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02 小さな同居人たち

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 俺がアパートの残骸の下で目覚めたのが、今から一カ月くらい前のことだ。

 自分の肉体の変化については、本能的に気が付くことができた。
 あの夜、コウモリに噛まれた俺は、眠っている間にバンパイアに変化したのだ。
 しかしその直後、異界震によってアパートが崩壊、瓦礫によって俺の体は大きく損傷した。肉体の再生には長い年月を要し、その間俺はずっと眠っていた。

 なんとか復活することは出来たものの、俺は浦島太郎になっていた。
 街の様子に困惑した俺は、瓦礫の中をあちこちをさまよい、生存者を探して回ったが結局無駄だった。
 その間にいろいろと危ない目に遭いながらも、自分の新しい能力について学ぶことができた。


 今は市庁舎を住処すみかにしている。
 異界震による被害も見たところほぼないようだし、とりあえず頑丈そうな鉄筋コンクリート造りの建物ということで選んだのだ。

 これまでのことをぼんやりと思い出していたら、魔狼のポチがやって来た。
 ガゥガゥと低く唸るような声で、俺に何かを訴えている。

「またあの連中か……」

 ポチの頭をポフポフとなでてやりつつ、俺は愚痴る。

 魔狼というのは、便宜上、俺が勝手に付けた分類名だ。見た目が狼に似た化け物だから魔狼。他にも、豚の化け物とか、虫の化け物とか、分類不能の良く分からないやつとか、妖魔には色々な種類がいる。
 ポチは俺に仕えている魔狼で、この辺りの魔狼の群のリーダーをしている。


「連中は外にいるのか?」

「わふわふわふ」

 苦手な陽の光に少々うんざりしながら、市庁舎の玄関からのっそりと外に出た。

「「「領主様、おはようございます!」」」

 ホビットたちが一斉にあいさつしてくる。
 俺の胸ほどの背丈しかない小人たち。
 あの映画のホビットかどうかは知らないが、俺は彼らをホビットと呼んでいる。
 彼らは妖魔と同じく、異世界からやってきた存在だ。
 いろいろあって俺のことを領主と呼ぶ。

「うん、おはよう。
 今日は何なんだ?」

 彼らとは言葉が普通に通じる。
 バンパイアのテレパシー能力が作用しているのだと、勝手に納得している。
 実のところは良く分からない。

「はい、このようなものを見つけまして……」

 ホビットの代表者がうやうやしく車のバッテリーを俺に差し出す。

「あぁ、それはあれだ、電気ええっと、雷をためるものだよ。
 でも古すぎるから、もう使えないだろうな」

「ははぁ、そんなものがあるのですね」

 ホビットたちからすると、この世界の遺物が珍しくて仕方ないのだろう。
 瓦礫からいろいろなものを掘り起こしては、俺に見せに来るのだった。
 少々うっとおしいが、彼らは発掘するついでに瓦礫を片付けてくれるし、たまに有用な物も掘り当ててくれるので助かってもいる。


 ホビットたちもまた異界震の被害者だった。
 突然出来たブラックホールのようなものに集落ごと吸い込まれて、気が付いたらこの世界にいたらしい。それも俺が目覚めたのとあまり変わらない時期だという。
 彼らの言葉を信じれば、異界震はまだ収束していないどころか続いているってことだろう。

 ホビットたちは見知らぬ世界に放り出されて混乱しつつも何とか生き抜いた。
 あちこちさまよった挙句、たまたまポチたちの縄張りに入ってしまった。
 それで結局、俺が保護することになったわけだ。まぁ、俺も人恋しかったし、言葉が通じる彼らと出会って、かなり嬉しかったのを覚えている。

 この辺り一帯はポチたち魔狼の縄張りで、他の妖魔に襲われる危険がほぼない、いわば安全地帯なのだ。俺の許可を得たホビットたちは、市庁舎の中を改装して自分たちの住処を作りはじめた。

 庁舎の一階は大きなホールになっており、端の方に受付カウンターが並んでいる。住民課とか税務課とかそういうのだな。
 二階には小さく区切られた事務所がたくさんあって、ホビットたちはそれぞれの部屋に各家族が住むことにしたのだった。
 ちなみに領主の俺は三階全部を占拠している。その上は屋上だ。

 ホビットたちは、そこらに落ちているガラクタをうまく利用して、巧みに住みやすい環境を作り上げた。彼らは器用でなかなか賢い。それに働き者だった。
 あっという間に庁舎の二階フロアは、ちょっとした集合住宅に変貌した。






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