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56 ドワーフの出張修理
しおりを挟む人手が足りない。
村民たちの頑張りによって、一気に農地が広がったのは良いのだが、農作業をするための人員が全然足りていないのだった。
俺はハメルンの街に人を探しに行ったのだが、そこには見捨てられた人間しかいなかった。彼らには農作業は難しい。
「どうしたものかな」
ちょっとやそっとでは解決できない問題に、俺は頭を抱えていた。
また街でも飛んでこないだろうかと、非現実的かつはた迷惑なことを考えていたら、ある村から朗報が入ってきた。
「これなんですが……」
村長がそれを指さす。
郊外の、おそらく農家の納屋にあったそれは、赤色だった。
油のにおいを漂わせた無骨だが頼もしい奴。
「トラクターか!」
「とらくたぁ?」
異世界から来た彼らとは普通に言葉が通じるが、外来語はいまいちなのだ。
「農作業用の機械だよ」
「やはり!」
村長の周りにいた村民たちも色めき立つ。
村民たちも、当然トラクターなどは見たことはなかったが、それが何かくらいは推測できた。置いてある状況や、物の作りなどから見て、彼ら同士でそうではないかと話し合っていたのだった。
「コイツを使えるようにすれば、一気に農作業が楽になるぞ!」
「「「おぉぉぉぉ!」」」
村民たちから歓声が上がった。
「この周辺の家も探して見てくれ。
納屋のある家を特に注意して探すんだ」
「分かりました、領主様」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
結局、それぞれの村から、結構な数の農業用機械が発掘された。
しかし、各村には整備する設備もなく、知識のある人員もいない。仕方がないので、ドワーフたちに出張修理をお願いすることにした。
さすがに、大量のトラクターなどをドワーフの鉱山まで運ぶのは、あまりにも手間がかかりすぎるからな。
普段から鉱山に引きこもっているドワーフたちだ。俺が頼んでも外出を嫌がるかと思ったが、意外にもあっさりと引き受けてくれることになった。
「こんな事もあろうかと、わしらはあれを作っておったのじゃ」
ドルフが顎をしゃくった先には、一台のマイクロバスがとめてあった。
バスの中には、各種工具が整然と納められており、他にもエンジン式の発電機や、エアーコンプレッサー、溶接機、ボール盤、ベルトグラインダーなど、様々な工作機械が備え付けられている。
さらには、それなりの居住空間まで作りつけられており、下手なキャンピングカーよりも快適そうなのだった。
小回りの利く小型バイクもバスの後部に積まれていて、出先でのちょっとした移動まで考えられているのには驚いた。
「なるほど。移動修理工場ってわけか。やるなぁ!」
「ガッハッハ、わしらは先の先まで考えておるのじゃ。
せっかく作ったんじゃし、この機会に使ってみんことにはのぉ」
幸いにして、マイクロバスが走れるくらいの道なら、もう整備されている。
さっそく彼らに出動をお願いすることにしたのだった。
マイクロバスにはドルフと数名のドワーフたちが乗る。残りのドワーフたちは普段の作業のために鉱山に残った。燃料を延々を作り続けないといけないので、完全に留守にはできないのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふむ、これがトラクターというものか……。
この後ろの部分を付け替えることで、様々な農作業に対応するわけじゃな。
構造自体はさほど複雑ではなさそうじゃの」
ドワーフたちは初めて見る機械に少しの間戸惑っていたが、すぐに構造を理解して、ほとんど流れ作業のように修理できるようになった。
「さすがだなぁ」
「当然じゃ。わしらに直せないものはないんじゃ。
それに、これらの機械は持ち主が手入れをちゃんとしておった様じゃ。
元々丈夫に出来ておるようじゃし、ほとんど壊れてはおらんの」
「燃料は軽油なのか?」
「ふむ、こっちのはディーゼルエンジンじゃが、
あっちにあるのはガソリンエンジンじゃな。いろいろあるようじゃの」
「ガソリンが足りなくならないかな」
「確かにそうじゃのぉ。
もったいないが、ガソリンエンジンのやつは置いておくかの」
俺はドワーフたちが機嫌よく各村を回れるように、村長たちに指示を出した。
「彼らは少々気難しいが、ちゃんと話せば聞いてくれる。
機嫌を損ねないようにうまいこともてなしてくれよ。
強い酒に目がないのは知ってるな?」
「もちろんです。
しかし、この銘柄で本当によろしいのですか?」
村長は怪訝な顔で、ウイスキーの入ったデカいペットボトルを持ち上げる。
某スーパーのプライベートブランドのそれは、人間にもホビットたちにも評判が良くない。かなりの数が発掘されているのだが、誰も手を付けずそのまま残っていることが多いのだった。
「これじゃこれじゃ、ガッハッハ!」
「舌が痺れるような強さが良いのぉ」
「まったくじゃ!」
「ンゴゴゴゴ……。ぷはぁぁぁ、もう一杯!」
どの村に行っても、大好きな強い酒をふるまってもらえるドワーフたちは、終始上機嫌で出張修理をやり遂げたのだった。
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