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第2話 飲み屋で知り合った男
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その日は、取引先の工場の視察があった。
終わったら一度会社に戻ろうと思っていたが、工場長の話に付き合っていたら、だいぶ遅くなってしまったので直帰することにした。
来た時は車に便乗してきたので気づかなかったが、スマホで駅までの道を調べてみると、妻の職場に近いことが分かった。
せっかくなので、合流して食事でもと思って妻に連絡をすると、
「今日は、職場の同僚の女性とケーキバイキングに行くことになったってLINEしておいたでしょう。
見てないの?」
「ごめん、見てなかった。
こっちも適当に食事を済ませて帰るから、ゆっくりしてくるといいよ。
それじゃ」
と言って電話を切った。
LINEを確認すると、昼頃に連絡が来ていたらしい。
一人で何か食べて帰ろうと駅に向かって歩いていると、一本路地を入ったところに感じのよさそうな店を見つけた。
前まで言って中を覗くと結構にぎわっているようだ。
この時間にこれだけ入っているのだから、人気店なのかもしれない。
中に入ると、奥のカウンターの席に案内された。
ビールを注文して飲み始めていると、少し遅れて、同年代くらいの男が隣の席に座った。
男は座るなり、カバンの中のものをカウンターの上に出し始めた。
スマホを探していたらしく、見つけると、出したものを片付け始めたのだが、書類の一つが私の足下に落ちてきた。
拾って渡すと、男は礼を言った。
封筒に妻の会社の名前が印刷されていたので、気になって見ていると、男がそれに気づいて
「これ、うちの会社なんですが、もしかして、お取引先の方ですか?」と聞いてきた。
私はとっさに「取引先の名前と似てたのでちょっと気になったんですが違うみたいです」と答えた。
男は、せっかく隣に座ったのだからと、一緒に飲み始めた。
男は須田と名乗った。
妻の口から聞いたことのない名前だ。
彼はその会社の現場の作業員らしく、事務所で働く妻とは接点がないのかもしれない。
須田は青森の出身らしく、私が先月出張で青森に行った話をしたら、青森の話題でひとしきり盛り上がった。
酔いも回ってくると、私が会社の人間でも、取引先の人間でもない安心からか、会社の愚痴をいろいろこぼしていた。
須田は独身で一人暮らしらしく、男ばかりの職場で、むさ苦しくて何の楽しみもないとぼやく。
風俗が唯一の癒しだと笑っていた。
「職場には全然女性がいないんですか?」と聞くと、
「事務所にはいるんですけどね、3人だけ。
アルバイトとかも入ってくるけど、すぐ辞めちゃうみたいなんですよね。
若いから続かないのかもしれないけど、女の子からしてみたら、おっさんばかりのむさ苦しい職場で、給料も安いんだから、もっと条件のいい別のとこに行って当然ですよね」
男はビールを飲み干すと、追加の注文をして続けた。
「半年くらい前に、一人若い子がいて、すごく可愛いんですよ。
愛想もいいし。
高校卒業してからフリーターしてたみたいなんですけど、親に定職に就くよう言われてうちに来たらしいんです。
若いっていうだけで、なんでも許せちゃう感じでいいですね。
まだあんまり男を知らないんじゃないかな」
風俗好きらしく、女性の話になるとさらに饒舌になる。
「あとは、一番古参の事務員がいるんですけど、40前後ですごく色っぽいんですよ。
おそらく、うちに来る前は水商売で働いてたんじゃないかな。
社長の愛人だったっていう噂もあったけど、社長はもう70過ぎなんで、今ではそっちはもう引退でしょうね。
それでか、彼女、現場の若い男をつまみ食いしてるらしいんですよね。
もちろん噂ですけど、彼女を見てると、あながちあり得ない話じゃないなと思わせるくらい、色っぽいんですよ」
「須田さんは狙わないんですか?」
「もちろん、全然ありですよ。
でも、以前、下心ありありで近づいて行ったことがあるんですけど、相手にしてもらえませんでした。
向こうは若い男が好みらしいです」
時々、妻の話題に出てくる女性がこの人だろう。すごく色気のある素敵な女性だと言っている。
「それに、好みで言うと、ああいうお水っぽい女性より、もう一人の清楚っていうか、清純っていうか、ちょっときつめなんですけど、そっちの女性の方がいいですね」
おそらく、それが妻だ。
「20代後半くらいで美人なんだけど、けっこう冷たい感じなんですよね。
でもそれがよかったりするんですけど。
話しかけてもそっけない返事しかしてもらえなくて、あんまり話をしたことは無いんです。
でも、胸はあるし、実際のところ、ああいうタイプって、結構スケベなんですよ。
かなり性欲は強いはずですよ」
やはり、今の職場でもエロい目で見られているらしい。
「この間なんか、制服の胸元から、ブラと谷間を拝むことが出来たんですけど、絶対見せてますよ。
見られてるの分かってて、意識して見せてるんだと思います」
まさか、妻が自分から見せるなんて、そんなことはないと思いながら、妻にそんな面があるとしたら……、そう考えるだけでぞくぞくしてきた。
「実際のところ、彼女のことを狙ってる男は結構多いみたいなんですよね。
一番危ないのは、うちには典型的なセクハラおやじの専務がいるんですが、その専務にも狙われてるんですよ」
「もしかして、もうやられちゃってたりして」
「それはないですね。
前から、『いつも飲みに誘ってるけど断られてる』ってぼやいてたし、この間酔った時にも、
『今度休日出勤させて、事務所で犯してやる』とかヤバいこと言ってたし」
やっぱり、あいつは妻のことを狙っていたのか……。
もしかしたら、休日に会った日も、妻は誘われていたのかもしれない。
今日も、同僚の女性と言っていたけど、もしかして……。
終わったら一度会社に戻ろうと思っていたが、工場長の話に付き合っていたら、だいぶ遅くなってしまったので直帰することにした。
来た時は車に便乗してきたので気づかなかったが、スマホで駅までの道を調べてみると、妻の職場に近いことが分かった。
せっかくなので、合流して食事でもと思って妻に連絡をすると、
「今日は、職場の同僚の女性とケーキバイキングに行くことになったってLINEしておいたでしょう。
見てないの?」
「ごめん、見てなかった。
こっちも適当に食事を済ませて帰るから、ゆっくりしてくるといいよ。
それじゃ」
と言って電話を切った。
LINEを確認すると、昼頃に連絡が来ていたらしい。
一人で何か食べて帰ろうと駅に向かって歩いていると、一本路地を入ったところに感じのよさそうな店を見つけた。
前まで言って中を覗くと結構にぎわっているようだ。
この時間にこれだけ入っているのだから、人気店なのかもしれない。
中に入ると、奥のカウンターの席に案内された。
ビールを注文して飲み始めていると、少し遅れて、同年代くらいの男が隣の席に座った。
男は座るなり、カバンの中のものをカウンターの上に出し始めた。
スマホを探していたらしく、見つけると、出したものを片付け始めたのだが、書類の一つが私の足下に落ちてきた。
拾って渡すと、男は礼を言った。
封筒に妻の会社の名前が印刷されていたので、気になって見ていると、男がそれに気づいて
「これ、うちの会社なんですが、もしかして、お取引先の方ですか?」と聞いてきた。
私はとっさに「取引先の名前と似てたのでちょっと気になったんですが違うみたいです」と答えた。
男は、せっかく隣に座ったのだからと、一緒に飲み始めた。
男は須田と名乗った。
妻の口から聞いたことのない名前だ。
彼はその会社の現場の作業員らしく、事務所で働く妻とは接点がないのかもしれない。
須田は青森の出身らしく、私が先月出張で青森に行った話をしたら、青森の話題でひとしきり盛り上がった。
酔いも回ってくると、私が会社の人間でも、取引先の人間でもない安心からか、会社の愚痴をいろいろこぼしていた。
須田は独身で一人暮らしらしく、男ばかりの職場で、むさ苦しくて何の楽しみもないとぼやく。
風俗が唯一の癒しだと笑っていた。
「職場には全然女性がいないんですか?」と聞くと、
「事務所にはいるんですけどね、3人だけ。
アルバイトとかも入ってくるけど、すぐ辞めちゃうみたいなんですよね。
若いから続かないのかもしれないけど、女の子からしてみたら、おっさんばかりのむさ苦しい職場で、給料も安いんだから、もっと条件のいい別のとこに行って当然ですよね」
男はビールを飲み干すと、追加の注文をして続けた。
「半年くらい前に、一人若い子がいて、すごく可愛いんですよ。
愛想もいいし。
高校卒業してからフリーターしてたみたいなんですけど、親に定職に就くよう言われてうちに来たらしいんです。
若いっていうだけで、なんでも許せちゃう感じでいいですね。
まだあんまり男を知らないんじゃないかな」
風俗好きらしく、女性の話になるとさらに饒舌になる。
「あとは、一番古参の事務員がいるんですけど、40前後ですごく色っぽいんですよ。
おそらく、うちに来る前は水商売で働いてたんじゃないかな。
社長の愛人だったっていう噂もあったけど、社長はもう70過ぎなんで、今ではそっちはもう引退でしょうね。
それでか、彼女、現場の若い男をつまみ食いしてるらしいんですよね。
もちろん噂ですけど、彼女を見てると、あながちあり得ない話じゃないなと思わせるくらい、色っぽいんですよ」
「須田さんは狙わないんですか?」
「もちろん、全然ありですよ。
でも、以前、下心ありありで近づいて行ったことがあるんですけど、相手にしてもらえませんでした。
向こうは若い男が好みらしいです」
時々、妻の話題に出てくる女性がこの人だろう。すごく色気のある素敵な女性だと言っている。
「それに、好みで言うと、ああいうお水っぽい女性より、もう一人の清楚っていうか、清純っていうか、ちょっときつめなんですけど、そっちの女性の方がいいですね」
おそらく、それが妻だ。
「20代後半くらいで美人なんだけど、けっこう冷たい感じなんですよね。
でもそれがよかったりするんですけど。
話しかけてもそっけない返事しかしてもらえなくて、あんまり話をしたことは無いんです。
でも、胸はあるし、実際のところ、ああいうタイプって、結構スケベなんですよ。
かなり性欲は強いはずですよ」
やはり、今の職場でもエロい目で見られているらしい。
「この間なんか、制服の胸元から、ブラと谷間を拝むことが出来たんですけど、絶対見せてますよ。
見られてるの分かってて、意識して見せてるんだと思います」
まさか、妻が自分から見せるなんて、そんなことはないと思いながら、妻にそんな面があるとしたら……、そう考えるだけでぞくぞくしてきた。
「実際のところ、彼女のことを狙ってる男は結構多いみたいなんですよね。
一番危ないのは、うちには典型的なセクハラおやじの専務がいるんですが、その専務にも狙われてるんですよ」
「もしかして、もうやられちゃってたりして」
「それはないですね。
前から、『いつも飲みに誘ってるけど断られてる』ってぼやいてたし、この間酔った時にも、
『今度休日出勤させて、事務所で犯してやる』とかヤバいこと言ってたし」
やっぱり、あいつは妻のことを狙っていたのか……。
もしかしたら、休日に会った日も、妻は誘われていたのかもしれない。
今日も、同僚の女性と言っていたけど、もしかして……。
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