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奈緒とカフェ
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全員の冷たい視線を受けてセディは、がっくりとうなだれてしまいました。
「ごめんなさい。うちの息子の責任だわ。ナオさんとおっしゃったわよね。クレメンタイン公爵家の養女にならない? あなたの事はクレメンタイン公爵家が全責任を負います」
お母さまが深々とナオに頭を下げましたから、慌ててセディも一緒に頭を下げています。
「いやぁ。私、貴族とかそんなの柄じゃないからねぇ。そんな必要はないよ」
「ちょっと待って! 何言ってんのナオ。ナオは被害者なのよ! 地球からいきなり誘拐されたようなもんじゃないの。責任者であるセディは償っても償いきれない罪をおかしたのよ」
私がたまりかねて口を挟みました。
私の言葉を聞いて、セディの頭はもはや地面にめり込みそうになっています。
「うーん。だって地球には私の居場所なんてないしさ。私は勉強が嫌いで成績悪いし、家族もいないし、半ば路上生活だったんだよね。それに比べたらこっちは居心地がいいんだ。友達もできたし夢もあるしさ」
「家族がいないって? それに夢ってどんな?」
「一応戸籍上の親はいるよ。でも虐待がひどくてさ、施設に引き取られて大きくなったんだよね。夢はカフェをやることなんだよね。友人の中にはケーキとか焼けるやつもいるし、コーヒー豆に詳しいやつもいるんだ。壁外は、訳あり人間のたまり場だからね」
「僕の保険で付けた条件には、地球では居場所がなく孤独な少女。という一文があるんだ。もしも異界に僕の番がいないのなら、困難に負けないで前向きな少女のスポンサーになりたいと思ったのさ」
どうやらセディは結婚相手としてナオを召喚した訳ではなく、召喚術が成功した証として、ひとりの少女の夢を応援したいと願ったようです。
「だからナオ。僕が君のスポンサーだ。好きなようにやりなさい。僕のお金も人脈もなんでも使うといい。夢を実現するためには、何だって利用する。そんなバイタリティーのある少女を僕は召喚したんだから」
「ありがとう。セディ?さん。喜んで助けていただきます。公爵家がスポンサーなんて、ビック過ぎて仲間もびっくりするんじゃないかなぁ」
なんだかナオさんとセディで、まるっと話がまとまったみたいです。
「わかりました。旦那さまと喧嘩した時に作った離れの離宮を、ナオとそのお仲間に差し上げるわ。今日は遅いから客用寝室を使ってくださいな。明日お仲間を連れてきてください。その時までに、離宮の準備を整えておきます」
「あなた、それでよろしいわね」
おかあさまがお父さまに許可を求めると、お父さまは嬉しそうに頷きました。
「あの忌々しい離宮が、お前の手元からなくなるなら大賛成だな。セディ、明日はナオやそのお仲間の戸籍を作ってやりなさい。ナオさん。ひとりくらいは貴族位を持っているほうが、なにかと便利だぞ。そのあたりもセディと相談するがいい」
そういうとお父さまとお母さまは部屋を出ていかれました。
「セディ、ナオが喜んでいるから、今回の件はなかったことにしてもいいわ。そのかわりにしっかりとナオを守ってあげてね」
その途端にセディはみるみる元気を取り戻して、私に抱き着きました。
「ありがとう。さすがにぼくの番だ。もうけっしてこんな失敗はしないからね。愛しているよ!」
いや、ナオさんがニヤニヤと見ていますからね。
すこし落ち着こうか? セディ。
「ナオ。風呂があるのよ。さっぱりしたら、私の部屋で一緒に寝ない? 客用寝室のほうがいいなら用意は出来てるけど?」
ナオはニヤッとしました。
やっぱりこの子、私よりずっとしたたかで大人なんだわ。
私が何を聞きたいか、わかったみたい。
セディも私とナオの様子を見て、何かを察したみたいです。
「後でおしえてね」
そう耳元でささやいて、出ていきました。
私はメイドさんたちにナオさんをお任せして、軽く湯あみをしました。
オペラにいくために磨き上げていますから、汗を流してお化粧を落とすだけです。
「へぇ、さすがに公爵家は違うわねぇ。客用の応接間まで私室に完備しているんだぁ」
ナオが物珍しそうにそういいました。
「ここはパブリックスペースなのよ。プライベートスペースに飲み物を準備しているわ。喉が渇いたでしょう」
ナオは私室のゆたりとした椅子にすっぽりとおさますと、ぬるめのハーブティで咽喉を潤しています。
