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第四章「渇愛の奇魂」
第52話 得体の知れぬ存在
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結局、この日の学校祭は一般公開が限定的なものとなった。生徒の家族や関係者のみが中へ通され、昨日の校内祭よりも少しばかり人が多くなった程度だ。
これは芦原高校の生徒が事件に巻き込まれたことから、生徒たちへの影響を考えた上で学校祭も継続するための学校側の決断だった。世間の人の噂でどれほどの影響が出ているのかがわからない。事態を把握するまでは学校側も不特定多数の人を校内に入れるわけにはいかなかったのだ。
結果、十分とは言えないまでも、芦達祭は一応の盛り上がりを見せて二日目を終えた。
「カイくん!」
「海斗!」
「準備できたか、美波!」
下校時刻になったと同時に海斗は教室を飛び出す。美波と御琴もカバンを抱えてすぐにクラスから出て来た。
「よし、行こう!」
三人はすぐに階段を走って降りる。まどかのいる園へは学校から走ってもかなりかかる。だがこの日、結局学校を休んだまどかに三人は一刻も早く会いたかったのだ。
「伊薙君!」
一階まで下りてきた海斗らを深雪が待っていた。
「三木さんの所へ行くんでしょ? 車を呼んだから一緒に行きましょう!」
「助かります、先輩!」
「いいの。話したいこともあったから」
靴を履き替え、海斗らは深雪の用意したワゴン車に飛び乗る。まだ学校の外にはマスコミが何人か見えたが、車はその間を通り過ぎて行く。海斗らは頭を下げていたので幸いにも彼らが乗っていることに誰もが気づかなかったようだ。
「しつこいわね……海斗もあたしらも無関係だってのに」
「あっちも確証がないのよ。学校もメディアを入れて話をするにはタイミングも悪いし」
体育館など人を多く入れることのできる場所はいずれも学校祭で何かしらの催しで使用されている。学校からは今回の件について「まったくの事実無根のデマであり、本校の生徒がそれに巻き込まれたことを非常に遺憾に思っている」と発表し、まどかを擁護しているが、今もその発表を信じようとしない人からの抗議の電話やネット上での炎上は続いている。
「それで先輩、話って?」
「この記事はみんな知ってるわよね?」
深雪がカバンから出したのは昨日、海斗らが見た水泳部の特集記事だった。これ自体が悪いわけではないが、今にして思えばこれがもう少し出るタイミングがずれていれば今回のような事態にも発展しなかったのかもしれない。
「これがどうしたんです?」
「先週、八重垣さんたちが取材を受けた人……男の人だったわよね」
「はい。確か佐田って名乗ってたような……」
海斗が記憶しているのは県内の競泳選手を取材すると言って、現れた人物だ。その場には深雪も御琴も、そしてまどかもいた。
「あたしも覚えてるわよ、でも初対面なのになーんかどこかで見たような気がするのよね」
「……実は私もなの。だからずっと引っかかっていたのよ。で、ついさっきそれがわかったの」
深雪はプリントアウトされた別の記事を取り出す。それと共に写真も海斗らに見せた。
「この記事って……」
「記録会でまどかが記録出した時のね」
「こっちはお芝居の時の写真だね」
「病院の人に記録のために撮ってもらっていたの。で、見て欲しいのはここと、ここ」
深雪が二つの写真を指差す。
「ああっ!」
「佐田さんだ!」
そこに写っているのは記者たちの中でカメラを構えている姿と、観客の中で入院着を着て海斗らの芝居を観ている姿の佐田だった。
「彼、記録会のすぐ後に病気で倒れてずっとうちの病院に入院していたのよ。先週のお芝居の時も、私はナレーターとして客席をずっと見ていたから見覚えがあったの」
海斗たちが思わず座席から身を乗り出す。彼らが佐田と会ったのは芝居の翌日。病院での写真の佐田のやつれ様からは考えられないほど健康な姿だった。
