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反乱と秘密

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 やばいなぁ~、騎士さまか兵士かはわからないけれども、日本でいうところの警察と軍隊を併せ持った権力を持っている人でしょう?

 私がこの世界で、絶対に避けておきたい相手がお金や権力を持つ相手なんだよねぇ。
 ともかく力を持つ側の好意なんて、とても気まぐれなものだ。

 はしごで持ち上げておいて、はしごを外すなんてことは平気だし、外すだけでなく突き落として楽しむ場合もある。

 だからせめて大人の姿だったら、もっと選択肢が増えたんだけれども、なんせ見た目は12歳の少女なんだよねぇ。

 うまくごまかせるといいんだけど。
 こっちは知られたくない秘密を抱え込んでいる訳だし。

「あの、騎士様。ご心配ありがとうございます。家人とは神殿で待ち合わせをしていますの。困っている訳ではありませんわ」

 騎士様がたはそれを聞くとお互いに顔をあわせて、にやりとした。
「決まりだな」

 えっ、何が決まりなの?私の今のセリフで何かおかしいことなんてありました?

「それでは、我々が神殿までご案内いたしますよ。遠慮は無用です。どうせ我々も詰所に戻るところですから」

 と言いながら私の左右を固めてしまう。
 これ、完全に連行されるパターンですね。

「騎士様、お申し出は嬉しいのですが、私はまだ買い物の途中なので……」

 みなまで言わせず
 「お嬢さん、何があったかは知りませんが、家出なんてするもんじゃありませんよ。王都とはいえ、女の子のひとり歩きは危険です。共もつけずに歩きまわるものじゃない」

 家出娘と間違われましたよ。
 確かに日本でも江戸時代には、中産階級の娘がお伴を連れずに外出することはなかったですね。

 しまったなぁ。
 この服は中産階級の服で、労働者階級のものじゃないんだ。

 階級社会だと、服装や言葉使いが所属する階級ごとに決まっている。
 私の言葉使いで、騎士様たちは私の身分を中産階級の娘だと認定したんだ。

 とはいえ日本では、ある意味みんな中産階級なみの教育を受けているし、労働者特有の言い回しは、私には無理だ。

 衣服を着替えても、言葉使いですぐに怪しまれてしまうだろう。
 何だろう?この世界で動きだしてすぐに詰んでしまいましたよ。

「騎士さま、家出ではございませんわ。共の者とはぐれてしまいましたが、その場合には神殿で落ち合う約束をしておりました。家人と申しましたのはその者のことです。」

「それはお困りでしたね。そんな状態でしたら共の者とすぐに合流する方がいいですよ。買い物は後にしてすぐに神殿に行きましょう」

 とりあえず家出認定は外せたようだけど、神殿まで同行することは決定してしまった。

 地方の小さな神殿に身を寄せるつもりだったのに、ここは王都みたいだ。中枢の神殿なんて潜りこめる気がしないし、潜りこみたくない。

 今までの異世界トリップの主人公って、どうやってたんだっけ。
 私が飛び切りバカなんだろうか?
 自己嫌悪に落ち込んで黙りこくって歩いていると

 前方で騒ぎ声とともに、大勢の人が逃げてきた。
「謀反だ!オーギュスト侯が裏切ったぞ!」
「逃げろ!王都が戦場になるぞ!」
「アキレス公の軍が、すぐ近くまできている」

 謀反とか戦争とか、もう死亡フラグしか見えないんですけど。

「娘!来た道を戻れ!広場の先、黒猫の看板の店にモラルの紹介だと言ってかくまってもらえ!あの男なら信頼できる。行け!」

 そう叫ぶなり騎士様方は、群衆をかき分けて走り出していった。
 私も逆方向にダッシュ!
 
「ありがとう。モラルさま。死なないでくださいね」

 我勝ちに逃げ惑うのかと思ったら、自分の家に閉じこもる選択をする人が多いようだ。

 反乱軍も、さすがに王都には火を放たないだろうという判断と、せっかく築いた財産や地位を失うのがおしいのだろう。

 黒猫の看板はすぐに見つかった。
 扉は固く閉じていたが、私は構わずドンドン、ドンドンと扉を力任せに叩く。

「何だぁ!やろうってのか?もしも俺の店に1歩でも入り込んでみやがれ。命はねぇものと覚悟しやがれ!」

「お願いです。助けて下さい。モラルさまの紹介なんです」

「モラルの旦那?」
 少しの逡巡のあと

「ダメだ!例えモラルの旦那の願いでも、この扉は金輪際開けられねぇ。」

モラルさま、あなたの信頼度ってかなり低いようですよ。

「わかりました。けれど情報をください。私にはこの町に知り合いがひとりもいません。どこか少しでも身を寄せるられる場所は知りませんか」

「知り合いがいねぇってのは、どういう事だ?」

 扉越しに大声でやり合っていると
「ゴードン、扉を開きなさい。事情は直接問いただせばいいでしょう。」

 命令するのに慣れた声が聞こえた。
 ヤバイ!絶対にこの声はヤバイ!別の場所に逃げよう。

すぐに扉から離れ逃げ出そうとすると、むんずと腕を掴まれてそのまま部屋に連れ込まれた。

「何だぁ、かくまってくれと言いながら逃げ出すつもりかぁ。じっくり話し合いう必要がありそうだなぁ。譲ちゃんよぉ」

 いえいえ、私の方は全くお話したくありません。モラルさま、このゴリラみたいな大男からは、危険の匂いしかしませんが、人選間違えていませんかね。

 それともボッチで友達が、このゴリラさんしかいないとか?
 モラルさんの交友関係を憂えていると

「ゴードン、そんな風にすごんだら話なんてできないよ。かわいそうに、まだ少女だよ」
 
 マントを目深にかぶった男が、柔らかにゴリラ男の暴走を止めてくれたけど、私が逃げ出そうとした原因は、あなたです。

 「いえ、いえ、たまたまモラルさまと出会って黒猫亭を紹介されので、参りました訳でして、ご迷惑のようなのですぐにお暇しますわ。」

「もう家の中に入っているだろうが。モラルの旦那には世話になってるんだ。旦那の顔を潰すわけには行かねぇだろうがよ。まぁゆっくりしてってくれ」

「だってあなたは、モラルの旦那の頼みでも扉は開けられねぇって、さっきそのお口で言いましたよね。」

 被った猫を下して、ジト目で詰め寄ると、ゴリラ男は困ったようにぼりぼりと指で顔をかいている。
 案外いい人なのかもしれませんね。

「ゴードン、お前の負けだな」
 マント男がクスクス笑いながら、マントを脱いだ。

 マントは被っててほしかったです。見事な金髪と青い瞳、そして何よりも自信に溢れ、人に屈したことのない目。

 決まりですよね、この状況から考えればまず王族の一員に違いない。
 できれば、なるべく王位継承順位が低いといいのですが。

「ふん、王都に知り合いはいないと言いながら、私の身分を察したか?」

「お前は、誰だ」
 一切のごまかしを許さない声音で男は質問を発した。
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