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31 雨の日の娯楽
しおりを挟む市庁舎の一階。
かつて、ホールの隅には受付カウンターがあり、その奥に事務机などが設置され多くの職員が働いていた。今それらはホビットたちによって全て撤去され、そこそこの広さの休憩スペースに改装されていた。俺たちはそこを子供部屋と呼んでいる。
いつもは外で元気に遊んでるホビットの子供たちも、さすがに雨の日は屋内で遊んでいる。子供部屋でおもちゃで遊んだり、絵本を読んだりしているのだった。
俺は荷物を抱えて、子供部屋に行った。
床の邪魔なおもちゃをどかして、適当なスペースを作って、荷物を広げた。
俺が持って来たのは手製のすごろくゲームだ。
暇な夜中に一人しこしこと作っていたのだった。
「さぁ、みんな、ちょっと集まってこい。
ジャンヌも暇なら参加しな」
子供部屋の隅でボケッと座っていたジャンヌも誘う。
ジャンヌは脳筋なので、体を動かせないときは基本ぼぉっとしている。
「私もか? まぁ良いだろう」
子供たちがわぁっと集まってくる。
「ほら、好きな色の駒を選びな」
子供たちはワァキャァ言いながら、それぞれの駒を取る。
「ジャンヌ、お前もだ」
「わかった」
「自分の駒の色を覚えたか?
じゃぁそれをスタートのマスに置くんだ。そう、そこだ」
「すたーとって何?」
「始まりっていう意味だよ」
「ふぅん」
皆駒を置き終わった。
「よし! じゃぁ、お前からだな」
俺は一番端に座った子を指さす。
「そのルーレットを回してみろ。
そう、そのつまみをクルッと回すんだ」
カリカリカリカリ……。
「はい、3だな。じゃぁお前の駒を3マス進めろ。
そうだ、1,2,3。はい、そこ。
どれどれ……『ラッキー、道で50円拾う』
はい、50円な」
俺はその子に50円渡す。ちなみにおもちゃではなく本物の50円玉だ。
お金のたぐいも瓦礫の下からよく見つかる。この世界ではもはや無価値だが、ホビットたちはこういうものにも目がなくて、見つけるたびに持ち帰ってくるのだ。子供たちはそれを、おもちゃ代わりにしていたりする。意外なことに、札も結構丈夫で、たくさん残っている。
「わぁい!」
50円玉をもらった子は無邪気に喜んでいる。
「はい次。左回りだからお前だ」
カリカリカリカリ……。
「6だな。自分の駒を6マス進めるんだ。
1,2,3,4,5,6。そこだ。
どれどれ……『カエルを踏んで2マス戻る』」
「アハハ! なにそれ。
はい、2マス戻ったよ。ここは読まなくていいの?」
「読むのは、ルーレットを回して最初に来たマスだけだ」
「ふぅん」
子供たちは、すぐにすごろくのルールを理解したようだ。
「はい次。お前だ」
カリカリカリカリ……。
「5だな。5マス進めろ。
1,2,3,4,5。そこ。
どれどれ……『親切な魔女にチョコを一つもらう』
はい、チョコ一つ」
「やったー! チョコもらい!」
「「「えぇぇ!? いいなぁ」」」
チョコをもらった子は羨望の的だ。
子供たちの間で5が人気になった。
「よし。じゃぁ次。ジャンヌだな」
「よぉし!」
ジャァァァァァカカカカカカカカ……!
「そんな力入れなくていいから」
「すっ、すまない」
カリカリカリカリ……。
「4。さぁ駒を進めろ。
1,2,3,4。そこだな」
「むむっ『肥溜めに落ちて1回休み』だと?
なにぃ!? くそぉ……」
「「「こえだめだって、ヒャッヒャッヒャッ!」」」
ジャンヌの様子を見て子供たちが笑う。
「はい次」
ワイワイやってる俺たちの様子を見て、大人のホビットたちもやって来た。
彼らも雨の日は暇なことが多いのだった。
「面白そうな遊戯ですね、領主様がおつくりになったのですか?」
「そうだよ。昔は結構こんなのがあったんだけどな」
この手のボードゲームは一時大流行していたが、結局、テレビゲームに駆逐されたのだ。ボードゲーム風のテレビゲームも流行ったが、そもそも大勢で集まること自体が少なくなって、廃れてしまった。
大勢で同じゲームを遊ぶという文化は、ネットワークRPGなんかに引き継がれたが、正直あれはいろいろと不健全な遊びだと思った。
ともかく今のこの世界では、ボードゲームの需要はまだありそうだ。
子供たちが遊び疲れて昼寝をしている隙に、今度は大人たちがすごろくで遊び始めた。なぜかジャンヌもそこにまじっている。
「なにぃ! また肥溜めかぁ……」
結局、俺が作ったすごろくは、ホビットたちに改良されながら長く遊ばれることになった。その後、さまざまな種類のボードゲームが派生することになるのだが、それはまた別の話。
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