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紫の鷹来襲
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砂漠の地底都市のメリットは、その安全性にある。
私は王城では、王様の居住区から、めったに外にには出ることが出来なかった。
庭園に出る時でさえ、前もって許しを貰わないといけないぐらいだった。
けれどこの地底都市には、外部のものが入ってくることはできない。
そして砂漠の民は、私を青の婚約者として認めると、それ以降は特別扱いすることなく自然体で接してくれた。
自分達の守り手である、青の婚約者を害そうとするものが、いるはずもなく、気分がささくれだっている人は、自然に私から距離をおいて影響がでないようにしてくれている。
私は天球にきて初めて、とても伸びやかに過ごすことができていた。
大好きな作家さんに会ってサインをもらったり、コンサートを見にいったり、まるで地球に帰って来たみたいだ。
青が私を選んでくれてよかった。
すっかりこの国に馴染んでいくうちに、私は地上での緊迫した情勢のことを忘れてしまっていた。
私のお気に入りである川辺を散策していると、頭上を影が通りすぎ、羽ばたきとともに紫の鷹が舞い降りた。
鷹は瞬く間に男装の麗人へとその姿を変えると、
「まさかとは思ったけど、なんて図々しい子なんだろう。こんなところまで入り込むなんて!」
「私の忠告を無視するなんて、金糸雀のくせに随分なめた真似をしてくれるんだね。」
ムラサキさまは、かなりお怒りです。
こーゆーのあったなぁ。
私は中学時代の一コマを思い出していた。
あの頃私には、結構仲が良い男友達がいた
彼は私が本が好きなのを知って、自分でお話を書いては私に読ませてくれた。
それはドキドキするようなアクションもので、確かその時のシーンは、主人公が物陰から狙われているところだった。
私は彼に主人公がどうなってしまうのか質問していて、彼は嬉しそうにニコニコしていたんだっけ。
その時、私は女の子の集団に呼び出された。
女子集団の真ん中には、恥ずかしそうな女の子がいて、取り巻きの子たちが次々と
「あんた、いったいどうゆうつもりなの?」
「この子は、彼を愛してるのよ。」
「本気なのよ。凄く好きなんだから。」
「いい加減な気持ちで、彼に近づかないで。」
「この子がどんなに傷ついたと、思ってんのよ。」
つまりは、つるしあげにあったんだ。
まだ中学生の私には、それはショックで、どうしていいかわからないまま、教室に飛び込んで彼に向かって叫んだ。
「私、あんたなんか好きじゃない!」
彼は何にも云わず、ノートを持って教室を出て行った。
その後、彼のお話の続きを聞くことはもうなかった。
ほろ苦いエピソードだけど、その1件はトラウマとして残り、私は男性を避けるようになった。
どこにこの男が好きな子がいるかわからないし、糾弾されるのはゴメンだった。
そのくらいなら、本を読んでいる方がずっといい。
ノリスにあうまで、私は男の子と付き合ったことがなかった。
今のムラサキは、あの時の女の子だ。
ノリスが好きなんだろう。
もしかしたら、私よりも何倍も。
「何かいいなさいよ。あなたのお役目は聞いてるわ。でもそれなら真の王を選んだんだからお役目は終わりよ。後は王に相応しい人に譲りなさいよ。」
「ノリスを愛しているんだ。」
ムラサキはちょっとひるんだが、
「そうよ、愛しているわ、悪い?]
