異世界ネクロマンサー

珈琲党

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48 実験失敗

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 木の板などに偽りの魂を定着させるタイプの、簡易型のゴーレムは実用化できている。
 行商人たちをスパイしたり、盗まれた荷車の行方を追ったり、スマホ代わりの連絡手段にしたり、普段から便利に使っているのだった。簡易型のゴーレムはスケルトンたちと同様に、空気中の魔素をエネルギー源として半永久的に活動できる優れものだ。
 
 しかし、いわゆる普通の人型のゴーレムは上手く出来ないままだった。
 泥人形のゴーレムは、その形を保つためだけに魔素を大量に消費してしまうのだ。
 動かすとなると周囲の魔素では全然まかなえず、魔素の枯渇ですぐに動きをとめてしまう。現状では全く使い道がなく、まだまだ研究の余地があるのだった。


 泥人形がだめなら、木偶でく人形ではどうかと試したこともある。
 泥人形に比べるとずっと楽に動かすことはできた、魔素の消費も抑えられている。
 しかし、スケルトンやゾンビに比べると、それでも全然魔素の消費が多いのだった。

 それに性能面でも負けている。
 作りたての汎用スケルトンよりも動きがぎこちないし力もない。
 これなら、ある程度の製造コストがかかるとはいえ、スケルトンの方が良い。


「むぅん、やっぱり人型ゴーレムは無理なのかな……」

「魔素が足りないんだったら、あれを使ってみたら?」

 リサがこないだ手に入れた魔石を持って来た。

「あぁそうか! これを忘れてたな。でもどうやって使うんだ、これ?」

『握って力を込めるのじゃ』

『そうか、ありがとう』

 俺は魔石の一つを手に取って、グッと力を込めた。
 ちょうどスケルトンたちに魂を入れるような感じだ。

「ふぬぬ……」

 赤く透き通ったルビーのような魔石の中心部に、ぼうっと光が灯る。
 初めはうっすらとしたものだったが、力を込めるごとに強くなって行く。

「わぁ! 綺麗!」

 しばらく力を込めていると、もう一杯というのが感覚的に伝わって来た。

「なるほど、これで魔素が一杯になったってことだな。
 リサもできるんじゃないか? 試しにやってみろ」

「わかった! ふんぬ……」

 やはり魔導師であるリサにも魔石が使えるようだ。
 ほどなくして魔石が光り輝き、魔素が一杯になった。

「やったー!」

 なんとなく俺たちの様子を見ていたベロニカも挑戦してみるが、出来なかった。

「ぐぬぅ……。なんでダメなのよ!」

「へっぽこだからじゃないのか? というかお前は魔導師じゃないじゃん」

「私は催眠の魔法が使えるのよ! だから魔導師なの!」

「いやいや、お前のは吸血鬼の特殊技能的なものだろ?」

「くぅぅぅ。まぁ良いわ。とりあえず私のも充填して頂戴」

 こないだやった魔石を、俺に放ってよこす。
 魔素を充填してやったところで、ベロニカには使えないから意味はない。
 単純に光り輝く魔石が欲しくなったとか、そんなところだろう。

「ほらよ。失くすなよ」

「子供じゃないんだから、失くさないわよ!」

 ベロニカはキラキラと発光している魔石をしばらく眺めてから、大事そうに懐にしまう。


「じゃあ、さっそく試してみるか」

 俺は木偶ゴーレムの額に穴を掘って、充填した魔石をはめ込んでやる。
 そのとたん、木偶ゴーレムがガクガクと振動し始めた。
 同時にキュィィィィィンという甲高い音とともに、魔石から木偶ゴーレムに向かって魔素が流れ込んでいくのが見えた。木偶ゴーレムの額が赤く発光し始める。そして、胸の紋様がまばゆく輝く。

 キィィィィィン!

 耳鳴りがして頭が痛い。
 リサも顔をしかめている。
 何か嫌な予感がするぞ。

 俺はビショップに木偶ゴーレムの周りにバリヤーをはらせた。
 その直後。

 ズドム!

 腹に響く衝撃音がして、木偶ゴーレムが木端微塵になった。
 そしてビショップのバリアーにヒビが入って砕け散る。

「ゲゲッ!」

「きゃぁ!」

「な! なによ!」

 危なかった。
 ビショップのバリアーがなければ、みんなで仲良く昇天してたかもしれん。

『これって』

『魔石に込めた魔素が一気に流出してしまったのじゃな。
 木偶ゴーレムがそれを受け止めそこねて爆発、ということじゃろう。
 それにしても、運が良かったのぉ。フフフ……』

『まったく、笑いごとじゃないよ……』

 どういうことだろう。
 魔石はバッテリーのようなものなのは確かだ。
 電気の代わりに魔素を充填することができる。

 とすると、さっきの爆発はバッテリ―の端子をショートさせたようなものなのだろうか。
 火花どころではなかったわけだが、原理はたぶん同じだと思う。
 つまり、魔石を扱うには相応の電気回路が必要になるのだろう。

『ふむ。そういえば、古(いにしえ)の魔導師たちは特殊な魔道具を使うなり、
 特殊な魔法陣を描くなりして、慎重に扱っておったのぉ』

『それを先に言ってくれよぉ! 
 なんにしても、良く分からないまま使うのは危険ってことだよな。
 あぁ、だから師匠は教えてくれなかったのか』

『そうかも知れぬな……』


「魔石のことをもっと調べないとダメだ。俺たちが使うにはまだ早いってことだ」

「そうねぇ。じゃあ、これどうする?」

「家の中に爆弾の原料を置いておくわけにはいかないからな。
 当面は、どこかに埋めておくしかないなぁ。
 おい、ベロニカ。お前のもよこすんだ」

「ぐぬぬ……」

「木偶ゴーレムみたいに木っ端微塵になっても知らんぞ」

「わかったわよ!」

 ベロニカは体のあちこちから魔石を取り出した。
 一つしかやってないのに、なぜか五個もある。

「お前! いつのまに……」

「いいじゃない、これくらい。ケチねぇ!」

「たいがいにしとかないと、丸裸にしていろんな穴を調べるぞ、テメェ!
 ひさびさに、ええもん見せてもらおうやないか……」

 俺は顔を歪ませてニヘラと笑う。

「ヒィィィ……」

「もう、イチロウ!」

「わかったわかった。これで全部だな?
 とりあえず、裏庭に穴を掘って埋めておくからな」


 スケルトンに深い穴を掘らせて、魔石を放り込み土で蓋をした。
 目印に大きな石を置いてほっと一息つく。

 なんとなく魔石単体で爆発することはないと思うが、それでも気にはなる。
 なにしろビショップのバリアーを破壊するほどの爆発力なのだから。

 おそらく、魔術的な何かと魔石を組み合わせることで作用するのだろう。
 今回は木偶ゴーレムだったが、作りが悪かったということだろうな。
 


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