「例の県内の競泳選手の特集を新聞社に任された矢先の病気だったみたい。それが先週の日曜日、突然復帰してきて取材を再開したものだから職場も驚いたみたい」
「ちょっと待ってよ……それって佐田さんが二人いるってことになりません?」
御琴が海斗との距離を詰めて手を握る。オカルトがあまり得意ではない彼女は気味の悪さに震え始めていた。
「新聞社には問い合わせたんですか?」
「今日は出社してないみたい。そもそも佐田さんは入院してから一歩も病院から出てないのよ」
「ひいっ……」
いよいよ蒼い顔をして御琴が海斗の腕にすがり始めた。海斗もさすがに気の毒に思えて来て振り払うようなことはしなかった。
「お嬢様、まもなく三木きぼう園です」
「ありがとうございます。帰る時にはまた連絡しますから、一度戻って下さい」
「かしこまりました」
到着するなり海斗は車を飛び出す。続いて御琴、美波、深雪と後を追う。
「……やけに静かだな」
いるかと思われたマスコミの人や炎上騒ぎに便乗した人々も姿が見えない。施設内も明かりがついていないため、園は異様な静けさの中にあった。
「カイくん、あれ!」
美波が窓を指す。施設の中で窓の向こうを何者かが横切ったのが見えた。四人は門をくぐり、中へ入ることにした。
「こんにちはー」
管理棟の玄関から中へ呼びかける。美波が事務室を覗き込むが人の姿は見えない。電話は受話器が外されている。抗議の電話を受けないようにするためだろうか。
「まどかー!」
「すいませーん! どなたかいらっしゃいませんかー!」
御琴と深雪の声も薄暗い施設の中に消えていく。まるで施設内の人間が全員いなくなったかのようだ。だが、一行は窓の向こうに動く影を見ている。海斗らは意を決して中へと足を踏み入れた。
会議室やトイレからも人の気配はしない。四人はどんどん奥へと進んでいく。
「ここから二棟に分かれてるんだな」
目に入った見取り図を見ながら海斗が呟く。施設は大きく分けて三つの建物に分けられていた。
「右が男子棟で左が女子棟か……まどかがいるとしたら女子棟か?」
「でも伊薙君。さっきの人影って男子棟じゃないかしら?」
「うーん……それじゃあ、二手に分かれよっか」
美波の提案に皆もうなずく。男性の海斗は男子棟へ。まどかがいるかもしれない女子棟へは御琴が名乗りを上げた。
「美波んは海斗と一緒の方がいいんじゃない?」
「そうだね」
「どうしてだ?」
「あんた、手をケガしてるでしょ?」
海斗は思わず右手を押さえる。だがそれが御琴の指摘を肯定していた。
「……気が付いてたのか」
「不自然なのよ。左手で何でもやろうとしてるんだもの」
「私も気づいてた。料理部のみんなは気が付いてなかったかもしれないけどね」
「……私は気が付いていなかったわ。隠し通していた伊薙君が凄いのか、それとも見抜いた二人が凄いのか」
「ほら、手を出して。包帯巻いてあげるから」
そう言って美波がカバンから包帯を取り出す。
「ほんとに何でも入ってるな」
そばにあった椅子に海斗は座る。その右手首に美波は包帯を巻いていく。
「んじゃ、お先に女子棟見て来るから」
「じゃあ、私は八重垣さんと一緒に行くわね」
「悪い。包帯巻いたら男子棟に行ってくるから」
「ん、なんかわかったら連絡ちょうだい」
海斗が見守る中、御琴と深雪は女子棟へと入っていった。
女子棟の廊下の電気は完全に消えていた。御琴はスマートフォンのライトを使ってスイッチを見つけるが、スイッチを切り替えても反応がない。
「おかしいな……電気止まってる?」
「ブレーカーがどこかで落ちたのかしら?」
配電室は管理棟の中だ。今から戻るのも面倒だ。二人はそのまま先へ進むことにした。
一階の居室には誰もいなかった。この施設は大きめなものではあるが、以前、まどかが清掃ボランティアに参加した時に一緒に来た子供たちと職員の人数から言って、それほど人は多くないはずだ。
