異世界ネクロマンサー

珈琲党

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54 量産型ゴーレム

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 大イナゴの来襲から二月が過ぎ、畑の作物もようやく回復してきた。
 そのついでに、野菜の種類も増やしていっている。農業の知識も経験もほとんどないまま問題なくやってこれているのは、リサの実りの魔法があればこそだな。それがなければ最初の冬でお手上げになっていたと思う。
 まぁともかく、トマトやキャベツや玉ねぎ、ニンジンなんかも採れるようになった。これらの野菜は売り物ではなくて、俺たちの食生活を豊かにするためのものだ。だから、量よりも種類を増やすようにしていっている。
 
 商売のほうは、砂糖と酒と陶器の販売だけで十分以上の儲けが出ているので、今では他の売り物はオマケのような扱いになっている。干し肉も乾燥野菜も、家で消費しきれない分を格安で引き取ってもらっている感じだ。そんな物でも街で売りに出せば飛ぶように売れて行くらしい。

 行商人たちは皆明るい顔をしている。会うたびごとに身なりが良くなっているから、しっかり儲けているのは間違いない。自分で荷車をひく者はいなくなり、皆ロバや馬にひかせているのだ。手伝いを雇っている者もいる。
 俺としては、面倒くさいので商売を縮小したいところなんだが、下手なことをすると彼ら全員が路頭に迷ってしまいかねない。そう思うと、両肩がずっしりと重くなるのだった。


「それで、ものは相談なんですが……」

 行商人の一人が話を始めた。彼らの「相談」は要注意だ。
 彼ら一人一人が強力なネゴシエーターなのだ。それも恐ろしくタフな。
 うっかりすると無茶な要求をのまされかねない。

 俺は内心の緊張を気取られないように、気安く答えた。

「相談かぁ。それで?」

「はい。ご存知の通り、西の街は軒並み大イナゴの被害が出ています。
 ヘッセルバッハ伯領だけではなくて、それより西のほうはもっと酷い状況です」

 大イナゴの被害は思っていたよりもずっと大きなものだったらしい。
 確かにあいつらの駆除にはずいぶんと手こずったからな。

「ふぅん、なるほど」

「食えなくなった者たちも多くて、そういう連中が王都へ押し寄せて来てるんです。
 王都だけじゃなくて、その周辺の町にも大勢来てます。
 それで、そういう地域はえてして治安が不安定になりやすくてですね……」

「あぁ、護衛が欲しいってことか。傭兵でも雇えばいいだろ?」

「それが――」

 街中で雇える傭兵は素性の知れない者が多い。
 ハッキリ言って中身はゴロツキと何も変わらないのだった。
 護衛がそのまま野盗と化すことも少なくはない。
 貴族御用達の傭兵団はそれなりに信用できるが、行商人の護衛などは引き受けない。

「ダメだ」

「えぇ!? まだ何も言ってませんが……」

「スケルトンを貸してくれってことだろ? ダメだ!」

「そ、そこをなんとか」

 他の行商人たちも加勢しはじめるが、俺は頑として受け付けなかった。

「あいつらは護衛にはちょっと強力すぎるんだよ。
 軽々しく貸し出せるようなものじゃないの!
 万一暴走したらどうするんだよ。お前たちに止められるのか?」

「うっ、確かにそれは……」

「だから、あのスケルトンたちは無理だが、別な奴なら貸してもいいぞ」

「別な奴ですか?」


 俺は卸所の中に待機させていたそいつを呼び出した。

「……、ますたー」

「「「こ、これは!?」」」



――――――――――――――――――――――――――――――――

 
 十日ほど前のこと。


「おい、ベロニカ。そいつはペットじゃないんだぞ?」

「いいじゃないの。私のなんだから好きにさせてよね」

 ベロニカは俺がやったゴーレムを猫かわいがりしている。
 特注の服を着せて、おもちゃまで与えているのだ。
 ゴーレムを何だと思ってるのだろうか。

「まったく……。見ろ。ああやって使うものなんだよ」

 リサの周りではゴーレムがちょこまかと動き回っている。
 こないだ試作したゴーレムは身長が五十センチほどしかない。
 たぶん大きく作ればスケルトンと同じ仕事ができるだろうが、とりあえずはこれで様子を見ているのだった。

 このゴーレムは上背がないので出来ないこともあるが、それなりに利点もあった。
 魔素の消費量が汎用スケルトンよりも少ないし、動きも素早くてスムーズなのだった。
 彼らの動きは小動物的なかわいらしさがあるから、ベロニカの気持ちも少しは分かる。
 ベロニカと違ってリサは、ゴーレムをスケルトンたちと同様にしっかり使ったので、結構早くにクラスチェンジできる状態になった。

