24 / 59
24 ゴブリン
しおりを挟む缶詰、レトルト食品、、インスタント食品、インスタント飲料、乾パン、菓子類、エナジーバー、サプリ、乾物、酒類、塩、砂糖、常備薬など……。
おそらく消費期限など何十年も過ぎていると思うが、ホビットたちはまだ大丈夫そうなものを、あちこちから拾ってくる。
最初のうちは、庁舎一階のホールに棚を作り、分類分けして保管していた。しかし、しだいにホールが一杯になり、二階の空き部屋も一杯になり、今現在では、俺が占有している三階の一部の部屋まで倉庫として使われる始末だ。
迷惑エルフのサラが菓子を食い散らかそうが、健啖家のジャンヌがカレーを水のように飲み込もうが、全体には全く響かないだけの食料があるのだった。
当然、食料だけではなく、建材、衣類、日用品、使えそうな家電なども回収され、保管されている。
ホビットたちは飢えて苦しい思いをした経験があるので、食えそうなものや使えそうなものは絶対に無駄にしたくないという。俺としても彼らの気持ちは分かるので、むやみに止めろとは言わない。
「向かいの小学校は?」
「はい、各部屋に棚を設置している最中です」
ホビットが良い笑顔で答えた。やはり、抜かりはないようだ。
「そうか。大きいものは体育館に保管してくれ」
「はい、そのように」
そのうち周辺の建物が全部倉庫になるかもしれないな。まぁ物資がなくて困るよりはずっと良いことだろうが。
ポチが部屋に駆け込んできた。
「ガゥガゥガゥ」
「なにぃ! 妖魔か!」
俺はいつものワイバーン革の戦闘服に着替えて、ロングソードを背負う。
漫画の忍者みたいな恰好だが、ロングソードを腰に差すと走りにくいのだ。日本刀を背負う場合は、左肩から柄が出るように背負うのが正解らしいが、ロングソードはどうなのかは知らない。ブ〇イドみたいに真ん中ってことはないと思う。どちらにしても背負ったままだと、抜剣も納剣も難しいので、戦う時は鞘ごと背から降ろさないといけない。
俺たちの様子を察知したジャンヌが部屋にやって来た。
「戦闘か? 戦闘なのか? 戦闘なのだろう?
だったら私も行くぞ!」
ちょっとうれしそうだ。ジャンヌは戦闘狂のケがあるな。
「俺たちは自分の足で走るが、ジャンヌは馬で来た方がいいぞ」
「わかった!」
ジャンヌは風のように自室に消え、あっという間に新調したばかりの戦闘服に着替えてきた。変身ヒーローもかくやという程の早業だ。
「妖魔討伐に行ってくる」
「「「いってらっしゃいませ、領主様」」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
魔狼たちは妖魔の一団をゆるく囲み、つかず離れず絶妙な距離を保って、動きを封じていた。妖魔の後ろからそっと近づいては突っつき、妖魔が振り返り攻撃しようとすればスッと引く。そうやって妖魔の気力体力を少しずつ奪うのだった。
その妖魔は、人間のように二本足で立ち、手にはボロい剣を持ち、粗末な鎧を身につけている。子供くらいの背丈で、肌は暗い緑色、凶悪な面構えをしている。数は十体ほど。
「あれはゴブリンだな。ブラド、私にやらせてくれ」
ダメだと言っても突っ込みそうな勢いだったので、素直に許可する。
「よし、ジャンヌに全て任せる」
「承知した!」
ジャンヌはサファイア号から飛び降りると、ダッと駆け出して、ゴブリンの一団に一瞬で接近する。
いつか俺に見せた、あの素早い突きであっさりと一体しとめた。首を突かれたゴブリンは即死。周りのゴブリンが慌ててジャンヌに反撃を加えようとする。
ジャンヌは見事な体さばきでそれをかわして、逆にそのゴブリンを下からすくうように斬り上げた。体を斜めに両断されたゴブリンは昏倒。返す刀でもう一体。流れるようにゴブリンたちを次々と倒してしまった。
「さすがは騎士だ、俺の出る幕はなかった。
惚れ惚れするような剣さばきだったな」
「なんのこれしき」
ジャンヌはまんざらでもない様子だ。
俺は倒されたゴブリンたちの装備をしげしげと観察する。鉄板を三日月形に打ち抜いて、簡単に研いだだけの片刃の刀。鎧は、何枚かの鉄板を適当に組み合わせただけのもの。ドワーフたちが見たら鼻で笑うだろうな。
とはいえ、
「こういうのを作って使う程度の知能はあるわけだ。
しかも、それなりの集団でまとまって行動していた」
一体一体はザコかもしれないが、下手な妖魔よりもずっと脅威だ。
「そうだ。ゴブリンは油断ならない存在だぞ。
この程度ならまだ問題ないが、数の力でゴリ押しされると厄介だ」
とりあえず、俺はゴブリンたちの装備をはぎ取って一か所に集める。あとで回収するつもりだ。出来は悪いが、くず鉄としての価値はある。ドワーフたちに材料として提供すればいい。
ゴブリンたちの血は真っ黒で、ひどい臭いだ。まったく食欲をそそらない。
「ポチ、食うか?」
「クゥン……」
ポチは嫌そうな顔で後ずさりする。
他の魔狼たちもゴブリンは食いたくないらしい。
「ゴブリンは泥から生まれると聞いたことがある。
食わないのが賢明だろうな」
ジャンヌは剣に付いたゴブリンの血や脂を、ボロ布で丁寧に拭き取っている。
「ドワーフの剣の切れ味はどうだった?」
「素晴らしい、という言葉につきる。
彼らが自慢するだけのことはあるな」
抜き身の剣をうっとりと見つめ、頬ずりしそうな勢いだ。
「……なるほど」
俺はポチ達にご褒美として犬のおやつをやる。
うれしそうにジャーキーを味わう姿はやはり犬に似ているな。
「ジャンヌはカレーが好きか?」
「あぁ、カレーは良い!
あの香り、あの刺激、濃厚な味わい。完ぺきだ!」
「今日は頑張ったからカツカレーだな」
「おぉぉぉぉ!」
日暮れ前、俺たちは無事に我が家に帰った。
0
お気に入りに追加
375
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる