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霊獣さまがやってきた
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「なぁアンタ。こいつ何故知ってたんだ?あの実を食べたら消滅を免れるって。怪しすぎるだろう」
ぼそぼそとそんな会話が交わされているのを、おぼろげな意識が拾い上げていく。
ぼんやりと目を開けると、二人の男の姿が見える。
「気が付いたようだね。どこか痛むところはあるかい?木から落ちたようだからね。怪我はないようだけど。」
そんな風に声をかけてきたのは、銀色の髪に菫色の瞳、白いローブのようなものを纏った20代くらいの青年だった。
その隣には、不審そうな視線をかくす気配すら見せない、黒髪で黒い瞳の15歳くらいの少年が、これまた黒いマントを羽織っている。
なんだ黒ずくめなんて、まるで中二病みたいだな。
そんな風に感じて少し笑ってしまった。
「おいアンタ。なにニヤニヤしているんだよ。」
さっそく黒マントの少年が噛みついてきたのを、銀髪の青年がやれやれといった様子でなだめてくれる。
「命の恩人にそんな態度はないでしょう。すこし頭を冷やしなさい。この世界では、仲間割れする余裕があるようには思えませんからね。」
ゆっくりと身体をおこしてみたが、とくに痛みを感じることはなく、身体が今まで感じたこともないくらい軽やかに動く。
けれどもすぐに違和感を覚えて自分の身体をまじまじと観察すると、身体は12歳くらいの少女の体型になってしまっていた。
鏡を見ないと正確なところはわからないけれど、顔にかかる髪はサラサラの金髪で、手足は白く恐ろしいほど華奢で、凹凸が無くなってペタンコ体型になっている。
私は胸にボリュームがある方だったから、身体が軽く感じたのはきっとそのボリュームがなくなったせいね。
「あの。皆さんもあの電車に乗っていて、木の実を食べたという認識であっていますか?姿形が全く変わっているうえに、衣服まで着ている理由がわかりません。もしかして着替えさせてくれたとか?」
正直たとえ好意からとはいえ、女性の意識がないときに勝手に着替えさせるなんて失礼だと、その時の私は少し怒っていた。
とりあえずあの時、チュニックは纏っていたし、着替えなければならない緊急性はなかった筈だ。
それなのに今は、膝丈の薄い水色のワンピースのうえに紺色のケープを着ている。
私が不機嫌になったのを、素早く感じとった青年は穏やかな笑みを浮かべながら、安心させるように言った。
「私たちも気が付いたらこんな格好をしていたんですよ。まるでアニメの世界の衣装みたいで、自分で選ぶはずはないんです。私はこう見えて実年齢70歳の爺さんですからね」
「あの時、泣いている赤ちゃんを元気だと言っていたお爺さんなんですね。疑ってごめんなさい。私は三枝奈菜といいます。OLをしていました。ナナと呼んで下さい」
「爺さんは勘弁してください。せっかく若返ったのですからね。私は後藤玲人。この格好にあわせてレイとお呼びください。」
ちょっとおどけた風にレイさんは言った。
年齢を重ねているのに、とても柔軟に対応できてしまうんだ。
そのことに、感心しながら気を引き締める。
柔軟で穏やかな人は、底が知れない分怖い。
たぶん芯がぶれない人だ。
「オレは、扇町高校2年の守谷千斗。剣道部だ。センでいい」
センは私が動揺したのを見て敵認定を取り消したようだ。
基本的に女性には優しいタイプ。
正義感も強いのだろう。
高校生ながら、あの状況で素早く木の実を口にした。
あの時彼らは既に2~3歳くらいまで縮んでいたから、動くことすら難しい状況だったはず。
大人とは経験値が圧倒的に少ない中での、迷いのない判断力は、素晴らしいものがある。
それにしても、ここはどこなんだろう。
これからどう行動すべきか。
そんな事を話していたら、不意に頭上に大きな影がかかり
「おやまぁ、異世界人かい?珍しいね。しかも3人も……。長生きはするものだね」
そんな事を言いながら空から舞い降りてきたのは、巨大な熊だった。
人間の10倍はある体躯は紺色で、しかも似合わないことに天使みたいな白い羽が背中から生えている。
素早くセンが剣を構え、レイもメイスを握りしめて私を後ろにかばうようにして立つ。
あなた達、いつの間にそんな武器なんて用意したんですか?
私には武器とかないんですかね。
でも、とりあえずお話を聞いた方がいいと思う。
この熊さん?には敵意は感じられないから。
それよりも、あなた達はいったい何なの?
レイさんの背後には銀狐、センには黒獅子の姿がくっきり浮かんで見えているんですけれど、日本人だったんですよね。
紺熊よりは、よっぽど恐ろしいオーラを振りまいている2人の後ろから、おそるおそる声をかける。
「あの、ともかくお話聞いてみませんか?レイさんセン君」
「レイと呼んで下さい」
「センです」
2人とも、そういうところはお揃いなんですね。
それでもともかく熊さんとお話合いをするところまでこぎつけた私を、誰かほめて欲しい。
ぼそぼそとそんな会話が交わされているのを、おぼろげな意識が拾い上げていく。
ぼんやりと目を開けると、二人の男の姿が見える。
「気が付いたようだね。どこか痛むところはあるかい?木から落ちたようだからね。怪我はないようだけど。」
そんな風に声をかけてきたのは、銀色の髪に菫色の瞳、白いローブのようなものを纏った20代くらいの青年だった。
その隣には、不審そうな視線をかくす気配すら見せない、黒髪で黒い瞳の15歳くらいの少年が、これまた黒いマントを羽織っている。
なんだ黒ずくめなんて、まるで中二病みたいだな。
そんな風に感じて少し笑ってしまった。
「おいアンタ。なにニヤニヤしているんだよ。」
さっそく黒マントの少年が噛みついてきたのを、銀髪の青年がやれやれといった様子でなだめてくれる。
「命の恩人にそんな態度はないでしょう。すこし頭を冷やしなさい。この世界では、仲間割れする余裕があるようには思えませんからね。」
ゆっくりと身体をおこしてみたが、とくに痛みを感じることはなく、身体が今まで感じたこともないくらい軽やかに動く。
けれどもすぐに違和感を覚えて自分の身体をまじまじと観察すると、身体は12歳くらいの少女の体型になってしまっていた。
鏡を見ないと正確なところはわからないけれど、顔にかかる髪はサラサラの金髪で、手足は白く恐ろしいほど華奢で、凹凸が無くなってペタンコ体型になっている。
私は胸にボリュームがある方だったから、身体が軽く感じたのはきっとそのボリュームがなくなったせいね。
「あの。皆さんもあの電車に乗っていて、木の実を食べたという認識であっていますか?姿形が全く変わっているうえに、衣服まで着ている理由がわかりません。もしかして着替えさせてくれたとか?」
正直たとえ好意からとはいえ、女性の意識がないときに勝手に着替えさせるなんて失礼だと、その時の私は少し怒っていた。
とりあえずあの時、チュニックは纏っていたし、着替えなければならない緊急性はなかった筈だ。
それなのに今は、膝丈の薄い水色のワンピースのうえに紺色のケープを着ている。
私が不機嫌になったのを、素早く感じとった青年は穏やかな笑みを浮かべながら、安心させるように言った。
「私たちも気が付いたらこんな格好をしていたんですよ。まるでアニメの世界の衣装みたいで、自分で選ぶはずはないんです。私はこう見えて実年齢70歳の爺さんですからね」
「あの時、泣いている赤ちゃんを元気だと言っていたお爺さんなんですね。疑ってごめんなさい。私は三枝奈菜といいます。OLをしていました。ナナと呼んで下さい」
「爺さんは勘弁してください。せっかく若返ったのですからね。私は後藤玲人。この格好にあわせてレイとお呼びください。」
ちょっとおどけた風にレイさんは言った。
年齢を重ねているのに、とても柔軟に対応できてしまうんだ。
そのことに、感心しながら気を引き締める。
柔軟で穏やかな人は、底が知れない分怖い。
たぶん芯がぶれない人だ。
「オレは、扇町高校2年の守谷千斗。剣道部だ。センでいい」
センは私が動揺したのを見て敵認定を取り消したようだ。
基本的に女性には優しいタイプ。
正義感も強いのだろう。
高校生ながら、あの状況で素早く木の実を口にした。
あの時彼らは既に2~3歳くらいまで縮んでいたから、動くことすら難しい状況だったはず。
大人とは経験値が圧倒的に少ない中での、迷いのない判断力は、素晴らしいものがある。
それにしても、ここはどこなんだろう。
これからどう行動すべきか。
そんな事を話していたら、不意に頭上に大きな影がかかり
「おやまぁ、異世界人かい?珍しいね。しかも3人も……。長生きはするものだね」
そんな事を言いながら空から舞い降りてきたのは、巨大な熊だった。
人間の10倍はある体躯は紺色で、しかも似合わないことに天使みたいな白い羽が背中から生えている。
素早くセンが剣を構え、レイもメイスを握りしめて私を後ろにかばうようにして立つ。
あなた達、いつの間にそんな武器なんて用意したんですか?
私には武器とかないんですかね。
でも、とりあえずお話を聞いた方がいいと思う。
この熊さん?には敵意は感じられないから。
それよりも、あなた達はいったい何なの?
レイさんの背後には銀狐、センには黒獅子の姿がくっきり浮かんで見えているんですけれど、日本人だったんですよね。
紺熊よりは、よっぽど恐ろしいオーラを振りまいている2人の後ろから、おそるおそる声をかける。
「あの、ともかくお話聞いてみませんか?レイさんセン君」
「レイと呼んで下さい」
「センです」
2人とも、そういうところはお揃いなんですね。
それでもともかく熊さんとお話合いをするところまでこぎつけた私を、誰かほめて欲しい。
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