「コーヒーが好きみたいね。今持って来てくれるわよ。それに簡単な軽食もね。お腹空いてるでしょ?」
「ありがとう。さすがに元日本人だねぇ。気配りが半端ない」
ナオはそんな軽口を言いましたが、よほどお腹が空いていたらしく、しばらくはせっせと食べることに専念しています。
ようやく人心地ついたらしいナオは、背筋を伸ばして座りなおしました。
「聞きたいのは、誰に頼まれてあの騒ぎをおこしたか? ってことだろう。そりゃ壁外の人間がオペラ座の1階席なんかに入れるはずないからねぇ」
そうなんです。
3階より上の立ち見席とか、舞台は見えなくても無料で音楽だけ聴けるそんな場所ならば壁外の住人がいても不思議ではありません。
それだって大門が閉まってから、翌朝までどこかに潜り込める場所があったらの話です。
彼女をオペラ座に引き入れた人間がいる筈なんです。
「そうねぇ。おおよそはわかっているのよ。どこかの貴族でしょうけれども、どうせナオはその人の顔なんてしらないんでしょ。壁外で女衒にうまみのある仕事を請け負っただけでしょうしねぇ」
ナオは驚いて目を丸くしました。
「なんだい。そこまでわかってるならなんで私を部屋に呼んだりしたのさ」
「だからね。同じ転移者同士仲良くできないかと思っただけ。ナオが望むなら公爵令嬢にだってなれるのに、本当にいいの? 異界渡りの姫伝説は、この国に根付いているし、ナオを手に入れたいって人はこれからどんどんと湧いてくることになるわよ」
「うーん。公爵様が言ってたのは、保険のために貴族の位を持っとけってこと? 平民のままの方が気楽なんだけどなぁ」
ナオの気持ちはとても良くわかります。
貴族社会で生きていけるのか、私だって自信がありませんからね。
「私も社交界の経験が浅いから、なんとも言えないけれども、日本の感覚のままだと危険だと思うの。ほら時代劇なんかでも平民だと泣き寝入りするしかないなんてこと、あるじゃない?」
そう言いながらも、私は高校生が時代劇なんてみるんだろうか? と疑問に思っていました。
「時代劇ってみた事ないけれども、壁外じゃ戸籍がないってだけで随分理不尽な目にあうからなぁ。平民と貴族ってのもそんな感じなんでしょ」
ナオはやっぱり時代劇とか知らなかったみたいです。
どう説明したらわかってもらえるかしら?
「ナオは異界から来た姫ってことで、誘拐されるかもしれないでしょう。誘拐犯人が貴族でナオが平民なら、まずまともに捜査して助けてもらえるっていう希望はないと思うわ」
ナオはすっごく怒りました。
「そんなのおかしいだろうが。貴族だろうと平民だろうと同じ人間じゃない。 悪いことをしたら罰を受けるのは当たり前じゃないか」
うん、うん。
日本人ならそう考えるよね。
「ナオ。同じ人間だとは思っていないのよ。 そこから認識が違っているの」
ナオは次の言葉が出てこないようです。
そうなんです。
身を守るなら身分はあったほうがいい。
平民になってのんびり暮らしますなんて、そう簡単にはいかないの。
騎士が気まぐれをおこしたり、貴族が介入するだけでそのささやかな幸せは壊されてしまう可能性があるから。
「ナオ、仲間を守るためなら、公爵家の好意を受けた方がいいわ。公爵家ならあなたの自由は保障してくれるけれど、別の貴族やあるいは他の国に連れ去られたら、その保証はないのよ」
ナオはうーんと頭を抱えました。
「自分だけじゃ結論がでないや。明日仲間と相談する。けれど親身になってくれてありがとう。お姉さんいい人みたいだね」
今、おばさんと言いかけてお姉さんと言い直しましたね。
そういうところアラサーは鋭いんですのよ。
でも良かった。
どうしても平等の概念が染みついているから、身分がある社会ってうまく馴染めないんですよね。
「私のことはロッテってよんでちょうだい。お姉さんでもおばさんでもなくね」
そういうと、ナオは小さく舌をだして、バレてるって言いました。
いいわねぇ、若いって。
そういう姿が似合ってしまうんですもの。
「じゃぁロッテ。私たちみたいに異世界から来た人間は、好きな男が出来たら髪とか目とかの色が変化するのか?」
ナオはどうもそれが気にかかっているみたいです。
「そうみたいね。6百年前の姫が黄金色の髪と緑の瞳になったそうよ。豊穣の姫といわれる恩恵が与えられたみたいだけど、調べたらお相手の王子も金髪で緑の目だったわよ」
ナオはそれを聞いて考え込んでしまいました。
10代の女の子なんて恋バナが大好きですものね。
「ナオ、誰か好きな人でもいるの?」
