拝啓、魔女の紫塔さん ~君の地獄へ連れてって~

黒上タクト

文字の大きさ
上 下
23 / 23

終章 「希望の航路へ」

しおりを挟む
 「ディエゴの手記」


 日本の■■市■■町における魔女の発生は、魔女一味の失踪という形で幕を降ろした。あれから一週間経つが、未だに手がかりも掴めていない。紫塔美央の能力はいまだ不明だ。そもそも能力を多用するタイプでは無かったのかもしれない。
 世界中に魔女の発生は数あれど、いずれも教会によって鎮圧され、大事になることはない。近年だってそうだった。

 だが、たったひとつのほころびが生まれた今、何か嫌な予感がする。この世の秩序がひっくり返されるような、具体的に言えば、魔女が世界を支配する『魔女の時代』が来るのではないか、と。いやいや、と思いたくなる半面、こういう胸騒ぎはだいたい的中してきたのが俺の勘だ。そうはさせないよう、尽力するが。

 しかし、なんというか、俺たちがあんなバケモノみたいな能力者に勝てるのかねぇ。例えば今回は薬品と称して自分の魔力を爆薬にしたり、回復薬なんて現代医療でも追いつけない代物を使っていたような、なんでもありな奴らに。おかげで背中に刺し傷が七つも出来ちまった。

 あるいは――アイツらと共存する道というのも、考えたほうがいいのではないか。だがその時、奴らの“下”になるのは俺たち普通の人間だ。支配なんて考えない生易しい連中だったらいいが、人間少しずつ歪んでいく。無理だな。



 そして魔女や魔法使いが引いているという『悪魔アクマの血』。文字通り、伝承のような異形の存在の血だ。そんなものがどうして人間の形をして流れているのか。資料として殆ど残っていない以上、推測にしかならない。あまり考えすぎても疲れる。やめておこう。



 あの魔女一味が逃げた先というのはどことなくイメージがついている。引き続き俺は追うつもりだが、援軍を呼んでおいたほうがいいのかもしれないな。

 最後に。教会関係者の家族から魔女につく奴が出たのは残念だ。あのシスターもさぞ悲しんでいるだろう。だが、あの女なら容赦なく撃つかもしれん。そういう女だったはずだからな。



 今日の手記は終わりだ。後味悪いが、こういうのはよくあることだ。






 船は往く、大海原を。私たち四人はもうあの街にはいられなかった。家族や人のつながり、それを断ってでも、私たちは彼女についていくことにした。きっとその人達は悲しむだろう、泣いているかもしれない。そう考えたら胸が張り裂けそうになった。未練だっていっぱいある。だけれど……少なくとも私は、それ以上に彼女を捨てることなど、考えもしなかった。



「紫塔さん、イルカが見えるよ」
「ええ。……あれが!?」
「うわっ、凄い食いつきだねみおっち!?」
「なんか、こう……ダイナミックね」
「紫塔さん、びっくりしすぎだよもう。ほら、これ」
「やめなさいシェリー、ヒトデを持ってこないで」



 水平線の彼方、私たちのたどり着ける地はまだ遠い。希望の糸が続くその先まで、私たちは進むことにしよう。紫塔さんの、いや、みんなの『幸せ』が掴めるように。



「……晴香、あの日のこと、覚えてる?」
「あの日?」
「私があなたに初めて話しかけた日」
「ああ、あの日ね。……今でも、すっごく奇妙な出来事だったなって」
「……以前の私だったら、あなたが死んだことを告げなかったと思う。それでよかったはずだもの」
「……じゃあどうして?」

 ふぅ、とため息をつくと、困ったような笑顔で紫塔さんは答えた。

「解らないのよ、それが。どうしてあなたにそんなことを告げにいったのか。告げたら事態が混乱するのは、頭ではわかっていたのに」
「ふむ……紫塔さん、知らず知らずのうちに友達がほしかったんだよ」
「……なのかしらね。でも……あの日あなたに話しかけたこと、間違ってなかった」
「そっか」
「こんなに晴れ晴れとした気持ちで生きていくこと、出来なかったはずだから」

 船が割った海に、波が生まれる。波はやがて大海原の真ん中に溶けていく。キラキラ光る海面が眩しくて、思わず目を細めた。

「……ありがとう」
「どういたしまして」



 私たちの航海は始まったばかりだ。



fin.
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

男性向けフリー台本集

氷元一
恋愛
思いついたときに書いた男性向けのフリー台本です。ご自由にどうぞ。使用報告は自由ですが連絡くださると僕が喜びます。 ※言い回しなどアレンジは可。 Twitter:https://twitter.com/mayoi_himoto YouTube:https://www.youtube.com/c/%E8%BF%B7%E3%81%84%E4%BA%BA%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF%E6%B0%B7%E5%85%83%E4%B8%80/featured?view_as=subscriber

処理中です...