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第6話 あの男の計画

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翌週の火曜日、朝の準備をしていると、妻が
「今週の金曜日に職場の飲み会があるけど、行っていい?」
と聞いてきた。

「めずらしいね、いつもは職場の飲み会があっても行かないのに」

「そうなんだけど、入社した時からお世話になっている女の先輩が退職することになって、その送別会だから出た方がいいかなと思って」

「そうなんだ。行っておいでよ」

「女同士の話もあるから、少し遅くなっちゃうかもしれないけど」

「いいよ、いいよ。その日は、たしか、うちの職場も飲み会があったはずだから。気にしないでゆっくりしてくれば」

「ありがとう」

「でも、セクハラ専務には気をつけてね」

「大丈夫、近づかないようにするから」

そう言って、妻は職場に向かった。



妻の息抜きにもなるし、たまにはいいだろうと思いながらも、いつもと様子が違って感じられた。
なんとなく気になったので、帰りに、あの飲み屋に行ってみることにした。
あの男なら、同じ職場なので飲み会の情報を何か聞けるのではないかと思ったのだ。


店に入るとすぐ、奥のカウンターに彼の姿を見つけることが出来た。
真っ直ぐ須田の所に向かい、声をかけ、隣の空いている席に座った。
須田は笑顔で迎えてくれた。

どうやって切り出そうと思いながら、たわいもない話をしていると、向こうから妻の話題に触れてきた。

「そういえば、この間お会いした時に見せて貰った写真の女性なんですけどね、実は、あの女性、うちの会社で働いている女性みたいなんですよ」

「え、ホントに。そんな偶然あるのかな」とぼけて見せた。

「この間写真を見せてもらった時にすぐピンときたんですけど、その時は確信が持てなかったので」

須田は自分のスマホを取り出して操作しだした。
この間の写真の一枚を表示させ、拡大させながら、

「ほら、こことここにホクロがあるでしょう」
と口元や、首にあるホクロを指さした。

「いつも職場では髪をまとめてて、メガネも掛けてるから雰囲気が違ったけど、このホクロの位置も一緒なんだから、絶対彼女だと確信しましたよ」

「へえ、職場ではどんな女性なんです?」

「あんまり化粧っ気も無くて、地味で堅物っていう感じなんですけど、パーツは整ってるし、かなりの美人だなとは思ってたんです。でも、普段は澄ました感じで、ほとんど他の男性社員と話さないし、仕事で話しかけても、事務的な冷たい返事しかしてもらえなかったので、ちょっと近づきがたい感じだったんですよね」

私は、スマホを取り出し、顔の映っている写真を出して見せた。

「うん。絶対そうだ」

「で、その写真を彼女に見せたんですか?」

「いや、そんなことはしませんよ。なんか、裸の写真で脅して、無理やり仲良くなろうとは思いませんからね」

少しほっとした。
非常識な、やばい人間ではないらしい。

「それで、何か話すきっかけを作ろうと思っていたら、机の上にアニメ『ちびこわ』のイラストの入ったマグカップが置いてあったんです。実は私も『ちびこわ』が好きで、すぐに気づいて……。それで、翌日、以前買った『ちびこわ』のクリアファイルに書類を入れて持って行って、さりげなく見せるようにしたら、すごい反応して。ちょうど他の社員がいなかったので、10分くらい『ちびこわ』の話しをしちゃいました」

そういえば、妻は昔からアニメが好きで、最近は可愛い動物みたいなキャラクターが出てくる『ちびこわ』にはまっていて、グッズを集めていた。

私も頼まれてコンビニを回ったこともあるし、一緒にグッズショップに行ったこともある。

「それからは、昼休みとかにも、見かけた時に声をかけたら打ち解けて話してくれるようになったんですよ」

須田がうれしそうに話す。

「この間なんて、ちょっと下ネタも入れてみたけど、抵抗ないみたいなので、自虐的に、モテないからソープに行くしかないって言って、ソープの失敗談なんかしてみたら、興味津々でしたよ。『ここの給料安いから、稼げるなら自分もそういうところで働いてみようかな』なんて言っていて」

妻がそんなことを……。

「『こんなおばさんなんて無理よね』とか言ってたので、『そんなことないよ、全然若く見えるし、それにこの間ソープで俺についた自称20歳の女の子よりも若々しくてピチピチしてるよ』って言ったら、まんざらでもない顔をしてたんです」

妻が他の男とこんなに気軽に話をしているとは思わなかった。
しかも下ネタまで。

「彼女、かなり性欲が強い方なんじゃないかな。旦那とのセックスだけでは満足して無くて、もっと他のセックスを求めてる感じですよ」

そんなことを言われて、少し悔しいと思ったが、冷静に応じた。

「確かに、自分が会った時もそんな感じだったな。あんまり男性経験は多くないみたいだけど、旦那以外の男性に興味を持ってる感じだったし、誘えば行けるんじゃない」

須田はニヤリと笑って、
「実は……、今度二人で飲みに行くことになったんです」と言った。

驚いた。

「何回か誘ってダメだったんですけど、やっとOKをもらえたんですよ」

心臓がバクバクしてきたが、つとめて冷静に聞いた。

「やったね。で、いつ行くの」

「今度の金曜日です」

「金曜日…」

妻が飲み会があると言っていた日だ。

鼓動がどんどん激しくなる。
飲み会じゃなかったのだ。
妻は、この男と二人で飲みに行くために、自分から嘘をついて…。


「先週も、帰りが一緒になったことがあって、誘ってみたんですけど、『旦那が帰ってくるし、夕飯の支度をしなきゃ行けないから』って断られて、でも、そう言いながら、帰り道の公園のところで1時間近く立ち話しちゃったんですよね。
時間に気づいて、慌てて帰って行ったけど、次の日、向こうから『今度はお茶しようね』って言ってくれたんです」

そういえば、夕飯が駅前の店のテイクアウトのお弁当だったことがあって、
「残業だったから、買ってきたお弁当でゴメンね」
と言っていたことがあった。その日のことかもしれない。

「そしたら、今朝、今度の金曜日なら大丈夫って耳打ちしてくれたんです。旦那さんのスケジュールを確認してくれたみたいで、今度の金曜日なら旦那さんも飲み会なので、時間がとれるらしいんです」

妻が私に嘘をついてまでこの男と二人きりの時間を持ちたかったのか。
妻は、どこまでついていく気なんだろう?

「よかったね。……それって、飲みに行くだけ?」

須田の本音を聞きたいと思った。

「向こうがダメそうなら飲みに行くだけでも十分ですけど、もちろん、その後のお楽しみが目的ですよ」

「楽しみだね。あとで、その時の武勇伝を聞かせてよ。できれば、写真も」

「もちろんです」
彼は機嫌良く返事をした。


須田も話しながら、金曜日のことを考えて興奮しているのだろう。
トイレに立ち上がった時、股間が盛り上がっているのが分かった。


男の様子を眺めながら、私は興奮を抑えられなかった。

妻がこの男と二人で飲みに行く。
その後、この男にホテルに連れ込まれてやられてしまうのだろうか?

妻が、ついに他人棒を受け入れてしまうのだろうか?
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