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美しき女剣士と呪われし運命の男 壱
迫り来る魔の使者
しおりを挟む何処とも知れぬ闇の空間に建てられた城――魔の宮殿といった印象を受ける暗黒の城は、闇の組織ジョーカーズの拠点となる場所であった。
城の最奥に設けられた常闇の空間には無数の黒き闇の炎が灯され、玉座に佇むのはジョーカーズの首領となる魔術師タロス・ティルシェイド。傍らに立つのは頑強な甲冑に身を包んだ騎士――奈落の魔闘将ダグ。タロスの前に深々と頭を下げる魔族の吸血鬼らしき執事の男――冥府の屍術師ネヴィア。
「タロス様。たった今、バキラからレイニーラの王女を手中に収めたという一報が入りました」
ネヴィアがバキラの任務の成果を知らせると、タロスはほう、と軽く相槌を打ってグラスに注がれた深紅の飲み物を口にする。
「どうやら順調のようだな。実に良い事だ」
上機嫌で笑うタロス。バキラがレイニーラの王女であるイニアを攫ったのは、タロスへの生贄として捧げるのが目的であった。
「ククク……予想以上に滾る。美しき乙女の生き血がこれ程の御馳走になるとは。我が計画の実行もそう遠くはなかろう」
タロスが飲み干していたのは、過去にバキラが攫った生贄の女の血である。タロスの計画――それは自身が新たな世界の創造主となり、レディアダントを完全なる闇が支配する暗黒の楽園へと変える事。そしてタロス自身は古の時代の魔術師であり、光ある者との戦いの末に死したが、闇の女神の腹心となる死天使ジョーカーとの契約によって魂の器となる魔の肉体を与えられて蘇った存在であった。肉体はまだ不完全なものであり、完全な肉体へと目覚めさせる為には生贄に選ばれた清らかな乙女の生き血を多く必要としているのだ。
「バキラとクロトは次なる生贄を求めてアズウェル王国へ向かったようです」
更なるネヴィアの報告。
「……順調が過ぎると退屈だ。ネヴィアよ、少しばかりお遊びに付き合って欲しい」
「ハッ」
ネヴィアが台座を出現させる。台座にはチェスの盤が置かれていた。
「加減は必要ないぞ。所詮はお遊びなのだからな」
タロスは盤上の駒を設置していく。轟く雷鳴の中、駒を動かしていくタロスとネヴィア。それを動じずに無言で見守るダグ。黒き炎が揺らめく闇の中、二人はチェスを楽しんでいた。
「タロス様。ご報告でございます」
チェスの駒を動かしている中、呼び声が聞こえる。偵察や監視用として飛び回る蝙蝠の羽を持つ目玉の魔物『ファントムアイ』の声であった。
「何事だ」
「先程、バグワム鉱山にて妖蟲研究者イゼクが倒された模様です」
「ぬう?」
ファントムアイの報告に眉を顰めるタロス。グラインによって倒されたイゼクの様子を密かに監視しての報告であった。
「イゼク如きが倒される事などさして問題のない話だが……相手は何者だ」
「この者のようです」
ファントムアイの目玉部分にグラインの姿が映し出される。タロスはグラインの姿を凝視すると鼻で笑う。
「……くだらぬ。所詮は捨て駒でしかないと思っていたが、こんな小僧に倒されるとは情けない事よ」
タロスはグラスの鮮血の残りを全て飲み干す。
「だが、我々に抗う害虫の類は何がいるか解らぬ。引き続き各地の偵察をしておけ」
指示に従い、去っていくファントムアイ。
「……もう少し、血が必要だ。新たなる創造主に相応しい存在となるには……」
タロスは引き続きチェスの駒を動かし始めた。
南東の大陸サウイストルに存在するアズウェル王国――レイニーラとは友好関係を結んでおり、商業文化等の発展がめざましく、多くの戦士部隊によって守られている世界最大級の商業王国である。国民の間では聖光の勇者が伝説の存在となっており、魔導帝国の脅威が去って以来、勇者を英雄として称えるようになっていた。
「おお、精鋭戦士部隊だ!」
「なんと凛々しいお姿……!」
