不死身のバンパイアになった俺は、廃墟と化したこの世界で好きに生きようと思います

珈琲党

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15 森の民

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 森から続々とゾンビが行進してきている。
 ざっと見わたしただけでも千はいるだろう。森の奥にもっといるかもしれん。
 一息つけるかと思ったのにな……。

「すまんがお前たち、
 手頃な大きさの瓦礫を集めて、そこの道端に積んでおいてくれるか。
 その間、俺がゾンビどもを食い止めておくから」

「「「はい、領主様!」」」

 俺は向かってくるゾンビの集団に駆け足で近づく。
 やはりよくよく見るとデロデロで気持ち悪いな、ゾンビって。

「また剣が汚れる……」

 数は脅威だが、連中は動きも頭もとろい。
 囲まれないような位置取りで対処すれば何の問題もないのだ。
 俺は心を無にして、機械的にゾンビどもの首を狩る。
 ゾンビの腐肉をかぶらないように、最小限の動きで手早く。
 二百体ほど倒したところで、ホビットから声がかかる。

「領主様、準備できました!」

「おぅ! サンキュー」

 俺は一気に後退して、ゾンビどもと距離を取る。
 道端には、ホビットたちが集めた瓦礫が山になっている。
 かたわらに剣を置き、靴と上着も脱いだ。

「よし、始めるか。
 お前たちは下がっていてくれ」

 肩をぐりぐりと回して準備運動をする。
 ホビットたちが後退するのを見計らって、適当な瓦礫を掴み上げる。
 俺はその瓦礫をゾンビに向かって全力で投げつけた。

「りゃぁぁぁぁぁぁ!」

 ゴゥッとうなりを上げて瓦礫が真っすぐに飛び、先頭のゾンビに命中。
 スパパパパパパーン! という景気の良い音とともに、ゾンビたちが次々と四散していく。瓦礫一つで十体以上が消し飛んだ。

「うわぁ、汚い花火だなぁ」

 ともかく効果的なのは分かった。
 俺はゾンビの集団にありったけの瓦礫を投げまくった。

「オラオラオラオラオラオラオラァ!」

 いつの間にか、足元のアスファルトは粉々になり、砂利に戻っていた。
 道沿いの廃屋のいくつかが衝撃波で倒壊し、ずっと先の森の木も何本か倒れてしまった。ゾンビたちは全てバラバラの肉片になり、動くものはいなくなった。
 なるべくゾンビに近づかずに処理したかったのだが、これだと逆に後始末が面倒になってしまったな。

「もはやあとの祭り……。
 それはともかく、さすがにもうゾンビの在庫はないんじゃないか?」

「「「やったー!」」」

 見守っていたホビットたちが歓声を上げている。

「わふわふ!」

 後方に下がっていたポチもやって来る。

「わふ……。ガゥガゥガゥ!」

「どうした? まだいるのか?」


 森の方を見ると、確かに何かがいる。
 動きからするとゾンビではなさそうだ。

 長い銀髪で、男とも女ともつかない中性的な顔つきと体つき。
 肌は異様なほど白く、緑色の目に、ピンと尖った耳。
 彼らを見て美しいという人もいるかもしれない。
 しかし俺は、なんだかマネキンが動いているような違和感を覚えた。
 そいつがつかつかと俺たちの方へ歩いてきた。

「さっきから石を投げていたのは君たちかい?」

 どうやらご立腹の様子だ。
 確かにいきなり石を投げられたら誰でも怒るな。

「これは申し訳ない。もしかして誰か怪我をした?
 まさかあの深い森の中に、人がいるとは思わなかったんだ」

「いや、誰も怪我なんかしてないよ。
 けど、ビックリするじゃないか!
 それにこのありさまは何だい!」

「すまない。
 俺たちは向こうの街に住んでるんだよ。
 街の方にゾンビの集団が押し寄せてきたから、ここで倒していたんだ」

「いやだから、そのゾンビだよ!
 せっかく作って遊んでたのに、何してくれるのさ!」

「えぇ!? ゾンビを作って遊んでた?」

 意外過ぎるそいつの言葉に、思わずオウム返しをしてしまう。

「そうだよ。
 面白そうな獲物がいたからさ、ゾンビをけしかけてみたんだ」

 そいつはさも当たり前かのような顔をした。

「えぇ!? 獲物って、ホビットのことか?」

「そうそう、あそこにいるおチビさんだよ」

 ホビットたちを見てニヤニヤ笑っている。嫌な笑い方だ。

「いや、でもなんで?」

「面白そうだったから」

「いやいや、面白くはないだろう」

 無茶苦茶な返答にさすがにムッときた。

「なんで怒るの?
 いや、むしろ怒りたいのはこっちなんだけど!
 せっかくのゾンビをさぁ、こんなバラバラにされたんだよ?
 どうしてくれるのさ?」

「そもそも、お前がゾンビをけしかけなければ、こんな事にはならなかっただろ?
 他人を危険にさらしておいて、何言ってるんだよ」

「他人を危険に?
 他人って、まさか君らのことかい?」

 そいつは心底不思議そうな顔をした。

「俺ら以外に誰がいるんだ?」

「僕たちは神に選ばれし至高の存在、森の民だよ?
 世界の全ては僕たちのためにあるんだ。僕たちこそが世界の中心なのさ。
 僕たち以外のことなんて、どうなろうと知ったことじゃないよ」

「ちょっと何言ってるのか分からない。
 ふざけるのは、やめてもらえるか?」

「いや、ふざけてなんかないよ。当たり前のことでしょ?
 それよりも、どうしてくれるのさ!
 君らみたいな下等生物が僕のおもちゃを壊したんだよ?
 そこに土下座でもして謝りたまえ」

 そいつのあまりの言葉に、俺の怒りに火が付いた。

「知るかボケェ!!」

 奴の額の中心に、やや強めのデコピンをお見舞いしてやった。
 ビシィィィィッ! 
 奴はもんどりうってゾンビの肉片の中に倒れ込んだ。

「ギャァ! きっ、貴様ぁぁぁ! よくもやったなぁぁ!
 父さんにもぶたれたことないんだぞぉ!」

 奴はゾンビの腐肉でドロドロになり、半泣きでわけのわからないことをギャァギャァわめき散らして、森に帰って行った。


「「「……」」」

「なんなんだよ、あいつは……」

「わふぅ……」











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