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45 映画上映会

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 俺は一階の子供部屋で、各種のコードと格闘していた。

 ホビットたちに、いままで放置していた電子機器の類を拾わせているのだが、その中にDVDプレーヤーや大型モニターなどがあったのだ。ちょっと試したところ、問題なく動作しているようなので、子供部屋に設置することにしたのだった。

 手の空いているホビットたちにも手伝わせて、モニターを壁に取り付けたり、電源や信号のコードを邪魔にならないようにまとめたり、スピーカーの位置をあちこち動かしてみたりいろいろとやっていた。
 皆気になるのか、俺たちが作業しているのをワイワイ言いながら見物している。ちょっとテスト画像を映しただけで、歓声が上がる。

「「「おぉぉぉぉ!」」」

 クロエやジャンヌも興味深げに作業を見ている。
 さて、最初はどんな映画が良いかなと考えていると、ポチが外からやって来た。

「ガゥガゥガゥ……」

「妖魔か!」

「何ぃ!?」

 ジャンヌがガタっと立ち上がって自室に消えると、すぐに戻ってきた。戦闘準備はばっちりだ。愛用のロングソードだけじゃなく、こないだドワーフに作ってもらったコンパウンドボウも背負っている。矢も持てるだけ持っていくようだ。

 クロエが何か呪文のようなものを呟き、俺とジャンヌとポチを杖で軽くたたく。
 体がカッと熱くなるような感覚があった。

「守りの魔法です。怪我をしにくくなります」

「おぉ! サンキュー」

「クロエ、ありがとう」

「わふ」

 ポチにも魔法が効くのかな。
 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺とジャンヌとポチとで妖魔討伐に出た。クロエとホビットたちは留守番だ。

 現場に行くと、すごく大きな妖魔がいた。二本足で立っていて、体長は四・五メートルはあるだろうか。表皮は赤く、頭に角が二本生えている。どうみても赤鬼だ。赤鬼はボロ布を身にまとい、黒くて歪なかたちの鉄棒を持っている。

「ジャンヌ、あのデカいのは何だ?」

「あれはオーガだな。強敵だぞ」

 オーガが五体にゴブリンが二十体。ゴブリンは弓を構えて接近を阻んでいる。ゴブリンの弓も矢もさほど上等なものではないが、それでも有効射程は五十メートルくらいはあるだろう。仮にゴブリンの矢を避けたとしても、奥に控えるオーガの一撃は致命傷になる。
 さすがの魔狼たちもうかつには近づけず、緩く包囲するにとどまっていた。
 

「私がゴブリンをやる!」

 ジャンヌは新しい装備を試したくて、うずうずしているようだ。

「よし、任せた」

「おぅ!」

 サファイア号から降りたジャンヌが、ドワーフ謹製のコンパウンドボウを構える。コンパウンドボウは引くのに強い力が必要だが、ジャンヌの力なら大丈夫。それに滑車とワイヤーの組み合わせによって、引き切った位置で軽くなり保持しやすくなるため、命中精度も高い。ジャンヌのコンパウンドボウには照準やバランスウエイトまで付いている。ゴブリンの粗末な弓に比べれば有効射程はずっと長いのだ。

 ググッ、スタン

 ものものしい外観の割に、意外と軽い音がして、矢が発射された。
 数舜後、右端のゴブリンがパタッと倒れる。

 ググッ、スタン
 ググッ、スタン
 ググッ、スタン

 ジャンヌが立て続けに矢を射ると、ゴブリンたちがパタパタ倒れていく。
 剣だけではなく、弓もべらぼうに上手い。ジャンヌは鎌倉武士だったのか。

 ゴブリンたちはその様子にギョッとしているが、退くかどうかまだ迷っているようだ。しびれを切らしたオーガの一体がゴゥッ!と吠えると、突進してきた。

「アイツは俺に任せろ!」

 俺は改良型ヤツメウナギを構えると、ほどほどの力で投げつける。今の俺の肉体で力いっぱい水平に投げると、どこまで飛んでいくか分からない。後で回収するのが大変になるのだ。

「せいっ!」

 シュゴッっという音を残し、真っすぐにオーガの胴体へ飛ぶ。オーガはそれを金棒で防ごうとするが、遅いのだ。改良型ヤツメウナギは金棒によって少しだけ上にそれ、オーガの胸を貫通した。
 胸に穴が開いたオーガは、突進していた勢いで数歩前進して、ドタンと前のめりに倒れた。

 その間もジャンヌは淡々とゴブリンを倒しており、ゴブリンの残りは数匹だ。
 残ったオーガも、改良型ヤツメウナギの威力を見て戦意を喪失したようだ。なにやら仲間内でやり取りした後、ゴブリンとオーガの一団はすごすごと引き上げていった。

 俺はさっそく倒したばかりのオーガーの血をすする。

「じゅるじゅる……。うん、美味い!」

 濃密な生命エネルギーを感じる。血を飲み込むと活力が体にみなぎってた。

「うっ、美味いのか?」

 俺のことをバンパイアだと知っているジャンヌも、顔の下半分がべっとりと血にまみれた俺の様子は恐ろしいらしい。少しばかり顔色が悪いようだ。俺は持って来たタオルで顔の血を拭う。

「まぁ、俺にとってはな。でも、食事とはちょっと違う。
 吸血によって、俺の体が強化されていくらしいんだ」

「そっ、そうなのか」

「よし、お前たち。食っていいぞ」

「「「わふ!」」」

 オーガーの死体に魔狼たちが群がる。
 やはりボスのポチが一番良いところを頂くようだな。

 ゴブリンの死体には魔狼たちは見向きもしない。もちろん俺も奴らの真っ黒な血など飲みたくない。装備もロクなものじゃないので放置だな。ドワーフたちに言わせると、くず鉄としての価値もあまりないのだそうだ。

「その辺の錆びた鉄筋の方がよっぽど質が良いわぃ」とドルフは言った。

 オーガの金棒は、俺の武器として使えそうだったので回収した。
 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 我が家に帰ってから俺は悩んだ。
 最初に上映する映画は何が良いのかと。

 悩んでいる俺にジャンヌが質問する。

「ブラド、映画とはそもそも何なのだ?」

「そこからかぁ……。そうだなぁ。
 絵物語に音楽が付いたようなものかな。まぁ観ればすぐに分かるよ」

「なるほど、楽しみだ」

 あまり刺激的なのもダメだろうし、現代のドラマとか分からんだろうしな、適当なアクションとか怪獣ものとかが良いのかな……。
 結局、手元にあったソフトで無難そうなものを、俺の独断と偏見と趣味趣向で選ぶことにした。

 妖魔討伐祝いも兼ねての、初の映画上映会。

 演目は「タイタンの戦い(1981)」

 全員に滅茶滅茶受けていた。








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