人々が注目しているのは、隊長となる女剣士を先頭に城へ向かって行く戦士部隊。女剣士の名はリフィカルト・ババロディア。通称リフで、二十一歳でアズウェル精鋭戦士部隊の隊長に就任したという王国一の実力者だ。
「只今、戻りました」
謁見の間にて玉座に座る王を前にリフは兜を外し、部下達と共に跪く。アズウェル王は、銀色の長髪を靡かせた美形の若き国王であった。
「リフよ、如何であったか?」
「……やはり魔物が日に日に凶暴化している模様です。つい先程もグラシス平野にて本来現れるはずのない魔物の姿を確認致しました」
「そうか。やはりあれは災いの予兆だというのか……」
王は過去に遠い場所で闇を象徴させる暗黒の雲が浮かび上がっているのを目撃した事で、只ならぬ不吉な予感を抱いていた。暗黒の雲が現れてからアズウェル地方のサウスト平原に生息している魔物が凶暴化するようになり、更にサウスト平原を抜けた先にあるグラシス平野には本来生息していないはずの未知の強力な魔物の存在も確認されており、リフ率いる精鋭戦士部隊に調査を兼ねた魔物討伐の任務を与えているのだ。リフも暗黒の雲を見た事があり、王と同様に悪い予感が抑えられずにいた。任務報告を終えた戦士部隊はそれぞれの休息を取り、リフはある場所へ向かう。行き先は城内に設けられた教会で、そこにはリフの妹のサラエルノ――通称サラがいる。サラは神の加護による力と呼ばれる光の魔力を持ち、光の聖女として何らかの願い事や悩みを抱える者、傷付いた者、病を抱える者に聖なる祝福を与えているのだ。教会には、数人のシスターと共に祈りを捧げているサラがいた。
「姉様?」
リフの来訪に気付いたサラが声を上げる。
「サラ。あなたに言っておきたい事があるの」
リフがサラの元を訪れたのは、悪い予感のあまり近い将来王国に何かが起きるかもしれないという考えに至り、万一の事を考えて一言注意しておくという目的であった。魔物の凶暴化、未知なる魔物の存在、そして不吉な予感を抱くきっかけとなった謎の暗黒の雲の存在等について話すリフ。
「まあ、そんな事が起きているというのですか?」
一日の大半は教会で過ごしているが故、外での出来事に疎いサラは信じられないと言わんばかりの表情になる。
「念の為に護衛を付けておいたけど……事態が落ち着くまでの間、いい子にしているのよ。間違っても王国から外に出てはダメよ。いいわね?」
教会の前には、精鋭戦士部隊のメンバーとなる戦士三人がリフの命令を受けて護衛として立っていた。用件を済ませたリフが教会から出ると、護衛の戦士はリフに敬礼をする。
「姉様も心配性ですね。元々私は一日中教会で過ごしているのに」
サラは半ばうんざりした様子で呟く。リフとサラの姉妹はアズウェル王国より南西に位置するロレイ村の修道院に引き取られた身であった。姉であるリフは唯一の肉親であり、生まれつき光の魔力が備わっていた妹のサラとは仲が良く、ある日サラが突然村に現れた魔物に襲われて大怪我をした事がきっかけでサラを守りたいという意思が強くなり、元々の正義感の強さもあってリフは王国の剣士を志すようになった。アズウェル王国へと移住し、剣の腕を鍛え続けた末に精鋭戦士部隊に選ばれたリフ。そんなリフを追って周囲の反対を押し切り、光の魔力を利用した回復の力を扱えるところを見込まれてアズウェル城の教会に聖女として住む事となったサラ。成長してそれぞれの道を歩んだ姉妹は、アズウェルの民として過ごしていた。
「それにしてもあの雲は……」
リフは城のバルコニーで遠方に見える暗黒の雲を眺めていた。
翌日――不吉な予感が収まらないリフは王国の守護を徹底しようと、精鋭戦士部隊に集合をかけていた。
「グラシス平野に現れた見知らぬ魔物の件に加え、このアズウェル王国にも未知の脅威が迫る可能性がある。気を引き締めて行け。怪しい輩を見つけたら濫りに近付かず、私に報告せよ」
「ハッ!」
兜で頭部を覆い、武装したリフの統率を受け、散らばっていく戦士部隊の面々。それぞれが王国の守護に回り、リフは城門の前で見張る事となっていた。
「姉様!」
サラが城から飛び出して来る。
「サラ! お城から出るなって言ったでしょ」
「ごめんなさい……どうしても伝えたい事があって」
サラが伝えたい事――それは、サラが見た夢の内容であった。禍々しい邪気の塊で支配された空間に佇む中、山のような大きさの人影が現れ、巨大な手が自分の身を捕える。次の瞬間、邪気の塊が自分の口の中に侵入していき、全身に襲い掛かる激しい痛みと湧き上がるドス黒い感情。夢の中の自分は何かに侵食され、そして壊れていく自分自身。闇の中で何者かに支配されていく自分自身の姿という悪夢であった。悪夢は時が経つにつれて忘れられるものではなく、いつまでも記憶に焼き付いていた。
「……サラ。悪い夢でも、所詮は夢だから。あなたは私が守る。落ち着くまで大人しくしていなさい」
夢の出来事を聞かされたリフはそっとサラを抱きしめると、サラは少し安心した気分になる。何かあれば頼りになる姉がここにいる。だからこそ姉を信じる。サラはリフの言葉に従い、城の教会へ戻っていく。
「国王陛下の言う災いの予兆が本当だとしたら……」
王が口にしていた災いの予兆という言葉が頭に浮かんだ瞬間、リフは数人の旅人らしき人物を目撃する。だが旅人の様子が明らかにおかしい。表情に生気がないのだ。旅人は城に向かっていき、リフの前に立ちはだかる。旅人は、バキラに操られたレイニーラ王国の魔法戦士兵団である。
「あなた達は?」
不審に思いつつもリフが問う。
「……我々ハ……レイニーラノ魔法戦士兵団……」
棒読みで返答する戦士兵団の面々が一斉に魔法を発動させようとする。敵意を感じ取ったリフは即座に剣を構え、戦闘態勢に入る。炎の玉、氷の塊、無数の岩石といった攻撃が襲い掛かる中、リフは相手を傷付けまいと峰内で戦士兵団を倒していく。
「何故レイニーラの者が……」
何者かに意識を操られていると察したリフは元凶となる人物を探そうとすると、戦士部隊の一人が駆け付ける。
「隊長! 王国にレイニーラの魔導師達が!」
「何!」
なんと、レイニーラの魔導師達が数々の魔法で王国の人々を襲っているのだ。皆が生気を失っており、まるで機械のように攻撃を繰り出していた。
「クッ……一体どういう事なの」
リフは隙を付いて魔導師の一人を峰内で倒す。
「彼らは何者かに操られている。傷付けないで応戦せよ」
魔導師達と応戦している戦士部隊に命令しては事件の元凶を探すリフ。
「アッハッハッ、お前が戦士どものリーダーかな?」
声と共に現れたのはバキラだった。傍らにはクロトもいる。
「お前達が元凶か!」
リフは剣を手に身構える。
「フフフ……この国は剣で戦う戦士がたくさんいると聞いて、ちょっと剣と魔法の戦いを見てみたくなってね。尤も、捕まえたばかりの魔導師どもがザコだからお前達からしたら大して相手にならないだろうけど」
バキラは冷血な態度でニヤニヤと笑っている。
「貴様、レイニーラの魔導師達を元に戻せ!」
「それはできない話だね。お前が素直にボク達に協力してくれるなら考えてやってもいいけど」
「協力……何が狙いなの?」
リフはバキラの目的を問い質す。バキラの目的は、王国に住む聖女を手にする事であった。ターゲットとなる聖女はサラの事である。
「サラには手出しさせない。私が相手だ」
バキラ達に斬りかかろうとするリフ。
「身の程知らずというのはいいものだね。クロト、痛めつけておきな」
クロトが鉤爪状の手を鳴らし、リフに襲い掛かる。手による攻撃はリフの頬を裂き、次々と繰り出される攻撃を回避しつつもリフは剣で応戦する。
「そこだ! 空覇翔乱舞!」
懐目掛けて斬りかかり、怒涛の斬り付けによる連続攻撃、斬り上げては上から斬り裂くというリフの必殺剣技であった。
「ぬっ……く」
リフの攻撃でダメージを負ったクロトは飛び上がり、間合いを取る。更にリフは凄まじい気迫で突撃する。
閃裂覇斬――
全力が込められた居合斬りを連続で放つリフの剣技がクロトに炸裂する。
「ごはあ!」
脇腹と腕に傷を刻まれたクロトは、黒い血を迸らせながらも膝を付く。顔の汗が滲む中、ハァハァと息を切らすリフ。
