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47 売り物が増えた
しおりを挟む先日の強盗の件は、すぐに他の行商人たちにも知れ渡っていた。
そして、俺が貸し出している板ゴーレムの評価が、さらに一段と上がったのだった。
たんなるお守りではなく、一種の保険として機能することが証明されたからだ。
「たまたま現場が近かったから、首尾よく取り戻せただけだからな。
無理な場合もあるから、そこは注意してくれよ」
俺はそう念を押したが、何の保証もないよりはずっと安心なのは間違いない。
複数枚欲しがる行商人もいたが、俺は頑として応じなかった。
「ダメ。あれは一人一枚と決めているんだ。
あんまりしつこいと、今貸してる分を無効にするぞ!」
こうキッパリ断れば、タフな行商人も諦めざるをえないのだった。
俺としては、今後も板ゴーレムの貸し出しを増やすつもりは全然ない。
数が増えると管理が面倒だし、トラブル対応も増えるだろうし。
将来的に、悪用する奴も出てくるかもしれないしな。
「では、あの器の件なんですが……」
「わかってるって」
陶器の器を俺たちが作っていることは、秘密にしておこうと考えていた。
行商人がそれを知ったら、間違いなくしつこく売ってくれとせがまれるだろうから。
それが、こないだ俺の凡ミスでバレてしまったのだ。
一人にバレると、横のつながりですぐに知れ渡ってしまった。
そして当然のごとく、俺が懸念していたような展開になっているわけだ。
最初は、「外国からほんの少し輸入したものだ」とか適当な嘘でかわそうとした。
しかし、行商人の追及は微に入り細に入り、非常にしつこかった。結局、俺たちが作っていることを白状させられた上に、販売の約束までさせられたのだった。
「今回は見せるだけだぞ。数はあまり作れないからな」
俺は行商人たちの前に、出来合いのコップや皿などを並べる。
「「「おぉぉ!」」」
やはり、この世界では陶器の器が珍しいのか、しきりに感心している。
庶民には木の器が主流で、焼き物の甕(かめ)などは非常に高価なのだ。
その焼き物の器も、信楽焼のような表面がざらついたものしかない。
素焼きの土器よりはマシ程度のものしかないのだった。
「これは、見事なものですなぁ……」
「なんと艶やかなこと」
「色といい形といい、逸品ですな」
行商人たちは、口々に賞賛の言葉を並べて、ため息をもらす。
リサの作る陶器の器は、確かに俺の目から見ても良い出来だ。
ちょっとした工芸品というか、なんというか面白味があるのだ。
俺としては画一的な、白一色の陶器を作りたかったが、それはまだできないでいる。
だからトイレの便器も、実に味のある逸品になっている。
「それで、値はいかほどに?」
「皿一枚で銀貨百枚」
銀貨百枚というのは、元の世界の価値でいえば百万円だ。
ちなみに銀貨百枚で金貨一枚。しかし、金貨は一般には流通していない。高額過ぎて使いづらいからだ。
リサは陶器販売をやりたがったが、俺としては面倒なので売りたくない。
今のままでも十分儲かっているから、これ以上仕事は増やしたくなかった。
だから法外な値段を付けて、行商人たちをしらけさせる手に出てみたのだ。
皿一枚に百万円はさすがに無理だろうと。
しかし……。
「ほぉ、なかなか良い線かもしれませんなぁ」
「……なるほど、確かにそれくらいでもおかしくはない……」
「いやいや、ちょっと安すぎやしませんか?」
俺は無茶苦茶な値段だと考えたのだが、行商人たちには現実的な額だったらしい。
「それは、卸値ということで?」
「あ、う……、そうだ」
連中、買う気でいやがる……。
想定外の展開に俺は慌てたが、値段を出してしまった以上もうどうしようもない。
その後、侃々諤々の話し合いの結果、皿以外の陶器の値段の目安が決まった。
もうそれだけで俺はヘトヘトになってしまった。
彼らは、陶器の器を実用品というよりも芸術品として見ているようだ。
いろいろな商品を扱うだけあって、彼らはそれなりに目が利くのだった。
この世界の基準で言えば、確かにあの陶器は一級の美術品かもしれない。
売り先は貴族や豪商人を考えているらしい。
まぁそれなら、数も出ないだろうし、陶器作りに忙殺されることもないだろう。
「一応念を押しておくが、他の商人たちには出どころは言わないこと」
「「「もちろんです!」」」
まぁ、言うわけはないか。
連中は商売に命を懸けてるからな。
「――というわけで、陶器も売ることになった」
「やったー!」
もの作りの好きなリサは喜んでいる。
「数はほんの少しで良いから。少量生産で高く売るんだ」
「それにしてもマヌケな話ね」
ベロニカが皮肉を言う。
「うるさいよ。ちょっとお前、その皿をどうするつもりだ?」
「う……、まぁまぁの出来だから、私の部屋に飾ってあげるのよ」
「それは売り物なんだからな」
「むぅ。皿一枚くらい良いじゃないのよ!」
「ベロニカが気に入ったんなら、持って行ってもいいよ」
リサはベロニカに甘いから困る。
「じゃぁ、もらってあげるわ」
「まったく……」
俺は家で扱っている商品を数え上げる。
砂糖、酒、酢、干し肉、乾燥野菜、干しシイタケ、板ゴーレムのレンタル。
さらに陶器か……。
『もはや何屋か分からんのぉ、フフフ』
『うん、統一感がないのは確かだ』
もうこれ以上商売を広げるのはよそう。
とは思うものの、欲しい物が売ってないから困るんだよなぁ……。
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