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竜の怒り
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レイの読みは正しかったようです。
それからすぐにダンたち諜報部隊は、面白い情報を持ち込んで来ました。
フィステルという街にあるパール療養所に、高名なサイラス医師のお嬢さんであるシャーロット嬢がちょうど誘拐犯が捕えられたと同じ日に入院したというのです。
「それだ! 間違いない。なんで前回の報告に挙げてこなかったのだ!」
ノリスがダンに食ってかかると、ダンも負けてはいません。
「いいか。その女の子っていうのが、亜麻色の髪・緑色の瞳・小麦色の肌をしているってんだ。極めつけに5歳児だってんだから無関係だと思うだろうが。メリーベルを密偵として送り込んでいる。そのメリーベルからの連絡だ。たった今その少女に向かって霊力を使った男がいる。」
「ピンク!」
ノリスが叫ぶとすぐにその姿は空気に溶けて消えてしまいました。
「しまった! ピンク。私たちも転移させて下さい。ノリスだけでは無茶をしかねません。」
センも続けて転移しようとピンクに声をかけました。
しかしピンクからはうんともすんとも返事がありません。
ノリスはいざという時には自分だけ転移させるという約束をピンクに取り付けていたようです。
「しかたありませんねぇ。どうせノリスからノバでも貰ったんでしょう。しかしいいんですかね?またノバ畑が全滅することになっても?」
レイのあからさまな脅しにたちまちピンクは屈してしまったようです。
すぐにレイたちの姿もその場から消えてしまったからです。
ノリスがパール療養所で目にしたのは、すっかり子供へと姿をかえたナナが、白髪の霊獣に甘えるように抱かれている姿でした。
「さあや、何を勘違いしてやがる。相手がちがうだろうが。」
白髪の男に抱かれていた少女は不思議そうにノリスを見つめています。
少し頭をかしげて、いかにも誰だかわからない様子でした。
「フン、お仕置き決定だな。さあや。その前にその男を始末しないとな。」
ノリスの目は剣呑に光っていますから、まちがいなく目の前の霊獣を抹殺してしまうつもりでしょう。
「青の竜か。相手が悪いな。すまないが逃げさせてもらうよ。私は今ここで殺される訳にはいかない理由があるのでねぇ。」
白髪の男はたちまち1匹の巨大な蛇にその姿を変えると、凄まじい勢いで空へと逃げていきます。
「逃がすかよ!」
その瞬間、空には凄まじい量の水流が龍の形となって、虹色の蛇に襲い掛かりました。
水龍に襲われた虹色の蛇は身体中に無数の傷を受けて、息も絶え絶えにノリスの前に落ちてきます。
虹色の蛇の幻術の効力が切れたようで、いったい何が起こったのかまるでわからないようにぽかんと立ち尽くしていた少女が、みるみるうちにナナの姿を取り戻しました。
「ノリス! ノリス。来てくれたのね。ごめんなさい。ごめんなさい。」
ナナは涙をぼろぼろとこぼしながら、ノリスに抱き着きました。
ノリスはしっかりとナナ片腕で抱き上げましたが、その目は虹色の蛇の霊獣から離しません。
「ちょっとだけ目をつぶっていなよ。さあや。先ずはこいつを始末してしまうからよ。」
ノリスが瀕死の霊獣にとどめを刺そうとした瞬間。
「やめなさい! ノリス。」
ギリギリのところでレイが間に合いました。
「レイ! セン! サクラ! ダン! みんな来てくれたのね。」
ナナが歓声をあげてノリスの腕から飛び降りるとレイたちに抱き着きました。
「残念ながらレイ。竜ってのは自分の番にちょっかいをかけた男は生かしてはおかないのさ。悪いな。」
ノリスがそう言ってその霊力を虹色の蛇に向けようとした瞬間に、ノリスはすさまじい電撃を受けて意識を失いました。
「これだけ水浸しだとさすがに電気の流れもいいですね。ナナ、風邪をひいてはいけません。メリーベルに着替えさせてもらいなさい。」
メリーベルはナナもよく知っている看護婦さんの姿で、いそいそとナナの世話を焼こうとしています。
「メリーベル、こんなに近くに居てくれたと言うのに、どうして気が付かなかったのかしら?」
「姫さまは記憶を操られていたのですから仕方ありませんわ。きょう霊獣が現れて霊力を使ったので確信をもって皆さまをお呼びすることができました。あの霊獣は今日にも姫さまを氷の帝国につれさったでしょうから、ギリギリのタイミングで間に合いましたわね。」
