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終章 「希望の航路へ」
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「ディエゴの手記」
日本の■■市■■町における魔女の発生は、魔女一味の失踪という形で幕を降ろした。あれから一週間経つが、未だに手がかりも掴めていない。紫塔美央の能力はいまだ不明だ。そもそも能力を多用するタイプでは無かったのかもしれない。
世界中に魔女の発生は数あれど、いずれも教会によって鎮圧され、大事になることはない。近年だってそうだった。
だが、たったひとつのほころびが生まれた今、何か嫌な予感がする。この世の秩序がひっくり返されるような、具体的に言えば、魔女が世界を支配する『魔女の時代』が来るのではないか、と。いやいや、と思いたくなる半面、こういう胸騒ぎはだいたい的中してきたのが俺の勘だ。そうはさせないよう、尽力するが。
しかし、なんというか、俺たちがあんなバケモノみたいな能力者に勝てるのかねぇ。例えば今回は薬品と称して自分の魔力を爆薬にしたり、回復薬なんて現代医療でも追いつけない代物を使っていたような、なんでもありな奴らに。おかげで背中に刺し傷が七つも出来ちまった。
あるいは――アイツらと共存する道というのも、考えたほうがいいのではないか。だがその時、奴らの“下”になるのは俺たち普通の人間だ。支配なんて考えない生易しい連中だったらいいが、人間少しずつ歪んでいく。無理だな。
そして魔女や魔法使いが引いているという『悪魔の血』。文字通り、伝承のような異形の存在の血だ。そんなものがどうして人間の形をして流れているのか。資料として殆ど残っていない以上、推測にしかならない。あまり考えすぎても疲れる。やめておこう。
あの魔女一味が逃げた先というのはどことなくイメージがついている。引き続き俺は追うつもりだが、援軍を呼んでおいたほうがいいのかもしれないな。
最後に。教会関係者の家族から魔女につく奴が出たのは残念だ。あのシスターもさぞ悲しんでいるだろう。だが、あの女なら容赦なく撃つかもしれん。そういう女だったはずだからな。
今日の手記は終わりだ。後味悪いが、こういうのはよくあることだ。
◇
船は往く、大海原を。私たち四人はもうあの街にはいられなかった。家族や人のつながり、それを断ってでも、私たちは彼女についていくことにした。きっとその人達は悲しむだろう、泣いているかもしれない。そう考えたら胸が張り裂けそうになった。未練だっていっぱいある。だけれど……少なくとも私は、それ以上に彼女を捨てることなど、考えもしなかった。
「紫塔さん、イルカが見えるよ」
「ええ。……あれが!?」
「うわっ、凄い食いつきだねみおっち!?」
「なんか、こう……ダイナミックね」
「紫塔さん、びっくりしすぎだよもう。ほら、これ」
「やめなさいシェリー、ヒトデを持ってこないで」
水平線の彼方、私たちのたどり着ける地はまだ遠い。希望の糸が続くその先まで、私たちは進むことにしよう。紫塔さんの、いや、みんなの『幸せ』が掴めるように。
「……晴香、あの日のこと、覚えてる?」
「あの日?」
「私があなたに初めて話しかけた日」
「ああ、あの日ね。……今でも、すっごく奇妙な出来事だったなって」
「……以前の私だったら、あなたが死んだことを告げなかったと思う。それでよかったはずだもの」
「……じゃあどうして?」
ふぅ、とため息をつくと、困ったような笑顔で紫塔さんは答えた。
「解らないのよ、それが。どうしてあなたにそんなことを告げにいったのか。告げたら事態が混乱するのは、頭ではわかっていたのに」
「ふむ……紫塔さん、知らず知らずのうちに友達がほしかったんだよ」
「……なのかしらね。でも……あの日あなたに話しかけたこと、間違ってなかった」
「そっか」
「こんなに晴れ晴れとした気持ちで生きていくこと、出来なかったはずだから」
船が割った海に、波が生まれる。波はやがて大海原の真ん中に溶けていく。キラキラ光る海面が眩しくて、思わず目を細めた。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
私たちの航海は始まったばかりだ。
fin.