「二階かしら?」
「じゃ、あたしが先頭で行きます」
スマートフォンのライトを頼りに御琴が先へ進んでいく。深雪は人気のない館内に、少し奇妙なものを感じ始めていた。
「先輩、誰かいます!」
そして、二階に上がった御琴が深雪を呼んだ。二階の廊下の突き当り、行き止まりの場所に誰かがいた。
「……まどか?」
それは芦原高校の制服だった。知っている限り、この施設で同じ高校に通う生徒は一人しかいない。
「まどかなの?」
その人物は二人の方へと歩いてくる。窓から夕陽が差し込み、逆光で顔が見えない。
「ねえ、何か言ってよ!」
「……八重垣先輩、静宮先輩、いらっしゃい」
姿を見せたまどかは、満面の笑みだった。不気味な感覚を覚えていた二人はその笑顔に安堵する。
「何か御用ですか?」
「用って……当たり前じゃない。まどか、大丈夫だったの?」
「大丈夫も何も、私はいつも通りですよ?」
「だって、あんなことになったのに連絡も取れないし、何かあったんじゃないかって……」
「ああ、私を心配して来てくれたんですね!」
まどかが納得したとポンと手を打つ。
「心配いりませんよ。だってもう、気にしなくてもいいんですから」
「え……?」
「どういう意味かしら?」
「だって私――」
その時、御琴が気付く。まどかの胸元にある見たことのない装身具に。
「何、それ――」
勾玉が輝く。その途端、得体の知れない不快感が二人にこみあげて来る。
「あ……ぐ」
「私、気が付いたんです。外の事なんてどうでもいいって。だって私にはこの場所があるんですから」
「三木……さん」
突如高熱を発した二人が崩れ落ちる。意識が遠のく中、笑顔のまどかは二人の苦しむ様を前に平然と言葉をかける。
「そうだ、お二人も一緒に暮らしましょうよ。みんなお姉さんが増えて喜んでくれるはずです」
「う……力が…はいらな…」
「助けて……かい……と」
「あ、伊薙先輩も来てるんですね……それじゃあ」
意識を失い、廊下に倒れた二人からまどかは目を離す。そして勾玉がひと際鈍い輝きを放った。
「みんなで、おもてなししなくちゃ」
これは芦原高校の生徒が事件に巻き込まれたことから、生徒たちへの影響を考えた上で学校祭も継続するための学校側の決断だった。世間の人の噂でどれほどの影響が出ているのかがわからない。事態を把握するまでは学校側も不特定多数の人を校内に入れるわけにはいかなかったのだ。
結果、十分とは言えないまでも、芦達祭は一応の盛り上がりを見せて二日目を終えた。
「カイくん!」
「海斗!」
「準備できたか、美波!」
下校時刻になったと同時に海斗は教室を飛び出す。美波と御琴もカバンを抱えてすぐにクラスから出て来た。
「よし、行こう!」
三人はすぐに階段を走って降りる。まどかのいる園へは学校から走ってもかなりかかる。だがこの日、結局学校を休んだまどかに三人は一刻も早く会いたかったのだ。
「伊薙君!」
一階まで下りてきた海斗らを深雪が待っていた。
「三木さんの所へ行くんでしょ? 車を呼んだから一緒に行きましょう!」
「助かります、先輩!」
「いいの。話したいこともあったから」
靴を履き替え、海斗らは深雪の用意したワゴン車に飛び乗る。まだ学校の外にはマスコミが何人か見えたが、車はその間を通り過ぎて行く。海斗らは頭を下げていたので幸いにも彼らが乗っていることに誰もが気づかなかったようだ。
「しつこいわね……海斗もあたしらも無関係だってのに」
「あっちも確証がないのよ。学校もメディアを入れて話をするにはタイミングも悪いし」
体育館など人を多く入れることのできる場所はいずれも学校祭で何かしらの催しで使用されている。学校からは今回の件について「まったくの事実無根のデマであり、本校の生徒がそれに巻き込まれたことを非常に遺憾に思っている」と発表し、まどかを擁護しているが、今もその発表を信じようとしない人からの抗議の電話やネット上での炎上は続いている。
「それで先輩、話って?」
「この記事はみんな知ってるわよね?」
深雪がカバンから出したのは昨日、海斗らが見た水泳部の特集記事だった。これ自体が悪いわけではないが、今にして思えばこれがもう少し出るタイミングがずれていれば今回のような事態にも発展しなかったのかもしれない。
「これがどうしたんです?」
「先週、八重垣さんたちが取材を受けた人……男の人だったわよね」
「はい。確か佐田って名乗ってたような……」
海斗が記憶しているのは県内の競泳選手を取材すると言って、現れた人物だ。その場には深雪も御琴も、そしてまどかもいた。
「あたしも覚えてるわよ、でも初対面なのになーんかどこかで見たような気がするのよね」
「……実は私もなの。だからずっと引っかかっていたのよ。で、ついさっきそれがわかったの」
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「この記事って……」
「記録会でまどかが記録出した時のね」
「こっちはお芝居の時の写真だね」
「病院の人に記録のために撮ってもらっていたの。で、見て欲しいのはここと、ここ」
深雪が二つの写真を指差す。
「ああっ!」
「佐田さんだ!」
そこに写っているのは記者たちの中でカメラを構えている姿と、観客の中で入院着を着て海斗らの芝居を観ている姿の佐田だった。
「彼、記録会のすぐ後に病気で倒れてずっとうちの病院に入院していたのよ。先週のお芝居の時も、私はナレーターとして客席をずっと見ていたから見覚えがあったの」
海斗たちが思わず座席から身を乗り出す。彼らが佐田と会ったのは芝居の翌日。病院での写真の佐田のやつれ様からは考えられないほど健康な姿だった。
「例の県内の競泳選手の特集を新聞社に任された矢先の病気だったみたい。それが先週の日曜日、突然復帰してきて取材を再開したものだから職場も驚いたみたい」
「ちょっと待ってよ……それって佐田さんが二人いるってことになりません?」
御琴が海斗との距離を詰めて手を握る。オカルトがあまり得意ではない彼女は気味の悪さに震え始めていた。
「新聞社には問い合わせたんですか?」
「今日は出社してないみたい。そもそも佐田さんは入院してから一歩も病院から出てないのよ」
「ひいっ……」
いよいよ蒼い顔をして御琴が海斗の腕にすがり始めた。海斗もさすがに気の毒に思えて来て振り払うようなことはしなかった。
「お嬢様、まもなく三木きぼう園です」
「ありがとうございます。帰る時にはまた連絡しますから、一度戻って下さい」
「かしこまりました」
到着するなり海斗は車を飛び出す。続いて御琴、美波、深雪と後を追う。
「……やけに静かだな」
いるかと思われたマスコミの人や炎上騒ぎに便乗した人々も姿が見えない。施設内も明かりがついていないため、園は異様な静けさの中にあった。
「カイくん、あれ!」
美波が窓を指す。施設の中で窓の向こうを何者かが横切ったのが見えた。四人は門をくぐり、中へ入ることにした。
「こんにちはー」
管理棟の玄関から中へ呼びかける。美波が事務室を覗き込むが人の姿は見えない。電話は受話器が外されている。抗議の電話を受けないようにするためだろうか。
「まどかー!」
「すいませーん! どなたかいらっしゃいませんかー!」
御琴と深雪の声も薄暗い施設の中に消えていく。まるで施設内の人間が全員いなくなったかのようだ。だが、一行は窓の向こうに動く影を見ている。海斗らは意を決して中へと足を踏み入れた。
会議室やトイレからも人の気配はしない。四人はどんどん奥へと進んでいく。
「ここから二棟に分かれてるんだな」
目に入った見取り図を見ながら海斗が呟く。施設は大きく分けて三つの建物に分けられていた。
「右が男子棟で左が女子棟か……まどかがいるとしたら女子棟か?」
「でも伊薙君。さっきの人影って男子棟じゃないかしら?」
「うーん……それじゃあ、二手に分かれよっか」