と、聞いた。
最後の言葉は疑問形だったけれど、悪くないと思っていることはよくわかる。
「婚約者がいても?」
そう尋ねるとムラサキはいきり立った。
私が有利な立場から、話をしていると思ったようだ。
ムラサキが何か言うまえに私は言った。
「悪くないわよ、全然ね。誰でも人を好きになっていいはずだもの。」
ムラサキは少し肩の力を抜いた。
「だからこそ、紫さまも同じように相手の自由を認めなきゃいけない。私が愛しているんだから、あなたも愛するべきだというのは、とても傲慢だわ。」
「傲慢で何がいけないのよ。私は私の欲しいものは自分の力で奪いとるだけよ。」
「そうね、そうかもしれない。愛や恋といったものさえ、欲し続けるなら手に入れられるかもしれないわね。」
そうなんだ。
あの女の子は、必死に勉強して高校も、大学も彼と同じところへいった。
彼は相手にしなかったし、散々陰口も言われたけれども……。
どんな女の子が来ても、愛しているのは私の方だと言い続けて、最後には結婚したんだ。
本気だとあの子は言った。
恋のためなら恥も外聞も捨てていた。
ただひたすら追いかけて、そして彼はそれに応えたんだ。
「それならムラサキ、それを貫けばいいわ。それはあなたの自由なのだから。」
「馬鹿にしてるの?」
「恋する乙女を馬鹿にするほど、私も傲慢じゃぁないわ。それにムラサキさまは十分に醜態をさらしていらっしゃるじゃありませんか。」
怒るべきかどうか戸惑うようにムラサキは視線をさまよわせた。
とっくに怒気は消えていたのに。
「金糸雀、あんた思ってたより骨があるね。」
「最弱の霊獣ですから。」
そういって私は微笑んだ。
「何か御用がおありなんじゃないんですか?」
「そうだった、女帝陛下からの招待状を青の竜に届けるんだった。皇帝と王と女帝、そして守護霊獣とで会談をするんだ。砂漠の王も呼ばれているから、そのメッセンジャーできたのよ。」
「そして、青の竜とも会えますしね。」
私がそう言うと
「ちょ!なんてこというのよ金糸雀、いいこと。青の竜は必ず私のものにして見せますからね。」
そういって紫の鷹は飛んでいった。
「やれやれ、無粋な鷹ですね。」
木立からノリスが現れてそういった。
女の闘いに口を挟まなかったのは、少しは私を認めてくれたからかな。
そう思いながら、波乱含みの会談に思いをはせた。
私は王城では、王様の居住区から、めったに外にには出ることが出来なかった。
庭園に出る時でさえ、前もって許しを貰わないといけないぐらいだった。
けれどこの地底都市には、外部のものが入ってくることはできない。
そして砂漠の民は、私を青の婚約者として認めると、それ以降は特別扱いすることなく自然体で接してくれた。
自分達の守り手である、青の婚約者を害そうとするものが、いるはずもなく、気分がささくれだっている人は、自然に私から距離をおいて影響がでないようにしてくれている。
私は天球にきて初めて、とても伸びやかに過ごすことができていた。
大好きな作家さんに会ってサインをもらったり、コンサートを見にいったり、まるで地球に帰って来たみたいだ。
青が私を選んでくれてよかった。
すっかりこの国に馴染んでいくうちに、私は地上での緊迫した情勢のことを忘れてしまっていた。
私のお気に入りである川辺を散策していると、頭上を影が通りすぎ、羽ばたきとともに紫の鷹が舞い降りた。
鷹は瞬く間に男装の麗人へとその姿を変えると、
「まさかとは思ったけど、なんて図々しい子なんだろう。こんなところまで入り込むなんて!」
「私の忠告を無視するなんて、金糸雀のくせに随分なめた真似をしてくれるんだね。」
ムラサキさまは、かなりお怒りです。
こーゆーのあったなぁ。
私は中学時代の一コマを思い出していた。
あの頃私には、結構仲が良い男友達がいた
彼は私が本が好きなのを知って、自分でお話を書いては私に読ませてくれた。
それはドキドキするようなアクションもので、確かその時のシーンは、主人公が物陰から狙われているところだった。
