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33 温かいシャワー
しおりを挟む「お~い、やってるか」
俺は一週間ぶりに、ドワーフの鉱山へやって来た。
リヤカーに、頼まれていた本や酒を満載して持って来たのだ。
こないだ届けた車は、半分ほどバラされていた。少しずつ分解整備が進んでいるようだが、彼らにしてはちょっと遅い気がする。
しばらく待っても、誰も出て来ないのでおかしいと思っていると、裏の広場からワイワイやっている声がする。
声のする方へ行ってみると、なんとそこには露天風呂が出来ていた。大きな岩を加工してしっかりと組まれた、ゆったりとした岩風呂だ。
「なぁぁぁ!? いつの間に……」
「おぉ、ブラド! 来ておったのか」
ドルフが湯に浸かりながら、ウイスキーを飲んでいる。赤い顔になっているのは、酒のせいなのか湯のせいなのか。他のドワーフたちも同様に、いい気分になっているのだった。
「これはいったいどうしたんだ?」
「うむ、原油を蒸留するとガスが出るじゃろ?
そのガスを貯めておくのが難しいので、燃やして処分しておったのじゃが、
せっかくの熱エネルギーがもったいないと思っての、湯を沸かしたわけじゃ。
それがこれじゃよ」
「石油ガスを使って、泉の水を沸かしたってことか?」
なるほど考えたな。しかし、ドワーフたちに温泉に浸かる発想があるとは思わなかったな。いやしかし、これは羨ましすぎるな。家に温泉でも湧かないかねぇ……、いやマジで。
「ディーゼルエンジンが、あの燃料で動くことはもう確認済みじゃ。
これはその祝いみたいなものじゃ。エンジン初始動パーティじゃの。
たまにはこんな息抜きも必要じゃろうて。
ともかく、車の方はちょこっと整備し直して、エンジンを積み直すだけじゃな」
「マジか! やるなぁ。
俺も湯に浸かって行きたいところだけど、家の用事もあるから帰るよ。
あんまり飲み過ぎるなよ」
「ガッハッハッ、わしらは酒は飲むが、酒に飲まれることはないんじゃ。
そうそう、お前さんに頼まれてたやつが机の上にある。持って帰ってくれ」
「おぅ、サンキュー」
俺はドワーフたちの工房へ本や酒を運び入れた。
作業机の上には、確かにヤツメウナギの改良型が置かれていた。
以前、ワイバーンを倒すのに活躍したヤツメウナギだが、もとが単管パイプということもあり、刃の耐久性に少々難があった。一度使うと焼き付けてある刃が外れてしまうのだ。めったに使うものではないが、念のためにもっと丈夫な奴を作ってくれと、お願いしていたのだった。
「うひょぉ! これは良い得物だ。これならドラゴンをも仕留められるだろう」
改良型は、刃も返し部分も全て一体型になっており、柄の接合部分もしっかりと強化されていた。より重くはなっているが、これくらいは俺は全然平気なのだ。
改良型ヤツメウナギを手に、俺はホクホク顔で我が家に帰るのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「りょ、領主様ぁ!」
我が家へ続く道をリヤカーを引いて歩いていると、ホビットの一人が自転車を飛ばして青い顔で近づいて来た。
「おぅ、どうした?」
「妖魔です! 〇〇小学校のグラウンドに空から翼を持った妖魔が!
今、ジャンヌさんとポチさん達が対応しています!」
「よし、わかった!」
庁舎斜め向かいにある小学校だ。俺は改良型ヤツメウナギを手に走った。
俺がグラウンドに到着すると、すでに戦いが始まっていた。
羽の生えた猿のような妖魔が数匹、その中にはボス的なゴリラっぽいのもいる。
どうやら奴らの立体的な動きに、ジャンヌやポチ達は手こずっている様子だ。
俺は裸足で音もたてず走り、妖魔たちに接近するが、奴らはまだ気づいていない。
グッと踏み切って空中にジャンプした時、ジャンヌと目が合う。ジャンヌは慌てて妖魔たちと距離を取る。ポチ達も俺に気づき、サッと引き下がった。
十メートルほどの上空にいる俺に、ようやく妖魔どもが気づくが、もう遅い。俺は全力を込めて、改良型ヤツメウナギを妖魔どもの中心に投げ落とした。
「りゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
改良型ヤツメウナギは、俺の手を離れる瞬間には、音速をはるかに超えていた。
ドゴォンという衝撃音が響き渡った時にはすでに、妖魔たちの中心にいた羽の生えたゴリラの脳天に穴を穿ち、さらに地中深くに消えていた。
周りにいた猿っぽい妖魔たちは、衝撃波によって地面に叩き落とされた。
ジャンヌとポチ達はすかさず、地面に落ちた妖魔たちにとどめを刺す。
「遅れてすまんな」
「いや、こちらこそすまない。ちょっと手間取っていた」
「わふわふ」
「ところで、あの妖魔はなんというやつだ?」
「あぁ、あれはガーゴイルとその亜種だと思う」
「なるほど、あれがそうか……」
もうちょっと悪魔っぽいのだと思っていたが、ずいぶんイメージと違うな。
「お前たち、遠慮はいらん。食え食え」
「「「わぁふ!」」」
魔狼達がガーゴイルのはらわたに食いつく。ポチは大きなゴリラっぽい奴を引き倒して、やはり腹に食いついている。よほど美味いのか、尻尾をすごい勢いで振り回しているのだった。
ガーゴイル達が落ちた地面には、浅めのクレーターが出来、中心に深い穴が開いている。作ってもらったばかりの改良型ヤツメウナギは、地中の奥深くだ。
「どうしたもんかねぇ。このまま放置するとドルフにどやされそうだな」
掘り起すのは骨が折れそうだ。
俺が呆然とその穴を見ていると、なにやらシューっという音がする。
シュシュシュシュ……、ドッパァァァン!
穴から温かいお湯が吹き出してきた。
ありがたいことに、改良型ヤツメウナギもお湯と一緒に出てきた。
俺は適温のシャワーを浴びて叫ぶのだった。
「んなアホなぁ!」
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