美波の提案に皆もうなずく。男性の海斗は男子棟へ。まどかがいるかもしれない女子棟へは御琴が名乗りを上げた。
「美波んは海斗と一緒の方がいいんじゃない?」
「そうだね」
「どうしてだ?」
「あんた、手をケガしてるでしょ?」
海斗は思わず右手を押さえる。だがそれが御琴の指摘を肯定していた。
「……気が付いてたのか」
「不自然なのよ。左手で何でもやろうとしてるんだもの」
「私も気づいてた。料理部のみんなは気が付いてなかったかもしれないけどね」
「……私は気が付いていなかったわ。隠し通していた伊薙君が凄いのか、それとも見抜いた二人が凄いのか」
「ほら、手を出して。包帯巻いてあげるから」
そう言って美波がカバンから包帯を取り出す。
「ほんとに何でも入ってるな」
そばにあった椅子に海斗は座る。その右手首に美波は包帯を巻いていく。
「んじゃ、お先に女子棟見て来るから」
「じゃあ、私は八重垣さんと一緒に行くわね」
「悪い。包帯巻いたら男子棟に行ってくるから」
「ん、なんかわかったら連絡ちょうだい」
海斗が見守る中、御琴と深雪は女子棟へと入っていった。
女子棟の廊下の電気は完全に消えていた。御琴はスマートフォンのライトを使ってスイッチを見つけるが、スイッチを切り替えても反応がない。
「おかしいな……電気止まってる?」
「ブレーカーがどこかで落ちたのかしら?」
配電室は管理棟の中だ。今から戻るのも面倒だ。二人はそのまま先へ進むことにした。
一階の居室には誰もいなかった。この施設は大きめなものではあるが、以前、まどかが清掃ボランティアに参加した時に一緒に来た子供たちと職員の人数から言って、それほど人は多くないはずだ。
「二階かしら?」
「じゃ、あたしが先頭で行きます」
スマートフォンのライトを頼りに御琴が先へ進んでいく。深雪は人気のない館内に、少し奇妙なものを感じ始めていた。
「先輩、誰かいます!」
そして、二階に上がった御琴が深雪を呼んだ。二階の廊下の突き当り、行き止まりの場所に誰かがいた。
「……まどか?」
それは芦原高校の制服だった。知っている限り、この施設で同じ高校に通う生徒は一人しかいない。
「まどかなの?」
その人物は二人の方へと歩いてくる。窓から夕陽が差し込み、逆光で顔が見えない。
「ねえ、何か言ってよ!」
「……八重垣先輩、静宮先輩、いらっしゃい」
姿を見せたまどかは、満面の笑みだった。不気味な感覚を覚えていた二人はその笑顔に安堵する。
「何か御用ですか?」
「用って……当たり前じゃない。まどか、大丈夫だったの?」
「大丈夫も何も、私はいつも通りですよ?」
「だって、あんなことになったのに連絡も取れないし、何かあったんじゃないかって……」
「ああ、私を心配して来てくれたんですね!」
まどかが納得したとポンと手を打つ。
「心配いりませんよ。だってもう、気にしなくてもいいんですから」
「え……?」
「どういう意味かしら?」
「だって私――」
その時、御琴が気付く。まどかの胸元にある見たことのない装身具に。
「何、それ――」
勾玉が輝く。その途端、得体の知れない不快感が二人にこみあげて来る。
「あ……ぐ」
「私、気が付いたんです。外の事なんてどうでもいいって。だって私にはこの場所があるんですから」
「三木……さん」
突如高熱を発した二人が崩れ落ちる。意識が遠のく中、笑顔のまどかは二人の苦しむ様を前に平然と言葉をかける。
「そうだ、お二人も一緒に暮らしましょうよ。みんなお姉さんが増えて喜んでくれるはずです」
「う……力が…はいらな…」
「助けて……かい……と」
「あ、伊薙先輩も来てるんですね……それじゃあ」
意識を失い、廊下に倒れた二人からまどかは目を離す。そして勾玉がひと際鈍い輝きを放った。
「みんなで、おもてなししなくちゃ」
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