「ありがとう。メリーベル、ちょっと待っててね。」
そういうとナナは解放された霊力で虹色の蛇と青竜を癒すと、メリーベルに促されるままに着替えに向かいました。
「くっそう。レイ! どうゆうつもりだ。力を向ける相手が違うだろうがよ!」
「それにピンク! てぇめえ。裏切りやがったな!」
その間にようやく意識を取り戻したらしい虹色の蛇が人化してゆっくりと身をおこしました。
「やれやれ、どうやら命びろいしたようですね」
そう言って悪びれもなく敵の真っ只中で発言できるのは、さすがに霊獣の貫禄と言えるでしょう。
「少しお付き合い願いますよ。霊獣殿とサイラス殿。」
レイはそう言うと着替えを済ませてやってきたナナたちとともに、全員でアイオロス王の執務室に転移させてくれるようにピンクにお願いしました。
ピンクは全員の転移を済ませると、さっさとプレスペル皇国に帰ってしまいました。
残っても面倒なことになると思ったのでしょう。
アイオロス王の執務室では、懐かしい面々がナナの帰国を待ってくれていました。
「お父さま、ただいまかえりました。ありがとうございます。ごめんなさいねアンジェ。」
ナナは真っ先にアイオロス王の胸に飛びこむとすぐにアンジェリカ王女に謝罪しました。
せっかくの新婚旅行を台無しにしたうえに、結婚披露パーティまでおじゃんにしたのですから。
ナナの元気なすがたに和やかになった執務室のメンバーも、氷の帝国の霊獣とサイラス医師の姿を見るとたちまち緊張した空気になりました。
「まぁ、そんなに怖い顔をするんじゃねえ。今から楽しいお話合いの時間って訳さ。酒ってわけにもいかねぇか。茶でも用意しろ!」
王の言いつけに侍女たちは素早く準備に取り掛かりましたし、その場にいたメンバーもまた執務室にしつらえられている大きな円卓をかこんで座りました。
この円卓はナナが円卓の騎士の話をして、それを面白がった王がわざわざ作らせたものです。
侍女たちが銘々にお茶を配り終えるまで、円卓では重苦しい沈黙が支配していました。
ナナは判決を待つ被告みたいな気分でしたし、ノリスは未だ怒りを抑えきれていません。
捕虜たちから何か話す筈もなく、レイはだんまりを決め込んでいます。
そうなるとこの場で発言しようとするつわものがいる筈もなく、必然的に重苦しい沈黙が続くことになります。
「さて、氷の帝国の剣王マリウス陛下と名医と名高いサイラス博士。ここまで強引なことをなさるからにはリスクは承知でしょうなぁ。」
口を開いたのはアイオロス王でした。
「アイオロス国王陛下。もとより命は捨てております。さきほど名医とおしゃってくださいましたが、私に医師の資格などございません。既に氷の帝国の半数は奇病に侵され、国民の10%が死亡致しました。致死率の高さから見て、このままでは国民の過半数が死亡するでしょう。」
「それで国王自ら王女を誘拐したと言う訳ですか? なぜ正式なルートを通そうとはしなかったのですか?」
レイはそう尋ねたがその疑問は最もだ。
王女誘拐よりは、正式なチャンネルを使うほうが、ずっと成功率は高くなるはずです。
「すでになんども正式に面会依頼を出しているし、聖女降臨も願い出ている。それを握りつぶしておいてよくもしゃぁしゃぁと言えたものだな。私も王として国民の為にこの命を捨てる覚悟は持っている。」
憤然としてマリウス王は答えた。
アイオロス王がモリスを見ると、モリスは苦しそうに言う。
「その嘆願書が最初に出されたのは、和平会議の当日でした。その後レティシア王女誘拐・国際連盟発足と膨大な仕事量のために、普段交流のない氷の帝国からの親書は書類の奥深く眠ってしまいました。」
「今回に事件が発覚してから、ウィンディア王国に恨みを持つ者を調べるために書類をひっかきまわしたところ、確かに氷の帝国からの親書は8通も有りました。」
「最初に氷の帝国の親書は優先度が低いと判断されたために、以降は自動的に却下されてしまったようです。なかにはマリウス陛下からの正式な書状があったのですが……。申訳ございません。」
モリスは深々と頭をさげましたが、モリスの責任ではありません。
私が誘拐されて、モリスはレイの仕事まで引き継いだのです。
それでも部下の失態はノリスの責任になってしまうのでしょうか?
