32 / 59
32 原油の精製
しおりを挟むドワーフの鉱山に原油が湧いてからというもの、ドワーフたちは異常ともいえる執念を燃やした。参考書籍を読み漁り、彼らが生き甲斐としている鍛冶仕事を後回しにしてまで化学実験に明け暮れていた。俺は彼らの求める物資を可能な限り提供し、力仕事なども積極的に手伝った。
あれから一月あまり、小規模ではあるが、原油の蒸留装置が完成したのだった。
「久々の大仕事じゃったわぃ」
ドルフが巨大な装置を見上げながふぅっと息をついた。
「まさかこの短期間で、ここまで出来るとは思わなかったよ」
さすがドワーフというか、ちょっと空恐ろしくもあるな。
「ワハハ、わしらにかかればこれしきの事、容易いことよ。
しかし、まだまだ課題はある。これは試作機といったところじゃな」
今のところはガスの扱いが難しく、ガスは出来るそばから燃やしているようだ。
ガソリンもまだすぐに使えるものではなく、分離されて出てくるものは、ガソリンの素といったものらしい。使えるようになるまでには何段階かの工程が必要で、それはもう少し研究がいるとのことだった。
「でも、灯油と軽油は使えるんだろ?
それだけでも十分すごいことだぞ」
「お前さんにも分かるか?」
「そりゃあ分かるさ。車の復活まであと一歩だな。
あっ! ディーゼルエンジン車なら、もう動かせるんじゃないか?」
「ワハハ、そうじゃ、その通りじゃよ。
残念ながら、この近辺にはディーゼルエンジンの車は見つけられんかったがの」
「そうか、俺の方で探しておくよ」
「楽しみに待っておるぞ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ディーゼルエンジンの車はすぐに見つかった。市役所の公用車の中の一台が、ディーゼルエンジン車だったのだ。商用のバンで少々古い型のマニュアル車だったが、むしろその方が構造がシンプルで良い。車の鍵も庁舎内ですぐに見つかった。
さっそくタイヤをマシなものに交換して、ブレーキの張り付きをなんとか解除して、転がせるようにした。ブレーキフルードは完全に劣化していたので、新しいもの――といっても古い未開封品――に交換。
「よし準備ができた。ジャンヌ、運転席に乗ってくれ」
「な!? 私がか?」
「そうだ。ホビットたちは体格的にちょっと厳しいからな。
大丈夫だから、乗ってくれ」
「よ、よし、わかった!」
ジャンヌはおっかなびっくり運転席に乗り込む。
俺は運転席の位置をジャンヌに合わせて調整してやる。
「それで、真ん中のペダルを右足で踏んで見てくれ。そう、それだ。
どうだ? ちゃんと奥まで踏み込めるか?」
ジャンヌがグッとブレーキペダルを踏み込む。
「おっ、おぅ、踏み込んだぞ」
「サイドブレーキを解除してっと、ギアはニュートラルだな。
よぉし、じゃぁ俺が後ろから押すから、言う通りに操作してくれ」
「ちょっ、ちょっと待て! 操作と言われても、何が何やら分からんぞ」
「目の前にあるハンドルを、俺が言うとおりに回すだけだから。
真ん中のペダルには、ずっと足を添えておいてくれよ」
「そっ、そうなのか? やってみる」
「じゃぁ、まずバックしないといけないな」
俺は車の前に回る。
「まずはペダルを戻して、ハンドルはそのまま。いくぞ!」
グッと車を押してやると、思ったよりも軽く車が動いた。
「わっ、わわわわ……」
ジャンヌが運転席で少々慌てている。
「よし、ハンドルを少しずつ右に回していってくれ」
「しょっ、承知した!」
パワーアシストが切れているから重いと思うが、ジャンヌのパワーなら大丈夫。
ググっと車の方向が変わっていく。
「上手い上手い。それじゃ、駐車場を出るぞ」
「まっ、待て、ブラド。どこまで行くのだ?」
「ドワーフの鉱山だよ」
「なぁぁぁぁ!?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ジャンヌは何だかんだ言いながらも、しばらくするとハンドル操作に慣れたようだ。時間はかかったが、俺たちは無事にドワーフの鉱山にたどり着いた。
「とうちゃ~く!
ジャンヌ、サイドブレーキを引いてくれ。よし、もう降りていいぞ」
「ふぅぅぅぅ、つっ、疲れた……」
車から降りたジャンヌは地面にへたり込む。
「慣れないうちはそうかもかな。重ステだしな。
お~い! ドルフ、注文の品を届けに来たぜ」
鉱山の中から、どたどたとドルフや他のドワーフたちが出てきた。
「自動車が来たぞ!」
「おぉ! こいつか!」
「ちょっと形が古い感じがするの」
「ふむ、内装が他のよりも簡素じゃ」
「タイヤとブレーキは使えそうじゃな」
車を囲んでガヤガヤと話し合っている。
「長いこと眠ってたから、いろいろ傷んでるだろうけど、
ドルフたちなら、なんとかなるだろ?」
「当たり前じゃ、わしらに不可能はないんじゃ、ガッハッハッハッ!」
ドワーフたちは車を前に大笑いするのだった。
0
お気に入りに追加
375
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
Soyez les bienvenus露の都の慈姑姫
YHQ337IC
SF
意のままに怪現象を起こす精神生命体と惑星開拓者の闘い。人類は、認識が実体化する量子爆弾で惑星「露の都」の地球化を試みたが、原住知的植物「慈姑」の存在を知らなかったため、戦争が勃発する。
彼らは人間の伝承に登場する怪物をことごとく具象化させ抵抗する。
少年狙撃兵加島遼平は妹を吸血鬼に殺され復讐を誓う。
十万トンの航空戦艦を使役して難事件に挑む母娘ハンターの活躍を描いた
カノコイシリーズ番外編
俺の旅の連れは美人奴隷~俺だって異世界に来たのならハーレムを作ってみたい~
藤
ファンタジー
「やめてください」「積極的に行こうよ」「ご主人様ってそういう人だったんだ」様々な女の子とイチャイチャしながら異世界を旅して人生を楽しんでいこう。
NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~
ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。
城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。
速人は気づく。
この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ!
この世界の攻略法を俺は知っている!
そして自分のステータスを見て気づく。
そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ!
こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。
一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。
そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。
順調に強くなっていく中速人は気づく。
俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。
更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。
強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
カクヨムとアルファポリス同時掲載。
転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活
高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。
黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、
接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。
中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。
無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。
猫耳獣人なんでもござれ……。
ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。
R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。
そして『ほの暗いです』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる