27 / 59
27 日記
しおりを挟むある廃屋の冷蔵庫で、ホビットがそれを見つけたという。
そのノートはジップロックに入れられて、製氷室の奥にあったらしい。
不思議に思って俺に見せに来たということだった。
「確かに、不思議というか不審だな……」
ノートの前半は日記だ。
最初の日付は、俺が眠りに落ちた夜から一週間くらい後のものだ。
○○年4月18日
マスコミ報道なんて嘘ばかりだ。地震の原因についてあれこれ言ってるが、そんなもの聞くだけ無駄だ。だれも本当のことなど公表するはずがないんだから。しかし、地震があったのは事実だし、それが今まで経験したものと違うのも事実だ。
○○年4月19日
この家が無事だったのは運が良かった。町内で古い家は結構倒壊している。亡くなった人も多い。いまだ自衛隊の救助活動が続いているが、何か様子が変だ。救助にしては物々しい恰好をした隊員がいる。
○○年4月21日
最寄りの小学校へ避難するよう勧められたが、今のところは断っている。家は大丈夫だし、不自由はしていない。水や食料の備蓄はまだある。住み慣れた家を離れるのは嫌だし、体育館で雑魚寝などはごめんだ。
○○年4月25日
昨晩遅くに銃声を聞いた気がする。空耳にしてはリアルだった。家の周辺にはもうあまり人がいない。テレビでは的外れなことを言って政権批判をしている。そんなことはどうでもいい。
○○年4月27日
自衛隊の車両があわただしく行き来している。やはり災害の救助活動だけではない感じだ。顔見知りの隊員に話を訊くが、ぼんやりした答えしか返ってこない。心ここにあらずという様子。
・
・
・
○○年5月3日
余震も収まった。うるさかったマスコミのヘリもいなくなった。そろそろ落ち着くかと思ったが、今になって避難命令がでた。明日までに貴重品をまとめて家を出ないといけない。行き先はなぜか隣の県の避難所だ。何から非難するというのか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
瓦礫の下から骸骨がこんにちは、ってことはゼロではなかったが、それでも非常に少なかった。この規模の街で、これだけの状態になってるんだから、あちこちに遺体が転がっていても不思議ではないのに。
妖魔が食ったんじゃないかとぼんやり考えていたんだが、なるほど、自衛隊が片付けていたのなら説明はつくか。片付けが完ぺきじゃないのは、次第にそれどころじゃなくなっていったからだろう。
ノートの後半は、地震の発生原因に関する考察になっている。
テレビ新聞雑誌といったマスコミ情報とネット情報を合わせた上で考えたことが、あれこれと綴られている。もちろん、一般人の書いたものなのでどこまで信じて良いのかは分からない。
曰く、
某大学がフリーエネルギーの研究をしていた。
異世界のエネルギーを一方的に吸い取る、というのが原理。
実用化まであと一歩だったが、某団体の妨害を受け頓挫。
さらに、某国スパイの破壊工作により実験装置が暴走した。
この装置の暴走により、不完全な形で異世界とこの世界がつながった。
それこそが今回の地震の発端である。
根拠となる新聞雑誌記事の切り抜きとか、ネット記事をプリントアウトしたものなどが糊付けされていたが、ちょっとぶっ飛びすぎな気がする。
「ハハハ、SFかよ。
けど、意外と良いところ突いてるのかもな」
この時点ではまだ、異界震という言葉もなかった。異世界がどうとかという発想にたどり着いただけでも、すごいことなのかも知れない。
日記を書いた人は、その後この家に戻ることはなかった。ノートが残されていたんだからそういうことだろう。
避難先で何事もなく余生を過ごしてノートのことなど忘れたのか、それとも帰ってこれない事情ができたのか。
「結局、異界震を経験した当時の人でも良く分からなかったってことか。
自衛隊員には何か知らされていたふうだけど……」
考察にあった某大学の名前は、後の週刊誌記事などでもチラホラ見た覚えがある。
フリーエネルギーの研究にしても、一個人の妄想というわけではなさそうだ。
幸いと言うべきか、ここからその某大学まではそれほど遠くない。
「ちょっと行って確かめてみるか……」
0
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―
碧井夢夏
ファンタジー
たったひとりの王位継承者として毎日見合いの日々を送る第一王女のレナは、人気小説で読んだ主人公に憧れ、モデルになった外国人騎士を護衛に雇うことを決める。
騎士は、黒い髪にグレーがかった瞳を持つ東洋人の血を引く能力者で、小説とは違い金の亡者だった。
主従関係、身分の差、特殊能力など、ファンタジー要素有。舞台は中世~近代ヨーロッパがモデルのオリジナル。話が進むにつれて恋愛濃度が上がります。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
転生騎士団長の歩き方
Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】
たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。
【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。
【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?
※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる