どん底から頂点を目指しました

ゆめ

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番外編~遥香~

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 肩を回して欠伸をして遥香の前を歩いているのは幼馴染みの諒だ。
 昨日も夜遅くまでバイトだったのかぁ…
 彼の家庭事情はそれなりに知っている。伊達に幼い頃から一緒にいない。あそこの家族は仲がとても良い。だがそれはあくまで家族のみ、だ。そこに諒は含まれていない。
 だがそのことに関して遥香達は同情などは一切しない。諒自身が一番嫌がることだからだ。だから彼女達は彼を対等の扱いをする。彼の家のことは一切関わらない。そうして成り立ってる友情だ。
 それでも心配はする。だから遥香は少しでも気が楽しくなるよういつも話しかけてる。
 今日もそう。
 前を歩いてる彼に走って追いつく。
「諒、おはよぉぉぉ」
 ドンッ、と飛びつくと諒が声がでかい、というように顔を顰めた。
 そんな声でかくないのになぁ…などと思ってると諒が不意に聞こえるか聞こえないかくらいの大きさの声で呟いた。
「それだけで…充分、か」
 何を急に言ってるのかこのアホは。
 不思議に思い聞き返すもまともに返答は返ってこない。仕方が無いから学校へと行く。時計を見るとまだ少々余裕がある。だが前を見るといつもは必ず引っかかる信号が珍しく青になっていた。
 ラッキー。今日はいい事あるかもっ!
 などと思いつつ渡っていると隣にいたはずの諒がいないことに気がついた。後ろを見ると考え事をしているのか足が止まってる。
 まったく…
「何止まってんの!早く早く!信号赤になっちゃうよ!」
「え、あ、おう」
 遥香の言葉で我に返ったように顔を上げた諒は目を見開いた。何か呟いた様だが距離があって聞こえない。
 不思議に思って声をかけようとすると諒が遥香に向かって全力疾走してきた。彼は昔から足が速い。あっという間に距離が詰められる。
 そしてー遥香の身体は押し飛ばされた。
「きゃ…何すっ…」
 痛みとともに諒に文句を言おうと顔を上げる。そしてその先は言葉にならなかった。
「え、」
 諒の身体は空中にあった。そして地面に叩きつけられる。
 その横にはトラック。
 やっと遥香には状況が理解出来た。
 そして何処から出るのかという位の叫び声を上げた。
「諒ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
 地面でピクリとも動かない諒へと駆けつける。
 目から零れ落ちてくる涙で視界がにじむ。
「いや、いや…いやぁぁぁぁ諒ぉぉぉ」
  絶叫にもにたその呼び声は諒へと通じたのか、指先がぴくりと動き口が微かに動いた。
「泣く……な…よ」
 それだけだった。それだけで諒はもう動かなくなった。
「いやだよ、ねぇ、諒……嘘だと言ってよ…ねぇ!!!」
 救急車が到着するももう手遅れなのは誰の目にも明らかだった。

「ー……私の……せいだ…私が…私が諒を…」
 いつもは重く感じない制服も何故かとてつもなく重く感じる。
 諒の葬式ー
 彼の友人が皆そろっていた。
 遥香は壊れたように泣き続けていた。
 そして肩に暖かい温もりを感じた。誰かが手を置いてくれたのか。だがそれを確認する気すらおきなかった。
 妹夫婦は家族席にいた。なんとか顔を上げて彼女達を見る。
 その表情に悲しみは一切無かった。逆に何処かせいせいしたような表情さえ感じる。
「なん、でよ…」
 なんでそんな表情が出来るの…血が繋がってる…親戚なのに…
 だが、心の底では分かっている。
 あの人たちは無駄なお金をこれから使うことがなくて喜んだいるのだ。人一人亡くなったこの状況下で。
 遥香にとってそれは不愉快でしかなかった…がそれを咎める権利すら無い。そう思い口を噤んでいた。
 肩に触れていた諒の友人が口を開いた。
「諒はさ、お前に最後なんて言ったんだけっか」
 その言葉とともに頭の中で諒の言葉が蘇る。
『泣く……な…よ』
 幼い頃、よく泣いていた遥香を諒が慰めていたように、そう呟いた。
「あいつはお前を助けることができて喜んでるだろ。あいつはそういうやつだ」
 声が震えているのがわかる。
「だからさ、あいつの為にも笑ってやろうぜ。笑って楽しくあいつの分も生きてやろうぜ」
「でも…でも私は…私が…」
「楽しく生きてりゃまた会えるさ。生まれ変わって。別の世界でもきっと出会える。そう信じてれば現実になるんだよ」
 信じてれば現実になる…
 どこに確証もない。そんな言葉だが遥香は深く噛み締めた。
 信じてれば…また…会えるの?諒…
 その瞬間室内のはずだが優しいけれども強い風が吹いた。
 あぁ、またきっと会えるさ。
 そんな声とともに。
 遥香は泣き崩れた。だが今度は自分を責め続ける言葉はない。
「…信じ…てるから……信じてるよ」
 そう泣きながら言うと風が穏やかになった。
 肩に置かれた手も力を緩める。そして嗚咽が聞こえる。
 きっと私のせいだとずっと思ってても諒は嫌がるよね…なら…
 諒が安心できるようにちゃんと生きるね。
 そう誓う。
 
 また出会える日を信じてる。
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