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セディの家族襲来

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 翌日、私がまだベッドでまどろんでいるころ、いきなりセディが乱入してきました。

 「ミーナ!」
 
 寝ぼけまなこの私はしばらく何がおこったのかわかりませんでしたが、すこしずつ頭がはっきりしてみると、レディの寝室に乱入された挙句抱きつかれていることにきがつきました。

「キャー!」

 私が悲鳴をあげたので、セディも自分がしでかしたことに気が付いたようです。


「ご、ごめんなさい。そーじゃないんだ。そんなつもりじゃなくて……。」

 あわあわと言い訳しているセディに、私は枕を投げつけて叫びました。

「出ていけー!」

 セディは大急ぎで寝室から飛び出すと、扉の前で叫びました。

「ゴメン! 大事な話があるんだ。居間で待ってる。なるべく早く来てくれ!」


 フン! そんなこと言っても乙女の身支度ってそんなに早くはできませんわ。

 そんな悪態をつきながら、私は素早く身支度を整えました。
 
 まだベッキーもきていませんから、本当にざっと整えることしかできていません。



「セディ、いったいどうしたというの。まだ夜明け前ですわよ。」

 そうなんです。
 まだお日さまも顔をだしていないんですよ。

 時計をみたらまだ4時でした。
 図書館が開くのは朝6時からの筈です。

 早朝学習をする人のために図書館は朝6時には開館します。
 そして夜学ぶ人のために、閉館時間は20時なのです。

 この魔術師にとって鍵なんてないも同然でしょう。
 ですから私の部屋に来ることは簡単ではあるでしょうが、いくらなんでも早過ぎます。


「いそいで知らせないと、ミーナが困ると思ってさ。」

 セディはいかにも私の為みたいな言い方をしていますが、なにがなんだかさっぱりわかりません。

「セディ。先ずは結論を教えて下さい。」

 まったくセディと私ではまるで性別が逆みたいですね。
 セディの話を待っていたら埒があきません。


「兄貴がここに来る。7時だ!」

 そうそう、そーゆーことですか。
 なるほどって、えー!

 セディの兄貴って宰相ですわよね。
 なんで宰相が早朝7時に、こんなところにやってくるんですかぁー。


「セディ。どーゆーことか詳しく話して下さい。」
 
 私の声はきっと地の底から聞こえてくるようだったでしょうね。

 セディは叱られた時みたいに、背筋をぴっと伸ばすと説明をはじめました。

「そもそもは、ポリアンナ商会設立の話なんだ。」


 セディの話を要約すると、どうやらこういうことのようです。

 まずセディのお姉さんというのは、正確にいえばセディのお兄さんである宰相閣下のお嫁さんのことです。

 そのお姉さんとお母さんはあのシャンプーやボディクリームをいたく気に入ってくれて、自分のサロンで紹介してもいいと言ってくれました。

 当然その話は宰相閣下であるお兄さんの耳にも入りますよね。

 で、お兄さんは思ったわけです。
 あんな世間知らずの研究馬鹿に商売なんぞできる訳ない。

 そこで商品の権利を買い取ると言ったみたいなんですね。
 弟から取り上げるというよりは、弟が失敗しないように……。

 ここまででも十分セディの評価が低いことがわかりますね。

 当然セディは断ったわけですが、おにいさまはせめて簡単な事業計画を持ってこいと言ったみたいです。

 そして昨日私が簡単に書いた見積もり計算を意気揚々と兄貴に持って行ったらしいのです。


 しかしそこはさすがにこの国の宰相閣下です。
 セディにこんなものが書けるはずはないと見抜いた訳ですね。

 そこであろうことかセディは私のことを暴露してしまいました。

 女が絡みということで、今度はお姉さまが心配になりました。

 なにしろと彼女いない歴=年齢というセディです。
 悪い女に利用されているかもしれません。

 そこまできてとうとうセディが切れてしまいました。

「ミーナは悪女じゃない! ミーナは異界渡りの姫なんだ。召喚が成功したんだ!私はミーナと結婚する!」

 はい、終了ですね。


 そりゃぁ、宰相閣下がおっとり刀でかけつける訳ですよ。

 なんですかセディ?

