上 下
43 / 59

43 たまご泥棒

しおりを挟む
 ある日の夜。

 俺は寝床から這い出して、グッと伸びをする。久々によく眠った。
 今晩は新月か。あまり外出には向いてないが、こういう日もたまには良いだろう。俺はポチを連れて、見回りという名の散歩に出かけた。特に決まったルートなどはなく、気の向くままにあちらこちらを見て回る。ごくたまに妖魔が入り込んでいることもあるが、ポチと俺のコンビなら不意打ちを食らうことはまずないのだ。

 今日はぐるっと大回りして、ポチの下で頑張っているサブリーダーたちの顔を見ていくつもりだ。彼らをねぎらうための犬のおやつを大量に背負って、ひたひたと夜道を歩く。ポチがおやつの匂いに気を取られているな。

「ポチ、お前にも後でやるから我慢しろ」

「わふわふ!」

 ある小学校のグラウンドに差し掛かったとき、何かが気になった。

「うん? あんな建物あったっけ?」

 新月で真っ暗闇なせいか、俺の目でも少々判別が難しい。街灯でもあれば良いんだが何の光源もない。強いて言えば星明りくらいしかないのだった。
 グラウンドはほとんどの部分が畑に転用されているのだが、そのすぐわきに簡素な木造の建物が建っている。人の家にしてはずいぶん小さいが、ウサギ小屋には大きい。物置にしては背が低すぎる感じだ。前に来たときはこんな物はなかった。

「何だあれは」

 そっと近づいてみると、なんだ鶏小屋か。野生化していた鶏を捕まえたんだろうな。結構な数の鶏が大人しく並んで座っている。眠っているのか、俺には気づいていない様子だ。鶏は鳥目で、夜は見えないんだったか。ぼんやりと鶏を眺めていると、音もなく何かが近づいてくるを視界の隅で捉えた。

 しまった! ポチはおやつの匂いに気を取られているし、俺もちょっと油断していた。それにしても、こいつはなかなかの手練れだぞ。殺気を上手く消している。

 俺は靴にダメージを与えない程度の超高速バックステップで、何者かの攻撃をかわす。ヒュンッと切れの良い音が、顔のすぐ近くでした。木刀だろうか? 攻撃を外したそいつの動揺が伝わってくる。
 危ない危ない。結構ギリギリだったぞ! 反撃をしようとした次の瞬間、そいつの正体が分かった。

「なんだ、ジャンヌじゃないか。何をしている?」

「なっ⁉ ブラドだったか!
 すまない。 不審者かと思ったのだ」

 ジャンヌが言うには、ここ最近、卵泥棒が出るらしいのだ。身内にそんな者がいるとは思えない。そもそも卵を盗むほど食うに困ってない。ということは、外部の者ではないか。もしかして、こないだクロエを狙った暗殺者の生き残りが、辺りにいるのではないか……。という思考の流れで、鶏小屋を見張っていたらしい。
 なんともジャンヌらしい行動だ。

「だったら、俺に相談すれば良いのに」

「いや、なにしろ当て推量ゆえ……。
 なにかしらの証拠をつかんでからと考えていたのだ。面目ない」

 ジャンヌはガクッと肩を落とす。

「まぁ、別に良いよ。誰でも間違うことはあるさ」

 俺たちがぼそぼそと話をしていると、鶏小屋の金網の網目から何かが侵入するのが見えた。細いローブのような何か。そいつは鶏の下に潜り込み卵をくわえて、そのまま丸のみした。細長い体形の一部が卵型に膨らむ。

「な!」

「あ、アオダイショウだな。卵泥棒はあの蛇だろ。捕まえとくか?」

「そっ、そうだな」

「間が悪いというか、変な偶然というものは何故か重なるんだよな」

 俺はジャンヌに慰めとも戒めともつかない言葉をかける。
 ジャンヌは犯人のアオダイショウをぶら下げて、トボトボと帰って行った。



 俺はその後も見回りを続けて、魔狼のサブリーダーたちに挨拶をしてまわった。

「本当にお前たちは犬のおやつが好きだな。実は犬なんじゃないか?」

「わふわふ!」

 以前に建ててやった犬舎の具合をみたり、他の魔狼たちとじゃれあったりして、魔狼の毛だらけになってしまった。
 全ての群の状態を確認して、庁舎に戻ると、もう夜明け前だった。

「一仕事終わったな」

「わふ!」

「うん?」

 一階ホールの応接コーナーのソファーで、ジャンヌがうつらうつらとしていた。大量のクッキーとチョコがのった皿がテーブルに置かれている。

「……う、ブラド、おつかれ」

「なんだ、ここで起きていたのか?」

「自分の不甲斐なさを思い、やけ食いしていたのだ」

「ハハハ、そうか。たまには良いかもな。
 俺は魔狼の毛だらけなんで、朝風呂に行ってサッパリするよ」

「私もそうしよう」

「今の時間はガラすきだから良いぞ」

 ジャンヌがパッと笑顔になった。ジャンヌは笑うと年相応に可愛らしい。

「広い浴槽を独り占めか! それは良い!」

「まぁな。
 そういえば、こないだのことだけど、あのサラが男湯にいたぞ」

「な! アイツめ!」

「ゆでダコみたいになってたが、無事に帰ったんだろうか」

「まったく、あの女はどうしようもないな……」







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

Soyez les bienvenus露の都の慈姑姫

YHQ337IC
SF
意のままに怪現象を起こす精神生命体と惑星開拓者の闘い。人類は、認識が実体化する量子爆弾で惑星「露の都」の地球化を試みたが、原住知的植物「慈姑」の存在を知らなかったため、戦争が勃発する。 彼らは人間の伝承に登場する怪物をことごとく具象化させ抵抗する。 少年狙撃兵加島遼平は妹を吸血鬼に殺され復讐を誓う。 十万トンの航空戦艦を使役して難事件に挑む母娘ハンターの活躍を描いた カノコイシリーズ番外編

処理中です...