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おやつ
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カランカランという夢幻堂の扉が開くのも、この頃では日常的な風景になっています。
いつの間にか夢幻堂の看板娘になったノエルが、いそいそとお出迎えをしました。
昼間は瑠偉は学校ですし、冴子さんはたまに夢幻堂に遊びにくるだけで普段はいません。
そして本来率先してお仕事をするはずの有朋は、大抵書庫に籠って本を読んでいるかお昼寝をしています。
有朋の場合は10年もの間、仕事を干されていたのに、これ幸いと趣味に没頭するような人間ですから、仕事をするつもりがあるかどうかも怪しいものなんです。
だから今日も、ノエルがいそいそとお出迎えするのです。
「ようこそいらっしゃいました。」
にっこりとノエルが営業スマイルをすると、相手の男の人はギロっとノエルを睨んで、主を呼ぶようにいいました。
「かしこまりました。どうぞこちらへ」
そんな時の対応もノエルはお手の物です。
なにしろ冴子さんにビシバシとしごかれたのですから。
「しつれいですがどちらさまでいらっしゃいますか」
ノエルが名前をきくと、男の人はわからないのかと怒りました。
でもノエルはちゃんとこの夢幻堂に来た人は覚えていますから、この男の人は今日が初めてのお客さまです。
「ごそんめいをおきかせいただけますか」
ノエルは冴子さんに教えて貰った通りにもう一度訪ねました。
「うるさい! わしはガキの相手をするほど暇じゃない。さっさと主を呼んでこい」
男の人は偉そうにノエルに怒鳴りました。
ノエルの目がすぅっと細くなりました。
髪は白く足元まで伸びて瞳は赤く光ります
冴子さんからは、名前を名乗らないものは、客として扱わなくてもいいと言われています。
客じゃないならごはんですよね。
男の人はみるみるうちに青白くなり、なんだかげっそりとやつれていきます。
ノエルはちゃんと冴子さんとの約束を守っています。
にんげんをたべるときは、はんぶんこはいけません。
にんげんをたべるときは、はんぶんのそのまたはんぶんにします。
そうしないとお父さまとお母さまと瑠偉が困るからです。
「かえらないとぜんぶたべるよ」
ノエルがそういうと、男の人は必死になって立ち上がろうとしましたが、うまくいきません。
ずりずりとはいずりながら、なんとか扉の外に出ました。
ノエルはきちんとお仕事ができたので大威張りです。
それにちょこっとだけどおやつも食べましたしね。
いつの間にかノエルの姿は愛らしい幼女に戻っていました。
「おーいノエル。お客さんこなかったかな。うっかり約束の時間を忘れてしまってなぁ。もうきているはずなんだけど」
お父さまがそういいました。
ノエルはこてんと首をかしげました。
「おきゃくさまじゃない人ならきたから、ノエルは、はんぶんのはんぶんをちゃんとたべたよ。そうしたらかえりました」
「ノエル。お前のお客様と客じゃない奴の基準ってなんなんだ?」
有朋は困った顔をして尋ねました。
「おなまえをいえばおきゃくさまで、おなまえをいわないのは、はんぶんのはんぶんをたべてもいいおやつなの」
ノエルが胸を張って答えましたから、有朋はがっくりとしました。
「ノエルそれ、誰に習ったんだ?」
「おかあさまにおしえてもらいましたぁ」
ノエルはニコニコしながらお返事をしました。
「えーとね。ノエルがおやつを食べるまえにお父さまかお母さまか瑠偉に聞いてもらえないかな。もしかしたら誰かの知り合いかも知れないからね」
有朋はノエルの目を見て真剣にいいました。
ノエルは素直にこくんとうなずきました。
「はぁーい。ノエルは、おやつをたべるまえに、おとうさまか、おかあさまか瑠偉にききます」
それからもう一度こてんと首をかしげて聞きました。
「おとうさま、だれもいないときは、たべてもいい?」
有朋は少し考えて返事をしました。
「そうだなぁ。アポイントメントを取ってない奴で、名前も言わないならしかたないだろうなぁ。わかったノエル。名前を言わない人が、誰もいない時に来たら、おやつにしてもいい。でも絶対に半分の半分しか食べないこと。約束だぞ」
「はぁーい」
ノエルは元気にお返事をしました。
「しっかし大丈夫だったかねぇ。いやぁ、しかし叔父さんはけっこう頑丈だからねぇ。生気の四分の一くらい吸われたぐらいじゃこたえないでしょう。まぁ運がなかったんだなぁ。おかげで変な仕事を押し付けられなくて済んだみたいだし」
有朋はそんなことをぶつぶつと呟くとノエルの頭を撫でてやりました。
「ノエルはとってもお利口さんだねぇ。お父さまは助かるよ」
そうやって褒められたので、ノエルはますますやる気が出てきました。
