34 / 59
34 公衆浴場
しおりを挟むガーゴイル達を倒した勢いで、小学校のグラウンドに深い穴を開けてしまった。その穴から温かい湯が吹き出してきた。俺は偶然にも、温泉を掘り当てたのだった。
せっかく温泉が湧いたのだからということで、俺たちは浴場を作ることにした。
基本的には、大工仕事が得意なホビットの仕事だが、資材運びなどの肉体労働は俺やジャンヌが担当した。いったい領主とは何なのか。
それはともかく、彼らには、浴場というものの概念がないようだった。ジャンヌも分かっていなかった。体を洗うのは井戸端で行水するか、濡れた布で拭くかぐらいで、温かい湯に浸かるという発想自体がないらしいのだ。
露天風呂を単独で作ってしまったドワーフたちは、異世界ではかなりの異端児だったのかもしれない。
ともかく、理解してもらうのになかなか難儀はしたが、とりあえず湯を貯める大きな浴槽と、広々とした洗い場と、脱衣場のある浴場が完成した。
木造なので、ちょっと江戸時代の銭湯みたいな雰囲気だ。さすがに混浴ではなく、ちゃんと男女別々になっている。
洗い場にはシャワーなどないので、代わりに湯が流れる用水路的なものを巡らせてある。
「この椅子に座って、この手桶でここから湯をすくって使うんだ。
この中には入らないこと。それからちゃんと体を洗ってから湯に浸かること」
「「「はい、領主様!」」」
シャンプーやリンスの使い方なども説明して、ようやく浴場を開放した。
「「「わぁぁい!」」」
子供たちは、初めての施設でも全く躊躇がない。男湯だろうが女湯だろうが、関係なしに行ったり来たり、裸でバタバタ駆け回っている。
大人たちは初めは戸惑っていたが、すぐに慣れて入浴を楽しむようになった。
「ジャンヌも入ってきな。湯に浸かれば、疲れがとれる」
「そっ、そうだな。わかった!」
人前ですっ裸になるのに抵抗があるようだったが、結局それも克服して、体が真っ赤になるほど湯に浸かっていた。入浴を十分に堪能したようだ。
浴場には、温泉の排水を利用した簡易的な水力発電システムを設置し、電気が使えるようにしてある。ドワーフの鉱山に設置したものと同様のものだ。
LED照明で夜中でも明るく、冷蔵庫には冷えた飲み物も備えてある。二十四時間いつでも利用可能な公衆浴場が完成したのだった。
「ふぅぅぅ、湯に浸かるのは最高だった。確かに疲れがとれたと思う。
最初はブラドの言う意味が分からなかったが、あれを作って正解だったな」
ジャンヌは冷たいワインを飲みながら、浴場入口の休憩コーナーで涼んでいる。
「まぁな。この手の施設は、この国だと割と普通だったんだよ」
「なんというか、豊かな世界だったんだな」
「ある意味そうだったと思う」
そんな世界を支えていたブラック労働を思い出し、俺は苦笑いをする。
ジャンヌやホビットたちは、仕事を終えてから日暮れ時に浴場に通うというのが習慣になった。朝風呂が好きになった連中もいる。
新しく作った公衆浴場は、こうして彼らの生活に欠かせないものになっていった。
バンパイアの俺は、夜明け前のガラすきの浴場を独占するのが常だ。
常だったのだが……。
「おいサラ。ここは男湯だぞ。
お前は一応女だろうが。あっちに行け!」
迷惑エルフのサラが、なぜか男湯の湯船に浸かっていたのだ。
「僕たちがどこにいて何をしようが、それは僕たちの勝手なのさ。
男なのか女なのかは、それは僕の意志で決定することなんだ。
君たち下等な種族の指図は受けないよ」
「……あっそ」
俺は説得するのが面倒になり、洗い場で体を洗いはじめる。
「君はメクラなのかい。
僕のこの素晴らしい曲線美に目を奪われないとは、どうかしているよ」
凹凸のほとんどない、棒切れのような肉体のどこに曲線美があるんだか。
俺はサラの存在を意識から消し、じっくりと入浴を楽しむことにした。
横からなにやら雑音が聞こえてくるが、意志の力でフィルタリングする。
「さて、あがるかな」
ふと湯船を見ると、真っ赤に茹だったサラがまだ頑張っていた。
「お前もさっさと出た方が良いと思うがな」
「ぼっ僕がいつ湯からでるかは、ぼくのかってなのさ。
きみたちにさしじゅされる……」
ここまで来ると、もはや感心するレベルだ。
「そっか、好きにしろ」
俺はサラを残して浴場を後にした。
「さて、一寝入りするかな」
0
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる