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《裏技》マスター、海水浴をする

これは……ヤバイな……

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 ミルラに案内され、俺は合唱団の練習場へと向かった。

「皆んなー! ちょっとちゅうもーく!」

 ミルラが俺に両手を向けて手をヒラヒラとさせる。

「こちら! 人族のイイジマさん! 今日から私達の先生になります!」

 その一言で彼女達は困惑し始めた。

 まあ、そりゃそうだよな。

 人族が先生って普通ありえない事だもんな。

「彼が……?」

「先生って……え? 人族が?」

「大丈夫なのかな……?」

 うん、その不安はごもっともだ。

 何せ俺自身でさえ不安だからだ。

「はいはい! お喋りはそこまで! じゃあ先生、お願いします……!」

 え、もうやるのか!?

 いや、普通そうだよな……うん。

「あー、さっきミルラさんも言っていたが、イイジマだ。よろしく」

「「「「「よ、よろしくお願いしまーす……」」」」」

 うわぁ……凄い距離を感じる。

 なんか空気も凄い重いし。

 俺ちゃんと出来るかぁー?

「それじゃ、まず今練習中の歌を聞かせてくれ」

「「「「「はい!」」」」」

 全員が綺麗に並び、曲が流れ始める。

「「「「「ア゛ァー!」」」」」

「待て待て待て待てストップストップ!」

 曲が止む。

 ……え、マシな人達でこれ?

 嘘だろ?

「えーと……皆んな、まず声を腹から出してみよう」

「お腹から?」

 一人の人魚族が聞いてくる。

「ああ、腹からだ。今のを聞いた感じ、全員のどから声を出してるだろ?」

「ええ、まあ……声帯せいたいはそこにありますし……」

「あー、いや、まあそうなんだがな。腹にこうグッと力を入れて声を出してみろ。
そうすれば『ア゛ァー!』って声じゃなくて『アァー!』って声になる筈だ」

「「「「「分かりました。ほら、皆んなやるわよ!」」」」」

 再度曲が流れ始める。

「「「「アァー!」」」」

「「「「「ア゛ァー!」」」」」

「おけおけ、一旦ストップ」

 今出来てる人と出来てない人がいたな。

 んで、まあ出来てる人の方が少ないなぁー。

「今声が『ア゛ァー!』じゃなくなったって人、挙手してくれ」

 えーと……13人か。

 まあ半分に近い人数が出来ただけで上々と考えるべきか。

「んじゃ、出来た人は俺から見て左の方に、出来なかった人は右の方に行ってくれ」

 ゾロゾロと動いて左右に分かれた。

「あー、出来た人はそのまま歌の練習。出来なかった人は俺が一人ずつ歌声を聞いていって修正していく。良いか?」

「「「「「はい!」」」」」

 そして左側に行った人達はそのまま歌い始めた。

 うん、さっきよりもマシだな。

 音程が取れてないが……。

 まあそこは裏技バグで何とかなる。

 さて、今、じゃあ何で裏技使わないの? と思っただろう。

 お答えしよう。

 今回の裏技は、あくまでも、音程を合わせて、声を大きくしてくれるだけなのだ。

 なので、声の質自体は良くないといけない。

 言い換えれば、声を良くするだけで綺麗な歌が歌える訳だ。

「それじゃまずは君から歌って貰おうか」

「はい!」

「せーの」

「ア゛ァー!」

 なるほど、これは簡単だ。

「まだまだ喉を使いすぎてる。もっと腹から出すんだ」

「やり方は一体何なんです?」

「グッと力を入れる。じゃ分かりません!」

「そうよそうよー!」

 なるほど、ほぼ全員が同じ課題なのか。

「よし、一つ質問しよう。君たちが大声で叫ぶ時、どうしてる?」

「えーっと……こうですね」

 腰に手を当てて、少しだけ胸を張っていた。

 まあ、そういう体型になるだろう。

「良いね、じゃあ普通に叫んでみろ」

「分かりました……アァー!」

「今、どっから声が出てる感じがした?」

「……あ! 確かになんかお腹から来た様な気がします!」

 その発言で周りの人魚族の目が丸くなる。

「えっ、嘘!?」

「ちょっと私叫んでみる! アァー! ほ、本当だ! お腹から来ている気がする!」

「凄い凄い!」

 よし、何とかなりそうだな。

「あの……」

「ん?」

「私は……お腹から出してるのに……声が上手く出ません……」

「ほぉほぉ、一回歌声を聞かせて貰っても良いか?」

「はい……ァァー!」

 うん、声が小さいだけだこれ。

 あとまあこの人もまだ喉をかなり使ってるなぁ。

「もっかいやってみてくれ」

「分かりました……ァァー!」

「ほっ!」

 彼女の腹をグゥッと押す。

「アァー! ……す、凄い! 声が出ました!」

「良かったな」

「はい! ありがとうございます!」

 これで発声自体は問題無くなった……か?

「イイジマさん、やはり私が見込んだ通り凄い人ですね」

「そうか?」

「はい、私は人に教えるのが得意では無いので、あんな風に教える事が出来ませんでした。
イイジマさん、本当にありがとうございます」

 ミルラが深々と頭を下げて来た。

「おいおいやめてくれよ、俺はただ基礎を教えてるだけなんだから」

「それでもその基礎を教えてくれた事については感謝はしないといけません」

「ん、ん~」

 少し複雑な気分になりつつも、謝意しゃいを受け取った。

「それじゃ、次は……」

 彼女達から期待の眼差しが向けられる。

「歌がめっちゃくちゃ上手くなるおまじないを掛けまーす」

「「「「「……え?」」」」」

 多分、今日一の頓狂とんきょうな声が彼女達から出た。
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