これからもノエルは夢幻堂の看板娘として、しっかりとお仕事をしていきます。
できたらおやつの人がたくさんきてくれるとうれしいなぁとノエルは思いました。
いつの間にか夢幻堂の看板娘になったノエルが、いそいそとお出迎えをしました。
昼間は瑠偉は学校ですし、冴子さんはたまに夢幻堂に遊びにくるだけで普段はいません。
そして本来率先してお仕事をするはずの有朋は、大抵書庫に籠って本を読んでいるかお昼寝をしています。
有朋の場合は10年もの間、仕事を干されていたのに、これ幸いと趣味に没頭するような人間ですから、仕事をするつもりがあるかどうかも怪しいものなんです。
だから今日も、ノエルがいそいそとお出迎えするのです。
「ようこそいらっしゃいました。」
にっこりとノエルが営業スマイルをすると、相手の男の人はギロっとノエルを睨んで、主を呼ぶようにいいました。
「かしこまりました。どうぞこちらへ」
そんな時の対応もノエルはお手の物です。
なにしろ冴子さんにビシバシとしごかれたのですから。
「しつれいですがどちらさまでいらっしゃいますか」
ノエルが名前をきくと、男の人はわからないのかと怒りました。
でもノエルはちゃんとこの夢幻堂に来た人は覚えていますから、この男の人は今日が初めてのお客さまです。
「ごそんめいをおきかせいただけますか」
ノエルは冴子さんに教えて貰った通りにもう一度訪ねました。
「うるさい! わしはガキの相手をするほど暇じゃない。さっさと主を呼んでこい」
男の人は偉そうにノエルに怒鳴りました。
ノエルの目がすぅっと細くなりました。
髪は白く足元まで伸びて瞳は赤く光ります
冴子さんからは、名前を名乗らないものは、客として扱わなくてもいいと言われています。
客じゃないならごはんですよね。
男の人はみるみるうちに青白くなり、なんだかげっそりとやつれていきます。
ノエルはちゃんと冴子さんとの約束を守っています。
にんげんをたべるときは、はんぶんこはいけません。
にんげんをたべるときは、はんぶんのそのまたはんぶんにします。
そうしないとお父さまとお母さまと瑠偉が困るからです。
「かえらないとぜんぶたべるよ」
ノエルがそういうと、男の人は必死になって立ち上がろうとしましたが、うまくいきません。
ずりずりとはいずりながら、なんとか扉の外に出ました。
ノエルはきちんとお仕事ができたので大威張りです。
それにちょこっとだけどおやつも食べましたしね。
いつの間にかノエルの姿は愛らしい幼女に戻っていました。
「おーいノエル。お客さんこなかったかな。うっかり約束の時間を忘れてしまってなぁ。もうきているはずなんだけど」
お父さまがそういいました。
ノエルはこてんと首をかしげました。
「おきゃくさまじゃない人ならきたから、ノエルは、はんぶんのはんぶんをちゃんとたべたよ。そうしたらかえりました」
「ノエル。お前のお客様と客じゃない奴の基準ってなんなんだ?」
有朋は困った顔をして尋ねました。
「おなまえをいえばおきゃくさまで、おなまえをいわないのは、はんぶんのはんぶんをたべてもいいおやつなの」
ノエルが胸を張って答えましたから、有朋はがっくりとしました。
「ノエルそれ、誰に習ったんだ?」
「おかあさまにおしえてもらいましたぁ」
ノエルはニコニコしながらお返事をしました。
「えーとね。ノエルがおやつを食べるまえにお父さまかお母さまか瑠偉に聞いてもらえないかな。もしかしたら誰かの知り合いかも知れないからね」
有朋はノエルの目を見て真剣にいいました。
ノエルは素直にこくんとうなずきました。
「はぁーい。ノエルは、おやつをたべるまえに、おとうさまか、おかあさまか瑠偉にききます」
それからもう一度こてんと首をかしげて聞きました。
「おとうさま、だれもいないときは、たべてもいい?」
有朋は少し考えて返事をしました。
「そうだなぁ。アポイントメントを取ってない奴で、名前も言わないならしかたないだろうなぁ。わかったノエル。名前を言わない人が、誰もいない時に来たら、おやつにしてもいい。でも絶対に半分の半分しか食べないこと。約束だぞ」
「はぁーい」
ノエルは元気にお返事をしました。
「しっかし大丈夫だったかねぇ。いやぁ、しかし叔父さんはけっこう頑丈だからねぇ。生気の四分の一くらい吸われたぐらいじゃこたえないでしょう。まぁ運がなかったんだなぁ。おかげで変な仕事を押し付けられなくて済んだみたいだし」
有朋はそんなことをぶつぶつと呟くとノエルの頭を撫でてやりました。
「ノエルはとってもお利口さんだねぇ。お父さまは助かるよ」
そうやって褒められたので、ノエルはますますやる気が出てきました。
これからもノエルは夢幻堂の看板娘として、しっかりとお仕事をしていきます。
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