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カップル成立
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ティータイムにあわせてアリスとカムイがやってきました。
カフェにだすメニューの試食をして欲しいというのです。
私もいろいろ相談したいこともあったので、ちょうどよかったですね。
私室でミリー、ベッキー、ジャンヌと一緒にいただくことにします。
カムイブレンドというコーヒーは、深煎りですが酸味と苦みのバランスがとれたタイプです、
「とても工夫しているのがわかるわね。これならケーキとあわせることもできますし、お砂糖とミルクを入れて楽しみたいって人にもぴったりよ」
私が絶賛すると、カムイはにやっとして
「ロッテはストレートで飲みたいんだな。じゃぁもう1杯いれてやるよ」
と言って、ゆっくりとコーヒーを落としてくれます。
こうやって、コーヒーが入るのを待つ時間も楽しみのひとつですよね。
そうして丁寧にいれられたコーヒーは……。
「おいしい! ふわぁ。至福だわぁ」
私は目を細めてゆっくりとコーヒーを味わいました。
こういうタイプってカフェでは少なくなりましたよね。
こうあっさりとマイルドなのに、コーヒーのうっとりとするような豊かさが感じられるというか……。
日本だと小さなカウンターで飲み物しか出ないようなお店で飲めるかもしれないコーヒーです。
私がいかにも幸せそうに飲んでいるのを見て、皆も飲みたくなったみたいです。
カムイさんは手間を惜しむことなく、全員にそのコーヒーを出してくれました。
私は思わず言ってしまいました。
「ねぇ、そっちのコーヒーを飲むときは、ストレートで飲んでよ。ケーキを食べた人はお水で口をリセットしてね。だって素晴らしくおいしいんですもの」
私が真剣な顔をしてみんなに説明しているのを、カムイさんはニコニコしながら聞いています。
やっぱり相当のコーヒー好きみたいです。
「おいしい」
「まぁ、これがコーヒー? 今まで飲んでたのと全然違うわ」
「こんなにまろやかなのに、やっぱりコーヒーなの。しっかりコーヒーって主張してる」
ふふふ、びっくりしただろう。
私は自分の手柄みたいな顔をしていいまいした。
「そう簡単に次も飲めると思わないことね。これはきっとおそろしく高いわよ」
カムイさんは、にっこりとして
「ええ、そのコーヒー豆はかなり高価なのですよ。流通量も少ないし、このコーヒーをお客様に提供するのは値段が高くなりすぎるので、難しいですね。まぁ私の趣味ですよ」
うんうんそうだろうとも。
私は最近日本で流行しているエスプレッソタイプより、ゆっくりと丁寧に落としていくドリップコーヒーが好きです。
面倒だから家ではコーヒーメーカーを使いますが、うんと美味しいコーヒー豆が手に入ったら、自分でドリップします。やっぱりドリップしたコーヒーは、ずっと美味しくなりますからね。
「けれどカムイブレンドも美味しいわよ。タイプが違うだけだわ」
カムイさんは頷きましたが、そこにはコーヒーマスターとしての自信が溢れていました。
「もう、カムイさんのコーヒーばかり褒めないで、私のケーキも食べてくださいよ」
アリスがぷうと頬を膨らませてそう言いました。
この子ってば、動作がいちいち可愛らしいのです。
アリスが今日もってきたのは、定番のアップルパイ、生のベリーとベリージャムそれに生クリームをたっぷりと使ったベリーケーキ。そしてカスタードクリームを詰め込んだシュークリームの3点です。
定番中の定番って感じだけど、これが美味しいと又食べに行きたくなるものです。
目先の変わったものよりお客様に馴染みのあるもので、だからこそあの懐かしい味が食べたいって思ってもらうほうが、長く愛されると思うのです。
本当は目玉になるのはひとつに絞りたいぐらいなんですけどね。
「すごいアリス。絶品だわ。特にこのアップルパイがいいわねぇ。なんだろう。どこかで食べたような懐かしい気持ちになるのに、こういったアップルパイってなかなか食べられないのよねぇ。何が違うんだろう?」
「えへへ。私もその中ではアップルパイが一押しなんです。このアップルパイは我が家の秘伝のレシピなんですよ。我が家はリンゴ農園だったんですよ。竜巻で全部吹っ飛んじゃったんですけどね」
少しも不幸の陰りを見せずにアリスがいいました。
それは壁外に女の子がひとりでいるんだから、もうきっと家族に会えないのだろうとは察していましたけれど、そんなことがあったんですね。
「じゃぁアリス。カフェの名物はカムイブレンドコーヒーとアリスのアップルパイで決まりだね。これなら絶対にリピーターがつくわよ」
ミリーやベッキー、ジャンヌも、うんうん、と頷いています。
少しばかり目に涙が滲んでいる人がいますが、こらえて下さいね。
今は楽しいひとときにしたいのですから。
「それでカフェの名前はなんと言いましたかしら。私お聞きするのを忘れておりまして」
ミリーが質問しましたけど、私も聞いていません。
カムイとアリスもぽかんとした顔をしています。
忘れていましたよね。
「えっと、カフェの名前はきまっていないのね。じゃぁ服はどうするの?可愛らしいメイド服とか、カッコイイ給仕服とか作らないとね。名前が決まらないと服のデザインも決まらないんじゃない? 」
「ちょっとナオに確認してきます」
そう言うなりカムイが離れに走っていきました。
みんなの視線がアリスに集中するとアリスは手をバタバタさせて一生懸命に弁解しています。
「だってね。ほら、私は毎日ケーキを焼いて、メニューを考えてしたし、カムイだってあのカムイブレンドにおちつくまでは、何回もブレンドの試作を繰り返していたし、お店の名前なんて忘れてたんだもの」
まぁ、計画にぽっかりと穴が開いてしまうなんてことはあり得ることですものね。
それにたぶんお客様は、図書館の中のカフェ。ライブラリーカフェとしか呼ばないかもしれませんよ。
だってこのカフェが珍しいのは、図書館にあるってことですものね。
わずか5分足らずでカムイが戻ってきました。
ぜいぜいと荒い息をしていますが、何もそこまで急ぐこともなかったでしょうに。
「はぁはぁ、えっとナオさんが言うにはカフェの名前は『喫茶店ナオ』だそうです。それで制服はアンバー公子が馴染みの仕立て屋に頼んでくれるそうで、今ナオがデザインをスケッチしています」
『喫茶店ナオ』随分古めかしい印象の名前ですね。
それならライブラリーカフェの方がましな気がしますけどね。
今から仕立てるって、間に合うのかなぁ。
こっちで服を作る時って、けっこう時間が掛かってましたけどね。
それでもアンバー公子が、請け負ったなら大丈夫なんでしょうねぇ。
「ねぇ、カムイ。もしかしてアンバー公子って一日中、ナオと離宮にいるんじゃないの?」
私がそう聞くと、カムイは困った顔をしました。
カムイは人の噂話をしない人なんですね。
そこにアリスが口をだしました。
「アンバー公子ってナオが好きなんだと思うなぁ。毎日朝一番にやってきて、夕食を食べてから帰るんだもの。それに一日中ナオの側にピッタリと張り付いているんですからね」
おっと! アリスは少しお口が軽いようです。
これってリリーの懸念が本当になっている訳ではないですよねぇ。
「ナオもアンバー公子のこと、好きなのかなぁ? ナオはなんか言ってなかった?」
「ナオは誰にでも分け隔てなく親切だからなぁ。好きなのかどうかはわかんないなぁ」
アリスの返事も要領を得ません。
こればっかりは、問題になってから対応するしかありませんものね。
私はオープン記念に、クッキーを配るというアイデア(アイデアと言う程のものではありませんが)をアリスに伝えてみました。
アリスは大喜びで、準備をするって張り切っていますけれども、オープン記念の一月くらいなら経費的には問題ありませんよね。
そのあたりをカムイに尋ねると、元々コーヒーが好きで喫茶店をはじめたいと真剣に思っていたというカムイは、きちんと計算していたらしく、問題ありませんよと笑ってくれました。
そこでカフェのお話はおしまいになり、私たちはたわいもない話で盛り上がっていました。
その時、ふいにカムイが聞いてきました。
「あの離宮っていつまでお借りできるのでしょうか? あの離宮に住んでいる限り僕たちには基本的な衣食住が保障されています。いや料理人や執事までいる生活って贅沢すぎるぐらいです。けれどもいつまでもって訳にはいかないでしょう?」
