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目覚めし七の光
風の番人
しおりを挟む翌日――グライン一行は改めて烈風の谷へ向かう準備を始める。風の扉を開く為、キングムィミィの家に訪れると、そこにはキオとオルガがいた。
「よぉ、目を覚ましたか。キングから話は聞いたぜ」
キオ達はキングムィミィから前以てグライン達の事情を聞かされていたのだ。
「約束通り風の扉を開けてやるけど、もう一つ頼みを聞いて欲しいム」
キングムィミィのもう一つの頼みは、ヘルメノンに覆われた鬼人族の里を救う為にキオ達と同行して欲しいとの事だった。三種の草からは浄毒の聖水のみならず、村一つ分の邪悪な力を浄化させる粉も作る事が可能であり、徹夜で完成させた粉で鬼人族の里のヘルメノンを浄化するという考えであった。
「そ、それならレイニーラのヘルメノンも……」
思わずヘルメノンで支配されたレイニーラの事を考えてしまうティムだが、採取した分の草は全て使い切っており、しかも洞窟内にはもう残っていない。手元にある浄化の粉は一回分の量である。
「マ、どの道エレメントオーブが集まれバ……」
今は鬼人族の里を救う事を優先するティム。一行はキオ達と共に鬼人族の里へ向かう事にした。
「へっ、余所者に頼るなんざ気が進まねぇけど、オルガがうるさくてな」
余所者に心を許さないキオは、オルガの説得を受けて渋々グライン一行との同行を了承していた。
「私達だけでは手に負えない事もあるかもしれないから、つまらない意地張らないで協力してもらいなさい」
冷静な態度でオルガがキオに言う。
「ふーん、粗暴なバカ鬼と違ってまともなのね」
ガザニアが毒づきながらも率直に評する。
「うるせぇぞてめぇ!」
頭に血を登らせるキオだが、オルガに羽交い絞めで制される。
「ごめんなさいね。確かに彼は粗暴だけど、決して悪い奴じゃないわ」
オルガの一言にガザニアはフッと軽く微笑む。
「オルガさん、美人だけど鬼だしなぁ……怒らせるとマジでやべぇんだろうなぁ……」
クレバルはグラインに耳打ちする形でオルガの印象について話すと、グラインはアハハと軽く笑う。
「何コソコソと話してるのよ」
リルモが横から顔を寄せると、何でもないと慌てた様子で誤魔化すクレバル。
「鬼人族の里……そこにもヘルメノンが……」
グラインはヘルメノンの事で思わずある人物を思い浮かべてしまう。かつてレイニーラを襲撃したバキラとクロトの存在だ。あの二人は今どこで何をしているのだろうか。あの二人ともいずれ戦う事になる。もしかするとその時も近付いているのだろうか。
「改めてよろしく。キオさん、オルガさん」
「さん付けしなくてもいいぜ。見るからに気の小さそうなガキだな」
キオの一言にグラインは苦笑いするしかなかった。
「ところデ……キングも付いて来るのネ? アナタが風の扉を開けるのよネ?」
ティムがキングムィミィに問う。
「と、当然だム! ワシがいないと話にならないム!」
半ば嫌そうな様子のキングムィミィを見て少々不安になるティム。鬼人族の里へ行く事を承諾したグライン一行は多くのムィミィ達に見送られながらもキオ、オルガ、キングムィミィとの同行で里へ向かって行く。ソルド大地を抜けてオガラ丘陵に辿り着くと、一行の前に巨体の魔物が立ち塞がる。キオとオルガのコンビと一戦交えた事のあるグーロンであった。
「チッ、この野郎まだ生きてやがったのか」
以前戦った事がある魔物なだけに、キオは今度こそ息の根を止めてやるぜと意気込む。だがその横でグライン達が魔力を放出し、次々と魔法を叩き込んでいく。
「サンドストーム!」
クレバルの地魔法による砂嵐がグーロンの視界を奪う中、ガザニアが無数の針を放つ。猛毒性植物の棘を数千本放つ自然魔法『ベノムニードル』だった。次々と棘に刺されたグーロンは全身が猛毒に冒され、動けなくなる。
「プラズマスティング!」
リルモが放った電撃の光線がグーロンの巨体に風穴を開け、グラインのエクスプロードが炸裂する。キオとオルガがとどめの攻撃を繰り出すと、グーロンは完全に息絶えた。
「ドウ? これガ余所者の実力ヨ」
ティムがキオに向かって誇らしげな態度で言う。
「……へっ、本来ならお前らの出る幕なんかねぇんだがな」
キオはまだ素直になれない様子だ。
「わたくし達を敵に回さない方がいいわよバカ鬼」
「何だとォ! 威張ってんじゃねえぞコラ!」
「威張ってるのはそっちの方じゃなくて? 今度はあんたを猛毒で苦しめてやろうかしら」
ガザニアとキオがいがみ合う中、オルガは溜息を付きながらもキオを取り押さえる。
「あの二人、仲が悪いム?」
キングムィミィがグラインに問うものの、グラインはどうだろうねとしか答える事しか出来なかった。
「ガザニアさん。今は喧嘩してる場合じゃないでしょ」
リルモが宥めると、辛うじて修羅場が収まった。
「何で俺達の同行者はクセが強い奴らばっかりなんだろうな」
クレバルが耳元でグラインに言うものの、アハハと軽く笑って流されるだけだった。
「ア、ちょト待って。大事なコトを忘れるトコだったワ」
ヘルメノン対策にティムがレイフィルムのバリアを張る。
「あぁ? 何だこりゃ?」
キオは全身を覆う光の膜を不思議そうに見る。
「邪悪な力を防ぐバリアヨ。これデまたオルガちゃんが狂暴化するコトはなくなるハズ」
「ホントかよ? 信じられねぇな」
「信じるも信じないモ勝手だけド、ワタシを甘く見ないでチョウダイ」
迫るようにティムが言うと、キオは半信半疑な様子。
「あなたは一体何者なの? ただの獣人じゃなさそうね」
オルガがティムに問うものの、ティムは企業秘密と返す。
「この毛むくじゃら野郎、どうにも胡散臭ぇな。まず企業秘密ってどういう事だ?」
「毛むくじゃらじゃなくテ、ティムって言ってるでショオ! そのうち解る時が来るわヨ!」
頑なに身元を明かそうとしないティムに、キオはますます訝しむばかりだ。丘陵を進んでいく中、鬼人族の里に辿り着く一行。里はヘルメノンで覆い尽くされ、凄まじい邪気が漂っている。
「な、何という邪気だム……でも平気のようだム」
ティムのレイフィルムの効果で、一行にはヘルメノンの影響は表れていない。キングムィミィは浄化の粉を取り出し、辺りに振りまき始める。すると、粉は風に吹かれて煌めくように飛んでいく。全ての粉が空中に舞うと、周囲のヘルメノンがどんどん浄化されていった。
「す、凄いや……ヘルメノンが一気に……」
里を覆うヘルメノンが完全に浄化された事に驚くグライン達。
「おいおい、こんなものがあるんだったらレイニーラに持っていきたかったぜ」
少し前にティムが考えていた事をクレバルが言う。
「霧が晴れたのはいいが、誰もいねえのか……?」
キオとオルガは辺りを見回すものの、里には誰もいない。建物の殆どが破壊され、激しく殴り合った同族達の血の臭いがする程の殺伐とした有様である。グライン達は族長の家に来てみるものの、やはり中には誰もいなかった。
「族長もいねぇのかよ……クソッ!」
キオが悔しさのあまり壁に拳を叩き付けると、不意にグラインは人の気配を感じ取る。同時に、下から僅かに物音が聞こえ始めた。
「この家……誰かいるよ。多分、地下の方だ」
「何だと?」
キオとオルガは家中を調べ回ると、タンスの裏に隠し階段を発見した。地下へと続く階段を降りると、洞窟に辿り着く。
「族長のオッサン、まさかこんなところに避難してたってのか?」
一行は洞窟を進むと、奥には鬼人族の子供がいた。
「オ、オルガ姉ちゃん! キオの兄ちゃん!」
「コニオ!」
コニオと呼ばれた鬼人族の子供は、オルガの弟であった。
「無事だったのね、コニオ……よかった」
オルガはそっとコニオを抱きしめる。
「お前が無事でよかったぜ、コニオ。族長はいるのか?」
「うん……族長さまなら今ここにいる。でも……」