「……へえ、思ったよりもやるね」
バキラが拍手を送る。表情にはまだ余裕がある様子だった。
「次は貴様か?」
リフがバキラに向けて剣を突き付ける。
「アッハッハ、これで勝負は付いたと思ってるの? 言っておくけど、まだ序の口だからね」
嘲笑うようにバキラが言うと、クロトが立ち上がる。
「……貴様を侮った。全力で行かせてもらう」
クロトの目が光り、全身から激しく燃えるような紫色のオーラが噴き上がると、手元に禍々しい形状の剣が出現する。クロトの闇の魔力によって造られた邪剣ネクロデストであった。邪気の波を肌で感じたリフは身構えるものの、クロトは一瞬で正面に飛び掛かり、一閃を繰り出す。
「ぐぼはぁっ……」
迸る鮮血。クロトの一閃はリフの身体を甲冑ごと深々と切り裂いていた。目を見開かせ、血反吐を吐くリフ。返り血を浴びたクロトは更に剣を振り下ろす。
「がはあっ! ぐっ……」
袈裟斬りにされたリフが苦悶の叫び声を上げる。血塗れの姿になったリフはその場に倒れ、苦痛に喘ぎながらも血を吐き出す。
「隊長!」
騒ぎを聞きつけた戦士部隊の面々が駆け付けるが、バキラの傀儡の呪術によって苦しみ始める。呪術にかかった戦士部隊は一瞬で無力化してしまった。
「そのザマだともう戦えやしないね。それじゃあ、ボク達は失礼させてもらうよ」
硬直状態の戦士部隊と血の海の中で倒れたリフの姿を見て残忍な笑みを浮かべながらも、バキラはクロトと共にアズウェル城へ向かって行く。城の兵士達や護衛を退けながらも城内を探索する二人はサラがいる教会に辿り着く。教会の護衛を倒し、中にいるサラに近付く二人。
「だ、誰なの?」
思わず後退りするサラ。
「お前がこの国の聖女だね。アズウェル王国には光の加護を受けた聖女がいるって聞いてやって来たけど……お前なら最高級の生贄になりそうだ」
バキラはサラの顔を乱暴に掴み、微笑みかける。口を塞がれて必死でもがくサラだが、バキラの手を剥がす事は出来なかった。
「そう怖がる事はないよ。今楽にしてあげるからさ」
サラの額に指を当て、催眠の呪術をかけ始めるバキラ。だがサラは動きが鈍り出すものの、意識を失う気配がない。効き目が薄い様子であった。
「あれ。ボクの催眠が効かないなんて。そうか、お前はボクの力に抗えるのか」
サラに備わる光の魔力は、バキラの呪術を抑え込む程の強い力を持っていたのだ。バキラは眉間に皺を寄せると、顔を掴んでいる手を放し、サラの腹に蹴りを入れる。
「ごぼっ……」
唾液を吐き散らし、悶絶するサラの延髄に手刀を叩き付ける。気を失ったサラを鋭い目で見つつも、バキラは宝玉でサラの身体を吸い寄せていく。
「……クズ女が」
バキラは吐き捨てるように悪態をつき、クロトと共にその場を去った。
謁見の間では、数人の兵士が王に事態を報告していた。
「レイニーラの魔導師だと? バカな……何故レイニーラの者が」
「精鋭の戦士部隊はまるで魂を抜かれた状態になっています。リフ隊長は敵の手に……」
「ぬうっ……こうしてはおれん!」
王が立ち上がると、謁見の間にバキラとクロトがやって来る。
「貴様ら、何者だ!」
兵士達が一斉に身構えると、バキラが傀儡の呪術を発動させる。あえなく呪術にかかり、苦しみ始める兵士達。
「お前がアズウェル王だね。残念ながら兵は皆、既に無力と化した」
バキラが指を鳴らすと兵士達は生気を失い、棒立ちのまま立ち尽くす。
「おのれ、貴様らが元凶か」
戦慄を覚える王。
「ボク達はジョーカーズに属する者。レイニーラの魔導師どもは今となってはボクの操り人形。その気になれば奴らにお前を潰してもらう事も可能なんだよ」
「何だと? 貴様らは何が目的だ!」
「目的はもう果たしたさ。たった今、この国の聖女を我が物にした。お前の元に来たのは挨拶のつもりというわけ」
不敵な態度のバキラを前に、王は拳を震わせる。
「お前が何をしようとも、ボク達を止める事はできやしない。お前に関する命令は受けていないから、今は見逃してやる。今はね」