カムイはいつか夢を叶えるためにと、それこそごくわずかではあっても少しづつ貯金をしていたみたいです。
いまは喫茶店の開店準備をしているということで、お給料をもらっているのに生活費は出していません。
考えられない好待遇に困惑しているみたいです。
「お母さまはナオに離宮をあげるって言ったのですから、ナオさえ文句を言わなければいつまでだって住んでいられると思いますよ。住み込みの仕事だと考えればいいんじゃありませんか?」
住み込みという言葉でカムイも気が楽になったようです。
「そうですね。いつまでもナオに甘えてはいられないけれど、せめて『喫茶店ナオ』が軌道に乗るまでくらいなら甘えててもいいですよね」
カムイの返事にアリスは不安そうな顔になりました。
「私もいつかは、あの離宮を出ないといけなくなるのかなぁ」
「当たり前だろう。ナオと僕たちでは立場が違うもの。それにアリスだって結婚するかもしれないし、そうなったら当然旦那さんと暮らすことになるじゃないか」
アリスは旦那さんという言葉をきくと、いきなり真っ赤になりました。
「そ、そ、そうですよねぇ。け、けっこんですよねぇ。アリスとしては、いつでもいいっていうか、なんというか。けっこん。きゃぁ恥ずかしい」
そういってひとりで盛り上がってしまいます。
「なんだぁ。アリスはカムイと結婚したいのかぁ」
ジャンヌがズバリと言ったので、カムイとアリスはたちまちおろおろとうろたえてしまいました。
それでもさすがにカムイは年長者らしくアリスを見つめて聞きました。
「アリスはこんな僕と結婚したいと思っているの? ほんとうに?」
「はい、カムイと結婚したいんです。カムイじゃなきゃいやなんです」
アリスも決めるべきところは決める女の子でした。
いつもわたわたしているだけじゃありません。
カムイはアリスの頭をなでてやりながら、にっこりしました。
「僕もお嫁さんはアリスがいい。アリスじゃなきゃ嫌だな」
まさかの両思いでした。
カムイがいずれ離宮を出たいと考えたのはアリスと結婚したかったからなんですね。
可愛いカップル誕生に立ち会えて、みんなほっこりとした笑顔になりました。
カフェにだすメニューの試食をして欲しいというのです。
私もいろいろ相談したいこともあったので、ちょうどよかったですね。
私室でミリー、ベッキー、ジャンヌと一緒にいただくことにします。
カムイブレンドというコーヒーは、深煎りですが酸味と苦みのバランスがとれたタイプです、
「とても工夫しているのがわかるわね。これならケーキとあわせることもできますし、お砂糖とミルクを入れて楽しみたいって人にもぴったりよ」
私が絶賛すると、カムイはにやっとして
「ロッテはストレートで飲みたいんだな。じゃぁもう1杯いれてやるよ」
と言って、ゆっくりとコーヒーを落としてくれます。
こうやって、コーヒーが入るのを待つ時間も楽しみのひとつですよね。
そうして丁寧にいれられたコーヒーは……。
「おいしい! ふわぁ。至福だわぁ」
私は目を細めてゆっくりとコーヒーを味わいました。
こういうタイプってカフェでは少なくなりましたよね。
こうあっさりとマイルドなのに、コーヒーのうっとりとするような豊かさが感じられるというか……。
日本だと小さなカウンターで飲み物しか出ないようなお店で飲めるかもしれないコーヒーです。
私がいかにも幸せそうに飲んでいるのを見て、皆も飲みたくなったみたいです。
カムイさんは手間を惜しむことなく、全員にそのコーヒーを出してくれました。
私は思わず言ってしまいました。
「ねぇ、そっちのコーヒーを飲むときは、ストレートで飲んでよ。ケーキを食べた人はお水で口をリセットしてね。だって素晴らしくおいしいんですもの」
私が真剣な顔をしてみんなに説明しているのを、カムイさんはニコニコしながら聞いています。
やっぱり相当のコーヒー好きみたいです。
「おいしい」
「まぁ、これがコーヒー? 今まで飲んでたのと全然違うわ」
「こんなにまろやかなのに、やっぱりコーヒーなの。しっかりコーヒーって主張してる」
ふふふ、びっくりしただろう。
私は自分の手柄みたいな顔をしていいまいした。
「そう簡単に次も飲めると思わないことね。これはきっとおそろしく高いわよ」
カムイさんは、にっこりとして
「ええ、そのコーヒー豆はかなり高価なのですよ。流通量も少ないし、このコーヒーをお客様に提供するのは値段が高くなりすぎるので、難しいですね。まぁ私の趣味ですよ」
うんうんそうだろうとも。
私は最近日本で流行しているエスプレッソタイプより、ゆっくりと丁寧に落としていくドリップコーヒーが好きです。
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「けれどカムイブレンドも美味しいわよ。タイプが違うだけだわ」
カムイさんは頷きましたが、そこにはコーヒーマスターとしての自信が溢れていました。
「もう、カムイさんのコーヒーばかり褒めないで、私のケーキも食べてくださいよ」
アリスがぷうと頬を膨らませてそう言いました。
この子ってば、動作がいちいち可愛らしいのです。
アリスが今日もってきたのは、定番のアップルパイ、生のベリーとベリージャムそれに生クリームをたっぷりと使ったベリーケーキ。そしてカスタードクリームを詰め込んだシュークリームの3点です。
定番中の定番って感じだけど、これが美味しいと又食べに行きたくなるものです。
目先の変わったものよりお客様に馴染みのあるもので、だからこそあの懐かしい味が食べたいって思ってもらうほうが、長く愛されると思うのです。
本当は目玉になるのはひとつに絞りたいぐらいなんですけどね。
「すごいアリス。絶品だわ。特にこのアップルパイがいいわねぇ。なんだろう。どこかで食べたような懐かしい気持ちになるのに、こういったアップルパイってなかなか食べられないのよねぇ。何が違うんだろう?」
「えへへ。私もその中ではアップルパイが一押しなんです。このアップルパイは我が家の秘伝のレシピなんですよ。我が家はリンゴ農園だったんですよ。竜巻で全部吹っ飛んじゃったんですけどね」
少しも不幸の陰りを見せずにアリスがいいました。
それは壁外に女の子がひとりでいるんだから、もうきっと家族に会えないのだろうとは察していましたけれど、そんなことがあったんですね。
「じゃぁアリス。カフェの名物はカムイブレンドコーヒーとアリスのアップルパイで決まりだね。これなら絶対にリピーターがつくわよ」
ミリーやベッキー、ジャンヌも、うんうん、と頷いています。
少しばかり目に涙が滲んでいる人がいますが、こらえて下さいね。
今は楽しいひとときにしたいのですから。
「それでカフェの名前はなんと言いましたかしら。私お聞きするのを忘れておりまして」
ミリーが質問しましたけど、私も聞いていません。
カムイとアリスもぽかんとした顔をしています。
忘れていましたよね。
「えっと、カフェの名前はきまっていないのね。じゃぁ服はどうするの?可愛らしいメイド服とか、カッコイイ給仕服とか作らないとね。名前が決まらないと服のデザインも決まらないんじゃない? 」
「ちょっとナオに確認してきます」
そう言うなりカムイが離れに走っていきました。
みんなの視線がアリスに集中するとアリスは手をバタバタさせて一生懸命に弁解しています。
「だってね。ほら、私は毎日ケーキを焼いて、メニューを考えてしたし、カムイだってあのカムイブレンドにおちつくまでは、何回もブレンドの試作を繰り返していたし、お店の名前なんて忘れてたんだもの」
まぁ、計画にぽっかりと穴が開いてしまうなんてことはあり得ることですものね。
それにたぶんお客様は、図書館の中のカフェ。ライブラリーカフェとしか呼ばないかもしれませんよ。
だってこのカフェが珍しいのは、図書館にあるってことですものね。
わずか5分足らずでカムイが戻ってきました。
ぜいぜいと荒い息をしていますが、何もそこまで急ぐこともなかったでしょうに。
「はぁはぁ、えっとナオさんが言うにはカフェの名前は『喫茶店ナオ』だそうです。それで制服はアンバー公子が馴染みの仕立て屋に頼んでくれるそうで、今ナオがデザインをスケッチしています」
『喫茶店ナオ』随分古めかしい印象の名前ですね。
それならライブラリーカフェの方がましな気がしますけどね。
今から仕立てるって、間に合うのかなぁ。
