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62 露天風呂 おわり
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妻のリサは生活魔法の使い手だ。
洗濯の魔法さえあれば、体も衣服もいつもピカピカ、入浴の必要はない。
しかし、元日本人の俺は時々思うのだった。
「はぁ、湯につかりてぇ……」
温かい湯に肩まで浸かって、じっくりと体の芯から温まりたい。
別に寒いわけでも、体調が悪いわけでもなかったが、無性に風呂に入りたい気分だ。それも、狭いユニットバスみたいなのじゃく、広々とした銭湯の風呂。
「そうだ、露天風呂作ろう! 今の俺なら難しくないはず」
俺はネクロマンサー。スケルトンたちの手を借りればたいていのことは出来る。
敷地内を整備してきた経験もあるのだ。俺はさっそく行動に移したのだった。
まずは場所決め。
ここは森の中なので、基本的に見晴らしは良くないが、畑のそばなら視界も開けていて日当たりも良い。
ということで、甜菜が植わっている畑のすぐ横に脱衣所として東屋を建てた。
東屋なら外作業のときの休憩場所としても使えるし。
「イチロウ、何作ってるの?」
俺に気づいたリサが見物に来る。
「ふふん、出来てからのお楽しみ」
それから出来上がった東屋のすぐそばに、大きな穴を掘る。五メーター四方で、深さは五十センチくらいか。穴の底には排水口を付けて、そこに以前便所に使った排水管の余りをつなぐ。排水管の出口はとりあえずは少し低くなった場所に出しておけば大丈夫だろう。まぁ細かいことは後々考えよう。
堀った穴の側面や底面は、ウィザードの火球で一度融かしてツルツルのガラス状に固めた。穴の周りの地面には、平らな石を埋めて広々とした洗い場を作る。ここは後でタイルを貼っても良いかもしれないな。
「池?」
「近いが、ちょっと違うかな」
排水口を木の栓で塞いでから、穴に井戸水をどんどん汲み入れる。人力だととんでもない重労働だが、スケルトンたちにやらせればすぐに穴が水で一杯になった。
「やっぱり池じゃない」
「いやいや、これからだ」
穴の水をウィザードの火球でじわじわとあぶる。様子を見ながらゆっくりと、板で水をかき混ぜながらあぶる。
しばらくすると水は湯になり、良い感じの湯気が出てきた。
「どれどれ……」
俺は慎重に手を湯に入れる。
「おぉ! ちょうど良い湯加減だぞ」
「えぇ!? ナニコレ? ちょっと意味が分からないんだけど……」
この世界の一般庶民は、基本的に風呂には入らない。体が汚れたら、湯や水でぬらした布で体を拭うくらいだ。
公共の蒸し風呂施設はあるようだが、それはあくまでも汗を流すもので湯に浸かるということはしない。大量の湯を沸かすことは重労働で金がかかるからだ。なのでバスタブなどは貴族か大商人しか持ってないし、露天風呂など前代未聞なのだった。だからリサが分からないのも無理はない。
「じゃぁさっそく」
俺は東屋で服を脱いで素っ裸になる。
「ちょっ、ちょっとぉ、こんな所で何するの!」
そんなリサにかまわず、俺は風呂のほとりで湯をかぶってから湯船に身を沈めた。
「ふい~ぃ、これは良い塩梅だ。極楽極楽……。
こうやって湯に浸かって、体を温める設備なんだよ」
「えぇ、何それ……」
リサはしばらく戸惑っていたようだが、自分も入りたくなったらしい。
いそいそと東屋で服を脱ぎ始める。
「おぉ、眼福眼福」
俺は湯に浸かりながら、リサのやや肉付きの良い裸体を鑑賞するのだった。
「もぅ!」
「湯に入る前に、そこで体の汚れを流すんだぞ」
「うん、わかった」
リサは恐る恐る湯に足をつけてから、意を決して湯に飛び込んできた。
「ふはぁ……、気持ちいい! これは良いねぇ……」
「そうだろうそうだろう。
俺のいた国だと自然に湯が沸く土地があってな、
こういう施設は珍しくないんだ」
スケルトンに酒とつまみを持ってこさせる。
