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61 魔法の仕組み
しおりを挟むあれから一週間ほどして返答があった。
どうやら俺の提案がそのまま通ったらしい。爺さんの割になかなか仕事が早いじゃないか。
そこそこの額の運営費用を肩代わりすることになったが、今の俺にはそんなのはした金なのだ。代わりに組合所属の魔導師の名簿と、魔術の教本を手に入れることができた。
「どれどれ……」
まずは名簿に目を通す。
組合所属の魔導師は三十人ほどだ。比較対象がないので多いのか少ないのかよく分からないが、全盛期は百名ほどいたらしいので、減っているのは確かだな。名簿に載っている魔導師のうち見習いが十人なので、即戦力は二十人ほどか。
それなりに経験と実績のある魔導師には二つ名が付いている。
『幻影の』とか『漆黒の』とか『雷の』とか、まぁ格好いいけど中二病っぽくもあるなぁ。『鋼の』もいて、ちょっと笑ってしまった。当人は義手義足でもないし、鎧の弟も連れてないようだがな。
なんにしても勇ましい感じの二つ名が多い。やはり戦いに使えそうな魔導師が重宝されるんだろうか。
「俺だったら『冥界の』になるのかな、いやいや『煉獄の』の方が格好良いかな……」
アレコレと想像しながら一人にやつくのだった。
「イチロウ、何ニヤニヤしてるの? 変なこと考えてるんじゃないでしょうね?」
いつの間にか横にいたリサが、微妙な目で俺を見ている。
「違うって!
ほら、こないだ魔導師組合の組合長が来ただろ? あの爺さんがさっき、名簿とか持って来たんだよ。
それでどんな魔導師がいるのかなって見てたんだ」
「へぇ、ちょっと私にも見せて」
リサが名簿をのぞき込む。
「ふ~ん、実力のある人には二つ名が付くのね」
「お前はあれだな、『生活の』になるな。それか『寸胴の』か?」
「何よそれぇ!」
リサが俺の脇腹をつねりあげる。
「ぐぇぇぇ! もげるから! 分かったから!」
「もうっ!」
なんとか許してもらい、手の跡がハッキリ残った脇腹をさする。
「お前、俺に隠れて握力鍛えてるんじゃないのか?」
「何? もう一回やって確認してみる?」
「いやいやいや、もういいです」
気を取り直して、今度は魔術の教本を手に取る。
「ふむふむ……」
魔法の発動には魔素が深く関係しているということは、以前にクロゼルにも教わったことがある。それは基本中の基本らしく、この本にも同様のことが書いてある。魔素の流れを意志の力で操作して、それによって何かしらの力(つまりは魔力)を引き出していると……。
魔術に適性があるかどうかは、その魔素の流れが見えるかどうかで大方判別できる。リサは物心ついたころから見えていたようで、それが普通のことだと思っていたらしい。俺は後天的に見えるようになったが、それは左手の紋様が関係してるのかもしれないな。
あとは、意志の力の強弱。つまりは想像力が強ければ強いほど引き出せる魔力も強くなる。
魔素の流れを速くしたり遅くしたり、流れの方向を変えたり、魔素を圧縮したり、自分が魔素をどう操るかによって発動する現象が変わって来るわけか。
「なるほどなるほど、原理はなんとなく分かった」
しかし、読み進むほどに、だんだんと訳が分からなくなってくる。
後半は不可思議な図形や数式で埋められていて、全く理解不能だ。まるで電気関係の専門書の様だな。
一応魔法陣の仕組みも書かれているが、電子回路の説明みたいでよく分らん。これが理解できれば森の魔法陣のことも分かるかもしれないし、便利な護符などももっと作れるかもしれないが……。
「それにしても、これは難物だぞ」
「う~ん。私も少しは分かるけど、読んでると頭が痛くなるねぇ」
『ふむ……。この本は教本としてはなかなか良い出来じゃな。
少々理論に偏り過ぎてはおるがの……』
クロゼルも魔術の本には興味があるらしく、熱心に読んでいる。
『書いてあることに間違いはない?』
『うむ、ざっと見たところ問題はないようじゃな。
しかしお主も魔導師の端くれであろうが。
この程度で根を上げるとはなさけないのぉ。
ほれ、さっさと頁をめくらぬか』
『ぐは……』
ともかく、それなりに良い物が手に入ったようだが、この知識を活用できるようになるには、まだまだ時間がかかりそうだな。
それからしばらく後。
どうやら魔導師組合は解散の危機を乗り越えたようだ。
魔導師見習いも急増、ソロでやってた魔導師も組合に押しかけていると聞く。その理由についてはすぐに判明した。
組合が森の魔導師の後ろ盾を得た、という噂が巷に飛び交っているのだった。
「あんた、俺のことを組合の勧誘活動に利用したのか?。
まぁ他言無用とは言ってなかったけど、商売上手なことだな」
「ふぉっふぉっふぉ、お互い様じゃよ」
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