こっちで服を作る時って、けっこう時間が掛かってましたけどね。
それでもアンバー公子が、請け負ったなら大丈夫なんでしょうねぇ。
「ねぇ、カムイ。もしかしてアンバー公子って一日中、ナオと離宮にいるんじゃないの?」
私がそう聞くと、カムイは困った顔をしました。
カムイは人の噂話をしない人なんですね。
そこにアリスが口をだしました。
「アンバー公子ってナオが好きなんだと思うなぁ。毎日朝一番にやってきて、夕食を食べてから帰るんだもの。それに一日中ナオの側にピッタリと張り付いているんですからね」
おっと! アリスは少しお口が軽いようです。
これってリリーの懸念が本当になっている訳ではないですよねぇ。
「ナオもアンバー公子のこと、好きなのかなぁ? ナオはなんか言ってなかった?」
「ナオは誰にでも分け隔てなく親切だからなぁ。好きなのかどうかはわかんないなぁ」
アリスの返事も要領を得ません。
こればっかりは、問題になってから対応するしかありませんものね。
私はオープン記念に、クッキーを配るというアイデア(アイデアと言う程のものではありませんが)をアリスに伝えてみました。
アリスは大喜びで、準備をするって張り切っていますけれども、オープン記念の一月くらいなら経費的には問題ありませんよね。
そのあたりをカムイに尋ねると、元々コーヒーが好きで喫茶店をはじめたいと真剣に思っていたというカムイは、きちんと計算していたらしく、問題ありませんよと笑ってくれました。
そこでカフェのお話はおしまいになり、私たちはたわいもない話で盛り上がっていました。
その時、ふいにカムイが聞いてきました。
「あの離宮っていつまでお借りできるのでしょうか? あの離宮に住んでいる限り僕たちには基本的な衣食住が保障されています。いや料理人や執事までいる生活って贅沢すぎるぐらいです。けれどもいつまでもって訳にはいかないでしょう?」
カムイはいつか夢を叶えるためにと、それこそごくわずかではあっても少しづつ貯金をしていたみたいです。
いまは喫茶店の開店準備をしているということで、お給料をもらっているのに生活費は出していません。
考えられない好待遇に困惑しているみたいです。
「お母さまはナオに離宮をあげるって言ったのですから、ナオさえ文句を言わなければいつまでだって住んでいられると思いますよ。住み込みの仕事だと考えればいいんじゃありませんか?」
住み込みという言葉でカムイも気が楽になったようです。
「そうですね。いつまでもナオに甘えてはいられないけれど、せめて『喫茶店ナオ』が軌道に乗るまでくらいなら甘えててもいいですよね」
カムイの返事にアリスは不安そうな顔になりました。
「私もいつかは、あの離宮を出ないといけなくなるのかなぁ」
「当たり前だろう。ナオと僕たちでは立場が違うもの。それにアリスだって結婚するかもしれないし、そうなったら当然旦那さんと暮らすことになるじゃないか」
アリスは旦那さんという言葉をきくと、いきなり真っ赤になりました。
「そ、そ、そうですよねぇ。け、けっこんですよねぇ。アリスとしては、いつでもいいっていうか、なんというか。けっこん。きゃぁ恥ずかしい」
そういってひとりで盛り上がってしまいます。
「なんだぁ。アリスはカムイと結婚したいのかぁ」
ジャンヌがズバリと言ったので、カムイとアリスはたちまちおろおろとうろたえてしまいました。
それでもさすがにカムイは年長者らしくアリスを見つめて聞きました。
「アリスはこんな僕と結婚したいと思っているの? ほんとうに?」
「はい、カムイと結婚したいんです。カムイじゃなきゃいやなんです」
アリスも決めるべきところは決める女の子でした。
いつもわたわたしているだけじゃありません。
カムイはアリスの頭をなでてやりながら、にっこりしました。
「僕もお嫁さんはアリスがいい。アリスじゃなきゃ嫌だな」
まさかの両思いでした。
カムイがいずれ離宮を出たいと考えたのはアリスと結婚したかったからなんですね。
可愛いカップル誕生に立ち会えて、みんなほっこりとした笑顔になりました。
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