私は彼に主人公がどうなってしまうのか質問していて、彼は嬉しそうにニコニコしていたんだっけ。
その時、私は女の子の集団に呼び出された。
女子集団の真ん中には、恥ずかしそうな女の子がいて、取り巻きの子たちが次々と
「あんた、いったいどうゆうつもりなの?」
「この子は、彼を愛してるのよ。」
「本気なのよ。凄く好きなんだから。」
「いい加減な気持ちで、彼に近づかないで。」
「この子がどんなに傷ついたと、思ってんのよ。」
つまりは、つるしあげにあったんだ。
まだ中学生の私には、それはショックで、どうしていいかわからないまま、教室に飛び込んで彼に向かって叫んだ。
「私、あんたなんか好きじゃない!」
彼は何にも云わず、ノートを持って教室を出て行った。
その後、彼のお話の続きを聞くことはもうなかった。
ほろ苦いエピソードだけど、その1件はトラウマとして残り、私は男性を避けるようになった。
どこにこの男が好きな子がいるかわからないし、糾弾されるのはゴメンだった。
そのくらいなら、本を読んでいる方がずっといい。
ノリスにあうまで、私は男の子と付き合ったことがなかった。
今のムラサキは、あの時の女の子だ。
ノリスが好きなんだろう。
もしかしたら、私よりも何倍も。
「何かいいなさいよ。あなたのお役目は聞いてるわ。でもそれなら真の王を選んだんだからお役目は終わりよ。後は王に相応しい人に譲りなさいよ。」
「ノリスを愛しているんだ。」
ムラサキはちょっとひるんだが、
「そうよ、愛しているわ、悪い?]
と、聞いた。
最後の言葉は疑問形だったけれど、悪くないと思っていることはよくわかる。
「婚約者がいても?」
そう尋ねるとムラサキはいきり立った。
私が有利な立場から、話をしていると思ったようだ。
ムラサキが何か言うまえに私は言った。
「悪くないわよ、全然ね。誰でも人を好きになっていいはずだもの。」
ムラサキは少し肩の力を抜いた。
「だからこそ、紫さまも同じように相手の自由を認めなきゃいけない。私が愛しているんだから、あなたも愛するべきだというのは、とても傲慢だわ。」
「傲慢で何がいけないのよ。私は私の欲しいものは自分の力で奪いとるだけよ。」
「そうね、そうかもしれない。愛や恋といったものさえ、欲し続けるなら手に入れられるかもしれないわね。」
そうなんだ。
あの女の子は、必死に勉強して高校も、大学も彼と同じところへいった。
彼は相手にしなかったし、散々陰口も言われたけれども……。
どんな女の子が来ても、愛しているのは私の方だと言い続けて、最後には結婚したんだ。
本気だとあの子は言った。
恋のためなら恥も外聞も捨てていた。
ただひたすら追いかけて、そして彼はそれに応えたんだ。
「それならムラサキ、それを貫けばいいわ。それはあなたの自由なのだから。」
「馬鹿にしてるの?」
「恋する乙女を馬鹿にするほど、私も傲慢じゃぁないわ。それにムラサキさまは十分に醜態をさらしていらっしゃるじゃありませんか。」
怒るべきかどうか戸惑うようにムラサキは視線をさまよわせた。
とっくに怒気は消えていたのに。
「金糸雀、あんた思ってたより骨があるね。」
「最弱の霊獣ですから。」
そういって私は微笑んだ。
「何か御用がおありなんじゃないんですか?」
「そうだった、女帝陛下からの招待状を青の竜に届けるんだった。皇帝と王と女帝、そして守護霊獣とで会談をするんだ。砂漠の王も呼ばれているから、そのメッセンジャーできたのよ。」
「そして、青の竜とも会えますしね。」
私がそう言うと
「ちょ!なんてこというのよ金糸雀、いいこと。青の竜は必ず私のものにして見せますからね。」
そういって紫の鷹は飛んでいった。
「やれやれ、無粋な鷹ですね。」
木立からノリスが現れてそういった。
女の闘いに口を挟まなかったのは、少しは私を認めてくれたからかな。
そう思いながら、波乱含みの会談に思いをはせた。
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