異世界ネクロマンサー

珈琲党

文字の大きさ
上 下
60 / 62

60 組合長がやって来た

しおりを挟む

 しょぼくれた爺さんが一人、供も連れずロバを引いて歩いて来た。
 その爺さんは魔導師組合の組合長を名乗っている。
 魔導師組合なんて知らないし、用件も良く分からない。
 とはいえ、見たところ無害そうだし、ちょうど暇だったので会ってみることにした。

 賓客というわけではないので、ゲートと家の中間地点にある卸所へ案内した。
 事務所の机に向かい合って座り、茶を飲みながら話を聞く。

 「……ふ~ん、組合員が減って困ってるということか。
  でも、それは俺たちのせいじゃないよな?」

 「しかし、魔導師たちがこの森の結界にやられたのは事実であるし……」

 「いや、そもそも変な気をおこして調査なんかするのが問題なんだろ? それって覗きだぜ。
  普通に正面玄関から行儀よく訪れていれば、何もなかったはずだよ、たぶん。
  まぁ、師匠は偏屈だったかもしれないが、そこまで無茶なことはしなかった、と思う」

 俺はパウム師匠の後継者だが、直接会って師事していたわけではない。夢の中で何回か会って魔術の教えを受けただけだから、人柄についてはあまり良く知らないのだった。ただ夢の中のパウム師匠は、穏やかで上品な老婦人だった。
 マクド村のゾンビの件もあるから完ぺき聖人とは言えないが、まぁ人間なんてそんなもんだ。虫の居所が悪ければ、穏やかな人物でも怒る時には怒る。

 「……うぬぅ、確かにそうだったかもしれん……。今さらではあるがの」

 「それに、その事故以前から組合員はちょっとずつ減ってたわけだろ?
  そもそも組合のあり方とかに問題があるんじゃないの?」

 「ぅぅぅ……」

 俺の追い打ちに、しょぼくれた爺さんがさらにしょぼくれてしまう。
 何か年寄りをイジメているようで嫌なので、助け船を出してやる。

 「まぁ、過去に何があったにしろ、俺としては魔導師組合と敵対するつもりはないよ。
  森に無断で入ったり、結界を破ろうとするのならともかくね」

 「あの時は王の命令じゃったし、パウム女史を甘く見る魔導師もおったのじゃ。
  さすがに今の組合にはそのような魔導師はおらんし、たとえ王の命令でもお断りするじゃろう。
  この森の恐ろしさは十分身に染みて分かっておるからの」

 「なるほど、分かったよ。
  そちらが何もしないなら、こちらからも何もしないと約束する。
  組合に所属するつもりはないが、金銭的な援助くらいならしても良いしな」

 「おぉ! 左様か。
  実は組合員の数が減って懐が寒うての、組合をたたむかどうか考えておったのじゃ」

 「そうか、じゃぁ運営費用の足りない分は俺が出すから必要な額を言ってくれ。
  その代わりにちょっと欲しいものがあるんだよね」

 「ほほぉ……。金を出してもらえるのはありがたいが、何をお望みかな?」

 爺さんの声がやや低く警戒心を帯びたものになる。

 「いやいや、別に魔術の奥義を見せろとか貴族の弱みを取ってこいとか、そういう無茶なことは言わないよ」

 「では、どの様な?」

 「組合では素質のある人間に魔術を教えてるんだろ? 教本とかあるなら読んでみたいんだ。
  あとはどんな魔導師が所属しているのか、名簿があればそれも欲しいな。
  もちろん悪用するつもりはない。単に興味があるだけだから」
 