里で起きた出来事の全てを知っているのか、悲しげな顔を浮かべるコニオ。グライン達はコニオに族長の元へ案内される。奥の部屋には、族長がベッドの中で苦しそうにしていた。
「族長! しっかりしろ!」
族長もヘルメノンに蝕まれた事によって苦しんでいるのだ。
「安心しろム。まだ聖水が残っているム」
キングムィミィが浄毒の聖水を振りかけると、黒ずんでいた族長の肌が元の色に戻っていく。
「……ううっ……」
聖水によって族長の中に潜む邪悪な力は完全に浄化された。
「族長! 大丈夫か?」
「お、おお……キオにオルガ。無事だったのか」
「ああ、何とかな。余所者どもに助けられちまったが」
族長が無事で元に戻れて安心するキオを横に、ティムが全ての事情を話す。
「……なるほど、全てはお前達のおかげだったという事だな」
「エエ。この鬼人族の里をヘルメノンで覆い尽くしタ輩のコトだけド……知ってル限りの事を話しテ貰えル?」
ティムの一言で、族長は里を襲った人物について打ち明ける。その人物は、ソフィアであった。
道に迷った旅人として里に流れ着いたソフィアを招き入れる族長。何故旅をしているのかと族長が問うと、鳥人族の友人に会いに行くところとソフィアが答える。
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突然、手品師である事を打ち明けては手品の話を持ち掛けるソフィア。
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手品に興味を持った族長はソフィアを里の真ん中に連れて行く。何だ何だと里の鬼人族が集まり始める。
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族長がソフィアについて紹介すると、集まった鬼人族達は半信半疑の様子だ。
「さあ皆さん、ソフィア・メオリーラのマジックショーの始まりですよぉ!」
ソフィアがシルクハットを外し、ステッキを振りかざす。すると、シルクハットから鳩が飛び、魔物の手のようなものが現れる。
「な、何だありゃあ?」
「どういう仕掛けになってるんだ?」
鬼人族達がざわざわと騒ぐと、ソフィアはニヤリと笑いながらも更にステッキを振る。今度は影のようなものがシルクハットから現れる。影は、ヘルメノンを放つ魔物・ナイトメアだった。
「やれ、ナイトメア!」
ソフィアの指示で、口から黒い瘴気――ヘルメノンを吐き出すナイトメア。
「な、何だこれ……ゲホゲホッ」
「ゴホゲホッ……か、身体が……熱い……」
ヘルメノンはたちまち里に広がっていき、霧のように周囲を覆い尽くしていく。次の瞬間、鬼人族達が苦しみ出し、発狂したかのように暴走し、見境なく殴り合いを始めた。
「どうしたお前達! やめろ!」
突然の出来事に愕然とする族長。
「クククク……アハハハハハ! バカな事。まんまと乗せられるなんて、脳ミソも筋肉で出来てるのかしらねぇ」
表情を歪めたソフィアが高々に笑う。
「おのれ、貴様の仕業だったのか! 何故こんな真似を!」
「クククク、呑気に人の話を聞いてていいのかしら?」
族長の問いに答えようとせず、ソフィアがその場から去ろうとする。暴走した鬼人族の一人が族長の姿を発見すると、口から涎を垂れ流しながらも凶悪な顔付きで唸り声を上げる。
「うわあああああ!」
暴れる鬼人族達から逃げ回っていたコニオが族長の元へ駆け付ける。
「コニオ! くそ、ここは安全な場所へ避難しなくては!」
族長はコニオを連れて家に逃げ込む。タンスの裏にある秘密の階段を降り、地下洞窟の奥で身を隠すものの、族長もヘルメノンの影響で身体に異常をきたしてしまう。
「族長さま! 族長さまあ!」
「ウグ……か、身体が焼けるようだ……」
高熱に苦しみ始めた族長はベッドに横たわる。里で暴れ回る鬼人族達と、苦しむ族長の姿。逃げ場がなくどうしていいか解らないコニオは、ただその場に立ち尽くす事しか出来なかった。
