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第10話 ピンチ

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ゲームの全体マップから目的のエリアまで一気に移動した。

このエリアは砂漠地帯のようだ。

ヴァランの出現はこの地域に限定されているが、エリア内のどの辺かということは特定されていない。
ゲームの全体マップから目的のエリアまで一気に移動した。

このエリアは砂漠地帯のようだ。

ヴァランの出現はこの地域に限定されているが、エリア内のどの辺かということは特定されていない。


そもそも、ヴァランに遭遇して逃げ帰れた者自体が少ないので、詳しい情報はほとんど無いと言っていい。
討伐例はいくつかあるが、そこから情報が伝わってくることはない。

ヴァランは金になるのだ。
一度討伐に成功したグループは、その情報を漏らさず、自分たちでヴァラン討伐を独占しようとする。
そういうグループがいくつかあるという話しだ。

噂だが、そのうちの一つが、協会から派遣されたグループだとも言われている。


「というわけで、俺にも、ヴァランがどこにいるのか、どんな姿をしているのかは分からない。いつ出現してもいいように、準備だけはしておいてくれ」とビガロ。
頼りないようだが、これが現実だ。


しばらく小型モンスターを倒しながら進んでいくと、西の方から「ドォーン」という地響きがして、砂煙が上がるのが見えた。かなり遠い。
間には何もないからよく見えるが、地平線のあたりなので、現実世界で言えば4~5km先だろう。

歩を早めたが、砂に足を取られて思うように進めない。

先ほどの砂煙の見えたあたりに着いた頃には、モンスターも冒険者たちの姿もなかった。
ただ、冒険者たちの物と思われるリュックなどの荷物があちこちに散乱しているだけだ。


「うまく逃げられたのならいいけど……」

もし、モンスターにやられて戦闘不能になった場合、一定時間内に他のプレイヤーが救出すれば、ペナルティ無しに、そこからプレイを続行できるが、そうでない場合は、経験値を大幅に削られて、はじまりの街から再スタートすることになってしまう。

全員であたりを捜索していると、「いたぞ」と言う声が聞こえた。トマスだ。
みんながそっちに向かうと、戦士らしき装備の男が倒れていた。

半分以上砂に埋もれていたので、そこから引っ張り出そうとしていると、あたりの砂が揺れ動いた気がした。
他のメンバーも感じたらしい。

緊張が走る。


次の瞬間、右手の方で砂が舞い上がり、巨大な細長い物体が伸び上がる。

「逃げろ!」アーチャーが叫ぶ。

ビガロとアーチャーが剣を抜き戦闘態勢に入る。

何とか倒れていた戦士を引っ張り出し、トマスとミックと自分の3人で、抱えて走り出す。

細長いそれが襲いかかってくると、ビガロは身をかわしながら剣で斬りかかる。

今度はそれが戦士を抱えた3人をめがけて襲いかかってくると、ユミの左手から放たれた炎ではじき返す。

ひるんだそれに、アーチャーが斬りかかる。
パッと、辺りに緑色の液体が飛び散る。

「これはまずいぞ……」
頬に飛び散ってきたその液体を手でぬぐいながらビガロがつぶやく。

「俺とアーチャーが防いでいるから、お前たちは急いでここから逃げるんだ。ユミはマイを連れて逃げろ。安全なところまで行ったら援護魔法を頼む」

「分かった」ユミがマイを抱えるようにして走り出す。

逃げながらユミに向かって大声で尋ねる。

「どうして逃げるんですか? せっかく見つけたのに、なんでヴァージングをやらないんですか?」

「あいつは、ヴァランじゃない。さっきのアーチャーの攻撃で、血が飛び散ってたでしょう。もしヴァランだったら、アーチャーの攻撃は効かないはず」

(そういうことか)

「でも、あの二人だけの攻撃じゃ、倒せない……」

少し離れて、すぐにはモンスターの攻撃が届かない距離まで来てから立ち止まり、ユミが魔法で攻撃する。
わずかなダメージは与えられているようだが、モンスターが倒れる気配はない。

「このままじゃ、二人が危ない」
自分も攻撃を、と思ってみても、レベル2の自分に出来ることはない……。


それでも何とかしなければ、と思っていると、さっきのような「ドォーン」という地響きがして、砂煙が上がった。
何か攻撃が当たり、モンスターが倒れたらしい。

モンスターがそのまま砂の中に逃げようとするのを、ビガロとアーチャーが至近距離から攻撃して食い止める。

遠くから「離れろ」という声が聞こえ、白い光がモンスターに飛んでいき、命中する。

ビガロとアーチャーの目の前で、モンスターが光に包まれ、倒れ、動かなくなる。



「やっぱりお前たちはヴァラン討伐のパーティか」
年配の魔法使いが話しかけてくる。

遠くから見えた砂煙は、彼らがあのモンスターと戦っていたところだったらしい。

ライジングでとどめを刺そうとしたところで、足止め役の戦士がやられてしまったため、ひとまず逃げて様子を見ていたのだという。


「ここら一帯は、ヴァランも出るが、通常モンスターも頻繁に出現する。ヴァラン討伐に来た奴らの大半は、ヴァランではなく、通常モンスターにやられてしまうんだ。
あんた達のように、ヴァラン用に処女の巫女を連れてきているから、ライジングが出来ずにやられてしまう。
苦し紛れに処女の巫女と勇者でライジング攻撃をする奴らもいるが、ここらのモンスターは元気だから、処女巫女のライジング程度では倒すことは出来ない。もっと経験を積んだ巫女の攻撃じゃないとな」

「経験ばかり積んだ、古い巫女で悪かったわね」背後の巫女が服を身につけながら言う。


「ありがとう、助かったよ」

「いや、こっちこそ礼を言わないと。こいつも助けてもらったし」
先ほど助けた戦士は無事回復したらしい。


モンスターからの収穫物は彼らに全部譲って離れようとすると、

「俺たちは通常モンスター目当てだから、ヴァランが来たら逃げる。ヴァランが来る時は、その前に、ピーピーという笛みたいな音が聞こえるから分かるんだ」

さっき助けた戦士がニヤリと笑って、ヴァランの情報を教えてくれた。

「ありがとう。助かる」

礼を言って、その場を立ち去った。
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