上 下
8 / 59

08 ドワーフの鉱山

しおりを挟む

 ドワーフたちは拠点ごと飛ばされてきたおかげか、あまり困ってない様子だ。
 住処も活動の場も鉱山内にあるし、下手な妖魔なら撃退できるだけの武力も持っていた。鉱山にないものは、周辺の廃墟から掘り出したりしていた。

「飛ばされたのが荒野の真ん中なら大変じゃったろうがな。
 水もあるし、食い物もあるし、何より酒があるからの」

「そうじゃそうじゃ。ここの酒は良いものじゃ」

「ガハハハッ、そうじゃのぉ」


 彼らは元の世界では、貴族の注文で甲冑や剣などの武具を主に作っていたが、こちらでは需要がほぼない。
 なので今では、ホビットたちの注文を受けて、農具作りや自転車の修理・改造などをしている。
 初めのころは小さないさかいもあったが、しばらくすると共存共栄の関係が作られて行った。

 ドワーフは基本的に鍛冶仕事と酒にしか興味がないので、やはりこまごまとした生活周り全般はホビットたちの方が得意だ。ドワーフが鍛冶仕事をして、ホビットたちはその代わりにドワーフの好きな酒を発掘してきたり、新鮮な野菜や果物を提供したりしているのだった。
 

「なぁ、お前さんに聞きたいのじゃが、あれは乗り物なんじゃろ?」

 やはりドワーフたちも自動車が気になるようだ。道端には、錆だらけになった自動車が山ほど放置してあるから、目に付くのは確かだな。量販店の地下駐車場跡などでは無事な自動車も多く見つかっていた。

「そうだよ。さすがに気になるよな。
 でも、動かすための燃料が手に入らないから、今はただの置物なんだよ」

「なるほどのぉ。
 しかし、雨ざらしで放置とは、なんとももったいない。
 あれらをバラしても構わんじゃろうか?」

「外にある錆びたようなのは、別に好きにしてくれて良いぞ。
 外側は鉄とガラスだし、エンジンとミッションなんかはアルミだし、
 融かして再利用できるだろうからな」

「ふむ。それも良いんじゃが、
 わしとしては、きれいに分解して仕組みが知りたいのじゃ」

「あぁ、そういうことか。
 じゃぁそのための工具と、あとは仕組みが分かる本を貸すよ」

「ありがたい!」


 鍛冶仕事をしているせいなのか、ドワーフたちは機械の仕組みなどにも結構興味があるらしく、また理解も早かった。さすがに日本語は読めなかったが、イラストなどは良く分かるらしい。車の構造が書かれた本を熱心に見ている。

「ふむ、この中で燃料と空気が燃えて、圧力が高まってこれを動かすと」

「この線はなんじゃろ」

「あぁ、そこに電気が流れてその筒の先に火が付くんだよ」

「なるほどのぉ」

 俺も学生時代はボロい中古車を買って直しながら乗ってたから、多少は車のことが分かる。分かる範囲で分解する手順を教えたり、車の操作を教えたりしながら少しずつ作業をして行った。
 半日もすると、車はすっかりバラバラになった。


「領主様、これはバッテリーですね」

「そうだ。中には酸が入ってるから取り扱い注意な」

「この車輪は鉄ではないんですね」

「それはアルミ製だな」

「ほぉぉ、なんと巧みな細工なんでしょう!
 これが組み合わさって動くのですね……」

「そう、それがエンジン、こっちがミッション。
 しかしここまでバラバラだともう俺には直せんな」

 ホビットたちもやって来て、ワイワイ言いながら見物している。
 作業を邪魔されたドワーフたちは機嫌が悪くなる

「こりゃ! ホビットどもはあっちへ行っておれ!
 その部品を持っていくんじゃない! そこへ戻すのじゃ」

「まったくもって騒がしいの」

「あいつらは落ち着きがなくていかん!」

 ドワーフたちは本に書かれているイラストと本物の部品を見比べて、動きを確認したり素材を確認したり、ドワーフ同士でガヤガヤと熱心に議論している。しばらくすると、エンジンの仕組みなどはおおよそ理解できたらしい。もはや俺よりも詳しいかもな。

「電気のことをもう少し教えてくれんかのぉ」

「う~ん……、正直俺も詳しくない。
 そのバッテリーに電気が蓄えられて、その線を通ってあれこれするんだよ」

「ふむ、電気というものは使うと減るんじゃろ?
 どうやって作られておるのじゃ」

「あぁ、それはこの部品のここを回すと電気ができる」

 俺はオルタネーターを掴み上げてプーリーを回して見せる。

「なるほど、そういえばこの輪っかでエンジンとつながっておったな……。
 では、水車でそれを回せば電気が作れるということか?」

「まぁ、そうなるね」

「「「おぉぉぉぉ!」」」
 
 俺の返事にドワーフたちが色めき立つ。

「それで、これに電気を流すと光をだすんじゃろ?」

 ライトのバルブを指さして訊いてくる。

「そうだよ」

「「「おぉぉぉぉ! やっぱりそうじゃ!」」」

 何を当たり前のことをと思ったが、そうか、彼らの世界には電気がなかったのだ。そういえば、ホビットたちの照明は油を使ったランプだったか。
 俺は夜目が効くから照明いらずだし、あまりにも電気が身近だったせいか、よくよく考えていなかったが、彼らにとっては夢のテクノロジーということになるな。







しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

処理中です...