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迷宮大冒険

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 確かに、確かに、私は砂漠の迷宮を探検したいと言いましたよ。
 探検にそなえて、シャツとパンツも履きました。

 けれど、これはないでしょう。
 なんだか、随分長い紐を持っているなぁとは思っていたんです。

 ロープ代わりに使うには、柔らかな素材でできてるし、幅も30センチぐらいありますし……。

 いま、その紐でノリスの背中にくくりつけられています。
 完全に赤ちゃんのおんぶの姿勢ですね。

 探検ですよ。今から探検にいくのですよ。
 なのに、何故こんな格好をしなければならないんでしょう。

「レティが迷宮に足を1歩でも踏み入れたら、あっという間にあの世いきですよ。迷宮を見たいのなら、こーするしかありませんね。」

「そんなに、危険なんですか?」

「可愛いレティ、しっかり捕まってるんですよ。私がいれば危険なんてありません。」

 最近なぜかオレよびから私よびになったノリスが、自信満々で応える。

 なんでオレって言わなくなったのか、聞いたら、子供っぽいからといってたけど、丁寧にしゃべろうとしてくれてるんだよね。

 ここが迷宮かぁーなんて感慨は、これっぽっちも起きません。
 だって通路に入ったとたん、大きな丸い石が轟音をたててこっちに転がってきてるんです。

「キャァー、岩が~、潰されちゃう~。」
 ぎゃんぎゃん悲鳴をあげているのに、ノリスは動こうともしない。

 もう巨大石が目の前!思わず目をつぶったら、ノリスは、ひょいと岩の上に飛んで、呑気に石を転がしています。

 すごい、サーカスの大玉転がしみたい。

 適当なところで石からおりて、ひょいと横道にはいると、

「蜘蛛―。おーきな蜘蛛~。蜘蛛はイヤー。」
 半泣きになって騒いでいるうちに、ノリスはというと、蜘蛛が吐き出す糸の攻撃を、ひょいひょい避けると、剣で蜘蛛の頭を切り落としてしまいました。

 迷宮って、もう少し何というか、穏やかというか、俺たち迷ったんじゃないか?なんて言いながら進むんじゃありませんかね。

  と、いきなり足元に大穴があいて、中からなんか出てきたァー。
 何ここ、もしかしてゲテモノしかいないの?

 フラグです。
 馬鹿なフラグをたてた私を、お許しください。
 
 ゲテモノではなく、化け物がでてきました。
 おーきな、おーきな鵺みたいなやつです。

 こんなの、どーすればいいの?
 
「下がれ、迷宮の鵺よ!」
 ノリスが低い声で命令すると、鵺はすっといなくなった。

「ノリス、ノリス、あの鵺知り合いなの?」

「知り合いって、別にそーじゃねぇよ。オレの方が強いってわかったんだ。あれだけ知能も能力も高いと、案外無茶な攻撃はしてこねぇんだよ。」

 ノリスさん地が出てますよ。
 それって鵺より強くないと出来ない芸当ですよね。

 「レティ、どうした?疲れたのか、まだ迷宮に入ったとはいえねぇぐらいしか進んでないが、休憩するか?」

「オイ、レティ、レティ……」
 ノリスが背中から大急ぎでナナを降ろすと、ナナは既に意識がなかった。

 私が目を覚ますと、ブウンという大きな風切り音がして、大木がどさりと倒れてきた。

 「ヒュー、ヒユー。」
 悲鳴の代わりに、情けない息が漏れる音がする。

 「レティ、大丈夫か。」
 鉈のようなものを手に、ノリスが声をかけた。

 どうやら、さっきの風切り音は、ノリスが大木を切り倒した音だったようだ。

 どうしよう、声が出ないよ。
 どうやら悲鳴のあげすぎで、喉を潰してしまったようだ。

「レティ、喋れないのか?もう帰るぞ、ほとんど迷宮を見れてはいないが、やっぱりお前には、迷宮は無理だ。」

 私は、こくこくと思いっきり頷いた。
 こんなに凄いところを、砂漠の民は平気で通行するんだよね。

 こんな迷宮、冒険者でも一流どこじゃなきゃ無理だと思う。
 なのに砂漠の民にとっては、ここは家への帰り道なのだ。

 「ナナがあんまり怖がるから、帰りは川をのんびり下ろう。待ってろ、今船を作るからな。」

 船を作るって言いましたよね。
 で、木を伐りましたね。

 丸木船じゃありませんよね。
 まさか筏とか?
 ちっとものんびりする気がしないのは、何故でしょう。

 丸木船ではありませんでした。
 カヌーでした。

 ノリスが切り倒した木は、とても軽くて中身はウレタンみたいにふかふかしています。

 これなら快適な船旅が出来そうですねって、ノリスさん、ノリスさん、なに紐を持って近づいてくるんですか?

 カヌーに縛りつけられて、川面を下っております。

 これなら、絶対落ちないという、ノリスさんのお墨付きですが、私のプライドはズタボロです。

 でも綺麗ですね。
 そこかしこに、水晶や輝石が連なっていて、お宝の山です。

 それに天井も綺麗なんですよ。
 なんだか、緑の光が点滅して幻想的です。

 「あれか?あれは緑光虫だ。怪我をすれば血の匂いを嗅ぎつけて襲ってくる。数が多いから、あれでもけっこう厄介なんだぞ。」

 いいです。
 もういいです。
 迷宮にロマンを感じた私が馬鹿なんです。

 ちょっと拗ねていると、
 「しっかり船べりにつかまって、口を閉じろ、舌を噛むぞ。」

 あっと、思う間もなく、カヌーはすさまじい勢いで、波にのまれていきます。
 急流すべりなんてかわいいものです。

 こっちは滝すべりと、トルネードが合体したみたいな感じです。

 気がついたら、ベッドの中でした。
 侍女さんが
 「姫、ここがどこだかわかりますか?」
 と、聞くので、大きく頷きました。

「お声がでませんか。」
 どうかな?やってみよう。

「あ・り・が、ゲホ、ゲホ。」
 せき込んでしまった。

 「無理をなさらないでくださいね。お医者をよびますね。」

 水に濡れて風邪をひいたんですって。
 熱で頭がぼんやりするので、お薬を貰って寝てしまった。

 次に目をさました時には、熱はすっかりひいていたけど、ノリスが憔悴した顔をしていた。

 自分がついていて、酷い目にあわせたと、族長にも、爺にもきついお灸をすえられたらしい。

 前回、私を攫った時にも、殺しかけたので、学習能力がないと言われたらしい。

 けれどノリスまで過保護になったら、私は何も経験できない。

 私はノリスの手を取って
「あ・り・が・と・う。た・の・し・か・つ・た。」
 と言った

 ノリスはにっこり笑って
「そうだね、オレも楽しかった。」
 だって。
 もう、オレでいいんじゃないかな。
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