。こういう時こそオトコを見せるもんだぜ」
キオもニヤニヤしている。
「キオ、お前最近オルガといい感じだよなぁ? お前も……コクったりしたのか?」
マグルの一言にキオが思わず顔を赤らめる。
「バッカ、あいつはあくまで相方だよ! そういう関係ってわけじゃあ……」
誤魔化すように返答するキオ。
「お、おい! あの子が来たぞ! コクるなら今だぞ」
ドグルの言う通り、マグルが惚れているよろず屋の娘が現れる。娘の名はデンモ。赤肌の長い銀髪を靡かせた少女だった。
「う……え、ええいままよ!」
マグルがデンモに突撃する。
「あ、あなたは常連さんの?」
デンモの一声に硬直するマグル。
「は、はい! えっと……オレはあの時、あなたと出会ってからずっとあなたの事が気になっていました……」
たどたどしい口調で想いを告げるマグルに、デンモは戸惑いの表情を浮かべる。
「そ、それで……あなた様の店によく買い物に行くようになったというか……その……あなたに! 惚れてしまったんです……!」
「えぇ?」
デンモは驚きを隠せない。
「そこで……どうか! オレと付き合って下さいい!」
全力で頭を下げつつも告白するマグル。デンモはそっとマグルに近付き、顔を寄せる。
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「なんてこったい……」
ドグルはどう声掛けていいか解らず、マグルの元へやって来る。
「あ、あんまりなフラれ方しちまったなオイ……元気出せよ?」
キオはそっとマグルの肩に手を置く。
「……は……はは……オレに恋愛はまだまだ早いって事か……ははははは」
マグルは失恋のショックで涙が止まらない。
「……ま、生きろよ。人生色んな事があってなんぼだからな」
ドグルは弟の為に一生懸命励まそうとしていた。
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「ハハハハハ、仲間と戦わされた気分はどう?」
バキラの声が聞こえる。嘲笑が込められたその声にキオは再び怒りを震わせる。
「お前はそいつらを何とか元に戻してやろうと思ってたんだろうけど、何をしようともう叶わない話だよ。今やボクの命令に従う言いなりの玩具だからねぇ」
不敵な笑みを浮かべながらも、バキラが両手を広げる。目が赤く光ると、倒れていたドグルとマグルが起き上がる。
「……てめぇらのせいで……てめぇらのせいで……!」
キオは凄まじい形相でバキラに矛先を向ける。
「何その顔。ボクを倒したいわけぇ? 無駄な事はやめた方がいいと思うけどなぁ?」
「うるせぇ! てめぇらだけは絶対に許さねえからなぁ!」
怒り任せに殴り掛かるキオだが、ドグルとマグルが立ちはだかる。
「クッ、お前ら……どきやがれ!」
応戦するキオに、ドグルとマグルが同時に攻める。不意に傷の痛みが襲い掛かり、バランスを崩したキオに容赦なく叩き付けられるドグルとマグルの攻撃。
「待ちなさい!」
リルモが加勢に来るものの、槍の一撃はマグルに受け止められ、ドグルが拳を振るう。
「がふっ」
ドグルに殴り飛ばされたリルモは大きく吹っ飛ばされ、岩に叩き付けられてしまう。
「ベノムニードル!」
ガザニアの自然魔法。数千本の猛毒の棘がドグルとマグルに刺さっていく。
「ウ……グオオオオオオ!」
雄叫びを上げるドグルとマグルだが、猛毒の効果は現れていないどころか更に暴走するばかりだった。
「クッ、毒が効かないっていうの……」
忌々しげに舌打ちしつつも鞭を振り回すガザニア。キオは傷口を抑えながらも、全力でドグルとマグルを止めようとする。ドグルの拳の一撃を受けたリルモは頬を抑えながらも何とか立ち上がろうとしていた。
一方、グラインはクロトの止まらない猛攻を前に反撃のチャンスが思うように掴めず、防戦一方となっていた。クロトは剣に闇の力を集中させ、地面に振り下ろす。闇の力による衝撃波が波のように襲い掛かる。