「湯に浸かりながら一杯やろうぜ」
「すごい贅沢!」
俺たちが良い気分で湯に浸かっていると、ベロニカが起きて来た。
そういえば、そろそろ夕暮れだったか。辺りはもう薄暗くなっている。
露天風呂の周りに灯りの護符を配置すれば、夜にも風呂に入れるかな。
「ちょっとちょっとぉ! こんなとこであんたたち何やってるのよ!」
「何って、見ての通り風呂に入っているんだが……」
「ベロニカも入る? 気持ちいいよ」
「何言ってるのよ! 外で裸になれっていうの?」
「それはお前の得意技じゃないか」
「はぁぁぁ!? バカじゃないの!」
ベロニカは風呂の周りでアレコレと騒いでいたが、俺たちの様子を見ていて結局自分も入りたくなったようだ。
いそいそと服を脱いで、小さく身をかがめるように前を隠しながらやって来た。
「そこで汗を流してから入るんだぞ」
「わかったわよ……」
ベロニカはおっかなびっくりという感じで湯に浸かる。
「ふわぁ……、ま、まぁ悪くないわね」
俺は横目で、見た目だけは彫刻のように完ぺきなベロニカの白い裸体をじっくりと鑑賞するのだった。
「フヒヒ、眼福眼福……、ブベラ!?」
「ちょっとイチロウ!」
「はぅぅ、リサ様、そこはちょっと! ぐへっ、分かった! わかったからぁ!」
「もう!」
「本当にお前は容赦ないなぁ。危うくもげるところだったぜ……」
『もげた方が良かったのではないか?
そんなもの魔導師には必要ないしのぉ、フフフ』
『クロゼルてめぇ……』
湯に浸かったベロニカは、さっそくカパカパと酒をあおっていい気分になっている。
「ふぃぃぃ……。イチロウ、お腹へったから何か作って来なさいよ」
「私もお腹へった」
「つまみがあるだろうが、干し肉かじってろよ」
「わたし鹿肉のステーキが食べたいわ」
「私は唐揚げとコロッケ」
「分かったわかった、でも飯は風呂の後な」
「「えぇ~!」」
二人の抗議の声を聞きながら、俺はすっかり暗くなった空を見上げる。
「見ろよ、星がきれいだぞ」
そういえば、俺がこの世界へ来た夜も空を見上げていたな。
今夜は月が出てないのか。
おわり
洗濯の魔法さえあれば、体も衣服もいつもピカピカ、入浴の必要はない。
しかし、元日本人の俺は時々思うのだった。
「はぁ、湯につかりてぇ……」
温かい湯に肩まで浸かって、じっくりと体の芯から温まりたい。
別に寒いわけでも、体調が悪いわけでもなかったが、無性に風呂に入りたい気分だ。それも、狭いユニットバスみたいなのじゃく、広々とした銭湯の風呂。
「そうだ、露天風呂作ろう! 今の俺なら難しくないはず」
俺はネクロマンサー。スケルトンたちの手を借りればたいていのことは出来る。
敷地内を整備してきた経験もあるのだ。俺はさっそく行動に移したのだった。
まずは場所決め。
ここは森の中なので、基本的に見晴らしは良くないが、畑のそばなら視界も開けていて日当たりも良い。
ということで、甜菜が植わっている畑のすぐ横に脱衣所として東屋を建てた。
東屋なら外作業のときの休憩場所としても使えるし。
「イチロウ、何作ってるの?」
俺に気づいたリサが見物に来る。
「ふふん、出来てからのお楽しみ」
それから出来上がった東屋のすぐそばに、大きな穴を掘る。五メーター四方で、深さは五十センチくらいか。穴の底には排水口を付けて、そこに以前便所に使った排水管の余りをつなぐ。排水管の出口はとりあえずは少し低くなった場所に出しておけば大丈夫だろう。まぁ細かいことは後々考えよう。
堀った穴の側面や底面は、ウィザードの火球で一度融かしてツルツルのガラス状に固めた。穴の周りの地面には、平らな石を埋めて広々とした洗い場を作る。ここは後でタイルを貼っても良いかもしれないな。
「池?」
「近いが、ちょっと違うかな」
排水口を木の栓で塞いでから、穴に井戸水をどんどん汲み入れる。人力だととんでもない重労働だが、スケルトンたちにやらせればすぐに穴が水で一杯になった。
「やっぱり池じゃない」
「いやいや、これからだ」