元はといえば、私の能天気さが悪いのに……。
ナナはそう考えると、発言をしようとしましたが、レイに目で制されてしまいました。
「オレの婚約者との結婚を望んだようだが?」
ギロリとノリスがマリウスを睨みます。
「責任を取ろうとしたのです。ご存知のように通常女性が誘拐されると、誘拐した相手と結婚しない限り社交界から抹殺されてしまいます。私は姫ぎみにそんな汚名を着せるつもりはありません。その責任は取らせていただきます。」
「考え違いするなよ。レティシア王女はオレの番だ。まぁ惚れたのなんのという執着でないことは判ったが、余計なお世話だ!。しっかり頭に叩き込んでおくんだな。何があろうとレティシア王女を守るのはオレしかいない。」
それを聞くとナナは真っ赤な顔をしてうつむいてしまいましたから、円卓には生暖かい空気が流れました。
「よし。今回は痛み分けということでいいかなマリウス王。こちらにも落ち度があった。そちらも無茶をした。そういうこった!」
「なんと!アイオロス王陛下! 姫君を連れ去ろうとした我らを許すおつもりですか!」
サイラスが驚いて尋ねるとこともなげにアイオロス王は返答した。
「フン、タダで許すつもりなんかねぇよ!サイラス。 病気が収束したら10年間このウィンディア王国で教師をやってくれないか? 優秀な医者を育てたいんだ。かまわねぇよなマリウス。」
「まさか! 王女を我が国に寄越して下さるのですか? ありがとうございます。サイラスの力で良ければぞんぶんにお使い下さい。」
マリウス王は目を白黒させている。
こうしてナナの誘拐劇は終幕を迎えた。
それからすぐにダンたち諜報部隊は、面白い情報を持ち込んで来ました。
フィステルという街にあるパール療養所に、高名なサイラス医師のお嬢さんであるシャーロット嬢がちょうど誘拐犯が捕えられたと同じ日に入院したというのです。
「それだ! 間違いない。なんで前回の報告に挙げてこなかったのだ!」
ノリスがダンに食ってかかると、ダンも負けてはいません。
「いいか。その女の子っていうのが、亜麻色の髪・緑色の瞳・小麦色の肌をしているってんだ。極めつけに5歳児だってんだから無関係だと思うだろうが。メリーベルを密偵として送り込んでいる。そのメリーベルからの連絡だ。たった今その少女に向かって霊力を使った男がいる。」
「ピンク!」
ノリスが叫ぶとすぐにその姿は空気に溶けて消えてしまいました。
「しまった! ピンク。私たちも転移させて下さい。ノリスだけでは無茶をしかねません。」
センも続けて転移しようとピンクに声をかけました。
しかしピンクからはうんともすんとも返事がありません。
ノリスはいざという時には自分だけ転移させるという約束をピンクに取り付けていたようです。
「しかたありませんねぇ。どうせノリスからノバでも貰ったんでしょう。しかしいいんですかね?またノバ畑が全滅することになっても?」
レイのあからさまな脅しにたちまちピンクは屈してしまったようです。
すぐにレイたちの姿もその場から消えてしまったからです。
ノリスがパール療養所で目にしたのは、すっかり子供へと姿をかえたナナが、白髪の霊獣に甘えるように抱かれている姿でした。
「さあや、何を勘違いしてやがる。相手がちがうだろうが。」
白髪の男に抱かれていた少女は不思議そうにノリスを見つめています。
少し頭をかしげて、いかにも誰だかわからない様子でした。
「フン、お仕置き決定だな。さあや。その前にその男を始末しないとな。」
ノリスの目は剣呑に光っていますから、まちがいなく目の前の霊獣を抹殺してしまうつもりでしょう。
「青の竜か。相手が悪いな。すまないが逃げさせてもらうよ。私は今ここで殺される訳にはいかない理由があるのでねぇ。」
白髪の男はたちまち1匹の巨大な蛇にその姿を変えると、凄まじい勢いで空へと逃げていきます。
「逃がすかよ!」
その瞬間、空には凄まじい量の水流が龍の形となって、虹色の蛇に襲い掛かりました。