そう言い残し、クロトと共に去るバキラ。呪術にかかった兵士達は生気を失ったままであった。
「ジョーカーズ……奴らは一体」
動かない兵士達の姿を見て、王は内心恐怖を感じていた。
サラを我が物にしたバキラは、クロトと共に王国を後にする。
「アレは使わぬのか」
王国から出た直後、クロトがバキラに問う。
「アレねぇ……レイニーラで大量に使っちゃったからエネルギーが足りないんだよね。まあいつでも出来る事だから焦る必要はない」
二人が言うアレとは、王とリフが目撃した暗黒の雲の素となるもの――ヘルメノンと名付けられた黒い瘴気であった。
「クロト、ちょっとアイツのところへ行ってみようよ。もうボク達の事すらも解らない、完全なバケモノになってるかな」
バキラは不気味な笑みを浮かべつつも、クロトと共にサウスト平原を進んで行く。
レイニーラの魔導師を操るバキラとクロトの襲撃により、王国中は騒然となっていた。精鋭戦士部隊は全滅し、王国の兵は全体の三分の二を失うという事態になっていたのだ。瀕死の重傷を負ったリフは教会のシスターの回復魔法によって奇跡的に回復し、サラがバキラ達に攫われたという事を聞かされ、愕然とする。
「なんて事なの……サラ……」
リフは最愛の妹を守る事すら出来なかった自分の無力さに怒りを覚える。痛みが残る身体を引き摺りながら謁見の間に辿り着くと、無事だった護衛の兵士と王がいた。
「リフよ、無事であったか」
王を前に跪くリフ。
「陛下。この度は誠に申し訳御座いません。私の力が足りなかったばかりに……」
「そなたが詫びる事ではない。面を上げよ、リフ」
リフは顔を上げると、王は伝える。多くの兵士は生気を抜かれ、バキラとクロトはジョーカーズと呼ばれる勢力に属する者だという事を。
「未知の魔物といい、暗黒の雲、そしてサラを攫った事……奴らの言うジョーカーズが全ての災いの元凶となるのかもしれぬ。だが、我が国の兵の多くが生気を失い、無力化してしまった。奴らは一体何を……」
王は表情を険しくさせ、どうしたものかと考える。
「……陛下。私はサラを助けに行きます」
リフが立ち上がる。
「待つのだリフ。いかにお前といえど、あれ程の傷を負ったのだぞ。無駄死にするつもりか」
「解っています。けど……部下の殆どが犠牲になり、サラを攫われた今、大人しくしているわけにはいきません。例え刺し違えても、最愛の妹であるサラを救いたいのです」
リフの真剣な眼差しに、王は一瞬何かを感じ取る。
「……リフよ。お前からは強い光の力を感じる。お前にもサラのような光の魔力が備わっていると見た」
「光の魔力……?」
「お前の妹であるサラに光の力があれば、姉であるお前にもその力が備わっていても不思議ではなかろう。もしかするとお前の中に眠る光が、いずれ様々な災いに立ち向かう力として目覚めるかもしれぬ」
リフの目から光のような力強さを感じた王は全てを託す事を決意し、リフの旅立ちを許可した。リフは王に感謝の意と共に深々と頭を下げる。
「リフよ、決して無茶だけはするな。お前はまだ手負いの状態。せめて傷が完全に治ってから行くが良い」
王に見送られながらも、リフは痛む身体を抑えつつも謁見の間を後にした。
教会にてシスターの回復魔法で療養に努める中、リフはサラの事を考える。サラが見たという悪夢の出来事がジョーカーズによるものだとしたら、神の加護がもたらす予知夢という事になるのだろうか。いや、例え何があろうとも、サラをこの手で救いたい。戦うべき敵はあの二人だけではなく、あの二人の背後には全ての災いの元凶となる強大な敵もいるのだろう。
そう。私は今、戦わなければならない。この身を犠牲にしようとも。
数日後――負傷から完全回復したリフはロレイ村へ向かう。ロレイ村には、旅人の行くべき先を占う事が可能だという、導きの占い師が住んでいるのだ。
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