異世界ネクロマンサー

珈琲党

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50 灯りの護符

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 ベロニカをさらったバンパイアハンターたちは、邪眼除けの護符を身につけていた。
 その護符によってベロニカの催眠攻撃を防いでいたらしい。
 俺は連中から護符を取り上げて、後々のために調べてみることにした。


「この護符の模様は森の魔法陣とよく似てるな」

「うん、これは結界の魔法陣だと思う」

「護符を身につけることで、自分のまわりに小さい結界をはれるってことかな?」

「たぶんね」

『クロゼルは何か知ってるか?』

『ふむ。結界といっても、その護符では完全な結界は出来ぬな。
 せいぜいが、魔法的な攻撃を少しそらす程度のものじゃ』

『それでもベロニカの催眠攻撃ぐらいは防げるわけか。
 こういうものは他にもあるのか?』

『そんなもの、魔導師ならいくらでも、必要に応じて作ることができるじゃろ。
 つまり魔導師の数だけ、それこそ無数にあると考えられる。
 お主もいろいろと作っておるではないか』

『そうか! そういえばそうだった』

 俺の作る板ゴーレムも、一種の護符といえるからな。
 俺はネクロマンサーの知識を応用して、板状のゴーレムを作った。
 他の魔導師だって、それぞれが持つ知識を応用して、いろいろと自分なりの道具を作っているはずだ。依頼されて作ることもあるだろうし。


「リサも同じようなものを作れるのか?」

「やったことはないけど、たぶん作れると思う」

「ためしにちょっと作ってみてくれ」

「面白そう!」

 リサは適当な木片に何か魔法陣を彫り込む。
 俺には魔法陣の知識がほとんどないので、それが何なのかはよく分からない。
 パウム師匠は、俺にはネクロマンサーの知識だけを授け、リサには生活魔法とこまごまとした魔法の知識を授けた。役割分担させるためなのか、適正によって振り分けたのか、意図は良く分からない。
 俺のネクロマンサーの知識だって、まだ完全とは言えない。分からないことや知らないことが次々とでてくるのだ。必要なことは自分で勉強しろってことだろうか。

 リサが出来上がった木片にグッと力を込めた。
 今の俺の目には、周囲の魔素が凝縮されて流し込まれているのが見える。この流し込まれた魔素が呼び水になって、魔法陣が作動し始めるわけだな。
 ほどなくして、魔法陣がぼうっと光を放つ、そして木片自体がさらに強い光を放った。

「おぉ! これは?」

「灯りの魔法を込めてみたの」

「リサ、なかなかやるじゃないか!」

「エヘヘ、もっと褒めていいよ」

 リサの作った木片は、周囲の魔素を取り込んで光を放ちつづけている。
 その木片――灯りの護符とでもいえばいいのかな。護符というと、ちょっと意味合い違う気がするが、他に良い言葉が見つからない。ともかく、灯りの護符はその仕組みからすると、半永久的に作用するものらしい。
 元の世界にあった、太陽電池内蔵の常夜灯みたいなものだろうか。
 この世界には、こういった光源はないはずだ。少なくとも俺が知る範囲では。
 なにしろ夜間の灯りとしては、いまだにロウソクや油のランプが主流なんだから。
 庶民にいたっては、そんな高価な灯りは使わない。暗くなったら眠るのだから。

「これをいくつも作って、工場こうばや便所の天井に吊るしておけば……」

「それ、いいかも!」

 リサが喜び勇んで灯りの護符を量産した。
 灯りの護符は敷地のあちこちに吊るされ、夜中でも不安なく便所に行けるような環境になった。ガザ街道からの小道やゲート周辺、卸所などもいつも明るく照らされるようになった。出入りの行商人たちも喜ぶに違いない。
 ふとしたきっかけで、俺たちの生活がグッと快適になったのだった。

「これこそ魔法の正しい使い方だな」

「でも他の魔法は上手く行かなかったね」

 リサの使える他の生活魔法は、対象に直接かけないと作用しないらしく、護符に込めても上手く使うことが出来なかった。洗濯、実り、温め、修復、乾燥、着火、確かに護符にするには相性が悪い感じがする。
 ビショップの防御魔法なんかが良さそうなんだが、残念ながらリサはそれを護符にすることができない。自分が使える魔法でないとダメなのだ。

「そうそうなんでも上手く行くわけないからな。
 たくさんの失敗の末に、やっと一つ成功するぐらいが普通だよ。
 俺だって人型のゴーレムは失敗続きなんだから。
 この灯りだけでも十分すごいことだ。まさにエジソン並だぜ」

「えじそん?」

「あぁ、俺の国で有名な偉人だよ」

「へぇ、そうなんだ。エヘヘ……」



 俺たちが晩飯を食ってると、ベロニカがのっそり起きて来た。

「あら? なんだか家の中が昼間みたいに明るいわね……」

「あぁ、リサが作ったその灯りの護符のおかげだよ。
 ハンターが持ってた邪眼除けの護符からヒントをもらったんだ。
 つまりは、お前のへまが結果として役に立ったってことになるな」

「へまって何よ!」

「へまじゃなかったら何なんだ? お前、危うく狩られるところだったんだぞ」

「もう! やめなさいよ。ベロニカ、ご飯できてるから食べて」

「ふん、私だってたまには失敗くらいするわよ……。
 むぐむぐ……、これ美味しいわね」

「でしょ? 鹿肉のカツよ。ソースは――」

 なんだかんだと仲の良い二人は、おしゃべりに花を咲かせるのだった。


「ところで、ベロニカ。吸血鬼も夢を見るのか?」

「なによ、やぶからぼうに」

「こないだ、意識をつないだ時に、ちょっと妙な感触があったからさ」

「眠ってるときは夢なんか見ないわよ」

『吸血鬼は意識がないときは、死人と同じなのじゃ』

『やっぱりそういうことだったか』

 あの時の感触は、スケルトンやゾンビにつながった時と同じものだった。
 眠っているときは、心がどこかへ抜けて、もぬけの殻ということだろうか。

「なるほどなぁ……」

「何がなるほどよ」

「いや何でもない。もういいから、酒でも飲んでろ」

「言われなくても頂くわよ。んごごごごご……。ぷはぁ」






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