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イタズラ成功!王様とレイとセン

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  害意はない。
  たぶん、きっと、カナリアの本能みたいなものが、私に教えてくれているから。

  けれど、もしこの場面失敗したら、きっと取り込まれる。
  そんな予感がひしひしとする。

  私だけならいいけれど、レイやセンを巻き込むことになってしまうかもしれない。

 銀色のきつね・黒い獅子・あの2人の能力は、たった1日みただけでもチートといえるものだった。

 彼らがもしも、もしも本当に私を探すつもりがあるなら、もしそうならきっとやってくる。

 私は彼らに甘えたくなかった。
 彼等には自由に気ままに生きて欲しいと願ってしまった。

 それでも、もしも彼らがやってきたら、きっと面倒ごとも全部ひっくるめて受け止めてしまうだろう。

 だから、平凡で、ヘタレの私でも、この威圧感半端ない人物と、ちゃんと渡り合わなきゃいけない。

 「お前は誰だ」
  もう一度、ゆっくりと質問を繰り返す男。

 「私はナナです。それ以上は言いません」
  真っすぐに男の目を見てそう言い切る。

 フン、つまらなそうに唸ると男は
「ゴードン、お茶を入れろ。レディと対話するならお茶が必要だからな。あと
何かケーキでも適当に持ってこい」

 ゴードンは、目をむいたが何も言わずに、台所に消えていった。
 
 このタイミングでお茶?外では反乱軍が王都を制圧しようとしているというのに?
 まさか反乱がフェイクということなの?

 「私からも、質問があります。アキレス公とはどのような人物なのですか?」

 私の質問に、お茶をセットしようとしたゴードンは一瞬かたまっていたが、すぐにとても上品にお茶をサーブしてくれている。

「この国は初めて来たんじゃなかったのか?」

「いいえ、私はこの場所に知り合いはいない。そう言ったんです」

 あっ!このお茶とても美味しい。香りもいいけれど味わいがある。紅茶を飲むのは久しぶりな気がする。
 まだ日本を離れて2日目だというのに。

「うまそうにお茶を飲むんだなぁ。アキレス公はいわゆる俗物だな」
男はやはり、お茶の香りに目を細めながら言う。

 俗物、どういう意味だろう。こと反乱のような局面で使うなら操り人形という事なのだろうか。

 けれど操り主はこの男か、さもなければ他国か?他国なら、お茶など飲んでいる暇はないはずだけど。

 私が質問しようとすると男は
「質問は私の番だ。お前はこの世界の人間か?」

 いきなり核心を突く質問に、思わずカップを取り落としてしまった。
 つまりは、それが答えだ。

 「なぜ?」
 思わずつぶやいた言葉が、私の質問になった。

 「この世界には、霊獣がいる。ここ1年以内に4匹の霊獣が、霊山に戻った。金色の金糸雀、銀の狐、 黒の獅子、 紺色の熊。そして霊獣が地に戻るためには、最低でも100年以上の時間がかかる。ここまでは理解したか?」

 こくんと私は黙ってうなずく。
 だからあの霊獣の核は、サクランボの実くらいの大きさだったんだ。
 あんなにも小さな実だったから、飲み込んでしまったのだから。
 
 「霊獣がこの地に戻るためには、女神の泉を経なければならない。それ以外に地に降りる方法がない。そして我国の神殿は、24時間常に女神の泉の波動を監視し続けてきた」

 なるほど、つまりこの国は、霊獣たちが地に降り立ったのを知ったわけだ。ほんの少し前に。

 しかも霊獣として育つ暇がなかったなら、その答えはひとつ。
 異世界人に取り込まれたということになる。

 「なぁ、どう思う?」
 その質問は、私に向けられたものではなかった。
 男の視線は真っすぐに扉に向けられていた。

「お見事と言っておきましょうかね」
 そう言いながら、扉から入ってきてのは、レイだった。

「ナナ、お前知らない人には、ついていかない約束だろ。お仕置き決定な。」
 そう言ったのはセン。

 「なんで?どうして?どうやって来たの?」
 呆然とする私にレイが質問した。

「ねぇ、ナナ。私の能力は何ですか?」

 レイの能力は電気。もしかしたら?と思ってポケットを探ると小さな宝玉が見つかった。

「それ、追跡装置ですよ。私の次元倉庫にはそんなのがゴロゴロしているんですよ。言いませんでしたっけ」

 「聞いてない。何なの?もう会えないかもって、ひとりで頑張らなきゃって、そう思ってたのは、私だけなの。ひどい!」

 クスリとレイは笑うと、男の方を振り返った。

「面白いお話をしているようですが、ナナを虐めて下さったなら、お礼をしなくちゃいけませんね」

 男は手招きでレイとセンをソファーに招きよせると。
「危なっかしいお嬢さんを、保護しただけですよ。うちの部下がね」
 と、顎をしゃくる。

 そこにはモラルさんと、もう1人の騎士の方が申し訳なさそうな顔で立っていた。

「ごめんなさい。お嬢さん。主はいたずらが好きで、しょっちゅう人にイタズラして遊んでるんですよ」

 つまり、つまり、反乱なんて嘘だったんだ!
 だから町の人は逃げ出さなかったんだ。
 なんて大規模なドッキリを仕掛けてくれるのよ。

 「みんなして、みんなして馬鹿にして!もう大っ嫌いなんだから」

 あんまり悔しくて涙目になりながら叫ぶと、レイがひょいっと抱き上げて
 頭をなでて言う。

「まぁ、なんだな。なんでだかお前を見ているとかまいたくなるというか、何というか。愛されてんだよ」

 絶対に誤魔化されませんからね。と無視しているとゴードンさんが、3段重ねのお菓子入れを持ってきてくれた。

 凄い。ケーキでしょ。タルトにマフィン、たっぷりのクリームやジャム。それにサンドイッチまで。

 思わず笑顔になると、ゴードンさんに給仕してもらって食べ始める。

 王様との話し合いなんて、レイがいるなら任せて大丈夫。
 なんで王様だとわかるかって?

 国の根幹にかかわる機密事項を、王太子レベルでおもちゃに出来るはずがない。
 つまりここにいるふざけた男は王その人って訳。
 以上証明おわり。それよりも食べ物よ!

 私が楽しそうに食べ始めると、センも横に座って一緒に食べる。
 
「セン、私がんばったのよ」
 そう言うと

「あぁ、ちゃんと聞いてたから知ってる」
 ほぉ~、盗聴までしてましたか。

 うっかり発言に気が付いたセンは、慌てて
「まぁ、なんだな。お仕置きはなしってことにしてやるからさ」

「えっ!お仕置きなし!やったぁ!約束ね」
 これで安心して、おやつをに専念できる。

 レイと王様は結構仲良くなったみたい。
 あれですね、腹黒は腹黒同士きっと気が合うんですね。

 レイたちが密談を開始すると、モラルやゴードンさんたちが、周囲の警戒にあたっているのか、部屋にはいなくなった。

 なので、部屋には、霊獣をその身に飼っている3人と王様だけ。
 どんだけ剛胆な王様なんだろう。

 この国の名前はウィンディア王国。
  そしてここは王都でウィンウッドっていうんだって。

 王様の名前はアイオロスというの。
 アイオロス・ウィンディア。

 でも王様なんて陛下としか呼ばないだから、名前を知らなくても問題はないんだけれどもね。

 ゴードンさんは、この国の守護隊の隊長さんなんですって。
 モラルさんも近衛隊の隊長さん。
   モラルさんと一緒にいたのが、ジルベルトさんで第一騎士団の団長さんだそうです。