水龍に襲われた虹色の蛇は身体中に無数の傷を受けて、息も絶え絶えにノリスの前に落ちてきます。
虹色の蛇の幻術の効力が切れたようで、いったい何が起こったのかまるでわからないようにぽかんと立ち尽くしていた少女が、みるみるうちにナナの姿を取り戻しました。
「ノリス! ノリス。来てくれたのね。ごめんなさい。ごめんなさい。」
ナナは涙をぼろぼろとこぼしながら、ノリスに抱き着きました。
ノリスはしっかりとナナ片腕で抱き上げましたが、その目は虹色の蛇の霊獣から離しません。
「ちょっとだけ目をつぶっていなよ。さあや。先ずはこいつを始末してしまうからよ。」
ノリスが瀕死の霊獣にとどめを刺そうとした瞬間。
「やめなさい! ノリス。」
ギリギリのところでレイが間に合いました。
「レイ! セン! サクラ! ダン! みんな来てくれたのね。」
ナナが歓声をあげてノリスの腕から飛び降りるとレイたちに抱き着きました。
「残念ながらレイ。竜ってのは自分の番にちょっかいをかけた男は生かしてはおかないのさ。悪いな。」
ノリスがそう言ってその霊力を虹色の蛇に向けようとした瞬間に、ノリスはすさまじい電撃を受けて意識を失いました。
「これだけ水浸しだとさすがに電気の流れもいいですね。ナナ、風邪をひいてはいけません。メリーベルに着替えさせてもらいなさい。」
メリーベルはナナもよく知っている看護婦さんの姿で、いそいそとナナの世話を焼こうとしています。
「メリーベル、こんなに近くに居てくれたと言うのに、どうして気が付かなかったのかしら?」
「姫さまは記憶を操られていたのですから仕方ありませんわ。きょう霊獣が現れて霊力を使ったので確信をもって皆さまをお呼びすることができました。あの霊獣は今日にも姫さまを氷の帝国につれさったでしょうから、ギリギリのタイミングで間に合いましたわね。」
「ありがとう。メリーベル、ちょっと待っててね。」
そういうとナナは解放された霊力で虹色の蛇と青竜を癒すと、メリーベルに促されるままに着替えに向かいました。
「くっそう。レイ! どうゆうつもりだ。力を向ける相手が違うだろうがよ!」
「それにピンク! てぇめえ。裏切りやがったな!」
その間にようやく意識を取り戻したらしい虹色の蛇が人化してゆっくりと身をおこしました。
「やれやれ、どうやら命びろいしたようですね」
そう言って悪びれもなく敵の真っ只中で発言できるのは、さすがに霊獣の貫禄と言えるでしょう。
「少しお付き合い願いますよ。霊獣殿とサイラス殿。」
レイはそう言うと着替えを済ませてやってきたナナたちとともに、全員でアイオロス王の執務室に転移させてくれるようにピンクにお願いしました。
ピンクは全員の転移を済ませると、さっさとプレスペル皇国に帰ってしまいました。
残っても面倒なことになると思ったのでしょう。
アイオロス王の執務室では、懐かしい面々がナナの帰国を待ってくれていました。
「お父さま、ただいまかえりました。ありがとうございます。ごめんなさいねアンジェ。」
ナナは真っ先にアイオロス王の胸に飛びこむとすぐにアンジェリカ王女に謝罪しました。
せっかくの新婚旅行を台無しにしたうえに、結婚披露パーティまでおじゃんにしたのですから。
ナナの元気なすがたに和やかになった執務室のメンバーも、氷の帝国の霊獣とサイラス医師の姿を見るとたちまち緊張した空気になりました。
「まぁ、そんなに怖い顔をするんじゃねえ。今から楽しいお話合いの時間って訳さ。酒ってわけにもいかねぇか。茶でも用意しろ!」
王の言いつけに侍女たちは素早く準備に取り掛かりましたし、その場にいたメンバーもまた執務室にしつらえられている大きな円卓をかこんで座りました。
この円卓はナナが円卓の騎士の話をして、それを面白がった王がわざわざ作らせたものです。
侍女たちが銘々にお茶を配り終えるまで、円卓では重苦しい沈黙が支配していました。
ナナは判決を待つ被告みたいな気分でしたし、ノリスは未だ怒りを抑えきれていません。
捕虜たちから何か話す筈もなく、レイはだんまりを決め込んでいます。
そうなるとこの場で発言しようとするつわものがいる筈もなく、必然的に重苦しい沈黙が続くことになります。
「さて、氷の帝国の剣王マリウス陛下と名医と名高いサイラス博士。ここまで強引なことをなさるからにはリスクは承知でしょうなぁ。」
口を開いたのはアイオロス王でした。
「アイオロス国王陛下。もとより命は捨てております。さきほど名医とおしゃってくださいましたが、私に医師の資格などございません。既に氷の帝国の半数は奇病に侵され、国民の10%が死亡致しました。致死率の高さから見て、このままでは国民の過半数が死亡するでしょう。」
「それで国王自ら王女を誘拐したと言う訳ですか? なぜ正式なルートを通そうとはしなかったのですか?」
レイはそう尋ねたがその疑問は最もだ。
王女誘拐よりは、正式なチャンネルを使うほうが、ずっと成功率は高くなるはずです。
「すでになんども正式に面会依頼を出しているし、聖女降臨も願い出ている。それを握りつぶしておいてよくもしゃぁしゃぁと言えたものだな。私も王として国民の為にこの命を捨てる覚悟は持っている。」
憤然としてマリウス王は答えた。
アイオロス王がモリスを見ると、モリスは苦しそうに言う。
「その嘆願書が最初に出されたのは、和平会議の当日でした。その後レティシア王女誘拐・国際連盟発足と膨大な仕事量のために、普段交流のない氷の帝国からの親書は書類の奥深く眠ってしまいました。」
「今回に事件が発覚してから、ウィンディア王国に恨みを持つ者を調べるために書類をひっかきまわしたところ、確かに氷の帝国からの親書は8通も有りました。」
「最初に氷の帝国の親書は優先度が低いと判断されたために、以降は自動的に却下されてしまったようです。なかにはマリウス陛下からの正式な書状があったのですが……。申訳ございません。」
モリスは深々と頭をさげましたが、モリスの責任ではありません。
私が誘拐されて、モリスはレイの仕事まで引き継いだのです。
それでも部下の失態はノリスの責任になってしまうのでしょうか?
元はといえば、私の能天気さが悪いのに……。
ナナはそう考えると、発言をしようとしましたが、レイに目で制されてしまいました。
「オレの婚約者との結婚を望んだようだが?」
ギロリとノリスがマリウスを睨みます。
「責任を取ろうとしたのです。ご存知のように通常女性が誘拐されると、誘拐した相手と結婚しない限り社交界から抹殺されてしまいます。私は姫ぎみにそんな汚名を着せるつもりはありません。その責任は取らせていただきます。」
「考え違いするなよ。レティシア王女はオレの番だ。まぁ惚れたのなんのという執着でないことは判ったが、余計なお世話だ!。しっかり頭に叩き込んでおくんだな。何があろうとレティシア王女を守るのはオレしかいない。」
それを聞くとナナは真っ赤な顔をしてうつむいてしまいましたから、円卓には生暖かい空気が流れました。
「よし。今回は痛み分けということでいいかなマリウス王。こちらにも落ち度があった。そちらも無茶をした。そういうこった!」
「なんと!アイオロス王陛下! 姫君を連れ去ろうとした我らを許すおつもりですか!」
サイラスが驚いて尋ねるとこともなげにアイオロス王は返答した。
「フン、タダで許すつもりなんかねぇよ!サイラス。 病気が収束したら10年間このウィンディア王国で教師をやってくれないか? 優秀な医者を育てたいんだ。かまわねぇよなマリウス。」
「まさか! 王女を我が国に寄越して下さるのですか? ありがとうございます。サイラスの力で良ければぞんぶんにお使い下さい。」
マリウス王は目を白黒させている。
こうしてナナの誘拐劇は終幕を迎えた。
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