不死身のバンパイアになった俺は、廃墟と化したこの世界で好きに生きようと思います

珈琲党

文字の大きさ
上 下
25 / 59

25 バッテリー

しおりを挟む
 
 ドワーフの鉱山に行くたびに、変貌具合に驚かされる。
 元あった作業スペースのさらに奥に、いつの間にか新しい部屋が出来ていた。

 その部屋には、ビーカーやフラスコ、試験管などが並び、棚には薬品が一杯だ。
 ドワーフたちが欲しがるので、学校の理科室とか保健室や薬局などから調達して届けていた。何に使うのだろうかと思っていたら、化学実験をしていたようだ。

「いったい何を作っているんだ?」

 ドルフが車のバッテリーを持って来た。

「鉛蓄電池の構造はそれほど難しくはない。
 電極と電解液が用意できれば、意外と簡単に再現できるんじゃ。
 それで、電極はすぐに作れたんじゃが、電解液が用意できんかった。
 書物によると、希硫酸というものらしいがの」

「そうそう、希硫酸だ。
 でも、希硫酸なら、あそこにある硫酸を蒸留水で薄めれば出来るだろ?」

 俺は化学実験用の硫酸のビンを指さす。

「もちろん、それは分かっておるとも。
 わしらはその硫酸自体を作れんものかと、あれこれやっておったのじゃ」

「へぇ!? それで、出来たのか?」

「当たり前じゃ。わしらは錬金術もかじっておったからの。
 わしらにかかれば朝飯前じゃよ」

「ということは、つまり……」

「そう、わしらはバッテリーを量産できるようになったのじゃ」

「な!? マジか!」

「マジじゃ。
 せっかく便利なものがあるんじゃ、活用せんでは罰が当たるわぃ。
 それに、わしらとしては、いつかアレを動かしてみたいというのもある」

 そこには、ドワーフたちによって一度完全にバラされた後、また組み直された自動車があった。
 ボディーに浮いていた錆は削り落とされ、防錆塗装が施されている。ぺったんこだったタイヤも無事なものに付け替えられている。完全なポンコツだったのに、今はずいぶんとシャキッとした雰囲気になっていた。

「なるほどなぁ。でも道は長いと思う。そもそも燃料がないんだぞ?」

「うむ、そうじゃ。道は長い。しかしその道は無限に長いわけではないし、
 道をたどればちゃんと目的地まで行けるのじゃ」

 ドワーフたちの信念の強さには驚かされる。
 まぁ、確かにゼロから作るわけではないから、なんとかなる可能性はある。
 参考資料もあるし、傷んでいるとはいえ現物もあるし。

「わかった。なるべく力を貸すから、頑張ってくれ」

「無論じゃ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 我が家に帰ると問題が勃発していた。
 迷惑エルフのサラと女騎士ジャンヌがにらみ合っていたのだ。
 原因は聞くまでもない。

「おいサラ。その服はお前のじゃないだろ?」

「えぇ!? 何のことかな。これは僕のだよ?」

「聞いてくれ、ブラド。
 この女が私の大事な服を持ち逃げしようとしているんだ!」

 俺はジャンヌをなだめる。

「うん、分かっている。その服は世界に一つしかないからな。
 サラ、今のうちにその服を返すのなら、今回は見逃してやる」

 サラは心底呆れた顔をしてため息をつく。

「ふぅぅぅぅ。ちょっと意味が分からないんだけど?
 君たちは僕の服を奪おうというのかな?」

 ジャンヌが真っ赤な顔をして怒鳴る。

「ふざけるな! それは私の服に決まっているだろう、いいから返せ!」

 サラはにくたらしい顔をして、肩をすくめる。

「やれやれ、下等生物の言うことは意味が分からないな」

「サラ、またコイツを食らいたいのか?」

 俺は右手の人差し指と中指で輪を作って、サラの前でグッと力を入れる。
 サラは額を手で隠してうろたえながらも虚勢を張るのだった。

「な! 君たちは暴力で僕の物を奪うつもりなのか?
 それは強盗というんだぞ!
 知らないのか? 君らは原始人なのか?」

「いやいや、お前がその服を盗もうとしているのは明白なんだよ。
 明白過ぎて、逆に指摘をする側が困惑するぐらいだ。
 とにかく、これは最後の警告だ。黙って返すんだ」

「いや――うっ!」

 この期に及んでまだごねるサラに、俺は無言でボディブローを叩きこんだ。
 こちらに倒れ込んできたサラを、ガッチリと脇に抱えこみ、パンツごとズボンをずり下げて尻を丸出しにしてやる。

「きゃぁぁぁぁぁ! やめてぇ!」

 わめくサラに構わず、俺は怒りのこもった音速の尻叩きをお見舞いしてやった。

「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

 スパパパパパパパパパァァァァンと景気の良い衝撃音がホールに鳴り響いた。
 サラは小便をもらしながら叫ぶ。

「変態がぁぁぁぁぁ!」

「その通り。
 もういっちょ!
 オラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 白目を向いて伸びてしまったサラを、小便まみれになった床に放り出す。
 サラは床の上で、いつか見せた無様なマングリ返しをまた披露した。
 サラを睨んでいたジャンヌも、さすがに目をそらす。
 しばらくしてヨロヨロと起き上がったサラは叫ぶ。

「このゴミムシ以下の糞野蛮人どもがぁ!」

「とっとと帰れ。まだ食らい足りないのか?」

「ヒィィィ……」

 サラは真っ赤に腫れ上がった尻を丸出しのまま外へ走っていった。


「あいつにはこれぐらいしないとダメだ。悪さをしたら即お仕置きだ」

 ジャンヌはちょっと困った顔をして言う。

「あっ、ありがとう。助かった」

「またやらかすと思うから、ドアには鍵を付けておかないとな」

「さすがにこれで懲りただろう?」

「あいつは懲りないだろうな。残念だけど……」

 自転車を乗り逃げするサラの後ろ姿を見ながら俺は言った。












しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

燃えよドワーフ!(エンター・ザ・ドワーフ)

チャンスに賭けろ
ファンタジー
そのドワーフは熱く燃えていた。そして怒っていた。 魔王軍の侵攻で危機的状況にあるヴァルシパル王国は、 魔術で召喚した4人の異世界勇者にこの世界の危機を救ってもらおうとしていた。 ひたすら亜人が冷遇される環境下、ついに1人のドワーフが起った。 ドワーフである自分が斧を振るい、この世界の危機を救う! これはある、怒りに燃えるドワーフの物語である。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貴様とは婚約破棄だ!え、出来ない?(仮)

胸の轟
ファンタジー
顔だけ王子が婚約破棄しようとして失敗する話 注)シリアス

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...