族長の話を一通り聞き終えた時、キオは激しい怒りを滾らせる。
「やっぱりあの女が原因って事じゃねえか! ふざけやがって!」
ものの見事に騙されてしまい、里が滅びる事態へと繋がったという現実を痛感した族長は面目ないと頭を下げるばかりだった。
「ところで……コニオ。あなたは何ともないの?」
オルガはコニオがヘルメノンの影響を受けている気配がない事に疑問を感じる。
「うん……ぼくは平気。もしかして、お守りのおかげかな?」
コニオの右指には、黄色い宝玉がある指輪が嵌められていた。
「これは破邪の石ム! 間違いなく破邪の石だム!」
キングムィミィによるとコニオの指輪の宝玉は破邪の石と呼ばれ、あらゆる邪悪な力を遮断する効果がある。つまり破邪の石の指輪のおかげでヘルメノンの影響を受けずに済んだという事であった。指輪は、病で帰らぬ人となったオルガの母親が遺したお守りだという。
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「族長。このまま里にいるのはやべぇかもしれねえ」
ヘルメノンは浄化されたものの、近いうちに何らかの脅威が襲い掛かる事を危惧したキオは族長とコニオにムィミィの村で匿ってもらう事を提案する。無残な状態となった里から離れる事に躊躇しつつも、提案に承諾する。
「キオ、それなら私も村に残らせてもらうわ」
コニオと族長が気掛かりなオルガはムィミィの村で二人を守ると告げる。確かにオルガのような強ぇ奴がボディガードになった方がいいだろうなと考えたキオは快く引き受ける。
「あなたの事だから……あの女を捕まえに行くんでしょう?」
キオがこれからやろうとしている事を既に察していたオルガの一言。
「おうよ! あの女のせいで里がムチャクチャになっちまったとならば大人しくしてるわけにはいかねぇ! かと言ってオレ一人じゃあ流石にやべぇかもしれねぇから……この余所者連中と行く事にするぜ」
里が滅びた元凶であるソフィアを追う為にグライン一行との同行を決意するキオ。
「やれやれ。あんたがボディガード役を引き受ければよかったのに」
キオの同行にガザニアは不満そうな様子だ。
「んだとコラァ! やるか?」
「寄るんじゃないわよ、鬱陶しい」
いがみ合うキオとガザニアを見て大丈夫かなぁとグラインがぼやく。
「では、我々はムィミィのところでお世話になるとしよう。キオよ、どうか気を付けてな」
「がんばってね、キオ兄ちゃん! ぼくたちにはオルガ姉ちゃんがついてるから心配いらないよ!」
「族長とコニオは私が守ってみせるわ。安心して行ってちょうだい」
族長はオルガ、コニオと共にムィミィの村へ向かおうとする。
「オルガ!」
背後から呼び掛けるキオ。
「……すぐには帰って来れねえかもしれねえが、お前の為にも……いや、何でもねえ。族長とコニオを頼んだぜ!」
何かしら抱えている想いを仄めかすキオに立ち止まったオルガは僅かに顔を赤らめつつも、再び足を動かした。キオを新たな仲間として迎えたグライン一行は里を後にし、オガラ丘陵を抜けて烈風の谷への入り口となるウィドル渓谷に辿り着く。渓谷を進んでいくと、巨大な竜巻が行く手を阻む。風の扉であった。
「ワシに任せるム」
キングムィミィは風の扉の前でヘンテコなダンスを踊り始める。
「こ、こんなんで進めるようになるのか……?」
疑わしい様子のクレバルだが、竜巻はどんどん萎んでいき、消えていく。キングムィミィによって風の扉が開かれたのだ。
「ヤッタ! 大成功だム! それじゃ、用が済んだところでワシは帰らせてもらうム」
用件を終わらせたキングムィミィは耳を羽のように羽ばたかせながらも飛んで行く。渓谷は吹き付ける風と相まって険しい道のりとなっており、風の音が響き渡っていた。
「おいお前ら、あのソフィアとかいう女を追う事も手伝ってくれよな」
キオの一言。
「ソフィアは僕達の敵だと解ったからそのうち戦う事になると思うよ」
グラインが素っ気なく返答する。ソフィアもジョーカーズの一人だという事が判明した故、確実に戦う事になるだろう。いずれにせよ、ジョーカーズの者達と戦うのは間違いない。そう思っていた。
「しかしよぉ、里の奴らはどうなっちまったんだ? あの女の仕業なのは間違いねえが」
里でヘルメノンに蝕まれて殴り合いを繰り広げていた同族達の姿が消えている事もソフィアの仕業だとキオは考えていた。その横でティムは渋い表情を浮かべている。魔物をなぎ倒しつつも渓谷を進んでいると、不意にグラインが立ち止まる。
「気を付けて。誰かいる」
何者かの気配を感じ取ったグラインが身構えると、瞬時に何かが襲い掛かる。咄嗟に回避するグラインだが、頬に切り傷が刻まれていた。現れたのは、レイピアを持つ鳥人間の男である。
「誰だ!」
敵かと思いつつ構えを取る一行。
「私はウィンダル。風王様に仕えし者」
風王とは風のエレメントオーブを守る使命を受けた鳥人族の王であり、ウィンダルは鳥人族の騎士団を統率する騎士であった。とりあえず敵ではないと認識したグラインとティムが事情を説明する。
「風王様はお前達の事を既に存じていた。だが、ここから先は通すわけにはいかぬ」
ウィンダルがレイピアを突き付けながら言う。
「風王はワタシ達の事を知っていルんでショウ? それで何故アナタが通せんぼするワケ?」
「お前達にはこの地を訪れる資格がないからだ」
「ハァ? 資格って何ヨ」
ウィンダル曰く、鳥人族の神聖なる地に弱者が軽々しく立ち入る事は許されないとの事だ。
「弱者だと? てめぇ、そういう事はやり合ってから言えよな」
キオが掴み掛ろうとするが、ウィンダルは鼻で笑う。
「フン、やり合わずとも気配で解る。お前達はまだこの地に立ち入る事が許されぬ弱者であると」
「な、何だとぉ!」
頭に血を登らせ、殴り掛かるキオだがウィンダルは瞬時に回避し、背後に降り立つ。
「この野郎、いつの間に!」
キオが振り返ると、ウィンダルは一瞬で高い岩の上に降り立つ。
「は、速い……」
グラインは肉眼では捉え切れない程のウィンダルの動きに驚きを隠せなかった。
「所詮は力しか能のない鬼人族如きに私を捉える事など出来ぬ。無駄な事はやめておけ」
「て、てめぇぇぇ!」
激昂するキオは感情任せで岩山を殴り付ける。岩山が砕けると、キオの背後に鋭い一撃が加えられる。ウィンダルによる峰打ちだった。
「うぐっ……な、なめんじゃねえぞ!」
峰打ちを受けたキオは負けじと反撃しようとするが、グラインが止めに入る。
「待つんだキオ。ここからは僕がやる」
「あぁ?」
「今解った。こいつは……僕が戦うべき相手なんだ」
グラインは真剣な表情でキオを見つめる。この鳥人族の男は自分が試練を受ける資格があるか試しているのかもしれない。いや、彼と戦う事は試練への第一歩と考えるべきなのだろう。そして、この男に勝たなくてはきっと嵐の試練を乗り越える事は出来ない。そう感じていた。
「……ケッ、仕方ねえな。どうもワケアリみてぇだし、こいつは特別に譲ってやるぜ」
グラインの意思を読み取ったキオは一先ず引き下がる。
「おいグライン、だったら俺達も……」
「クレバル。みんなも手を出さないでくれ」
どういう事だよと問おうとするクレバルを、リルモとティムが制する。ガザニアは腕を組んだまま早く用件を済ませて頂戴と言わんばかりの顔をしていた。
「貴様か。風王様が仰られていた選ばれし者は」
ウィンダルが正面に降り立つ。
「僕はグライン・エアフレイド。嵐の試練を受ける為に此処まで来たんだ」
グラインが魔力を放出し、ヘパイストロッドを構える。炎の刃が出現すると同時に、ウィンダルが翼を大きく広げる。
「未熟なままの実力では私に勝てぬ。異を示したくば、証明してみるがいい」
ウィンダルの周囲からは凄まじい風が巻き起こる。風の魔力を放出した事で発生する風圧であった。
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