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第6話 バイバイワーク

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その日は、そこまででゲームをログアウトした。

ゲームとしてそれなりに面白かったが、充実感と喪失感がないまぜになった、奇妙な感覚だった。

(ゲームの中でくらい、やりたい放題できたらいいのにな。現実と同じで、ゲームの世界で生きていくのも大変みたいだ)

股間がゴワゴワして気持ちが悪い……。
パンツの中の汚れは、現実だった。



翌日、学校から帰って早めに夕食と風呂を済ませると、すぐにゲームを始めた。
昨日のプレイで、案内係の女の子と職業体験が出来なかったことへの未練は残るが、
「それなら勇者になるだけだ」
と冒険者協会の建物に向かった。


昨日教えられた通り、5階に上がり『バイバイワーク』の受付に行く。

「職業は『勇者』をご希望ですね。それでは、300万ルペタになります」

「……? お金が…かかるんですか?」

「『戦士』『魔法使い』などといった『一般職』は無料ですが、『勇者』などの『特別職』は有料となります」

(そんなの聞いてないよ……)
思わず帽子を投げ捨てて、ジャンプしそうになる。

「現在お持ちなのは、3ルペタなので、2,999,997ルペタ足りません。ルペタは向かいの窓口で両替できますので、ご用意できましたら改めてお声かけください」と言われた。


両替窓口によると、基本的に「1ルペタ=1円」で換金できて、「1,000円両替で1,050ルペタ」「1万円両替なら11,000ルペタ」になるので、まとめて両替すれば少しお得になると教えてくれた。

(それって、ただの課金じゃん!)

要は、現実世界のお金で273万円課金しないと勇者になれないというのだ。
そんなお金、高校生に用意できるはずがない。


改めて受付のお姉さんに声をかけた。

「ルペタのご準備が整いましたか?」

「いや、お金無いんだけど、他に勇者になる方法はないの?」

「無料の一般職でスタートして、レベルアップしてから転職するという方法もあります」

「それだと、どれくらいで勇者になれるの?」

「ゲームの上手さにもよりますが、必要な経験値から換算すると、普通の方が一般職の戦士でスタートして、毎日24時間ゲームをプレイしたとすれば、約1年で勇者になることが可能です」

「1年!? しかも24時間続けて! 無理無理!」

「ゲームが上手な方が、毎日18時間プレイして、およそ6ヶ月で勇者になれるというシミュレーションもございます」

「それだって無理だよ!」



というわけで、当分勇者になることはできなそうだが、まずは「戦士」から始めるしかなかった。
勇者になれれば、ゲームの中でだけでも初体験ができたのに……。

「戦士」の登録を終え、とぼとぼ歩いていると、建物を出たあたりで声をかけられた。


最初は誰だか分からなかったが、初日に迷子になっていた時に助けてくれたパーティにいた戦士の一人だった。

このゲーム内で知り合った、まだ数少ない知り合いとの再会に、これまで起こったことを一気に話してしまった。

「それはもったいないことしたな」
「せっかく初体験できると思ったのに……」
「なんだ、お前まだ童貞だったのか」と豪快に笑う。
「そうですよ、どうせ、僕は童貞ですよ。一生、ずーっと童貞ですよ」
「悪い、悪い。でも、そんなにスネるな。それなら、いいところに連れて行ってやる」と言って立ち上がった。


男についていくと、市場の通りから外れて路地裏に入っていく。

何度か角を折れて進んでいくと、再び人通りの多い賑やかな通りに出た。
市場と同じように人は多いが、雰囲気は全然違う。

男は慣れた様子で進んでいき、奇妙なオブジェクトが飾られた大きな建物に入っていく。

「グエンさん、いらっしゃいませ。今日も新しい娘が入ってますよ」

戦士の男はグエンという名前らしい。

「おっ、いいね。でも、今日は友達を連れてきたんだ。まだ未経験者だから、いい娘紹介してあげてよ」

「いつもご紹介ありがとうございます。それではこちらをご覧ください」

壁に設置されたパネルに、女の子の写真が映っている。すごくかわいい。
店の男が画面をスライドさせると、次々とキレイな女の子の写真が切り替わる。

「どういった娘がお好みですか?」

「……。どれも可愛いです……」
あんぐりと口を開けて見入ってしまう。

「いい娘が揃ってるだろう」グエンもニヤニヤしながら見ている。

「すごいですね。いったい、何なんです、ここは?」

「風俗だよ」

「!?」

「好きな娘を選んでいいよ。せっかくの初体験の相手なんだ」

「は、初体験の相手!?」
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