「まさか、いねぇけどさぁ。なんかそんな風に色が変わるなんて、ちょっと信じられなくてさ。けどこうして喋ってても、やっぱりどう考えてもロッテは日本人みたいなんだなぁ」
呆れた。
この子ってば、まだ私を疑ってたみたいですわよ。
それでも若くても、ちゃんと自分で納得してから進むというのは素晴らしいことだわ。
私なんて今でも、すぐに人に流されてしまいますからね。
私はこのナオって女の子を気に入りましたし、自分にはないそのタフな精神に圧倒されてしまいました。
年下だけど、学ぶべき長所をたっぷりと持っています。
私はどうせ一緒に飛ばされるならこのナオって女の子で良かったなぁと思うのでした。
「ごめんなさい。うちの息子の責任だわ。ナオさんとおっしゃったわよね。クレメンタイン公爵家の養女にならない? あなたの事はクレメンタイン公爵家が全責任を負います」
お母さまが深々とナオに頭を下げましたから、慌ててセディも一緒に頭を下げています。
「いやぁ。私、貴族とかそんなの柄じゃないからねぇ。そんな必要はないよ」
「ちょっと待って! 何言ってんのナオ。ナオは被害者なのよ! 地球からいきなり誘拐されたようなもんじゃないの。責任者であるセディは償っても償いきれない罪をおかしたのよ」
私がたまりかねて口を挟みました。
私の言葉を聞いて、セディの頭はもはや地面にめり込みそうになっています。
「うーん。だって地球には私の居場所なんてないしさ。私は勉強が嫌いで成績悪いし、家族もいないし、半ば路上生活だったんだよね。それに比べたらこっちは居心地がいいんだ。友達もできたし夢もあるしさ」
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どうやらセディは結婚相手としてナオを召喚した訳ではなく、召喚術が成功した証として、ひとりの少女の夢を応援したいと願ったようです。
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「あなた、それでよろしいわね」
おかあさまがお父さまに許可を求めると、お父さまは嬉しそうに頷きました。
「あの忌々しい離宮が、お前の手元からなくなるなら大賛成だな。セディ、明日はナオやそのお仲間の戸籍を作ってやりなさい。ナオさん。ひとりくらいは貴族位を持っているほうが、なにかと便利だぞ。そのあたりもセディと相談するがいい」
そういうとお父さまとお母さまは部屋を出ていかれました。
「セディ、ナオが喜んでいるから、今回の件はなかったことにしてもいいわ。そのかわりにしっかりとナオを守ってあげてね」
その途端にセディはみるみる元気を取り戻して、私に抱き着きました。
「ありがとう。さすがにぼくの番だ。もうけっしてこんな失敗はしないからね。愛しているよ!」
いや、ナオさんがニヤニヤと見ていますからね。
すこし落ち着こうか? セディ。
「ナオ。風呂があるのよ。さっぱりしたら、私の部屋で一緒に寝ない? 客用寝室のほうがいいなら用意は出来てるけど?」
ナオはニヤッとしました。
やっぱりこの子、私よりずっとしたたかで大人なんだわ。
私が何を聞きたいか、わかったみたい。
セディも私とナオの様子を見て、何かを察したみたいです。
「後でおしえてね」
そう耳元でささやいて、出ていきました。
私はメイドさんたちにナオさんをお任せして、軽く湯あみをしました。
オペラにいくために磨き上げていますから、汗を流してお化粧を落とすだけです。
「へぇ、さすがに公爵家は違うわねぇ。客用の応接間まで私室に完備しているんだぁ」
ナオが物珍しそうにそういいました。
「ここはパブリックスペースなのよ。プライベートスペースに飲み物を準備しているわ。喉が渇いたでしょう」
ナオは私室のゆたりとした椅子にすっぽりとおさますと、ぬるめのハーブティで咽喉を潤しています。
「コーヒーが好きみたいね。今持って来てくれるわよ。それに簡単な軽食もね。お腹空いてるでしょ?」
「ありがとう。さすがに元日本人だねぇ。気配りが半端ない」
ナオはそんな軽口を言いましたが、よほどお腹が空いていたらしく、しばらくはせっせと食べることに専念しています。
ようやく人心地ついたらしいナオは、背筋を伸ばして座りなおしました。
「聞きたいのは、誰に頼まれてあの騒ぎをおこしたか? ってことだろう。そりゃ壁外の人間がオペラ座の1階席なんかに入れるはずないからねぇ」
そうなんです。
3階より上の立ち見席とか、舞台は見えなくても無料で音楽だけ聴けるそんな場所ならば壁外の住人がいても不思議ではありません。
それだって大門が閉まってから、翌朝までどこかに潜り込める場所があったらの話です。