 おねえさんも一緒。

 ほー、へー。


 
「セディは馬鹿なの? こんな幽霊を見たらお兄さんもお姉さんもどー思うかわかんないの?」

 私が叫んだ瞬間! 瞬く間に魔方陣が発動しました。

 なんだか急に体重の重さを感じるようになりましたから、あの幽霊になる魔術をキャンセルしたんでしょう。


「セディ! 言ってる意味が違う!」

 私がもう一度わめこうとしたら、セディが真面目な顔になりました。

「悪いけれどミーナ。兄貴と姉貴がここにくる未来は変えられない。 だから準備を急いだほうが建設的だと思うよ。」

 正論です。
 でもなんだかその正論、おまえが言うなぁー!って思ってしまったのはしかたがないでしょうね。


 6時になればベッキーが来てくれますから、それまでに簡単な事業計画書を準備しておきましょう。

 パソコンもネットにこそつなげないけれども、エクセルは入っている筈です。
 エクセルでいいですよね。

 私は自分のマンションに飛んでいってむこう3年の事業計画を書き上げて、プリントアウトした書類を5部作製しました。

 そのころには6時になっていましたから、出来るだけこの世界の貴婦人に見えるようにベッキーに頑張ってもらいます。

 ベッキーも宰相閣下にお会いするといったら、すっごく力を入れてくれましたよ。

 鏡で全体像をチェックしましょう。


 黒髪は鎖骨あたりまで伸びていたのでアップして付け毛を組み込めば、なんとかこの世界の婦人としても見苦しくありません。

 顔は完璧な薄化粧メイクを自分で施しました。
 こういったナチュラルメイクの方が、いかにも化粧しましたって顔よりもずっと時間がかかるんです。

 セディにスチームの魔法を顔にかけて貰って、下地つくりに20分かけましたからねぇ。

「ミーナさま。奇跡みたいですわ。透き通るようなキメの細かいお肌にほんのりと頬がピンクに染まっていますし、目がおっきくなりました!。唇はぷっくりとピンクですのね。すっごい魔法ですわ。」

 頭が痛くなってきましたよ。
 それってすっぴんじゃ見られないってことですかね。

 魔法じゃありません。
 お化粧しただけですからね。

 きちんと小顔&清楚系メイクをほどこしましたから年長者の受けはいいはずです。

 服は濃紺の一択です。

 紺は清楚にみえるんですよね。
 襟と袖に白いレースが施されていましたが、私はあえて大き目の白い付け襟をプラスしました。

 顔周りに白をもってきて、顔色を明るくみせるためです。
 装飾品は真珠のイヤリングだけにします。

 あくまでも清楚でおとなしめの女の子のイメージですね。


 セディは私を見ると目を見開いて固まってしまいました。

「ミーナ。君ってほんとうに異界渡りの姫ぎみだったんだね。どーして正体を隠していたの。すっごく綺麗だ。こんなに美しい姫君は始めてみたよ。」

 おっと、ノータッチですからね、セディ。
 お化粧が落ちたらこまります。

 私だってここまで化けるには時間がかかるんですからね。


 そこにセディとよく似た顔立ちの、セディよりはずっと腹黒そうな青年と、プラチナブロンドの髪に青い目のまるでフランス人形のような貴婦人がやってきました。

 私は直接貴人を見ないように、瞳を伏せてつつましくセディの紹介を待ちました。

「ミーナ、ここにいるのが兄のエルロイ・セントメディア侯爵とフランチェスカ・セントメディア侯爵夫人だ。」

「兄上、姉上。僕が召喚した異界からの姫君を紹介します。ミイオ・ワーカアツーキィ嬢です。私はミーナとの愛称で呼んでります。」

「なるほどな。確かに黒髪のようだが。顔をあげろ。瞳の色が見たい。」

 私はそろりと顔をあげると、視線を伯爵の胸元に置いた。

「あら、本当に瞳も黒いのね。しかも肌が抜けるように白いわ。まるで本当の伝説の姫のようだわね。それであなたはどこからきたの?今、正直に話せば罪には問わずに王都追放だけで許してあげる。本来ならば公爵家の人間を騙すなど、絞首刑でもおかしくはないのよ。」

 やはりセディは公爵家の人間だったようです。
 お兄様は嫡子として公爵が持つ別の爵位を名乗っているのでしょう。

「待ちなさいフラン。どうやら偽物という訳でもなさそうなのだよ。さてミーナとやら。自分が異界から来たと証明できるかね。」

 私は黙ってセディを見ました。


 セディは頷くと説明をかってでてくれます。
 この世界のしきたりにうとい私としては、下手に喋りたくはないのです。

「兄上、それではこの上にあるミーナの召喚とともに落ちたものをご覧ください。姉上もいらっしゃいますか?」

「いいえ、セディ。あなたがそうまで自信満々なところを見れば、この娘が異界から来たのは間違いないでしょう。エルもそう思っているようだしね。それならば、私はここでミーナとお喋りでもしながら待つことにするわ。

 困りました。
 肝心のセディと引き離されてしまいましたよ。

 公爵家の跡継ぎと結婚するなんて、フランも相当の家柄の娘でしょう。
 うっかり失礼なことをしたら、それこそ無礼討ちになりそうですけれど……。


 「ねぇ、あなたの化粧とても綺麗だわ。それも異世界から持ってきたの?」

 私はそれを聞いてベッキーに合図をおくりました。
 ベッキーはすぐさま、化粧品を取りにいきます。

「今すぐに化粧品をお持ちいたしますので、どうぞおかけになってお待ちくださいませ。レディ。」

 それを聞くとフランはクスリと笑いました。

「貴方は幽霊だって妹が言っていたわ。随分と破天荒な幽霊で、メイドと同じテーブルでお茶を飲んだそうよ。」

 なんてことでしょう。
 ここにひとりでやってきた勇ましいご令嬢は、この方の妹みたいです。

 猫かぶりもここまでのようですね。
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