不死身のバンパイアになった俺は、廃墟と化したこの世界で好きに生きようと思います

珈琲党

文字の大きさ
上 下
36 / 59

36 魔術師見習いの少女

しおりを挟む
 ある日の朝早く。

 そういえば、ポチがいないなと思い、庁舎の外に出て辺りを探す。
 用を足しに外へ出たのだろうと、普段なら気にもしないところだが、今日は何か胸騒ぎがするのだった。


「あぁ、ジャンヌ、おはよう」

 駐車場でジャンヌが木刀を振っていた。
 今日も朝から剣の稽古に精を出しているようだ。

「おはよう、ブラド。こんな時間にどうした?」

「ポチがどこへ行ったのかと思ってな」

「私は見てないが」

「そうか……」

 まさか、迷惑エルフのサラにさらわれたとか? 背筋が寒くなる。
 それは絶対にないと言い切れないところが怖いのだ。前科があるしな。
 さて、どうしたものかと庁舎の玄関前で考えていると、ポチが建物わきの路地からすっと出てきた。

「なんだ、そこにいたのかよ」

 俺はホッと一息ついた。
 ポチは俺の顔を見ると、ガゥガゥと何か言う。

「ブラドを呼んでいるようだな」

 ジャンヌも最近は、ポチ達魔狼の表情が読めるようになった。

「どうしたんだ、ポチ」

 俺とジャンヌはポチのいる路地へ向かう。
 ポチはついて来いというようなしぐさで、身をひるがえした。俺たちはポチの後について、路地へ入って行った。

 ポチが案内した路地の先に、人がうつ伏せに倒れていた。
 背丈は小さい。ホビットの一人かと思ったが、彼らとは雰囲気が違う。人間の娘だろうか。タップリとした丈のローブを着ていて、そばには大きな宝石のはまった木の杖と、つば広のとんがり帽子が落ちている。

「人だ!」

 ジャンヌがダッと駆けよって、娘を仰向けに起こした。
 見たところ意識を失っているだけで、息はしている。俺の超感覚は、娘の心臓の鼓動もとらえている。大丈夫だろう。
 娘が意識を取り戻し、口を開いた。

「み、みず……」

「とりあえず庁舎に連れて帰るぞ」

「わっ、わかった!」

 ジャンヌが娘を抱えて、俺たちは我が家に戻った。 



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 娘はジャンヌやホビットたちの介抱の甲斐もあり、すぐに元気になった。
 娘の名はクロエ・ボゥ。茶色の瞳に同じく茶色の髪、なんとなく親しみのある愛嬌のある狸顔をしている。体形などからすると中学生くらいだろうか。金髪碧眼のジャンヌとは人種が違うように見えた。


「つまり、追手から逃れるために山越えをしていたが、誤って崖から落ちた。
 で、落ちている最中に気を失って、気づいたらあそこにいたってことか?」

「はい」

 クロエはこっくり頷く。

「ジャンヌの時とちょっと状況が似てるかな」

「うむ、そうだな……。
 しかし、クロエは誰に追われていた?」

「暗殺者たちです」

 クロエは淡々と答える。

「なに!? ずいぶんと穏やかでないな。
 クロエのような少女を何人かで殺そうとするとは……」

 ジャンヌの眉間にしわが刻まれる。
 騎士であるジャンヌは正々堂々とした真っ向勝負は好きだが、暗殺などといった卑怯な手段は許せないのだった。

「それにしても、ここはどこなのです?
 部屋の調度などからすると、外国なのですか?」

 クロエは不思議そうに周りを見渡す。

「外国とは少し違うんだ――」

 俺はこの世界のことや、異界震のこと、ジャンヌたちのことなど、分かっていることをクロエに説明した。


「なるほど、私は別の世界に転移したということですね」

 クロエはまったくうろたえず、当たり前のことのように納得するのだった。

「ずいぶんと落ち着いてるな。他の連中はビックリしていたものだが」

「私は魔術師見習いです。魔術師とは、この世のことわりを探求する者。
 異なる世界が並行して存在しているということは魔術師の中では常識なのです」

 フフンとクロエの鼻息が荒くなるのだった。

「そっ、そうか、理解が早くて助かる。
 ともかく、部屋を用意するから好きに使ってくれ」

 二階の倉庫として使っていた一室をきれいに片付けてクロエの部屋とした。その部屋に積まれていた物資は三階へ移動、俺の占有スペースが更に小さくなった。これも人のため、仕方がないのだ。


「今晩は新人歓迎の晩餐だから、ホビット特製ワイバーンカツカレーだな。
 クロエもいろいろあって腹が減ってるだろう? 好きなだけ食うんだぞ」

「「「わぁぁい!」」」

 カレーはホビットたちも大好きなのだ。

「うほぉぉぉぉぉぃ! 最高だ!
 今晩は食うぞ! 死ぬほど食うぞ!」

 カレー大好きのジャンヌはテンションがマックスになる。
 いつも良く食うが、たぶん今晩はもっと食うだろう。

「カレーって……何?」

「まぁ、食えばわかるさ、ジュルリ」

 一人困惑するクロエに、頬がゆるみきったジャンヌが答える。



 一時間後。

「こっ、これは! ガツガツガツガツガツガツ……。
 なんという濃厚かつ刺激的な味わい! むぐむぐむぐ……。
 このサクサクしたカツとの相性もたまらないですね。
 ガツガツガツガツガツガツ……」

「だろう? カレーは最高なのだ! むぐむぐむぐ……。
 はむはむはむはむ……むぐむぐむぐ……。
 カレーは飲み物だ! いくらでも入るのだ!
 はむはむはむはむ……むぐむぐむぐ……」

「「おかわり!」」

「「「……」」」

 ホビットたちは、クロエとジャンヌの食欲に圧倒されるのだった。







しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

チャンスに賭けろ
ファンタジー
そのドワーフは熱く燃えていた。そして怒っていた。 魔王軍の侵攻で危機的状況にあるヴァルシパル王国は、 魔術で召喚した4人の異世界勇者にこの世界の危機を救ってもらおうとしていた。 ひたすら亜人が冷遇される環境下、ついに1人のドワーフが起った。 ドワーフである自分が斧を振るい、この世界の危機を救う! これはある、怒りに燃えるドワーフの物語である。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

処理中です...