上 下
56 / 59

56 ドワーフの出張修理

しおりを挟む

 人手が足りない。
 村民たちの頑張りによって、一気に農地が広がったのは良いのだが、農作業をするための人員が全然足りていないのだった。
 俺はハメルンの街に人を探しに行ったのだが、そこには見捨てられた人間しかいなかった。彼らには農作業は難しい。


「どうしたものかな」

 ちょっとやそっとでは解決できない問題に、俺は頭を抱えていた。
 また街でも飛んでこないだろうかと、非現実的かつはた迷惑なことを考えていたら、ある村から朗報が入ってきた。


「これなんですが……」

 村長がそれを指さす。
 郊外の、おそらく農家の納屋にあったそれは、赤色だった。
 油のにおいを漂わせた無骨だが頼もしい奴。

「トラクターか!」

「とらくたぁ?」

 異世界から来た彼らとは普通に言葉が通じるが、外来語はいまいちなのだ。

「農作業用の機械だよ」

「やはり!」

 村長の周りにいた村民たちも色めき立つ。
 村民たちも、当然トラクターなどは見たことはなかったが、それが何かくらいは推測できた。置いてある状況や、物の作りなどから見て、彼ら同士でそうではないかと話し合っていたのだった。

「コイツを使えるようにすれば、一気に農作業が楽になるぞ!」

「「「おぉぉぉぉ!」」」

 村民たちから歓声が上がった。

「この周辺の家も探して見てくれ。
 納屋のある家を特に注意して探すんだ」

「分かりました、領主様」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 結局、それぞれの村から、結構な数の農業用機械が発掘された。

 しかし、各村には整備する設備もなく、知識のある人員もいない。仕方がないので、ドワーフたちに出張修理をお願いすることにした。
 さすがに、大量のトラクターなどをドワーフの鉱山まで運ぶのは、あまりにも手間がかかりすぎるからな。

 普段から鉱山に引きこもっているドワーフたちだ。俺が頼んでも外出を嫌がるかと思ったが、意外にもあっさりと引き受けてくれることになった。

「こんな事もあろうかと、わしらはあれを作っておったのじゃ」

 ドルフが顎をしゃくった先には、一台のマイクロバスがとめてあった。
 バスの中には、各種工具が整然と納められており、他にもエンジン式の発電機や、エアーコンプレッサー、溶接機、ボール盤、ベルトグラインダーなど、様々な工作機械が備え付けられている。
 さらには、それなりの居住空間まで作りつけられており、下手なキャンピングカーよりも快適そうなのだった。
 小回りの利く小型バイクもバスの後部に積まれていて、出先でのちょっとした移動まで考えられているのには驚いた。

「なるほど。移動修理工場ってわけか。やるなぁ!」

「ガッハッハ、わしらは先の先まで考えておるのじゃ。
 せっかく作ったんじゃし、この機会に使ってみんことにはのぉ」

 幸いにして、マイクロバスが走れるくらいの道なら、もう整備されている。
 さっそく彼らに出動をお願いすることにしたのだった。

 マイクロバスにはドルフと数名のドワーフたちが乗る。残りのドワーフたちは普段の作業のために鉱山に残った。燃料を延々を作り続けないといけないので、完全に留守にはできないのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ふむ、これがトラクターというものか……。
 この後ろの部分を付け替えることで、様々な農作業に対応するわけじゃな。
 構造自体はさほど複雑ではなさそうじゃの」

 ドワーフたちは初めて見る機械に少しの間戸惑っていたが、すぐに構造を理解して、ほとんど流れ作業のように修理できるようになった。

「さすがだなぁ」

「当然じゃ。わしらに直せないものはないんじゃ。
 それに、これらの機械は持ち主が手入れをちゃんとしておった様じゃ。
 元々丈夫に出来ておるようじゃし、ほとんど壊れてはおらんの」

「燃料は軽油なのか?」

「ふむ、こっちのはディーゼルエンジンじゃが、
 あっちにあるのはガソリンエンジンじゃな。いろいろあるようじゃの」

「ガソリンが足りなくならないかな」

「確かにそうじゃのぉ。
 もったいないが、ガソリンエンジンのやつは置いておくかの」



 俺はドワーフたちが機嫌よく各村を回れるように、村長たちに指示を出した。

「彼らは少々気難しいが、ちゃんと話せば聞いてくれる。
 機嫌を損ねないようにうまいこともてなしてくれよ。
 強い酒に目がないのは知ってるな?」

「もちろんです。
 しかし、この銘柄で本当によろしいのですか?」

 村長は怪訝けげんな顔で、ウイスキーの入ったデカいペットボトルを持ち上げる。
 某スーパーのプライベートブランドのそれは、人間にもホビットたちにも評判が良くない。かなりの数が発掘されているのだが、誰も手を付けずそのまま残っていることが多いのだった。



「これじゃこれじゃ、ガッハッハ!」
「舌が痺れるような強さが良いのぉ」
「まったくじゃ!」
「ンゴゴゴゴ……。ぷはぁぁぁ、もう一杯!」

 どの村に行っても、大好きな強い酒をふるまってもらえるドワーフたちは、終始上機嫌で出張修理をやり遂げたのだった。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...