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49 ベロニカ救出
しおりを挟むある日の夜。
俺は寝床でうつらうつらしていた。
「んあ!?」
「どうしたの? イチロウ」
「ベロニカから何か緊急の連絡だ。……でも切れてしまった」
ベロニカは情報集めのために、時々夜に街へ出かけている。
実際は情報集めというよりも、吸血が目的だったりするのだが……。
酒で代用がきくとはいえ、やはりまったく吸血しないと精神に異常をきたすらしいので、条件付きで俺は黙認しているのだった。
・善良な婦女子を対象にしないこと。
・後片付けを怠らないこと。
・問題が起きたらすぐに連絡すること。
あまり細かく言っても、守らないだろうし、覚えないだろうから条件はこれだけ。
できれば、独り身のゴロツキを狙うようには言ってある。
ベロニカから連絡が来たということは、何か問題があったな。
「えぇ!? 大丈夫なの?」
「ちょっと調べてみるから」
俺はベロニカにつながる。
要領はスケルトンたちと同じだが、ベロニカには心があるので、俺がつながるとベロニカ本人にバレることが多い。ベロニカが嫌がるので、普段はなるべくやらないが、今回は非常事態なので仕方がない。
しかし、妙だ。本人の意識がない。眠っているのか?
ベロニカの体を動かそうとしてみるが動かない。
感触からすると手足を縛られているようだ。
マズイ状況かもしれない……。
俺はベロニカの記憶をたどってみる。
「なぁるほど。捕まってるっぽいぞ、これは」
「だ、誰に!?」
「バンパイアハンターのチームだな」
「えぇ! 早く助けてあげて!」
ベロニカと仲が良いリサがあわてる。
「大丈夫、わかってるって」
位置は把握した。街はずれの廃屋か。そんなに遠くはないな。
それで、時間のほうはまだ十分にありそうだ。
幸いというべきか、なんというべきか。ベロニカを捕えた連中は女好きらしく、ベロニカは見た目だけは非常に良いからなぁ。
すぐにベロニカを退治してしまおう、という雰囲気ではないな。
俺はスケルトン・ニンジャ三体を現地に向かわせる。
ニンジャの疾走は馬よりもはるかに速く、多少の不整地などものともしない。
到着までにそう時間はかからないはずだ。
「ニンジャを現地に向かわせてるから、大丈夫だよ」
心配そうにしているリサに声をかけてやる。
俺はベロニカの記憶をさらにさかのぼってみる。
ベロニカは酒場で適当な男を見つけて、連れ込み宿に入った。
ここまではいつもの通りだったが、今回は男のほうが一枚上手だった。
男はバンパイアハンターでベロニカの正体を、とっくに見抜いていたのだ。
酒場で盛られた薬でフラフラになったところを、そのままさらわれたらしい。
男は邪眼除けの護符を身につけており、ベロニカの催眠も効かなかったようだ。
アジトにベロニカを運び入れた男は、チームの仲間を呼び寄せて、一晩じっくりと楽しもうというわけだ。
『それにしても、うかつだったなぁ。
バンパイアが普通にいるってことは、それを狩る専門家もいるってことだ。
護衛を付けてやるべきだったかもしれん』
『フフフ……、あやつ自身も、吸血鬼として経験が浅いのかも知れぬな』
『かけだしの吸血鬼ってことか? まぁ、へっぽこなのは知ってたけど……。
うぇ! 男がニタニタ笑いながら近づいてきた! やべぇから、ちょっと離れよう』
俺はベロニカとのつながりを切って、ニンジャに意識を移す。
ベロニカとつながったままだと、下手すると俺も一緒にヤられてしまうからなぁ。
どういう感触か興味なくもないが……。やっぱり気持ち悪いからやめておこう。
さてさて、間に合えばいいんだけど。
ニンジャは音もなく目的の廃屋に忍び込んだ。
どうやら、敵は三人。こちらと同数だが、実力はまだ分からない。
普通のゴロツキや山賊まがいとは違うだろう。相手もプロだからなぁ。
ニンジャ二体を一階に残し、地下には一体だけで向かわせる。
地下に降りると、男がこちらに背を向けてベロニカの服を脱がせているのが見えた。
残りの二人は奥の方にいて、ニヤニヤ笑いながらベロニカの裸を見ている。
ニンジャは背を向けている男にそっと近づき、死なない程度の手刀を振り下ろす。
男の体が硬直し、どすんと横に倒れた。せいぜい良い夢をみろよ。
奥にいた二人は、不意に現れたスケルトンに仰天している。
「な、なんだ!」
「うぉ! 誰だテメェ!」
うろたえながらも、二人はばっと立ち上がり、武器を構えた。
『俺はマクドーマンの森の魔導師だ。
そのバンパイアは俺のしもべなんだ。悪いが返してもらうぞ』
「はぁ? なに寝ぼけたことを!」
「スケルトンがふざけるなよ!」
どうやらこの連中は余所者らしいな。
「これでも食らえ!」
男の一人が鎖の鞭をふるってきた。先端に分銅が付いていて破壊力がありそうだ。
顔面に迫るそれをニンジャは危なげなくかわして、男の懐に飛び込む。
男はバックステップで距離をとろうとするが、ニンジャのほうが圧倒的に速い。
驚いて目を見開いている男のみぞおちに、拳を一発叩き込んだ。
ドスッ。
「うぐ!」
鞭の男は白目をむいて、床にうつぶせに倒れた。
ニンジャは最後に残った男に向き直る。
『もう一回言う。そのバンパイアは俺のしもべなんだ。返してもらう。
下手な抵抗は、健康に悪いぞ』
男は手に持っていた短剣を床に捨てて、両手を上げた。
上にいた二体のニンジャが降りてくると、男の額に脂汗が浮き出す。
『これ以上危害を加えるつもりはないから、心配するな。
ちなみに、お前たちは他所から来たのか?』
「……そうだ」
『なるほど。
悪いがバンパイア狩りはよそでやってくれ。
そうそう、それから、お前たちの護符をよこすんだ――』
「もう! 遅いじゃないの!」
無事に家に帰ってきたベロニカが文句を言う。
「え? ちゃんと間に合ったじゃないか」
「服も破かれたし、奴らに裸も見られたのよ!」
「それは、お前がうかつだからだろうが。
相手がバンパイアハンターってことも見抜けなかったわけだから。
薬を盛られたのも気づかなかったんだろ?
お前、何百年吸血鬼やってるんだよ」
「ぬぅ……」
「服くらいまた買ってやるし、裸くらいなんだよ」
「『裸くらい』って、なによ! バカじゃないの?」
「……久しぶりに裸踊りを踊りたいようだな」
「ちょっと、イチロウ! やめなさいよ。
ベロニカはさらわれて怖い思いをしたんだから」
「まったく……。じゃぁ、ベロニカには護衛のニンジャをつけてやるよ。
外へ出るときは、連れて行くんだぞ」
「……」
「返事は? ……口がきけないのなら、体に聞くしかないか……」
「わ、わかったわよ! わかりましたぁ!」
「よろしい。以後気を付けるように」
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