 「……ふむ、それなら問題なさそうじゃの。
  ただ、わしの一存では決められんので、持ち帰って検討してもよろしいかな?」

 「もちろんかまわないよ」

 組合長とはいえさすがに即断即決は無理か。でも悪くない反応だ。


 「それでは、わしはこれで失礼する」

 「あぁ、良かったらこれを土産に持って帰ってくれ。
  うちで作ってる酒だ。味は保証するから組合の皆さんでやってくれ」

 「おぉ、これはかたじけない。わしは酒に目がないんじゃ」

 「それは良かった。あ、あとこれも持っておいて。失くさないように」

 俺は用意しておいた木札を取り出す。それは最低限の機能を備えた簡易式のゴーレムだ。
 知らない者には板状の何かにしか見えないだろう。

 「むむ、これは面妖な……。紋様が光っておるぞ」

 「それは入場用の札だよ。
  それを持っていれば、スケルトンたちに止められずにここまで来ることができる。
  出入りの行商人たちにも同じものを渡してあるんだ」

 「ほぉ、このよう様なものがあるのか……。
  それでは組合内で話がつき次第、またお邪魔するとしよう」

 「うん、いい返事を待ってるよ」

 組合長は来た時と同じく、荷物を満載したロバを引いてテクテク歩いて帰って行った。


 『どうだクロゼル、俺もなかなか交渉上手になったと思わないか?』

 『さて、魔導師組合とやらがどれほどのものか分からぬからのぉ。
  大金を払ってゴミを得るという可能性もなくはないぞぇ』

 『まぁ、その辺りは俺のゴーレムである程度探れるから問題ないよ』

 『ふむ、それもそうじゃったの。最悪斬って捨てることもできるしの、フフフ』




 翌日。魔導師組合。

 「よぉ、おはようさん。戻ったぞぃ」

 「あ! 組合長、よくご無事で……。
  アスラさんと迎えに行こうか、迷っていたところだったんですよぉ。
  それで、どうでした? あの森の魔導師ってどんな感じの人ですか?」

 「噂通り話の分かる人物じゃった。思っていたよりもずっと若かったの。
  一応、条件付きではあるが、この傾きかけた組合も持ち直すかもしれん」

 「それは良かったです。
  でも条件付きってなんですか?」

 「かくかくしかじか、ということじゃった」

 「なるほど、分かりました。組合幹部に連絡を取ってみます」

 「うむ、そうしてくれぃ」



 後日行われた幹部会では侃々諤々かんかんがくがくの議論が交わされ、なかなか決着がつかなかった。
 森の魔導師を仲間に引き入れる好機と見る者、組合が乗っ取られるのではないかと不安視する者、対案がないなら受け入れるしかないと諦める者、いろいろな意見が出た。

 「さぁ酒でも飲んで、ちょいと一息いれるかのぉ。
  これはこないだ訪問したときに土産にもらった酒じゃ。
  まぁ皆も一杯どうじゃ」

 「組合長、こんな陽の高いうちから酒ですか……」

 「まぁまぁ、良いから良いから。
  心も体もほぐしてやらんとの、中で詰まってしもぉて、良い考えも出てこんものじゃ」

 幹部たちも決して酒が嫌いではなかったので、なんとなくサジの勢いにおされてしまう。

 「ま、まぁ一杯だけなら、気分転換ということで……」
 「そうですなぁ、少し休憩しますか」

 湯呑になみなみとつがれた酒に口を付けた幹部たちは目を丸くする。

 「これは!」
 「おぉ、なんと芳醇な……」
 「美味い!」
 「味も香りも絶品ですな」
 「むむ! うゴゴゴゴゴゴゴ……、も、もう一杯」

 小一時間もすると、幹部たちは皆出来上がってしまい、イチロウの出した提案がすんなりと通ってしまった。

 「これじゃから、わしは酒が好きなんじゃ、ふぉっふぉっふぉ」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎
ファンタジー
 死後、神様に頼まれて転生したが特にチートな加護も無く、魔王を倒すのに十年掛かった。 英雄の一人ではあったので第二の人生を愉しもうかと思ったが、『狡兎死して走狗煮らる』とも言う。 そこで地方で内政に励む事にして、トロフィー代わりに砂漠の緑化を目標に定めた男の物語である。

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」 見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。 神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。 特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。 突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。 なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。 ・魔物に襲われている女の子との出会い ・勇者との出会い ・魔王との出会い ・他の転生者との出会い ・波長の合う仲間との出会い etc....... チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。 その時クロムは何を想い、何をするのか…… このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎
ファンタジー
 魔族の薬師グランに育てられた聖女の力を持つ人族の少女ホリーは育ての祖父の遺志を継ぎ、苦しむ人々を救う薬師として生きていくことを決意する。懸命に生きる彼女の周囲には、彼女を慕う人が次々と集まってくる。兄のような幼馴染、イケメンな魔族の王子様、さらには異世界から召喚された勇者まで。やがて世界の運命をも左右する陰謀に巻き込まれた彼女は彼らと力を合わせ、世界を守るべく立ち向かうこととなる。果たして彼女の運命やいかに! そして彼女の周囲で繰り広げられる恋の大騒動の行方は……? ※本作は全 181 話、【完結保証】となります ※カバー画像の著作権は DESIGNALIKIE 様にあります

死霊術士が暴れたり建国したりするお話 第1巻

白斎
ファンタジー
 多くの日本人が色々な能力を与えられて異世界に送りこまれ、死霊術士の能力を与えられた主人公が、魔物と戦ったり、冒険者と戦ったり、貴族と戦ったり、聖女と戦ったり、ドラゴンと戦ったり、勇者と戦ったり、魔王と戦ったり、建国したりしながらファンタジー異世界を生き抜いていくお話です。  ライバルは錬金術師です。  ヒロイン登場は遅めです。  少しでも面白いと思ってくださった方は、いいねいただけると嬉しいです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...