日本の■■市■■町における魔女の発生は、魔女一味の失踪という形で幕を降ろした。あれから一週間経つが、未だに手がかりも掴めていない。紫塔美央の能力はいまだ不明だ。そもそも能力を多用するタイプでは無かったのかもしれない。
世界中に魔女の発生は数あれど、いずれも教会によって鎮圧され、大事になることはない。近年だってそうだった。
だが、たったひとつのほころびが生まれた今、何か嫌な予感がする。この世の秩序がひっくり返されるような、具体的に言えば、魔女が世界を支配する『魔女の時代』が来るのではないか、と。いやいや、と思いたくなる半面、こういう胸騒ぎはだいたい的中してきたのが俺の勘だ。そうはさせないよう、尽力するが。
しかし、なんというか、俺たちがあんなバケモノみたいな能力者に勝てるのかねぇ。例えば今回は薬品と称して自分の魔力を爆薬にしたり、回復薬なんて現代医療でも追いつけない代物を使っていたような、なんでもありな奴らに。おかげで背中に刺し傷が七つも出来ちまった。
あるいは――アイツらと共存する道というのも、考えたほうがいいのではないか。だがその時、奴らの“下”になるのは俺たち普通の人間だ。支配なんて考えない生易しい連中だったらいいが、人間少しずつ歪んでいく。無理だな。
そして魔女や魔法使いが引いているという『悪魔の血』。文字通り、伝承のような異形の存在の血だ。そんなものがどうして人間の形をして流れているのか。資料として殆ど残っていない以上、推測にしかならない。あまり考えすぎても疲れる。やめておこう。
あの魔女一味が逃げた先というのはどことなくイメージがついている。引き続き俺は追うつもりだが、援軍を呼んでおいたほうがいいのかもしれないな。
最後に。教会関係者の家族から魔女につく奴が出たのは残念だ。あのシスターもさぞ悲しんでいるだろう。だが、あの女なら容赦なく撃つかもしれん。そういう女だったはずだからな。
今日の手記は終わりだ。後味悪いが、こういうのはよくあることだ。
◇
船は往く、大海原を。私たち四人はもうあの街にはいられなかった。家族や人のつながり、それを断ってでも、私たちは彼女についていくことにした。きっとその人達は悲しむだろう、泣いているかもしれない。そう考えたら胸が張り裂けそうになった。未練だっていっぱいある。だけれど……少なくとも私は、それ以上に彼女を捨てることなど、考えもしなかった。
「紫塔さん、イルカが見えるよ」
「ええ。……あれが!?」
「うわっ、凄い食いつきだねみおっち!?」
「なんか、こう……ダイナミックね」
「紫塔さん、びっくりしすぎだよもう。ほら、これ」
「やめなさいシェリー、ヒトデを持ってこないで」
水平線の彼方、私たちのたどり着ける地はまだ遠い。希望の糸が続くその先まで、私たちは進むことにしよう。紫塔さんの、いや、みんなの『幸せ』が掴めるように。
「……晴香、あの日のこと、覚えてる?」
「あの日?」
「私があなたに初めて話しかけた日」
「ああ、あの日ね。……今でも、すっごく奇妙な出来事だったなって」
「……以前の私だったら、あなたが死んだことを告げなかったと思う。それでよかったはずだもの」
「……じゃあどうして?」
ふぅ、とため息をつくと、困ったような笑顔で紫塔さんは答えた。
「解らないのよ、それが。どうしてあなたにそんなことを告げにいったのか。告げたら事態が混乱するのは、頭ではわかっていたのに」
「ふむ……紫塔さん、知らず知らずのうちに友達がほしかったんだよ」
「……なのかしらね。でも……あの日あなたに話しかけたこと、間違ってなかった」
「そっか」
「こんなに晴れ晴れとした気持ちで生きていくこと、出来なかったはずだから」
船が割った海に、波が生まれる。波はやがて大海原の真ん中に溶けていく。キラキラ光る海面が眩しくて、思わず目を細めた。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
私たちの航海は始まったばかりだ。
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