 この3人は、いわば王様のご学友ね。
   幼い頃から一緒に育った悪友みたい。

 すっごくイタズラばっかりして側近を困らせてばかりだけれども、国民を守ることを真剣に考えているみたい。

 この天球は、日本でいえば戦国時代に似ている。
   統治する人が決まらなくで、小さな国々が群雄割拠している。

 それでね、西は女帝が統べるゴルトレス帝国、南には皇帝が統治するプレスペル皇国が、かなりの力をつけてきてるの。

 そこでアイオロス王は考えた訳ですね。
 東をウィンディアが統一すれば、ゴルトレス・プレスペル・ウィンディアの3つの国の力が均衡して、いい感じに競い合って発展させちゃおうという訳です。

 今では、毎年のように、小競り合いが繰り返されていて、多くの民が死ぬ。それなら、戦争で沢山の人を殺してしまうけど、世界を統一すべきじゃないか?って。

 確か地球でも同じことを考えた人がいたね。
 あれは、残った3国のうち2国で協力して1つの国を滅ぼして、最後には天下統一するんだよね。
 つまりそんな感じで、王様はレイを説得したんですよ。

 国際連盟みたいに、小さな国も仲良く共存できたらいいんだけど、それってある意味絶対的な強者がいるから、なんとかなってる面があるものね。

 でも国際連盟みたいに、世界の国が協議とかできるようになれたら、素敵かもしれません。

 そんな理想を語り合ったレイと王様は意気投合。
 レイとセンは王様直属の部下になりました。

 レイやセンに命令できるのは王様だけで、自由にどこでも出入りできるし、王様にも対等に話せる権利を持ってるので、王様に忠実な人たちから、すごく嫌われている。

 でも王様に忠実な人ばかりが、周りをかこんだら、王様は人形になるしかなくなる。

 例えば、王様が食事の味が気に入らなかったとするでしょ。
 そうすると王様に忠実な人は、その料理人を解雇するか、或いは死罪にするかもしれない。

 それがわかってしまえば、王様は私心は無くすしかない。
 うっかり言ったひとことで、人が責任をとって死ぬかもしれないのだから。

 王様に対して不敬だと騒ぐのは、王様の為ではなくて、自分の為。
 自分がいかに王の為を考えているか知って欲しいだけ。
 
 私心を持たないで、民のために生きていくって、とっても大変そうだよね。
 王様は私心も公的な心もバランス良く持っている感じがする。

 そんな王様だからこそ、レイやセンの存在は許されたし、結構ガス抜きになっている。
 敵役がいれば、中は結束するしね。

 それで私のお役目なんだけど、カナリヤって害意に敏感な訳じゃない?
 その力を使って王様の近くで、害意を持って近づく人がいたら知らせる役目なの。

 それだと、常に王様の近くにいなくちゃならない訳でしょ。
 侍女でいいんだけど、そうすると他の仕事をしている間、王様のそばを離れることになるので、困るのです。

 私が12歳っていうことで、王様は私を自分の子どもにしちゃいました。
 王様が町で遊んでいる時に作った子どもで、子どもとして扱う訳にはいかないけど、町にもおいておけないし、手元に引き取った設定。

 寝室も王様と同じフロアに貰っているし、私室も王様の執務室の近く。
 身分は王様付きの侍女になりました。
 
 侍女になるにあたって、とりあえずどっかの伯爵家あたりの養女になってます。
 血筋を重んじる身分社会では、王妃から生まれた子どもしか、認められない。

 だから愛人には、伯爵夫人とかの称号を与えて、既婚者扱いをするのね。
 そしたら生まれた子どもは、伯爵の子どもになるから。

 そんな訳で、生まれを理由にして、お仕事は王様の側仕えの侍女にしたわけです。

 基本いつも王様の近くで、控えているだけのお仕事です。
 そして王様を騙そうとしている時には、そっとお水をだしたりして合図を送ります。

 殺意がある時は、決められた紐を引けば警報が鳴って、王様はすぐに避難して、近衛騎士が来る手筈になっています。

 そして困ったことに、カナリア警報は、毎日のように発令されるので、王様が私を近くにおきたがるのは、今では当然のように思われています。

 なんだかすっかり取り込まれてしまったようですね。
 そんな警戒はしていても、ある意味平凡な日常が、ある国の使節団が来たことによって終わりを告げました。

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