不死身のバンパイアになった俺は、廃墟と化したこの世界で好きに生きようと思います

珈琲党

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39 クロエの魔法

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 ある日のこと。
 俺とジャンヌとクロエは庁舎の休憩コーナーでだべっていた。

「クロエは魔術師の見習いだったんだろ?
 何か魔法は使えるのか?」

「あ、はい。ごく簡単なものであれば……」

「へぇぇ。簡単で良いから、ちょっと見せてくれよ」

「私も興味があるな」

「はぁ、わかりました。しかし、ここでは危ないです」

 ということで俺たちは庁舎近くの空き地に移動した。


「では、いきます」

 クロエはそう言うと、スッと瓦礫の前に立ち、半目になり精神を集中する。三十秒ほど口の中で何かを呟いていたが、やがてカッと目を見開き、目の前にあった瓦礫を杖でコツンと軽く叩いた。

「ふぅぅぅぅ……」

 クロエは瓦礫から離れて、ゆっくりと息を吐き出す。

「おわり?」「うん?」

 意味が分からず唖然としていると、ピキッと小さな音がして瓦礫にヒビが入り、

 バァァァァァン!

 爆発音と共に粉々になってしまった。

「うわ!」「なにぃぃ!」

「破壊の魔法です。
 私はまだまだ修行が足りないので、発動までに時間がかかるのです」

「なっ、なるほどぉ」

「しかし、これはこれですごいぞ」

「はぁ、いやはやなんとも……」

 クロエは照れているような困ったような顔をした。
 他にも空中浮遊の魔法や、炎を操る魔法を見せてくれた。やはりそれなりの精神集中とそれなりの時間が必要なようで、自由自在とはいかないようだった。

「へぇぇ、面白いな。なんというか手品を見るような気分だな」

「うむ。魔法を見るのは、この間のリッチの時を入れて二回目だが、
 あの時は、そもそも魔法を観察する余裕などなかったからな」

「リッチ、ですか⁉」

 クロエは目を真ん丸に見開いてビックリしていた。

「そうそう、あいつは強敵だった」

「同感だ!」

 俺たちはクロエにリッチとの戦いのことを話した。

「はへぇぇ、よくご無事でしたね。
 リッチというのは、ご存知のとおり寿命を超越した存在です。
 ゆえに、常識のタガが外れているのです。
 それは魔術師にとっては、ある意味良いことなのですが、
 残念ながら、彼らの多くは正気を保てなくなります。
 彼らの操る魔法は、並の魔術師などをはるかに上回ります」

「運が良かったのかな。
 まぁ、目に見えるところに弱点らしきものがあったし」

「あの黒い石だな」

 ジャンヌの剣技と剣そのものの鋭さによって、みごとに真っ二つになったのだ。
 それによって、あの魔法陣もリッチ本人も消えてなくなった。

「なるほど、そうだったんですか。
 それがどういうものかは、未熟な私には分かりませんが、
 リッチと関係があったのは確かですね」

 庁舎の方から何やら悲鳴が聞こえてきた。
 ポチの吠える声も聞こえる。

 俺たちは急遽庁舎に戻った。

「どうした?」

「あぁ領主様、この子が二階の窓から落ちたようです」

 ホビットの一人が苦しそうにしている子供を抱えている。
 窓の辺りで遊んでいて、下の駐車場へ転落したらしい。
 その子の足がおかしな方向に曲がっている。足の骨が折れたのか。
 医学の知識はほとんどないが、とりあえず応急処置をしないといけない。

「俺に見せてみろ。
 いいか、折れた足の骨を引っぱって元の位置に戻す。
 痛いだろうが、我慢してくれよ。
 ジャンヌ、この子を押さえていてくれるか」

「承知した!」

「いくぞ!」

 俺は子供の足先の方を掴み、引っぱりつつねじれを直す。
 子供は「ぎゃぁっ」と叫んで、口から泡を吹き気を失ってしまった。
 その子の親も青い顔で気を失いそうな様子だ。
 ゴクッという感触とともに、折れた骨が正常だと思える位置に戻った。
 昔の俺ならこんなことは絶対に出来ないが、今はバンパイアになった影響なのか、淡々と必要と思うことができてしまう。こういう時にはありがたいな。

「よし! 固定のための当て木と包帯を持ってきてくれ!」

 とりあえず足の骨は真っすぐになったが、それ以外のことは良く分からない。
 その子はまだ気を失ったまま、苦しそうに顔をゆがめている。
 ふと見ると、クロエが地面に何かを描いている。魔法陣か。

「ブラドさん。その子をこの中へ!」

「分かった」

 良く分からないまま、その子を魔法陣の中へ横たえる。

「少し離れていてください」

 クロエは半目になって意識を集中して、なにやら呟く、そしてカッと目を見開くと、杖で魔法陣の端を突いた。
 魔法陣が全体的に青い光を放って、その子も同じように光った。

「「「おぉぉぉぉ!」」」

 しばらくすると、光がスゥっと消える。
 クロエは疲れた顔で息を吐き出した。

「ふぅぅぅぅぅぅぅ」

 魔法陣の中の子供の様子を見ると、安らかな寝息を立てていた。
 
「これは治療魔法ではなく、単に痛みを和らげ治癒力を高める魔法です。
 傷の治りは通常よりは早くなったと思いますが……」

「いや、何もないよりははるかに良い。
 ありがとうクロエ」

「ありがとうございます! 領主様、クロエさん」

 その子の親は子供を抱きかかえて泣いている。

「いやはやなんとも……」

 クロエは困ったような顔で照れるのだった。


 結局、足の骨を折ったホビットの子は、一月もかからず怪我が治ってしまった。







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