「うわああ!」
グラインは咄嗟にガードするものの、衝撃波によって数メートル程地面を引きずる形で吹き飛ばされてしまう。
「うくっ……」
砂埃が舞う中、身体を起こそうとするグラインに向かって斬りかかるクロト。剣が振り下ろされると、グラインは辛うじて回避し、軽い身のこなしで立ち上がっては態勢を整える。
「このままではまずい。一気に決めないと……!」
グラインは風の魔力を放出し、両手に集中させる。クロトはそれに対抗するかのように、邪剣が黒い炎に包まれる。
「うっ……黒い炎?」
戦慄を覚えるグライン。黒い炎を纏った邪剣を手にクロトが突撃する。
「デルタネファリウス」
グラインを囲む形で三角形を描くように剣を振るうと、黒い炎が三角形状となって激しく燃え上がる。
「ぐあああああ!」
三角形状の黒い炎はグラインの身体を燃やしていく。黒い炎は並みの炎の比ではない温度で、鋼鉄をも軽々と溶かす程の威力であった。全魔力を集中していたグラインは風魔法を発動させて空中に浮かび、黒い炎から逃れる事に成功したものの、かなりのダメージを負っていた。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
服はボロボロになり、息を切らすグライン。こいつは本当に強い。まさか、勇者の力を以てしても敵わないというのか。そんな考えが過ぎる。
「闇の炎を受けてもその程度で済むとはな……だが、二度目はない」
クロトが再び邪剣に黒い炎を纏わせる。またあれを食らったらオシマイだ。けど、恐れてはいけない。諦めてはいけない。勇者の力があれば、きっと糸口は掴めるはずだ。そう自分に言い聞かせながらも、グラインは全魔力を最大限に高めつつも魔法を放つ態勢を取る。
「消えろ……」
再び突撃するクロト。
「アゲインスブラスト!」
巻き起こる風圧の衝撃波がクロトを襲う。
「ぬうっ……!」
瞬時に防御態勢に切り替えたクロトは邪剣で衝撃波を抑え始める。
「うおおおおおおおお!」
グラインは更に魔力を集中させ、衝撃波の力を高めていく。
「ガアアアアアアッ!」
クロトは剣に力を込め、風圧の衝撃波を切り裂く形で吹き飛ばした。
「ぐっ……!」
アゲインスブラストが通じなかった事に再び戦慄を覚えるグライン。
「悪足掻きとは実にくだらん。今度こそ跡形もなく消し去ってくれる」
クロトがグラインに攻撃を仕掛けようとすると、グラインは不意に何かの気配を感じ取り、横に飛び退く。次の瞬間、光線がグラインの右肩を貫いた。
「ぐ……あっ……」
右肩に風穴を開けたグラインはその場に倒れてしまう。何事だとクロトが辺りを見回すと、次元の穴が出現する。
「グライン! グライン!」
グラインが倒された事に気付いたティムが駆け寄ると、次元の穴からはダグが現れる。
「茶番はここまでだ」
ダグの出現を機にバキラが指を鳴らすと、リルモ達と戦っていたドグルとマグルの動きが止まる。リルモ達もグラインの状況とダグの存在に気付くと同時に、驚愕の表情を浮かべる。ダグは、血塗れになっているクレバルの身体を抱えていた。
「……クレ……バ……ル……?」
リルモの顔が青ざめる。ダグは抱えていたクレバルの身体を放り投げる。クレバルの身体には風穴が空けられており、肌の血色は失せていた。更に空中からまたも次元の穴が現れ、凄まじい邪気が風となって吹き荒れる。穴から現れたのは、周囲に暗黒の雷が迸る闇のオーラを身に纏った男――タロスであった。
「フム……あれが勇者の力か」
タロスの出現と共に、辺りが巨大な邪気に包まれていく。
「……タロス……!」
ティムは冷や汗を浮かべながらも、引き攣った表情でタロスを見据えていた。
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