「リサ、そいつクラスチェンジできるみたいだけど、どうする?」

「う~ん。どんなのにできるの?」

「ハイプリーストかアークメイジかのどちらかだな」

「なにそれ!?」

 最初俺もそう思ったのだが、涼しい顔で説明してやる。
 成長の仕方がスケルトンたちとは違うのかもしれない。
 このゴーレムが特別なのかどうかは不明。

「ハイプリーストはプリーストの上位種らしい。
 『完全回復』と『絶対防御』の魔法が使える。
 アークメイジはメイジの上位種っぽい。
 『崩壊』と『雷』の魔法が使える」

「えぇぇ……。なんかスゴイね。
 でもお手伝いをしてもらいたいから、今のままで良いよ」

「そうか」

 そんなリサは黙々とゴーレムのコピーを作っていた。
 量産しやすいようにデザインを最初のものよりも簡略化してある。
 木の型枠で各部品をポコポコ作っておいて、紋様は後で手で彫っているようだ。

 リサのゴーレム、チャッキーは型抜き作業を手伝っている。
 形が崩れないように、慎重に成形された粘土を型から抜いている。
 微妙な作業なのに陶器の指先で器用にこなすのだった。

「そいつらはお前の弟だからな。頼むぞ」



――――――――――――――――――――――――――――――――


 ということで、俺たちは陶器のゴーレムを量産していたのだった。

 今、行商人たちにお披露目しているのは、十体作ったうちの一体だ。
 護衛用ということで、ハイプリーストにクラスチェンジさせている。

 予想外のものの登場に、行商人たちの目は点になっていた。
 仰天しているのか、呆れているのか。

「し、しかし、それは人形では?
 失礼ながら、それに護衛ができるのですか?」

「まぁ、見てろって。
 コイツの周りに皆集まってくれるか」

 行商人たちがゴーレムの周りに集まって、物珍しそうに観察している。

「それじゃぁいくぞ。アルファ、俺たちを守れ!」

「カシコマリマシタ、ますたー」

 ブウンっと低い音がして、俺たちの周りに半透明のドーム状の膜が出現した。
 この膜は地面の中にも出来ていて、実際はドーム状ではなく球状なのだ。
 それはともかく、俺たち全員は絶対防御のバリアーの中に入った。

 俺はそこらにいるスナイパーとウィザードに命じて、俺たちを攻撃させる。

「この膜から外へは出るなよ。死ぬぞ」

「「「は、はい……」」」

 さまざまな攻撃が絶対防御のバリアーに弾かれて、硬質な音を立てた。

 ギィィン、ガガガァン、ゴゴゴォン、キキキン……。

「「「ヒィィィィ!」」」

「こんな機会はあんまりないから、よく見といたほうがいいぞ」

 俺は身を縮ませて目をつぶる行商人たちに声をかける。
 攻撃を受ける側に立ってみると、スケルトンたちの攻撃のすさまじさが良く分かる。
 バリアーの向こう側は極彩色の物凄い光景だ。こんなのは俺も初めて見た。

「ざっとこんな感じだ。
 これだけの攻撃を受け続けても、びくともしないだろ?」

「な、なるほど。これなら安心ですなぁ」

「それから、これは移動中でも使えるんだ。お前たちも付いて来いよ」

 俺はゴーレムを抱えて歩き出す。
 スケルトンたちの攻撃が降り注ぐ中を俺は悠然と歩く。
 腰が抜けそうな行商人たちも、へっぴり腰でなんとか付いて来た。

「こんな感じだ。
 野盗に囲まれても、関係なく押し通ることが出来るからな」

「す、凄いですなぁ。これは確かにスゴイ」

 スケルトンたちに攻撃するのをやめさせて、ゴーレムにバリアーを解除させる。

「というわけだ。コイツなら貸し出すことはできるが――」

「「借ります!」」

 幾人かの行商人が、食い気味に声を上げる。

「でも、高いぞ? 月に銀貨二十枚だ。値引きはしないからな」

 銀貨二十枚は高すぎるかもしれないと思った。
 それだけあれば大人二人は十分に雇えるのだから。
 しかし、先に声を上げた行商人は躊躇なく財布を取り出した。
 こいつらどれだけ儲けているのか。

 幾人かは眉間にしわを作って、ひどく悩んだ。
 苦しそうに呻吟したあと、苦渋の決断というように板ゴーレムを返してきた。
 紋様を掲げるのをあきらめて、代わりに実を取ったわけだな。
 日割り計算をして、残りの日数分を割り引いてやることにした。

 残った幾人かは、悲しそうに首を振ってゴーレムを雇うことをあきらめた。
 運を天に任せて今のまま行くらしい。
 まぁ俺の紋様だけでも知ってる奴には効くからな。

 俺はゴーレムの説明をする。

「こいつらは特に世話は要らない。食事も休息も睡眠も要らないんだ。
 ただ、このゴーレムは、あくまでも護衛専用に貸し出しをする。
 それ以外の雑用などは一切しないし、させようとするんじゃないぞ。
 万一悪用した場合は、その時点で全ての取引を打ち切る」

 行商人たちは神妙な顔をしてゴーレムを受け取った。



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