53 / 59
53 ドラゴンスレイヤー
しおりを挟む「まったく……。何を斬ったらこうなるんじゃ」
俺が愛用しているロングソードは、ドワーフが作った業物だ。
それが刃こぼれどころか亀裂まで入って、酷いことになっている。
剣を点検していたドルフが大きなため息をついて、じろりと俺を見る。
「こいつをぶち割ったんだよ」
俺はこないだ倒したトロルの首輪を手に、戦闘の顛末を説明した。
「……ふん、まぁそれなら仕方がないかもしれんが、
それにしても常識外れの無茶苦茶な使い方じゃわぃ。
この剣はあくまでも人間用に鍛えたものじゃからの」
「俺用の剣じゃなかったってことか。
ドワーフと言えども、バンパイア用の剣はさすがに作れないか?」
「何をぬかすか! わしらに作れぬものなどないわぃ!
鍛冶仕事はわしらの天職なんじゃ、望み通りの剣を打ってやる。
どんな剣なら満足なんじゃ?」
「ドラゴンでも真っ二つにできるようなのが欲しい」
ドルフの目がギラリと光った。
「……いいじゃろう。
打ってやろうとも、ドラゴン殺しをの」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一カ月後。
「どうだ?」
「もちろん、出来ておるわぃ」
ドルフはニヤリと不敵な笑顔を浮かべる。
ドルフが奥に声をかけるとドワーフたちが数人がかりで運んできた。
「こっ、これは剣なのか?」
新しい武器見たさに付いて来たジャンヌが驚きの声を上げる。
俺の前にそれがドスンと置かれた。
それは剣というよりも細長い鉄板だった。確かによく見れば両刃の剣だが、そのあまりの分厚さ大きさに、人が扱える物には見えないのだ。刃の先から柄頭まで俺の身長程もある。ドワーフが作ったにしては、装飾も少なくずいぶんと無骨だ。
「わしらが丹精込めて打ったんじゃ、振れぬとは言わせぬぞ」
ドルフがギロリと俺を睨む。
「上等だ!」
俺は念のために靴を脱いで裸足なる。本気で動くと靴に穴が開くからな。
柄をグイっとつかんで、気合と共に上段に構える。
「ぐぬぅ……、せいっ!」
重さで足が地面に少し沈んだ。
「「「おぉぉ!」」」
ドワーフたちがどよめく。
「あんなものを持ち上げただと……」
ジャンヌも仰天している。
「ふん!」
一気に剣を振り下ろし、地面すれすれでとどめる。
ブオンと風が起こり、砂ぼこりがブワッと吹き上がった。
下手をすると剣の重さで体が前転しそうだ。
「「「おぉぉぉぉ!」」」
ドワーフたちもジャンヌも歓声を上げた。
「何とぉ! 振りおったぞ!」
ドルフもまさか俺がこの剣を振れるとは思ってなかったんだろうな。
俺に一泡吹かせるつもりだったんじゃないか?
「確かに重いが、振れないことはないな。
でも、これってどうやって持ち運ぶんだよ」
「うむ、それ用の帯剣ベルトは作ってあるんじゃが……」
それは安全帯のフルハーネスのように縦横に革ベルトが組み合わさった、拘束衣のような何かだった。確かにこれくらいじゃないとこの剣は固定できないだろうが、いちいちこんな物着るのはちょっとな。
「今、これはないと思ったじゃろ?」
「ぁ、ああ、バレたか、ハハハ!」
俺は乾いた笑いでごまかす。
「わしらも、それはさすがにダメじゃと思って、こうした」
今度は、鞘自体に肩ベルトが付いたものだった。なんというか、巨大な鞘の形をしたランドセルのようなものだ。
「こうやって剣を背負う感じだな。なるほどこれなら問題ないな」
拘束衣のような帯剣ベルトよりはだいぶマシだな。
「背負ったままでは剣が抜けんじゃろうから、
そのたびごとに背から降ろす必要があるがの」
「まぁ、それは今までもそうだったから大丈夫」
「ブ、ブラド、私にもその剣を持たせてくれ」
武具マニアのジャンヌが我慢できなくなったようだ。
「かまわないけど、滅茶苦茶重いぞ?」
下手に倒れると危ないので、とりあえず地面に置いた。
さっそくジャンヌが柄に手をかける。
「ふん! ぬぅぅぅぅぅ……」
地面から少し浮くが、それ以上は持ち上がらない。
ジャンヌは真っ赤な顔でプルプル震えていたがダメだった。
ドスンと床に剣を置いた。
「ぷはぁ、ハァハァハァ……。
これは、私には無理だ」
持ち上げられなかったジャンヌは、しょんぼりとうなだれる。
「それは人用ではないからのぉ。振れる方がおかしいんじゃ」
「さすがはドワーフ。まさかこんな物まで作れるとはな。
コイツでいつかドラゴンを真っ二つにしてやるぜ」
俺は剣を構えて、言わなくても良いことを宣言する。
「楽しみに待っておるぞ。
その剣の代金は倒したドラゴンの皮と骨じゃ、ガッハッハ!」
ドルフたちは大笑いするのだった。
0
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる