異世界ネクロマンサー

珈琲党

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53 ゴーレムが増えた

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 陶器作りは以前ほど頻繁ではないが、細々と続けている。
 家で使う食器などを作るついでに、売り物の皿や壺などを少量ずつ作っているのだ。
 もともと陶器作りは俺が始めたことだが、今となっては焼き工程以外はリサが取り仕切るようになった。俺は陶器の便器ができた時点で満足だったが、工作好きなリサは食器だけでは飽き足らず、陶器の置物なんかも作るようになった。
 新しい釉薬を試したり研究に余念がないのだった。

「ほぉ、これは馬か。スケルトンたちも作ったのか、上手いもんだなぁ」

「エヘヘ、もっと褒めて良いよ?」

「ふぅん……うん? これはなんだ?」

 細かい紋様がびっしりと刻まれた、陶器製の何かが、ひとまとめにされている。

「それは、これから組み立てるところよ。ちょっと待ってて」

 その陶器製の何かにはそれぞれ小さな穴が開けられていて、リサはその穴に細い麻糸を通して組み上げていった。ビーズ細工でも作るような感じだ。
 リサの手際を感心しながら見ていると、すぐに形になった。

「へぇ、操り人形か?」

 それは五十センチくらいの大きさの、精巧な人形だった。
 関節部分は麻糸でつながれていて、自由に曲げ伸ばしできるようになっている。
 胸の部分には俺の左手の紋様があしらわれていて、他の部分にも細かい紋様がびっしりと刻まれている。それは魔法陣の紋様に似ていた。

「どう? スゴイでしょ」

「これって、ひょっとしてあれか?」

「そうよ、ちょっと試してみて」

「よぉし! やってみるか」

 俺は精神を集中して偽りの魂を作り上げる。そいつをグッと人形に押し込むと、スケルトンと同じくらいの容易さでカチリと魂が定着した。

「おぉ! この感触は……」

 ほどなく、人形の胸の紋様がぼぉっと青白く発光しはじた。
 周囲の魔素が胸に吸い込まれてゆき、各部に刻まれた紋様を流れるのが見える。
 胸の紋様が心臓で、各部の紋様が血管のような働きをしているのだ。
 やがて人形が立ち上がって、俺の方を向く。

『……ますたー』

「リサ、お前スゴイな! これは成功かもしれんぞ。良く思いついたな」

「スケルトンたちを見てたら気がついたの。
 魔素が胸の核に入って、それから体のあちこちに流れて行ってるでしょ?
 でも、前にイチロウが作ったゴーレムはそうじゃなかった」

 そうだった。以前のゴーレムには血管の代わりをするものがなかったのだ。
 だから魔素の流れが悪くて、無駄にエネルギーを消費していたのか……。
 あの時の実験で爆発したのも、なんとなく理由が分かった。
 フタをした管に無理やり圧をかけたようなものだな。
 圧の逃げ場がなくなって破裂したというわけだ。

 人骨は元々魔素が流れやすいから、スケルトンには魔法的な紋様などは必要なかったわけか。分かってしまえば簡単な理屈だが、思いつかなかった……。

「偉いぞ! リサは魔導師の鏡だな」

「エヘヘ……。もっと褒めて良いよ?」


『ばか者。お主はネクロマンサーであろうが。
 生活魔法の魔導師に専門分野で負けてどうするのじゃ』

『そうは言うけどさぁ……。
 俺ってぜんぜん一人前のネクロマンサーじゃないんだよなぁ。
 知らないことだらけだよ』

『当たり前じゃろうが。言い訳をする暇があったら日々勉強じゃ』


「そのゴーレムはリサが作ったようなものだから、お前専用にすればいいよ」

「やったー! ありがとうイチロウ。名前つけて良い?」

「あぁ、好きにしろ」

「じゃあ、チャッキー!」

「お、おぉ、分かった」

 とある映画が頭に浮かんで少し考えてしまったが、まぁ大丈夫だろう。
 コイツの魂は俺が作ったものなんだからな。

 術者:イチロウ・トオヤマ
 名前:チャッキー
 種類:陶器のゴーレム
 用途:汎用
 状態:良好
 熟練:小
 特記:なし

 ステータスからすると、コイツはスケルトンと同じようにクラスチェンジできそうだな。
 ちなみに、板ゴーレムやペンダント型のゴーレムのステータスはこんなかんじ。

 術者:イチロウ・トオヤマ
 名前:なし
 種類:偽りの魂
 用途:=’’)&#&%’%
 状態:&%’%&(’$#
 熟練:%&(’$#)()=
 特記:=)(’%&%$(’&

 想定外の使い方をしてるせいか、盛大に文字化けしているのだった。
 種類がゴーレムではなく、偽りの魂となっているのが面白い。
 今のところ問題なく使えてはいるが、今後どうなるかはわからん。

「よし。名前も付けたし、お前の命令も聞くようにしたぞ」

「わぁ、ありがとう!」

 リサはさっそくゴーレムにあれこれと作業を教えている。
 人形並みの体格だから、他のスケルトンと同じ作業は無理だろうが、作業の補助的なことぐらいはできるかな。俺としてはどんな感じにクラスチェンジして行くのか知りたいところだが。


「コイツの原料は粘土だから、木か何かで型さえ作れば、ポコポコ量産できるな」

「そうだね、面白いかも!」

「でも量産するのは、コイツが使い物になるかどうかを確認してからだぞ」

「そうねぇ……」

「まぁともかく、作業も一段落したし、昼飯にしようぜ」

「うん!」


 昼飯は俺が作ることにした。
 作るのが簡単で、はやく出来て、美味いもの。やはり粉ものが楽だな。

 小麦粉をだし汁で溶く。だし汁は干しシイタケと干し肉からとったものをストックしてある。
 それにその辺にある野菜を細かく刻んで混ぜ込む。
 さらにイノシシのベーコンや天かすも投入。
 そいつをフライパンで焼き上げて、リサお手製の万能ソースで味付け。
 マヨネーズやかつお節粉がないのは残念だが、ないものねだりをしても仕方ない。

「わぁ! ナニコレ?」

「お好み焼きだ。冷めないうちに食おうぜ」

「ハフハフ……、おいひぃ!」
 
「適当に作ったけど、意外といけるなぁ」

 お好み焼きの匂いにつられたのか、ベロニカがのっそりと起きた。

「ベロニカおはよう!」

「なんだ、今日はずいぶんと早いじゃないか?」

「ちょっと、私にもよこしなさいよ」

「ああ、お好み焼きか。ほれ」

「熱っ! フゥフゥ、ハフハフ……。
 むぐむぐ、なかなかいけるわね。リサ、お酒ちょうだい」

「はいどうぞ」

「まったく、昼間から酒かよ……」

「良いじゃないの、グビリ。うん! これお酒に合うわね……。
 えぇ!? ちょっと! そのちっこいのは何なの?」

「チャッキーよ! いいでしょ?」

「俺とリサが共同で作ったゴーレムだよ」

「また前みたいに爆発するんじゃないでしょうね?」

「しないよ! 今回は魔石も使ってないしな」

「ふぅん……。で、私のは?」

「はぁ? ないよ。お前にはニンジャを付けてるんだし、別にいらんだろ?」

「いるに決まってるでしょ! ないならまた作りなさいよ!」

「えぇぇ……。すまんリサ、また作ってもらえるか?」

「うん、わかった!」


 ということで、ゴーレムがもう一体増えた。
 名前はベロニカによってピノッキオと命名されたのだった。



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