彼女をオペラ座に引き入れた人間がいる筈なんです。
「そうねぇ。おおよそはわかっているのよ。どこかの貴族でしょうけれども、どうせナオはその人の顔なんてしらないんでしょ。壁外で女衒にうまみのある仕事を請け負っただけでしょうしねぇ」
ナオは驚いて目を丸くしました。
「なんだい。そこまでわかってるならなんで私を部屋に呼んだりしたのさ」
「だからね。同じ転移者同士仲良くできないかと思っただけ。ナオが望むなら公爵令嬢にだってなれるのに、本当にいいの? 異界渡りの姫伝説は、この国に根付いているし、ナオを手に入れたいって人はこれからどんどんと湧いてくることになるわよ」
「うーん。公爵様が言ってたのは、保険のために貴族の位を持っとけってこと? 平民のままの方が気楽なんだけどなぁ」
ナオの気持ちはとても良くわかります。
貴族社会で生きていけるのか、私だって自信がありませんからね。
「私も社交界の経験が浅いから、なんとも言えないけれども、日本の感覚のままだと危険だと思うの。ほら時代劇なんかでも平民だと泣き寝入りするしかないなんてこと、あるじゃない?」
そう言いながらも、私は高校生が時代劇なんてみるんだろうか? と疑問に思っていました。
「時代劇ってみた事ないけれども、壁外じゃ戸籍がないってだけで随分理不尽な目にあうからなぁ。平民と貴族ってのもそんな感じなんでしょ」
ナオはやっぱり時代劇とか知らなかったみたいです。
どう説明したらわかってもらえるかしら?
「ナオは異界から来た姫ってことで、誘拐されるかもしれないでしょう。誘拐犯人が貴族でナオが平民なら、まずまともに捜査して助けてもらえるっていう希望はないと思うわ」
ナオはすっごく怒りました。
「そんなのおかしいだろうが。貴族だろうと平民だろうと同じ人間じゃない。 悪いことをしたら罰を受けるのは当たり前じゃないか」
うん、うん。
日本人ならそう考えるよね。
「ナオ。同じ人間だとは思っていないのよ。 そこから認識が違っているの」
ナオは次の言葉が出てこないようです。
そうなんです。
身を守るなら身分はあったほうがいい。
平民になってのんびり暮らしますなんて、そう簡単にはいかないの。
騎士が気まぐれをおこしたり、貴族が介入するだけでそのささやかな幸せは壊されてしまう可能性があるから。
「ナオ、仲間を守るためなら、公爵家の好意を受けた方がいいわ。公爵家ならあなたの自由は保障してくれるけれど、別の貴族やあるいは他の国に連れ去られたら、その保証はないのよ」
ナオはうーんと頭を抱えました。
「自分だけじゃ結論がでないや。明日仲間と相談する。けれど親身になってくれてありがとう。お姉さんいい人みたいだね」
今、おばさんと言いかけてお姉さんと言い直しましたね。
そういうところアラサーは鋭いんですのよ。
でも良かった。
どうしても平等の概念が染みついているから、身分がある社会ってうまく馴染めないんですよね。
「私のことはロッテってよんでちょうだい。お姉さんでもおばさんでもなくね」
そういうと、ナオは小さく舌をだして、バレてるって言いました。
いいわねぇ、若いって。
そういう姿が似合ってしまうんですもの。
「じゃぁロッテ。私たちみたいに異世界から来た人間は、好きな男が出来たら髪とか目とかの色が変化するのか?」
ナオはどうもそれが気にかかっているみたいです。
「そうみたいね。6百年前の姫が黄金色の髪と緑の瞳になったそうよ。豊穣の姫といわれる恩恵が与えられたみたいだけど、調べたらお相手の王子も金髪で緑の目だったわよ」
ナオはそれを聞いて考え込んでしまいました。
10代の女の子なんて恋バナが大好きですものね。
「ナオ、誰か好きな人でもいるの?」
「まさか、いねぇけどさぁ。なんかそんな風に色が変わるなんて、ちょっと信じられなくてさ。けどこうして喋ってても、やっぱりどう考えてもロッテは日本人みたいなんだなぁ」
呆れた。
この子ってば、まだ私を疑ってたみたいですわよ。
それでも若くても、ちゃんと自分で納得してから進むというのは素晴らしいことだわ。
私なんて今でも、すぐに人に流されてしまいますからね。
私はこのナオって女の子を気に入りましたし、自分にはないそのタフな精神に圧倒されてしまいました。
年下だけど、学ぶべき長所をたっぷりと持っています。
私はどうせ一緒に飛ばされるならこのナオって女の子で良かったなぁと思うのでした。
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