穴の水をウィザードの火球でじわじわとあぶる。様子を見ながらゆっくりと、板で水をかき混ぜながらあぶる。
しばらくすると水は湯になり、良い感じの湯気が出てきた。
「どれどれ……」
俺は慎重に手を湯に入れる。
「おぉ! ちょうど良い湯加減だぞ」
「えぇ!? ナニコレ? ちょっと意味が分からないんだけど……」
この世界の一般庶民は、基本的に風呂には入らない。体が汚れたら、湯や水でぬらした布で体を拭うくらいだ。
公共の蒸し風呂施設はあるようだが、それはあくまでも汗を流すもので湯に浸かるということはしない。大量の湯を沸かすことは重労働で金がかかるからだ。なのでバスタブなどは貴族か大商人しか持ってないし、露天風呂など前代未聞なのだった。だからリサが分からないのも無理はない。
「じゃぁさっそく」
俺は東屋で服を脱いで素っ裸になる。
「ちょっ、ちょっとぉ、こんな所で何するの!」
そんなリサにかまわず、俺は風呂のほとりで湯をかぶってから湯船に身を沈めた。
「ふい~ぃ、これは良い塩梅だ。極楽極楽……。
こうやって湯に浸かって、体を温める設備なんだよ」
「えぇ、何それ……」
リサはしばらく戸惑っていたようだが、自分も入りたくなったらしい。
いそいそと東屋で服を脱ぎ始める。
「おぉ、眼福眼福」
俺は湯に浸かりながら、リサのやや肉付きの良い裸体を鑑賞するのだった。
「もぅ!」
「湯に入る前に、そこで体の汚れを流すんだぞ」
「うん、わかった」
リサは恐る恐る湯に足をつけてから、意を決して湯に飛び込んできた。
「ふはぁ……、気持ちいい! これは良いねぇ……」
「そうだろうそうだろう。
俺のいた国だと自然に湯が沸く土地があってな、
こういう施設は珍しくないんだ」
スケルトンに酒とつまみを持ってこさせる。
「湯に浸かりながら一杯やろうぜ」
「すごい贅沢!」
俺たちが良い気分で湯に浸かっていると、ベロニカが起きて来た。
そういえば、そろそろ夕暮れだったか。辺りはもう薄暗くなっている。
露天風呂の周りに灯りの護符を配置すれば、夜にも風呂に入れるかな。
「ちょっとちょっとぉ! こんなとこであんたたち何やってるのよ!」
「何って、見ての通り風呂に入っているんだが……」
「ベロニカも入る? 気持ちいいよ」
「何言ってるのよ! 外で裸になれっていうの?」
「それはお前の得意技じゃないか」
「はぁぁぁ!? バカじゃないの!」
ベロニカは風呂の周りでアレコレと騒いでいたが、俺たちの様子を見ていて結局自分も入りたくなったようだ。
いそいそと服を脱いで、小さく身をかがめるように前を隠しながらやって来た。
「そこで汗を流してから入るんだぞ」
「わかったわよ……」
ベロニカはおっかなびっくりという感じで湯に浸かる。
「ふわぁ……、ま、まぁ悪くないわね」
俺は横目で、見た目だけは彫刻のように完ぺきなベロニカの白い裸体をじっくりと鑑賞するのだった。
「フヒヒ、眼福眼福……、ブベラ!?」
「ちょっとイチロウ!」
「はぅぅ、リサ様、そこはちょっと! ぐへっ、分かった! わかったからぁ!」
「もう!」
「本当にお前は容赦ないなぁ。危うくもげるところだったぜ……」
『もげた方が良かったのではないか?
そんなもの魔導師には必要ないしのぉ、フフフ』
『クロゼルてめぇ……』
湯に浸かったベロニカは、さっそくカパカパと酒をあおっていい気分になっている。
「ふぃぃぃ……。イチロウ、お腹へったから何か作って来なさいよ」
「私もお腹へった」
「つまみがあるだろうが、干し肉かじってろよ」
「わたし鹿肉のステーキが食べたいわ」
「私は唐揚げとコロッケ」
「分かったわかった、でも飯は風呂の後な」
「「えぇ~!」」
二人の抗議の声を聞きながら、俺はすっかり暗くなった空を見上げる。
「見ろよ、星がきれいだぞ」
そういえば、俺がこの世界へ来た夜も空を見上げていたな。
今夜は月が出てないのか。
おわり
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